超三結 V1 アンプの出力管保護回路

2002/03-2010/06 宇多 弘

stcsecp.jpg
保護回路に使うリレーです。 専用ソケットもあります。

1 発生経過と保護回路の発想(とそのフォロー)


1.1 これまでの故障・事故発生事例

 この数年間、筆者は色々な出力管につき超三結 V1 アンプの試作を続け、また初段には色々な電圧増幅管または Tr/FET を使い、電圧帰還管および P-K NFB には色々な電圧増幅管等を使い、延べ数10台を作っては壊してきました。 その間、ご報告を戴いたり情報収集して得た超三結 V1 アンプ固有 (と思われる) 故障例・事故例は下記の通りです。(2002/03)

  (1) 初段管のカソードに挿入のバイアス調整可変抵抗の接触不良による、
   出力管バイアスの異常〜大プレート電流事故・・・一例
  (2) 初段管を抜いた状態にてパワーオンしたことによる、出力管バイアスの異常
   〜大プレート電流事故・・・一例
  (3) 規格限界を超えたと想定される長時間運転による出力管
   6BM8(p) の劣化〜性能低下・・・一例

 これら故障例・事故例に対して、筆者の考え方および対策は下記のとおりです。

  (1) 実装方法〜接続方法にてある程度まで防護策が可能です。
  (2) 実用運転時ではなく、恐らく試作調整段階にて発生したヒューマンエラーと考えられ、
    動作試験時の点検手続きを確実にすることにて防止が可能です。
  (3) 出力管の寿命に対する製作者(兼利用者)の解釈に依存し、当事者責任と考えます。

 超三結 V1 アンプの試作開始以後の数年間、筆者の試作機では初段管ヒーター断線事故も、初段管〜電圧帰還、出力各管の H-K タッチ(ヒーター・カソード間の絶縁不良)も起きなかったし、また追試験された多くの方からも同様な故障事例の報告は一回も戴かず経過してきました。 それで、真空管は結構信頼性が高いのだ・・・と安心していたのですが、何人かの会員から 超三結 V1 アンプでは初段管ヒーター断線が最大級の故障となる とご指摘戴きました。 発生しうる状態をシミュレートしてみて、筆者はその重大さを改めて認識し、何例かの対策回路などを試作・実験して本文にまとめ拙ホームページに掲載しました。(2002/03)

 その後、本文をブラウズされて実装した方から、ツェナーダイオードによる保護回路が実際に役立ったとのご報告メールを戴きました。 その例では初段ソケットの接触不良により、初段管オープン状態が発生したとのことでした。 本文を有効にご利用いただき嬉しかったけど、他所でも発生する可能性がある訳で、手放しでは喜べませんでした。 本来は起きては欲しくないことですが、監視して起きたら検出され保護されなければなりません。 これまで以上に、皆様の信頼性向上に対するご配慮を改めてお願いしたく存じます。(2003/08)
 さらに本文の監視・保護措置に関してメールにてお問い合わせを戴いた方がありました。 回答を準備しながら、ついでに本文の記述内容をレビューした際に不備な点が少なからず見つかり、それを機会により正確な内容とすべく修正・補足を加えました。(2004/02)
 その後の筆者の手持ちアンプの組み換えなどもあり、特定部分を一般的化し、表現を簡潔・適切に修正しました。(2007/03)

 会員の野田@愛媛さんから (1) ネオン管の利用、(2) SCR 等によるリレー機能の代替、(3) AD コンバータ内蔵 PIC による監視・保護機能など、いくつかのバリエーション案をご呈示いただき、ご了承を頂いて本文には上記 (1),(2) につき追記して改訂しました。(2010/06)
 さらに、超三結 V1 アンプには「動作点調整モード」および「運転モード」という状態モードの概念を導入した方が、監視および保護の機能を説明し実装する上から、より好都合であると考えるに至り、その記述を追加しました。(2010/06)


1.2 初段管のヒーター断線等は最も恐ろしい

 この故障は初段に真空管を使った場合のヒーター断線以外に、ソケットの接触不良でも同じ状態になります。 またバイポーラトランジスタ/FET による初段でも断線状態の素子不良故障ケースは皆無とは言えないでしょうし、トランジスタ用ソケットまたは IC 用の SIP ソケット併用例では更にその可能性が増加します。(2004/02)

