スマートグリッド「プランB」 電力大改革へのメッセージ        加藤敏春著

  スマートグリッドは、TCT(information and communication technology 情報通信技術)に支えられた賢い、洗練された電力網のことですが、これまでのスマートグリッドの推進は、スマートグリッドの技術面だけにフォーカスし、特定の地「点」において技術実証を五年間行い、その成果を六年目以降実用化するというアプローチでした。 これをスマートグリッドの「プランA」と呼びます。 「プランA」では「電力大改革時代」の「面」の課題に対応することができません。日本全体を「面」として捉え、新たな電力需給状況に対して根本的な解決を図るのが「プランB」なのです。

 3.11以前のスマートグリッドは、太陽光、風力などの再生可能エネルギーや蓄電池などを取り入れて、電力系統を安定させる技術的な手段の一つとして議論されているにすぎませんでした。 つまり、スマートグリッドはあくまで供給側の課題解決に向けたもので、ユーザはあまり関係ない話だったのです。 3.11以降電力不足という緊急の課題が社会に降りかかり、全国レベルで電力需給の均衡が求められるようになりました。 ここへきてスマートグリッドが、単なる供給側の課題やそれを解決する技術実証の話ではなく、家庭や企業などの需要側にも関係するものとして、さらに、「電力大改革時代」に対応して電力の供給不足問題に根本から解決を与えるものとして、大きな注目を集めるようになりました。これが「プランA」でなく「プランB」が必要とされる背景です。


 スマートグリッドの本質は「エネルギーのインターネット」の構築です。 うまく初期条件を設定(初期投資負担の軽減)してやれば、インターネットの時がそうであったように、民間ビジネスとユーザの自律的な力により、大規模・集中型システムが小規模・分散ネットワークシステムに転換し、エネルギーシステム全体が縦構造から横構造に切り換わる過程で、膨大な新規ビジネスと雇用を創出するようになります。 現在のインターネットのシステムは分散型ネットワークで、たくさんの場所に情報の発信源があり、それらがネットワーク全体に伝わっていくという構造になっています。 これと同様に、スマートグリッドについても、小規模ながらたくさんの発電源をつなぐ送電・配電のネットワークの構造にすることができます。 国民一人ひとりが発電所となる「スマート国民発電所」を構築すべきです。 いくつもの小型発電施設をネットワーク化して、一つの大型発電所のように見立てるのが「ヴァーチャル発電所」です。 これは、太陽光発電や風力発電などの発電量の変動が大きい発電施設に、気象条件などに左右されないコジェネ(Co-Generationの略 一つの燃料から電気や熱など複数のエネルギーを、同時に取り出せる発電システム)などを組み合わせ、これらの施設をインターネットなどの情報通信技術を使ってネットワーク化して管理し、それによって一つの発電所を建設したかのように動かすという考え方です。 「ヴァーチャル発電所」どうしをネットワークでつないでいけば、「スマート国民総発電所」が形成されます。

 これからのエネルギー政策で基軸となるのは、まず「エネルギーの利用効率を上げること」です。 いまの大規模・集中型システムの利用効率が高いと言われてきたのは発電だけに絞った議論で、熱をも含めたエネルギーの利用効率全体でみれば、むしろ効率は低いのです。 エネルギーの利用効率が低い理由は、電力供給網の構造にあります。 山間部や海岸に設置した大規模な発電所から、高圧の送電線で電力を引く一極集中型の電力網では、発電の段階でエネルギーが排熱としてロスされ、さらに送電から配電の過程で送電ロスが生じます。 エネルギー効率を上げるには、この仕組みを変えて発電段階と送電段階のロスをなくす、電力を必要とする場所に小型の分散型電源を置いてその場で熱を含んだ形態でエネルギーを消費する、「エネルギーの地産地消」を目指すことが考えられます。 分散型電源は、太陽光や風力などの再生可能エネルギーやコジェネなど比較的狭いエリアを対象に電力を供給するシステムです。 近未来のグランドデザインは、大規模火力のような一極集中型電源と分散型をうまくミックスして、「ハイブリッド型」電力網の構築を目指すことです。 原発危機と石油危機の「複合的なエネルギー危機」の下では、一極集中型の運用を維持しながらも、分散型電源の比重を高めていくしかありません。 両者をうまく組み合わせたハイブリッドな電力網こそ、現状では最も有力な解決策なのです。

