もしも藤崎詩織に勇気がなかったら・・・?
卒業式が終了した直後の伝説の樹の下。藤崎詩織は落ち着かない様子で樹の周りをぐるぐる回っていた。
「そろそろ手紙見つけた頃かなあ。まさか気付かずそのまま帰ったりなんて事無いよね。ああ、なんかどきどきしてきた。やっぱり止めとくんだったかなあ・・・」
ついつい浮かんでくる弱気を振り払おうとするかのように勢いよく頭を振る詩織。
「駄目駄目!ここまで来てそんな弱気でどうするの。ここは強気で行かなくちゃ・・・あ、来た・・・」
咄嗟に樹の裏に隠れる詩織。そうとも知らず樹の下にたどり着いた陣館諭は急いで走ってきたらしく息を整えている。
「ど、どうしよう、来ちゃった。ああ、どうしよう。」
詩織は樹の裏でパニックに陥っていたが、何とか気を取り直した。
「とにかく行かなくちゃ話にならないよね。落ち着いて・・・」
深呼吸をしてせえの、とつぶやくと詩織は隠れ場所から姿を現し、ゆっくり諭の方へ歩み寄った。その笑顔は心なしか引きつっているように見える。
「手紙、見てくれたんだ。」
やっとの思いでそう言ったが声が僅かにうわずっている。口の中がからからで自分の心臓の鼓動がやけに耳につく。
(早く、言わなくちゃ。お願い、ほんの少しで良いから私に勇気をちょうだい!)
しかし願いは通じず、沈黙がやけに長く感じる。
「詩織・・・」
その場の雰囲気に耐えかねて諭が声を発したとき、詩織の緊張の糸が切れた。
「ぱ・・・」
「・・・ぱ?」
「ぱずる玉で勝負よ!」
そう言ってびしっ、と諭に指を突きつけた詩織の瞳は怪しげな赤い光を放っていた。そして二人はそれぞれガラス張りの電話ボックスのような空間に閉じこめられる。
「うわっ、な、何だ、こりゃ?」
諭はパニックを起こして透明な壁を叩くが出られそうにない。気がつくと天井の穴から様々な色をした球体が二個一組でゆっくり落ちてくる。詩織の方を見るとこちらの倍のスピードで球体が落ちてきて胸のあたりまで埋まっていたが、突然積み重なった球体が次々と消え始めた。
「あはっ、やったあ。大丈夫かな?いっくぞお!もう最高!もう最高!・・・言う事無しね。」
詩織の所にあった球体が消えて暫く後、諭の所に大量の球体がまとめて落ちてきた。
「うわーっ!こ、このままじゃ・・・」
とりあえず球体の消し方は分かったのでちまちまと消し始める。その間にも暴走状態の詩織の容赦ない攻撃が続く。もう少しで埋まりきると言うところで偶然連鎖が始まった。
「見える、そこっ!行ける。もらったあ!落ちろ!落ちろ!・・・任務、完了。」
連鎖は終わったが詩織の方に変化は見られない。
「馬鹿な、効いてないだと?」
ぱずる玉には主人公が登場しないため攻撃は不可能だった。
「そんなのありかよ!」
攻撃不能と言う事は何とか詩織の攻撃をしのぎきって詩織が自滅するのに期待するしか無い。しかし当然ながらその可能性はもとより無く、諭の視界は瞬く間に色とりどりの玉で埋まっていった。
「私って素質あるのね。」
勝負に敗れて意識を失う直前に詩織の声が聞こえた。
(違ーう、反撃できない相手に勝っただけだあ!)
しかし諭の抗議は形になることはなかった。
なにやら思い出し笑いをする詩織が気になったのか諭が声をかける。
「何だよいったい、気味悪いなあ。」
「ん、ちょっとね。」
いったんはごまかした詩織だったがやがてもの問いたげな視線を諭に向けた。
「ねえ、あの伝説って本当なのかな?」
「さあね。別に追跡調査してるわけじゃないし。何で今更?」
詩織は今度はちょっと困ったような表情を浮かべる。
「うん・・・あの時は結局告白しないで終わっちゃったし。」
「そうだっけ?」
その言葉に詩織は思わず声を荒げる。
「何よ、もう忘れちゃったの?あの時は全然・・・」
「言葉じゃな。」
詩織の抗議を遮るように続ける諭。
「赤や黄色のまあるいのが山ほど。あれって詩織なりの告白だったんだろ?」
今度は顔を真っ赤にしてうつむく詩織。
「えーと、あれはね、その・・・」
「ま、二度とあんな目に遭うのはごめんだけどな。」
詩織を責めているみたいで一言多かったかと思ったが、詩織は気にしていないようなのでほっとした諭はさりげ無く話題を変えることにした。
「そろそろ腹減ったなあ。どっか行こうか?」
「うん、そうしよ。」
食事に行くことにした二人だったが、歩きながら詩織が口を開く。
「ねえ、私達で新しい伝説を作らない?」
「え、どんな?」
諭の問いに詩織は顔を赤らめてつぶやく。
「伝説の木の下でぱずる玉をした二人は永遠に幸せになれるって・・・どうかな?」
諭はそれを聞いて思わず苦笑する。
「新たな伝説の第一号になれるのは光栄だけど・・・受け継ぐ奴は苦労することになるな。」
「そうかな?」
「もちろん。ろくに準備もできていないと・・・」
いったん言葉を切った諭はおどけた様子で首を傾けて見せた。
「彼女の想いに押しつぶされることになる、俺みたいにね。」
