ふたたび、派兵恒久法を暴く
〜経済界の「提言」から見えるその正体〜

 自民党は今、2006年8月に自民党国防部会防衛政策検討小委員会が作成した「海外派兵を恒久的に自衛隊の本来任務とする国際平和協力法案」(石破茂試案)をもとに海外派兵恒久法案を準備しています。来年1月からの通常国会には、この法案が上程されると言われています。下の表にあるように、海外派兵恒久法の問題が公然と登場してきたのは2002年からですが、その中でも重要なのは、経済同友会が2004年11月に出した『イラク問題研究会意見書』と、日本経団連が2005年1月に出した『わが国の基本問題を考える』という文書です。今回はこれらの文書に着目しました。(事務局。2008年7月)

経済同友会。日本経団連、日本商工会議所と並ぶ「経済3団体」の一つ。企業経営者が個人の資格で参加し、国内外の経済社会の諸問題について議論し、見解を社会に提言することを特色としている。
日本経団連。2002年5月に経済団体連合会と日本経営者団体連盟が統合して発足した。東証第一部上場企業を中心に構成される。自民党などに政治献金を行い、政界・経済界に大きな影響力を持った組織と言われている。

★「海外派兵を恒久的に自衛隊の本来任務とする国際平和協力法案」(石破茂案) ダウンロード

★経済同友会 『イラク問題研究意見書』 (2004年11月) ダウンロード

★日本経団連 『わが国の基本問題を考える』 (2005年1月) ダウンロード

 

作成者 内容
2002年12月 国際平和協力懇談会(福田官房長官主催)「報告書」 国際平和協力業務において、「警護任務」及び「任務遂行を実力をもって妨げる試みに対する武器使用」を可能に
2003年4月 自由党「安全保障基本法案」 国連決議や国際機関の要請に基づき、国際の平和と安全の維持・回復のための活動等に積極的に協力。常設の組織として、防衛庁に国際連合平和協力隊を置く。
2004年10月 安全保障と防衛力に関する懇談会(小泉首相主催)「報告書」 国際平和協力のための一般法の整備を検討すべき。「治安維持のための警察的活動」や「任務遂行に必要な武器使用権限の付与」について検討すべき。
2006年8月 自民党国防部会防衛政策検討小委員会「国際平和協力法案」※国会未提出 「安全確保活動」や「警護活動」も実施し、活動に対する妨害の防止や抵抗の抑止のため、合理的に必要と判断される範囲で、武器使用が可能


経済界が恒久法を提言

 経済同友会が出した文書のタイトルは、「イラク問題研究会意見書 ――戦闘終了後の新たな安全確保・人道復興体制の構築に向けて―― 恒久法の制定と『日本型CIMIC』の創設」となっています。
 この意見書は、タイトルにあるとおり、陸上自衛隊のイラク派兵を総括して出されています。そしてその結論として、@自衛隊海外派兵のための恒久法を整備すること、A日本型CIMICを創設することの2点を強く提言しています。この2つがセットになって出されていることがものすごく重要です。このことをまずしっかり確認しておきましょう。
 「特措法じゃあ毎回大変だから、恒久法をつくろうとしているんじゃないの?」と反論したくなる方もいるかもしれません。たしかにマスコミでもそう解説されていますし、限定的な〈テロ特措法〉や〈イラク特措法〉に代わる恒久法をつくると福田首相も言っています。ですからその点はそうです。けれどもここで問題にしたいのは、財界が「日本型CIMICの創設」を派兵恒久法の制定と一体で提案していることです。

