安楽死で死なせ下さい                橋田壽賀子著

 安楽死と尊厳死は別のものです。安楽死とは、あえて至死薬を処方してもらう積極的な安楽死です。それに対して尊厳死とは、延命治療を拒否することで死期を早める、いわば消極的な安楽死です。日本では安楽死は認められていませんが、尊厳死は認められています。安楽死は、死期を積極的に早めること。尊厳死は、無駄な延命を行わないことです。

 安楽死は日本では認められていませんが、世界ではスイス、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクのヨーロッパ各国のほか、アメリカのニューメキシコ、カリフォルニア、ワシントン、オレゴン、モンタナ、バーモントの6つ州で合法です。

 尊厳死は、アメリカのすべての州、イギリスやドイツを含むヨーロッパの多くの国、オーストラリアの一部、アジアでも台湾、シンガポール、タイなどで認められています。これらの国の大半は尊厳死法があります。

 日本では、尊厳死は認められているものの、尊厳死法はありません。2012年に、超党派の国会議員連盟によって「終末期の医療における患者の意志の尊重に関する法律案(仮称)」が提示されたことはありましたが、成立には至っていません。難病患者の支援団体や障害者団体などから、「医療の提供を受けなければ生きられない社会的弱者に、死の自己決定を迫る危険性がある」という反対意見が出されらためだといわれます。

 日本では、法律がない代わりに尊厳死の指針となっているのは、厚生労働省が2007年に発表した「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」です。2007年以降、延命治療を中止した医師が立件されて有罪判決を受けた例はないそうです。そのため、尊厳死の法制を作らなくても、このガイドラインでじゅうぶんだとする主張もあります。

 医学が進歩して寿命が延びたのはすばらしいことでしょうが、その影響でいろいろな問題が起こり始めた。高齢者の医療費の増加、介護施設や人手の不足、認知症の急増、年金制度の破綻。

 ある程度の年齢になったら、深刻な病気でなくても、「もうそろそろ、おさらばさせてもらえませんか」と申し出る権利ができてもいいのではないか。もちろん自殺はダメですから、高齢者本人の意思をちゃんと確かめて、家族も親戚も納得して判を押したら、静かに安楽死できる。そういう制度が日本にあってもいいと思います。
潔く綺麗に去れば、周りに迷惑をかけず、イヤな思い出も残さずにすみます。

 現実には、筆者が生きているうちに安楽死の法律が施行されることはないでしょう。
だからスイスへ行くつもりです。お手伝いさんには、「私が死にに行くときは、70万円もってついて来てね」と頼んであります。お骨を持って帰ってもらわないといけませんからね。

 この人にこれ以上惨めな思いさせたら、本当に死に切れないに違いない。まだ惨めさの見えないいまのうちに死なせてあげることが、この人の幸せだ。そう思ってくれることが、安楽死だと思います。”安”らかに”楽”に死にたいのです。