 超三結 V1 回路にて初段 (管に限らず・・以後単なる「初段」とは、初段管/ Tr/ FET の総称とします。) がオープンとなれば、出力管の制御グリッド (G1) には電圧帰還管の三極管を通してモロに B電圧がかかり、出力管は二極管状態を強いられます。 この種トラブルでは、B 巻き線のショート事故のようにプツンとフューズが切れず、ヒーター巻き線のショートやリップル・フィルタのケミコンの+−を誤って逆に接続した場合と同様に徐々に過熱して始末が悪いです。
 出力管の G1 にはプラスが掛かかり、グリッド電流が流れて G1 が加熱し、Pp/Psg(許容プレート損失、同スクリーングリッド損失)はオーバーして損傷し、カソードに挿入した抵抗には正常時の何倍かの電流が流れて発熱し、並列に接続のケミコンは過剰な電圧が掛かってパンクし、出力トランスも過剰電流で発熱損傷し、B 電源回路のトランスおよび使っていればチョークも過剰電流にて発熱損傷します。

 これまで筆者の実験室?では 五年間〜毎日 3時間ほど超三結 V1 アンプを稼働したものと仮定して、約 5000 時間となりますが、この故障が一件も発生しなかったし、また製作された方からそのような報告を一件も頂戴しなかったことは、ラッキーであったと言うしかありません。(2002/03)
 この故障に対してまったく意識がなかった訳ではなく、以前に筆者が記述した<<<超三結アンプの実装法考察>>>〜 構成・動作原理 (2001/12: 前半)〜実装例、調整法 (2001/07: 後半) では、保護策として「初段に並列にツェナーダイオードを接続します」と、漠然とした表現にて可能性とその対策の記述にとどまり、また筆者の個々の試作例にてツェナーダイオードによる保護回路の具体例を示すにも至りませんでした。
 しかし前記のご指摘を機会に「より完全を期さねばならない」と決断、現用の何台かの超三結 V1 アンプにて保護回路を検討し実験・改造して、その経過内容と実装詳細を本文に反映しました。(2003/03)


1.3 これまでに執ってきた、初段の故障を除く対策・・・

 以下は、筆者がこれまでに採ってきた初段の故障を除く超三結 V1 アンプの故障および事故等に対応する保護策の詳細です。 これら対策も、以後本文にて検討する初段故障対策とも併せて事前に考慮する必要があることには変わりありません。

● 初段カソード (等) に挿入の可変抵抗の故障対策
 筆者のホームページ中の <超三結アンプの実装法考察> の前半「構成・動作原理」にも記述しましたが、半固定状態にて使う可変抵抗の摺動刷子と抵抗体との接触不良のことです。 この場合、初段管回路が切れるので、初段管ヒーター断線と同じ症状になります。
 この故障は、抵抗体と摺動端子とを単に直列になるように配線して動作させた場合に発生しうるので、摺動端子は抵抗体の一方の端子と常時接続されるように配線し、接触不良を起こしても可変抵抗を最大値に設定したのと同じ状態を保ちます。
 このように半ば常識ですが、実装上の注意にて接触不良故障は防止できます。 初段カソード (等) に挿入するので可変抵抗器のワッテージについては特段の配慮は不要、むしろ摺動部の接触がシッカリしたものを選びます。 筆者のアンプでも動作中に突然音が変になる故障が発生、可変抵抗の接触不良にて出力管のカソード電圧を狂わせたけれど上記の配線方法にて断線による大事故から免れました。

● パワーオフ直後のパワーオン禁止
 超三結 V1 アンプの操作法としては、パワーオフ直後のヒーター余熱がある間にて B 電源の放電途中で再パワーオンすると、電圧配分の異常を起こして、真空管等の素子を傷める可能性があるため、ヒーター冷却とリップル・フィルタのキャパシタ放電に要する十分な時間が経った後にパワーオンするように指定しています。 筆者のアンプでは、そのために以下に述べる B 電源の急速放電対策をとった電源内蔵アンプおよび外部電源の例もあります。