日本型CIMICの恐ろしさ

 では、CIMICとは何でしょうか。
 CIMICはCivil-Military Cooperationの略で、「シミック」と読み、「民軍協力」を意味します。戦争後の国家再建を行う上で軍の指揮のもとに民間が動いていく組織体制や仕組みのことを指します。経済同友会の文書ではNATO型CIMICや北欧型CIMICが例にあげられています。
 下の図を見てください。これが経済同友会の提案する「日本型CIMIC」です。戦地にいる自衛隊の下に、警察、海上保安庁などの機関が加わり、インフラ整備などの民間専門家、民間NGOやNPO、民間資本・企業が一体となって現地で「国家再建」を遂行するというものです。
 「復興支援」だとか「国家再建」とか言われれば何か良いことのように聞こえますが、冗談じゃありません。その前には、その国のたくさんの人々の命を奪い、生活環境をめちゃくちゃに破壊する戦争があるのです。そしてその戦争には、攻撃する国家の戦争目的がしっかりあるのです。天然ガスや石油を奪うためにアフガニスタン攻撃やイラク戦争をしかけたように、石油などの権益を得るための「復興」であり「国家再建」になります。ですから「日本型CIMIC」とは、日本の権益を拡大するための軍事占領・他国再建機関であり、「第二の日本国」をつくるためのものと言っても過言ではありません。
 このように、「日本型CIMICの創設」が提案されていることはきわめて重大です。そしてそのことは、派兵恒久法の目的の恐ろしさを示すものと言えます。

憲法9条の破壊をねらう

 派兵恒久法の制定を唱えた経済界の重要文書がもう一つありました。日本経団連が出した『わが国の基本問題を考える──これからの日本を展望して』(05年1月)です。この文書の重大性は、@派兵恒久法の制定と、A9条改憲の2つを具体的に提案していることです。また、集団的自衛権の行使に踏み切れと主張しています。
 タイトルが「わが国の基本問題を考える」となっているように、この文書は、安保・外交・経済など政府の政策を全面的に提案するものとなっています。しかしそのうえで、経済界が9条明文改憲を具体的に打ち出したものとして画歴史的です。
 明文改憲案の中身は9条2項と96条の改悪です。〈戦力の不保持〉〈交戦権の否認〉を明記した第2項を削除し、「自衛軍の保持」や「海外展開」を謳う内容に変更するというものです。根本的な大転換をねらっています。
 しかし、「憲法改正を待つが故に、必要な改革が遅れるようでは本末転倒である。早急に手当すべきことを」やれと言って、派兵恒久法の制定を唱えています。派兵恒久法は、憲法9条を実質的に破壊するものなのです。

権益を奪い合う時代に

 このように、経済界がこぞって派兵恒久法の制定を叫んだ背景には、01年「9・11事件」と報復戦争、03年イラク侵略戦争という世界史的情勢があります。危機に陥っているアメリカ帝国主義が、「対テロ戦争」を掲げて凶暴な侵略戦争政策に突進していったことは、世界的な大激変をもたらしています。世界の列強国が、資源や市場や労働力などを本格的に軍事力で奪い合う時代になったということです。

【表2】海外派兵に向けた動き

●91年湾岸戦争を転機にPKO派兵へ
  92年PKO法
  93年カンボジア派兵
  その後、モザンビーク、ゴラン高原、東チモール、ネパール等に派兵
  01年PKO本体業務に派兵できるように「改正」
●94年朝鮮半島危機を転機に有事法制定へ
  96年日米共同宣言
  97年新安保ガイドライン締結
  99年周辺事態法
  00年船舶検査法
●9・11とイラク戦争を転機に派兵恒久法へ
  01年テロ特措法でインド洋に派兵
  03年イラク特措法でイラクに派兵

 

ふたたび、石破試案を斬る!

 石破試案は、前述した経済同友会の「イラク問題研究会意見書」の内容が全体を貫いています。まず法案の目的を「我が国の安全と繁栄のためには、国際の平和及び安全の確保が不可欠」なので、自衛隊は「戦闘終結」後の“占領地”での「国際平和協力活動」に「主体的かつ積極的に寄与すること」としています。以下その問題点を指摘してみます。
政府判断だけで派兵できる
 第一は、日本政府の独自判断で海外派兵できるようにした点です。
 自衛隊の派兵条件として、「国際の平和及び安全を維持するため我が国(日本政府)として国際的協調の下に活動が必要であると認める事態ならば」と日本の独自判断で海外に派兵できるとしています。これは、テロ特措法等の派兵条件である国連決議や、相手国の要請がなくても派兵できるようにしているのです。この点は大変なエスカレートです。今までとは格段と違う恐るべき踏み込みを石破試案はしているのです。
 その際、政府判断の基準として、「我が国領域内及び現に国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為が行われておらず」としています。しかし実際には「戦闘行為」が終了したと判断すれば派兵できるということです。イラク戦争で例えれば、米軍が空爆し、地上軍を投入してバクダットを制圧し、「戦闘終結」を宣言すれば、「国際的な武力紛争の一環としての破壊する行為が行われておらず」となり、自衛隊を日本政府の独自の判断で派兵できる事態、というわけですから、イラク特措法の時の「非戦闘地域」というペテンも踏み越えた大ペテンなのです。
 ここには、最初の「空爆などの戦争行為」以外のすべての「占領活動」に自衛隊を参加させていきたいという支配階級の意志がはっきりと示されています。軍事占領政策に自衛隊を参加させ、そのもとで日本の「国益」を広げていこうとするものです。

