9:15  エェェェェェックス・・・!

「次世代MS戦争〜3ヶ月遅かった名機 ゲルググ開発史」

(あのナレーション)

1年戦争開戦より8ヶ月。サイド7で、ある1機のMSによる
歴史的な瞬間がおこっていた。
「ザク」のマシンガンをはね返し、戦艦並みの火器「ビームライフル」を
装備した、連邦の白い悪魔と呼ばれる「ガンダム」の登場。

この瞬間より、ガンダムは連邦、ジオンを含めた全MSのフラグシップ機となり、
膠着していた戦局を連邦有利へと、劇的に転換し始めた。
そして、それはMSの装備が、実弾系から、ビーム系へと移りゆく契機でもあった。

「ビーム兵器を持ったMSの開発」

連邦軍は、量産型MS「GM」にもビーム兵器を標準装備し、
続々と最前線へと投入しつつあった。
実弾系兵器の装填用マガジン携帯の猥雑さ、ビーム系兵器との命中率の差。
そして白兵戦時に於ける、ビームサーベルの圧倒的な威力など、
ジオンにとって「ザク」や「リックドム」に代わるビーム兵器を搭載した
次世代汎用MSの開発は急務となっていた。

「ザク高機動型」が「リックドム」との競合に敗れていたジオニック社は、
次世代MSの採用に於いて、ビーム兵器を標準装備とした機体の開発に着手した。
それは、MS開発の第一人者としての、ジオニックの技術陣が意地と誇りを賭けた、
一大計画でもあった・・・。

(あの音楽)

「ビーム兵器の開発〜ミノフスキ−博士の遺産」
「ツィマッドに遅れるな!〜自社製エネルギーCAPの開発」
「出力と重量の矛盾を解消せよ!〜「より軽く、より小さく」の合い言葉」
「始まった量産化〜第一人者の意地と誇りの結晶。MS-14」
「遅かった名機〜パイロットがいない「兵無し」のMS・・・しかし」


ジオンの携帯型ビーム兵器の開発は、戦局を挽回する上でも急務とされていた。
しかし、ミノフスキー博士の連邦政府への亡命以降、開発は頓挫していた。
MSのビーム兵器の携帯に必要不可欠なエネルギーCAPの技術は、
ミノフスキー博士オリジナルの技術であり、ミノフスキー博士の協力が無い現在、
まさにロストテクノロジーと言っても過言では無かった。
連邦より、MS開発に関しては10年進んでいると言われていたジオンの錚々たる
MS企業群でさえ、その技術開発には手を焼いていた。

エネルギーCAPの開発は、開発に成功した企業が次世代MSのイニシアチブを
握ることになる勝利の鍵だった。
開発に各企業は躍起になった。
そして、ある企業がジオン初のエネルギーCAPを
完成させた。

ツィマッド社。局地戦用MSの傑作機、重MS「ドム」を開発し、水中用MS「ゴック」、
「ドム」の改修機として、宇宙戦用汎用MS「リックドム」を開発した名企業だった。
ツィマッド社は、統合整備計画によってジオニック社から技術提供を受けた「ザク」に
「リックドム」のジェネレーターとエネルギーCAPを搭載した「アクトザク」を完成させた。

しかし、この機体を見て、黙っていられる筈の無い人間達もいた。

ジオニック社。人類初のMS「ザク」を作り上げたMS企業の老舗中の老舗だった。
MS開発主任のGは、「アクトザク」を見て、愕然とした。

我々の「ザク」が他の企業で、完璧に仕上げられてしまうとは…。
Gは、ザクに関しては誰にも負けない自信が、自負があった。自分の息子以上に
この名機と接してきた時間とその密度が彼の自信の理由だった。
しかし、その自信がこの時ばかりは、彼を縛る原因になっていた事に、彼は気付いては
いなかった。
確かに、「ザク」は地上、宇宙を問わずあらゆる場所にそのバリエーションが
展開していった、完成度の高い機体だった。
しかし、完成度の高さ故、ジオニック技術者達は「ザク」に固執し続け、そこから
一歩進んだ物の見方が出来なくなっていた。
ジオニック社の「高機動型ザク」がツィマッド社の「リックドム」に暫定的ではあるが、
次期主力汎用MSの選定に敗北したのもそれが原因だった。

ツィマッド社の「アクトザク」は、ビーム兵器の搭載に加え、ツィマッドの新技術である、
フィールドモーターによる抜群の運動性を備え、究極の「ザク」と言っても差しつかえの無い
機体だった。
しかし、究極だからこそ、「ザク」の限界は、そこであるとも言えた。
もう、どんな「ザク」であっても戦局を挽回する事は不可能だった。