● B 電源の急速放電対策
 本件は故障関連だけではなく感電防止等の安全対策も含みますが、拙ホームページ中のいくつかの個別アンプの項にて電源関連事項として掲げました。
 超三結 V1 アンプの試作者の一部では電源のリップル・フィルタ回路〜出力管バイパス用に巨大キャパシタ・・・数千マイクロファラッド等を使用して、低域再生の充実を図る例がありました。 巨大キャパシタの場合、並列に 100kΩ程度の放電抵抗を接続しただけでは、パワーオフにして後放電に 30分位も掛かって危険です。 筆者は積極的に放電するためにパワーオフ時に急速放電するため AC 100V リレーを併用して 2kΩ20W 程度の抵抗にて 30秒間位で完了させ、 また汎用電源装置の場合は監視用の電圧計を併設しました。
 直熱管による超三結 V1 アンプおよび準超三結アンプの場合は、パワーオフにてフィラメントが急速に冷えても、まだ B 電圧が残って印加されるのは好ましくないと考え、同様に急速放電用の AC 100V リレーを装備しました。 ただしフィラメントの熱容量が大きく、リップル・フィルタのキャパシタが小容量のアンプなら特段の処置は不要てす。


1.4 初段障害の影響回避策、取り敢えずはどうするか・・・

● 取り敢えずは・・・
 急にそう言われても直ちに対策は取れないから、 取り敢えず現状の超三結 V1 アンプにつき「常時」正常動作を確認する・・・これを確実に実行することに尽きます。 バイポーラトランジスタ/FET 初段の場合は、ヒーターが灯らないので目視チェックでは判らず、音出し確認または出力管カソード電圧の確認しか方法がありません。 アンプをパワーオンしている間は意識的に下記二項目の監視を徹底し、また随時音声出力の異常の有無、トランスの温度とか異臭の有無をチェックして、正常動作を確認しながら運転を続行し、異常が発生したら直ちにパワーオフします。 

 (1) 初段管ヒーター点火の常時監視
 (2) 出力管カソード電圧の電圧計等による表示の常時監視

 これまで筆者が製作してきた超三結 V1 アンプも、上記監視体制に準じる運転でした。 しかし実際問題として運転中にしばらく目を離したり席を立つことがあり完全な連続監視は困難てあって、瞬時対応体制または自動的な監視保護体制にはなり得ません。

● 初段管以外のヒーター断線はまず対策不要
 なお電圧帰還管と出力管のヒーター断線による影響は下記のとおりであり、特段の保護回路などの対策は不要と判定されます。

  電圧帰還管:電圧帰還管が死ぬだけ・・・導通がなくなり出力管の G1
        電位が保てずに低下して動作停止するだけでです。 

  出力管:  単に動作が止まるだけなので、B 電源の負荷が少なくなって
        電圧が上がることがあるとしても大事故にはなりません。

● 具体的な対策・・・回路変更から保護回路まで
 そのような経緯があり、系統的に検討して、保護方式としてはヒーターの断線検出などの限定的対策に限らず、範囲を拡げて何とおりかの方法を考案し実装を試みその動作結果も記述しました。

(A) 準超三結アンプ等に回路変更
 まずは直結回路を敬遠して、P-G NFB 併用カソードフォロワ・ドライブの C/R 結合による超三結 V1 回路である、筆者が命名した「準超三結 V1 (回路)」(Semi-STC) に変更する・・・転進 (実はお手上げ〜後退?)、という選択肢があります。
 この回路によれば初段管がトラブルを起こしても、出力管には全く影響はありませんし、音質的にも大幅な変化はないから、安心ではありますが・・・使用部品点数が増えます。 筆者が製作した、直結とするには電圧配分が困難な個別の三極管類 (6AC5GT, 2A3/45, 300B) 、およびバイアス電圧を幅広く変える必要がある「汎用三極管超三結アンプ」では、この方式を採用して電圧帰還管と出力管との間の直結を避けました。
 その他には、初段管カソードに電圧帰還管経由にて NFB を掛け、初段管とは C/R 結合による「超三結 V3 回路」に変更したり、伝統的な C/R 結合回路等に変更することも可能ですが・・・その判断は・・・。

(B) 超三結 V1 アンプとしての対処
 転進 (=退却) を「潔し (いさぎよし)」とせず・・・超三結 V1 回路から他に変えずにコダワル (固執して死守する?) 場合には、安全確保のための回路を追加・改造することをお勧めします。 以下は、超三結 V1 回路としての自動的監視・保護の改造への検討と実装例を述べます。


2 初段管ヒーター断線の自動検出と出力管の保護

 自動的に初段管ヒーター断線を検出して、出力管の G1 電圧が上がるのを防止するか、または B電源を切り放します。 ヒーター断線の検出方法と出力管の保護方法を組み合わせて自動化します。 それにはいくつかの方法があります。 なお素子を複数並列構成にした初段は、一部が故障した場合に動作点調整が狂うのでここでは対象に含みません。
 なお、本文の記述目的である出力管の保護とは直接無関係ですが、それぞれのカソードが分離された三極五極複合管を一本使用し、初段管および電圧帰還管として利用する場合には、口金接続 (Basing Diagram) が 9AE タイプの 6U8A/6EA8/6GH8A 等、またはそれらのヒーター電圧が異なる相当管では、三極部のプレートおよび五極部第一グリッドが隣り合っていて高周波発振が大変起き易いので、避けて戴きたいことを付記しておきます。(2008/03)