軍事占領政策に参加するもの

 第二は、「戦闘終結」後の「占領政策」に自衛隊を参加させるくことを狙っている点です。また、そのために武器使用も自由にしている点です。
 石破試案では、「国際平和協力活動」として「安全確保活動」と「警護活動」を、自衛隊のできる活動として入れています。「安全確保活動」とは軍事占領政策の一環として自衛隊が「安全確保」のための活動をおこなうことで、「警護活動」とは「我が国が必要と認める人・施設・物品の警護を行う」活動ですから、いつでも戦闘に発展します。その活動には「駐留及び巡回」「予防のために必要な措置を実施」「行為を制止する」「再発防止のために必要な措置を実施」等があり、そのための武器使用はまったく制限のない内容になっています。
 陸上自衛隊はイラク・サマワで「人道復興支援活動」として給水活動をオランダ軍の「安全確保活動」「警護活動」のもとで行っていたのですが、そのオランダ軍の活動を自衛隊ができるようにしているのです。それどころか解釈によっては米軍やNATO軍がイラクやアフガニスタンで行っている「掃討作戦」にも「安全確保活動」と称して自衛隊が参加できる内容でもあるのです。
 それだけでなく、「日本の独自の判断で人・施設・物品を警護」する内容になっている点を考えれば、海外の邦人・企業を「守る」ために自衛隊を派兵できることにもなります。

武器使用に全く制限なし!

 第三は、これらの活動を行う場合、武器の使用について正当防衛とか緊急避難といった制限がない点です。また、「小型武器又は武器」を自由に使用できます。更に、従来の「自己(自衛隊)の管理下に入った者」を超え、なんと「実施区域内に所存する者」にまで防衛範囲を拡大し、「攻撃があったら武器を使用をすることができる」としています。
 それだけではありません。「一時的な拘束の権限行使に対する妨害防止の場合」「抵抗抑止の場合」にも武器の使用を認め、「安全確保活動」の中で、「明白は危険がある場合」「殺傷力をもつ武器を所持している場合」「所持していると疑うに足りる場合」と判断したら、武器が使用できるとしています。
 イラクを例にあげれば、イラク人による米占領軍への抗議・抵抗運動の鎮圧も「安全確保活動」に入ることになるわけです。「多衆集合して暴行もしくは脅迫をし、又はその明白な危険があり、武器を使用するほか、他にこれを鎮圧し、又は防止する適当な手段がないとき」(25条8項)は、武器を使えると書いてあります。デモ隊射殺の許可をだしているのです。

 以上、派兵恒久法と「日本型CIMIC」の創設は、9条改憲攻撃そのものであり、日本資本家階級の「権益」拡大のための侵略法案です。これは、イラク戦争で軍事占領政策に参加できなかった支配階級の焦りと危機の現れでもあります。この恐るべき派兵恒久法制定を阻止し、改憲を粉砕しましょう!

 

石破試案のポイント

<政府判断だけでも派兵>
「我が国として国際的協調の下に活動を行うことが必要であると認める事態」(2条)の時も派兵できるとしている。
  →国連決議や相手国の同意なども不要!!
<バグダッドやカブールも派兵地域に>
「国際的な武力紛争…が行われておらず」(2条5項)が派兵地域の基準に。→これはイラク戦争でいえば、米軍のバグダッド占領直後からそこに派兵できるという意味!!
<これは武器の使用許可法だ!>
「(殺傷や破壊などを)予防し、制止し、防止するために必要な措置をとる」(3条3項)とし、「武器を使用するほか、適当な手段がないとき…武器を使用することができる」(25条8項)→武器を積極的に使えという意味!!