Gは決意した。
「ザク」を作り上げた我々だからこそ、「ザク」を超えなければならない。
新しい、「ザク」に代わるMSの開発が始まった。


当時、ジオニックは「高機動型ザク MS-06R2」を元に開発が進められていた
「MS-06R3」そして試験運用中だった「MS-11」を次期主力MSとして
提出する構想が出来上がっていた。
しかし、「MS-11」のナンバーは、その後エネルギーCAPを完成させ搭載された
「アクトザク」のナンバーへと移項された。
ジオニック社の「MS-11」は試作機の「Y」が冠に付く「YMS-14」へと
改められた。

与えられていたMSナンバーを奪われた屈辱。

今度こそ、ツィマッドに勝たなければならない。
だが、エネルギーCAPを完成させ、実用化に成功したツィマッドと、ジオニックとの
差は明らかだった。
同じ土俵に立てなければ、ジオニックの勝ちはあり得ない。
Gは、会議室に集めた仲間達に、熱弁を振るった。


「我々は、MIPとの主力機動兵器選定に勝利して以来、常にジオンMS開発の
 中核を担ってきた自負があった。しかし、現在はどうだ。
 ザクは後発の企業であるツィマッドのドムに、地上用、宇宙用主力MSの選定で敗北し、
 更に水中用MSに至っては、元々MAの開発企業であるMIPのズゴックに
 我々の作り上げたアッガイは圧倒的な差を付けられたままでいる。
 何としても、次回の次期主力汎用MSの選定に於いては、勝利しなければならない!
 我々にも、技術者としての意地がある。誇りがある。
 では、技術屋の誇りとは何だ。誰にも負けない、素晴らしい物を作る。凄い物を作る。
 これこそが技術屋である我々の誇りであり、心意気の筈だ。
 今回こそ、他の企業共がグゥの音も出ない程のMSを作ってやろうじゃないか!」

Gが、一気に語り終えた時、会議室から歓声が起きた。
「やりましょう、Gさん」
「我々の技術が、どこよりも優れている事を、証明してやりましょう」

MS開発の先駆者として、常に第一線で活躍してきた筈の自分達の努力した結果が
認められなかった「怒り」や「悲しみ」そして「喪失感」
ジオニックの技術者達は「MS-06R2」が選定に負けて以来、
自らの技術力に自信を失いつつあった。
しかし、Gの言葉によって、彼等は奮い立った。
我々は、我々の失った誇りを我々自身の誇りによって取り戻すのだ。

「全てを、己の誇りで塗りつぶせ」

この日から、これがジオニック技術者の合言葉となった。

ツィマッドと同じ土俵に立つ為の条件。
エネルギーCAP。
基礎理論は、ミノフスキー博士がジオンに残していった物が存在はした。
しかし、あくまでも基礎理論であり、設計図では無い。
実物を作る為には、情報が不足し過ぎていた。まるで、ジグソーパズルの
ピースを一つ渡されて、全体を想像しろと言われているような物だった。
開発は困難を極めた。
だが、G達は諦めなかった。それこそ、パズルのピースを一つ一つ見つけだし、
丹念に繋ぐような作業を昼夜を厭わず繰り返し続けた。
そして、あるピースを繋ぎ終わった時だった。

おぼろげだが、エネルギーCAPの全貌が見え始めた。
実用化への目処が、立とうとしていた。


久保「今回は、元ジオニック社の技術主任、現在はアナハイムエレクトロニクスで
   技術顧問をしていらっしゃるGさんにお越し戴きました」

松平「ほぼ0からの出発と言って良いエネルギーCAPの開発ですが、開発のヒントは
   どういう点から出てきたのでしょう?」

G 「申し訳ありません。エネルギーCAPの技術は現在も軍の機密に関わる部分が
   多いので、ちょっとお話する事が出来ないのです。ただ、ミノフスキー博士の
   残していかれた基礎理論を、段階を踏みながら次第に発展させていくと言った、
   地道な作業が実を結んだ結果だと思います」

松平「『全てを、己の誇りで塗りつぶせ』いい言葉ですね」

G 「今、改めて聞くと、恥ずかしいと言うか、青臭いと言うか…。でも、あの頃、
   仲間達とこの言葉を支えにしたからこそ、頑張れたのだと思いますね…」

久保「エネルギーCAPの実用化に成功したジオニック社ですが、この後も
   様々な困難に立ち向かっていく事になります。それでは続きを御覧下さい」

エネルギーCAPは、試験的に「MS-06R3」の兵器として使用された。
「YMS-14」の先行試作型として位置付けられていた「MS-06R3」は、
「YMS-14」用のジェネレーターをはじめ、アビオニクス、その他にも先行して
完成していた各部品が搭載されていた。
最大の目玉は、MS携行型ビーム兵器の評価試験だった。
「MS-06R3」の試験の結果如何では、「YMS-14」へのパーツの流用が
可能になる。開発期間短縮の為には、絶対に必要な試験だった。