2.1 初段管ヒーターの出力管との直列構成

 これは江口さんのアイデアです。 初段管と出力管のヒーターが直列にできるような管種を組み合わせてヒーター電源に接続してヒーターを加熱点灯するため、どれかのヒーターが断線したら全部ストップする・・・まるでヒーターがプレーカの機能を兼ねる・・・ので特段の監視・保護回路が不要になります。 ただしヒーターが冷めても B 電圧が掛かったままなのは、あまり気持ちのいいものではありません。 できれば故障表示灯を点灯し知らせ B 電源を切りたいですが・・・そのためにリレーを使えば後述の「2.3 初段管ヒーター断線のリレーによる検出と出力管の保護」と同じものになってしまいます・・・。
 下記にはヒーター電流が一致する初段管〜出力管の直列構成組み合わせ例を示します。 (構成的に電圧帰還管を含む例もあります。)

 ◇ 0.3A 球による構成  
  6AU6/6CB6/6EJ7/9GH8A - 16A8/14GW8/12BY7A (12.6V/0.3A)/25E5 ..... etc.

 ◇ 0.45A 球による構成
  4EJ7/6AH6/6U8A/6EA8/6GH8A - 6AQ5/6V6GT/11BM8/21LR8/21LU8 ..... etc.

 ◇ 0.6A 球による構成
  3AU6/3CB6/5U8/5EA8/5GH8A - 12BY7A(6.3V/0.6A)/12G-B3,-B6,-B7/
  12AV5/12BB14..... etc.

● メリット/デメリット
 品種の多い高ヒーター電圧の水平偏向出力管等をうまく組み合わせれば保護回路が省略できるので、小形超三結 V1 アンプを低コストにて安全性を高く纏めるには大変都合がよい方式ですが、ヒーター電流を一本化するため管種の組み合わせが制限され、ヒーター電圧が特殊になり一般のパワートランスまたは汎用電源等では使いにくくなります。 

● 実装上での留意点、しかし・・・
 ヒータートランスの利用・・・B 電源トランスと分けて構成する例では、タップ選択および抵抗等の併用にて自由自在に調整できるでしょう。 TV 用の球はヒーターウオームアップ時間は 11秒と統一されているのですが、実際にはメーカー間に結構バラツキがあったり、古い規格だったり、フラッシングがあったり、異常に電圧が掛かったりで、抵抗を並列にいれて調整したり、ヒーターパワーをロータリースイッチ等で徐々に上げる必要があるかもしれません。 また見ずらいヒーターの点灯点検の代りにヒーター回路に挿入の豆球/LED などにて点検を容易にしたいところです。
 しかし・・・ヒーター断線を保護回路動作に利用するのはヒーター機能の目的外利用、本来お勧めしにくいです。


2.2 初段管と電圧帰還管をヒーター直列の三極五極複合管、または独立管のヒーター直列配線にて

 ヒーター断線対策の検討中のことです。 ある超三結 V1 アンプの初段管と電圧帰還管は複合管の某社製 6U8A であり、管内で三極部のヒーターと五極部のヒーターとが直列に接続されています。 そこで「迷案」がヒラメキました。

● 管内で三極部と五極部のヒーターが直列の複合管の場合
 もし 6U8A がヒーター断線すれば、初段管と電圧帰還管が同時に死ぬので、出力管の制御グリッド (G1) が宙に浮いて、出力管は G1 電圧不定の二極管状態になると考えられますが、保護策は単純に出力管の G1 をグランド電位に落とせば OK と云うことです。 それで初段管のプレート〜グランド間に、通常の動作には影響の少ない 4.7MΩの高抵抗を接続して、対策改造はオシマイです。

● 初段管と電圧帰還管のヒーターを直列に接続する場合
 上記「迷案」の延長、実質的には同じことです。 使用真空管数が増えるけど、ヒーター直列の三極五極複合管と同じ構成を、それぞれ独立の初段管および電圧帰還管のヒーターを直列点火して 6U8A 同様の「ヒーター断線による防御効果」を実現します。 下記に一例を掲げます。 

