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ビールがビールでなくなるとき


普段ちゃんと視界に入っているのに、実は”見て”いないものを、ばーんと拡大して目の前に突付けられたような気がして胸が騒ぐ。「ブレやボケといった写真独特の雰囲気をカンヴァス上に抽出したい」という伊庭靖子('67〜)は、写真という媒体を経て作り出される”ボケ”に強く惹かれているようだ。植物、シャツの襟元、ビールなどの”ディテール”が切り取られ、淡い光をまとった空気をともなってカンヴァスに再現される。グラスに注がれたビールの泡とまわりを取り巻く涼しげなモヤとが、ゆっくりと溶け合った右の絵は、透明感を漂わせた抽象画のようにも見え、立ち去りがたい存在感を感じさせた。[6.19〜7.13ガレリア・キマイラ]