しかし、試験中に問題が起きた。

機体そのものには、何の問題も無かった。
だが、ビーム兵器の大きさが問題になった。
ライフルが、余りにも大き過ぎた。
試作品とは言え、艦外にマウントしなければならない程のそれは、
「MS-06R3」の高機動力を持ってしても、手に余る代物だった。
宇宙空間での空間運動性が殺されると言う事は、敵の的になるも同然だった。

ビームライフルの小型化。

G達は、また新しく沸き上がった課題に取り組まなくてはならなかった。
「より軽く、より小さく」
旧世紀に極東のある世界的電機メーカーの掲げた言葉が、ジオニックの中でも
合言葉になった。
そして、研究と開発のサイクルを、考えられない程のサイクルで繰り返しG達は行った。
部品の選定はおろか、基礎理論からの見直しまでが行われたエネルギーCAPは、
二周りも小さくなった。
しかも、出力のアップと言うおまけも付いてきた。

早速「MS-06R3」での試験が行われた。
小型化に成功したビームライフルを持った「MS-06R3」は、
自由自在に宇宙を駆けた。
試験後、すぐに「MS-06R3」の技術は、「YMS-14」にフィードバックされた。
「YMS-14」の試作機が、出来上がった。
しかし、G達は気が抜けなかった。

選定のライバルと目されているツィマッド社は、ちょうどその頃ビームサーベルの実用化に
成功し、次期主力MS候補の試作機に標準装備するという発表を行っていたのだった。
流石にツィマッド社は、エネルギーCAPの第一人者だった。
おそらく、ツィマッド社が「アクトザク」で培ったフィールドモーター技術を更に発展させ、
次期主力MSに盛り込んで来る事は、容易に想像が出来た。

コンペに勝つ為にも、ビームサーベルの携帯は必要不可欠だと、Gは思った。

早速G達は、ジェネレーターの余剰出力を計算した。
出力は、十分足りた。
ビームサーベルの携帯は可能だった。
しかし、ビームサーベルの設計に裂いている程の時間が、G達には無かった。
コンペは、間近に迫っていた。

「アルバート社に発注しては、どうだろうか?」

技術者の一人が言った。
アルバート社は、ジオニックの子会社だった。
アルバート社社長、A。
技術畑の叩き上げで、腕には定評があった。
Gと同期の入社で、後に独立してアルバート社を起こした男だった。

この短期間で、ビームサーベルを作れる男は、あいつしかいない。
ジオニック社は、アルバート社へのエネルギーCAP技術の情報公開を条件に、
ビームサーベルの製作を正式に依頼した。

「時間が無いが、頼む」

久しぶりに顔を合わせたAに、Gは言った。

「任せておけ。ツィマッドの鼻を明かしてやろうぜ」

頼もしい、一言が返ってきた。


そして、コンペの3日前、アルバート社から、試作品が届いた。
すぐに行われた稼動試験で、それはツィマッドのビームサーベルの
エネルギー収束率を超えるスペックを発揮した。

「誰にも負けない、素晴らしい物を作る。凄い物を作る」

技術屋の、意地と誇りが詰まった代物だった。
攻撃の回転力を上げる為に考案されたであろう、柄の両方から放出される
独特のビームサーベルの形状は、ビーム薙刀と呼称されるようになった。

最後に、試作機にはシールドが付けられた。
ジオニックにも連邦軍のガンダムの影響は、大きかった。
まず、第一にビーム兵器の携帯。第二に装甲の分離化がコンセプトにあった。
事実、全身に重装甲を施すよりも、盾(シールド)を装備した方が、一見原始的だが
効果的な防禦が可能なことは前線からの報告で判明していた。
試作機には、グフよりもはるかに大型のシールドが用意され、ガンダムのシールドを模倣し、
覗き窓としてスリットが付けられた。


3日後。ツィマッドとのコンペティションの日はやってきた。
月面都市グラナダ。ここで、ジオニックの「YMS-14」とツィマッドの「YMS-15」。
双方の技術力を賭けた決戦が行われようとしていた。

かくして、コンペで2機のMSの戦いの火蓋は切って落とされた。
白兵戦用として特化した究極の機体である「YMS-15 ギャン」は、
「YMS-14 ゲルググ」を上回る抜群の運動性と格闘能力に加えて、
学徒兵などの練度の低いパイロットに考慮した操作性の良さも備えていた。
流石にツィマッド社が自信を持って送り出したMSだった。