◇ 初段管と電圧帰還管のヒーター直列点火 (0.3A 球の組み合わせ例)
 初段管        = 6AU6/6CB6/6EJ7
 電圧帰還管 (単三極管) = 6AV6 (三極部のみ)、6AU6 (三極管接続、μ=36)
 電圧帰還管 (双三極管) = 12AX7/12AT7 (ヒーターは並列で 6.3V 点火) 

 双三極管を使用する場合は、2ユニットを電圧帰還管として並列にても使用できます。 電圧帰還管に 12.6V の双三極管を使う場合はヒーターを並列として、初段管とヒーター電流を一致させるので、ウオームアップ・タイムがうまく一致するか否かは実験にて確認したいところです。

 初段管と単三極管との組み合わせならば、ヒーター直列の三極五極複合管と全く同じ構成となり、初段管のプレート〜接地間に高抵抗を並列接続するだけで、出力段を保護できる改造が適用できます。 
 初段管と双三極管との組み合わせの場合、双三極管ヒーターの片側だけが断線すると複雑です。 初段管と電圧帰還管とが同時にヒーターオフにはならず、ヒーター電圧配分が異常となり、生き残った側のヒーターは意外と切れずに明るく点火し、初段管は暗くなるでしょう。 双三極管を並列使用した電圧帰還管の構成、またはヒーターが生き残った側のユニットが電圧帰還管の場合は、初段管はヒーター電圧不足にてエミッション低下を起こし、プレート電圧が上昇することになります。 ヒーターが切れた側のユニットが電圧帰還管の場合は、初段管もろとも死ぬので問題はありません。
 そのような訳で、双三極管との組み合せではヒーター直列の三極五極複合管または初段管と単三極管との組み合わせ例とは一致しません。 

 保護回路図(1) 管内で三極部と五極部のヒーターが直列の場合をご参照ください。

stcsec1.gif

● 動作確認
 この状態にて (1) 動作中に初段の 6U8A を抜いたり、(2) 抜いたままパワーオンして、出力管カソード電圧を点検すると、終段の G1 は接地電位にあり、実験に使用した超三結 V1 アンプ例、他の超三結 V1 アンプ例ともに 10V〜20V の範囲でした。 このカソード電圧値は通常の自己バイアス抵抗の数倍程度の「嵩上げ電圧+自己バイアス」を得る抵抗値から発生するものであり、従ってカソード電流値は正常時の数分の一程度です。 すなわち、超三結 V1 回路の高いカソード抵抗によって発生する深いバイアスにより、十分な保護状態にあることが確認できました。

● 三極五極複合管はいろいろだし、独立管の場合は配線の確認を要す
 某社製 6EA8 はヒーターが管内で直列接続、某社製 6U8A と同様に適用できました。 しかし某社製 6GH8A は管内で並列接続、6BL8 では会社により直列のものと並列のものがありました。 こうなると一つ一つ管内のヒーター接続状態を「ルーペ」にて確認せねばなりません。 というより本来 管内ヒーター接続は、目的外に利用してはいけない要素 と云うことのようです。 
 または独立の初段管と電圧帰還管との組み合わせにてヒーターを直列接続する場合、配線の変更・確認を要します。

● メリット・・・しかし
 高抵抗一本で出力管を保護できるなんて、俄には信じられませんが、確実に動作しています。 
 しかし・・・ヒーター断線を保護回路動作に利用するのはヒーター機能の目的外利用、本来お勧めしにくいです。


2.3 初段管ヒーター断線検出リレーによる表示と出力管の保護

 ヒーターの断線を直接保護回路動作に利用せず、それを検出して保護回路動作に反映します。

● 検出回路と検出方法
 原理としては、五極管 (または五極部のみ使用) による初段管ヒーター回路にリレーを挿入し、または電流検出用の抵抗を挿入した検出回路によりリレーを駆動し、アンプ運転時はリレーを常時動作状態としておきます。 リレー動作が切れた場合に初段管ヒーター断線発生として検出し、ヒーター断線を表示し、出力管の保護回路を動作させます。 