 現在、ガソリン車のエネルギー利用効率は20%弱であり、かなりのエネルギーを熱として捨てる形となっており、その熱がヒートアイランド現象などを引き起こす原因ともなっています。 これに比して、プラグインハイブリッド車や電気自動車のエネルギー利用効率はその約二倍であり、エネルギー源の有効利用という観点からは、ガソリン車をプラグインハイブリッド車や電気自動車へと切り替えていく必要は高いものがあります。 二次電池(蓄電池)を積んだプラグインハイブリッド車や電気自動車をスマートグリッドに接続し、自動車で発電した電気の余剰分を配電網にに送り家庭用電気として有効活用したり、売電をする。 普通、電気は電力供給網から電気自動車に流れますが、電気自動車は電池のかたまりなので、そこで貯めた電気を逆にも流し、電力供給網との間で双方向の流れを実現する。

 3.11後の日本においては、電力需給のひっ迫化に伴ってピーク電力消費を抑える有効な手だてとして、需要応答が注目されるようになってきました。 需要応答とは、電力需要、特にピーク時の需要に対応してユーザが電力使用を削減したり、ピーク時以外の時間帯にシフトできるようにしたりする仕組みです。 需要応答は、需要の価格弾力性を活用することで需要を抑制するものであり、ユーザの選択を通じて電気料金価格の抑制にも結びつくものです。 いまの電力網では、地域独占を保障された電力会社は、責任を果たすためにピーク時の需要に合わせて設備を保有しなければなりません。 結果的に、全体の稼働率が下がりコストは上昇します。 しかし、需要と供給側で情報をやり取りできるスマートグリッドの環境では、ピーク需要を抑えることで、設備投資の削減ができます。 ユーザはピーク電力消費を減らしていけば、料金を抑えられます。 また、料金設定もきめ細かなものにできます。 柔軟な料金体系によって、設備投資・運用の効率化、顧客サービス向上、そして収益性のアップを図ります。

 スマートグリッドでは、インターネット、クラウドコンピューティングと電力、ガスなどの各種技術を融合させるとともに、センサ技術、(機器への)組み込み処理、デジタル通信技術を活用することになり、エネルギーのやり取りが可視化され、最適化に向けた制御を行うことが可能になります。 スマートグリッドの最大の特徴は、ユーザ(家庭、オフィス、工場など)と電力ネットワークとの間で、情報とエネルギーを双方向にやり取りできることであり、エネルギー需給の最適化を社会システムとして実現することができます。 そうしたスマートグリッドにおいては、家庭内のサーモスタット、テレビ、冷蔵庫、エアコンなどの家電製品、照明はもとより、電力、ガスなどのスマートメーター、プラグインハイブリッド車や電気自動車などがネットワークに接続されます。 オフィスの中ではさらに、さまざまな空調機器、サーバー、オートメーション機器などおびただしい機器・設備がネットワークにつながることになります。 これにより需要応答によるピーク電力供給の適正化、再生可能エネルギー・ガスコジェネなどの分散型電源の導入拡大、電気のみならず熱も取り入れたエネルギー消費の適正化、それらに伴うエネルギー価格の低廉化などさまざまなメリットをユーザに提供します。 スマートグリッドはおそらく21世紀最大のイノベーション(innovation)であり、現行のインフラを変革するに当たり膨大な機会を提供している。 エネルギーを利用するすべての機器がネットワークのノードになるのがスマートグリッドの世界です。 近い将来、インターネットをはるかに超える巨大なネットワーク空間がスマートグリッドにより出現することは、間違いありません。 

 投資の拡大だけではなく、最終需要を構成するもう一つの大項目である消費の拡大の両面から対処することも必要です。 消費の拡大に関しては、エコポイントを発展させることが処方箋になります。 ここで言うエコポイントは、国の事業としての家電エコポイントや住宅エコポイント発展させた省エネ・創エネ・畜エネ行動を促進するインセンティブとしてのエコポイントです。 エコポイントには経済価値がありますが、利子がつかない、ポイントの有効期限が設定されているということで、マネーとは異なる性質があります。 消費機会の不足の下では、マネーは家計等に退蔵されてしまい消費が喚起されません。 これに対してエコポイントは、利子を生まないので長期保有のメリットがなく、逆に有効期限が来ると価値を喪失してしまうので、退蔵されることなく次に使われることを想定した価値媒体です。 したがって消費機会が不足の下でも、消費需要を増大させることができます。 消費需要が伸長してモノやサービスが売れるようになると投資需要も喚起されます。 スマートグリッド&エコポイントによる「需要創出」型イノベーションを実現することが必要です。