しかし、「YMS-14 ゲルググ」は、

ビームライフルによる中距離からの狙撃。
ビームサーベルによる近距離での白兵戦。
そしてそれらを可能にする機動性と、シールドによる防御力の向上。

全てに於いてトータルでバランスの取れている点を、ジオン首脳陣にアピールした。
無論、コックピットの内装は、「ザク」の発展系である「MS-06R3」から
流用していた為、最前線のパイロット達には馴染みの深いものに仕上がっていた。
結果、「YMS-14 ゲルググ」は火力・機動力・汎用性・生産性に於いて
ツィマッドの「YMS-15 ギャン」を圧倒し、見事次期主力MSの座を
獲得した。

試作機では無い、「MS-14 ゲルググ」の誕生だった。
そして、それはジオニック技術陣が自らの誇りを取り戻した瞬間でもあった。

久保「コンペに見事勝利したゲルググは、終戦までに738機が生産され、
   戦線に投入されていきました…それでは、エンディングです」

「MS-14ゲルググ」は、ツィマッドの「ギャン」との競合を勝ち抜き、
見事に次世代汎用MSの栄誉を勝ち取る事となった。


大戦末期に行われたソロモン会戦。
「ゲルググ」の初の実戦はここで行われた。

ドズル・ザビ中将を失った後の撤退戦に於いて、ジオンのアナベル・ガトー大尉は
連邦軍第3艦隊に対して突撃を敢行した。
ガトー大尉の駆る「ゲルググ」は、ドズル中将がジオニック社から徴用した、
先行量産型以前の試作機であり、また携帯用ビームライフルも改良前の大型の物であった。
しかし、ガトー大尉は「ゲルググ」で戦艦3隻、巡洋艦5隻を撃沈し、残存MSの戦力を
ア・バオア・クーに撤退させる事に成功。後に大尉は「ソロモンの悪夢」と
呼ばれる事になった。
エースパイロットであるガトー大尉の腕も然る事ながら、「ゲルググ」が
運用次第では連邦軍の「ガンダム」にも匹敵するスペックを持ち合わせている事が
証明された出来事だった。
連邦のガンダムにも匹敵する高性能機であるゲルググに、
ジオンの将兵達の期待は大いに高まった。

しかし、歴戦のベテランパイロットの大半をソロモン攻防戦で
失っていたジオンにとって、「ゲルググ」は戦局を覆す起爆剤には成り得なかった。
学徒兵ではMSの操作は出来ても、また、それが「ゲルググ」であっても、
1年戦争をここまで生き抜いてきた連邦軍の豊富な経験を持ったパイロット達には
太刀打ち出来なくなっていた。

連邦軍総司令官だったレビル将軍が、
「ジオンに兵無し」
と開戦初期に打った演説の通り、ジオンには人的資源が
枯渇しかかっていた。

「ゲルググの投入が、あと3ヶ月早ければ…」
「器が優秀でも、中に入れるものがこれでは…」
ジオンの将校は、口々にこう言った。
「ゲルググ」の投入がオデッサに間に合っていれば、戦局が
一転したかも知れない事は確かだった。

しかし、現実に起こっている、日に日に悪化していく戦局に眼を向けなければ、
現実での逆転もあり得ない事は、全員が分かっていた。

ニュータイプの実戦投入に積極的だったキシリア・ザビ少将は、各部隊から
選りすぐりのエース級パイロットを集め、少数精鋭によるエース部隊の編成を計画。
グラナダには「深紅の稲妻」ジョニー・ライデン少佐をはじめ、ジェラルド・サカイ大尉、
トーマス・クルツ中尉など綺羅星の如くのエースパイロット達が集結し、
ザンジバル級巡洋艦「キマイラ」を旗艦とするMS部隊「キマイラ」が結成された。

「兵無し」のMSは、最高の御者を手に入れる事になった。
ジオンにとって、乾坤一擲の計画だった。

そして、程無くア・バオア・クー攻防戦は始まった。
「キマイラ」は攻防戦の中核として、連邦軍を迎え撃つ事になった。

攻防戦における彼らの戦果及びその後の消息は一切わかっていない。

しかし、深紅と黒に塗り分けられた「ゲルググ」は、その派手な外観に違わぬ
戦果を残したと、連邦軍の資料には残っている。

のちに、「ゲルググ」は、「ザク」の様に多くの派生系が誕生。
そしてライバルであるツィマッドの「ギャン」との融合を果たし、
「ガルバルディα」、そして「ガルバルディβ」へと進化を遂げ、
連邦軍の主力MSとしての位置を占める事になる。

次世代MSの開発。より強く、より速く、その技術者達の心意気と誇りは、
現在に於いても脈々と受け継がれている……。


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