● 保護回路と保護方法
 保護回路としては、初段管ヒーター断線時に
   normally close 接点 (▲:リレーの動作時には離れて、非動作時にスプリングにて接触している接点)
 にて初段管の動作を、後述のツェナーダイオード等に置き換えて疑似的な電圧配分を維持するか、初段管プレートを接地して出力管の動作をカットオフ側に追い込んでしまう等、出力管の G1 に異常な高電圧を掛けることなくカソード電流を抑制し保護するものです。
 または、初段管ヒーター断線時に
   normally open 接点 (△:リレーの動作時には接触し、非動作時にスプリングにて離れている接点)
 にて出力管のプレート/スクリーングリッド回路を B 電源から切りはなしたり、 B 電源を切ってしまうのも有効です。 

● メリット〜一般化、L/R一括管理と故障表示通報
 一般化されたリレー式初段管ヒーター断線検出回路にて、アンプの管種構成等とは独立に保護回路を構成できます。
 検出〜保護はL/R一括管理で十分です。 ヒーター電源電圧を高く取って初段管ヒーターはL/R直列・・・and 回路とし、L/Rどちらかの初段管ヒーター断線検出時にチャネル両方まとめて保護できます。 余剰のリレー接点を利用して、ヒーター目視点検等に比べて遥かに発見しやすい LED などによる表示灯の点灯、またはブザー等による積極的な故障通報が可能になります。

● デメリット〜ヒーター電源  DC リレーをヒーター回路に直接挿入する場合は DC 点火が必要となり、ヒーター電源の改造を要します。 リレーの動作所要電流とヒーター電流の差は分流抵抗で逃がすとしても、その電力ロスも発生します。 電力ロスを減らすため、リレーではなく電流検知抵抗により電圧降下を検出・整流してトランジスタ制御とする場合には、トランジスタのための電源が別途に必要です。

● ヒーター回路と検出回路の実装上の留意点
 ヒーター断線検出回路にはヒーター電源およびリレー仕様の AC/DC の違い、リレー仕様の動作電圧・電流、直接のリレー挿入/検出抵抗などのバリエーションが考えられます。 いくつかの実装上必要な要件を以下に掲げます。

 ◇ 電圧嵩上げ:
    ヒーター電源電圧は、リレーの動作電圧または検出抵抗分だけ「嵩上げ」電圧の
    上乗せが必要になります。

 ◇ 分流抵抗 :
    ヒーター回路に直接リレーを入れる場合に、使用するリレーの動作電流が
    ヒーター電流よりも少ない場合には、抵抗にて分流して合計で合わせます。
    リレーの動作電流がヒーター電流より大・・・使えません。

 ◇ 検出抵抗 :
    ヒーター回路に直接リレーを入れずに、電流検出用に用意した低い抵抗の両端に
    発生する電圧を、(AC ヒーター点火では整流して) 適宜トランジスタ回路によって
    検出して DC リレーを駆動します。
    AC ヒーター点火ではトランジスタ〜リレー回路用の DC 電源が必要になります。 

 ◇ DC リレー:
    ヒーター回路に直接 DC リレーを入れる場合には、ヒーターは直流点火とし、
    直流電源が必要になります。 検出抵抗の場合、トランジスタ〜リレー回路用 DC 電源は
    ヒーター電源と兼用できる可能性があります。

 なお筆者の場合は、上記の初段管ヒーター断線のリレー制御回路はアイデアに留め、後述の「3 初段の一般化障害監視および出力管保護」に専ら注力しました。
 保護回路図(2) 初段管ヒーター断線のリレーによる検出と出力管の保護をご参照ください。  

stcsec2.gif

3 初段の一般化障害監視および出力管保護


3.1 超三結 V1 アンプの稼働状態モードの定義 (2010/06)

 すこし難解な話しになります。 
 本文にて意図した (直結回路構成とした) 超三結 V1 アンプの「障害検出および保護」回路の基本機能では、障害発生を検出するだけでなく出力管の保護も併せて行なおうとしている訳です。
 従って障害を検出して保護状態に入ったら、障害の原因追求なしに復帰すべきではない・・・パワーが入った状態ではリセットされるべきではない・・・復帰しても同一の故障状態が再現され、検出され保護動作に入るかまたは被害を拡大する可能性がある・・・従って電源 off にてのみリセットされるのが最も安全であると考えました。
 ところが、超三結 V1 アンプを組み上げが完了し動作試験に入るに際しては、初段のバイアス調整による終段の動作点調整工程を経る必要があります。 その工程では、注意深く徐々に電圧を上げて行く操作により障害状態に至らずに調整工程完了する可能性があると同時に、ラフな操作にては容易に障害状態に持ち込まれるように回路構成されています。
 従って調整工程では、調整機能の正常動作確認と併せて「障害検出および保護」の確認まで行なわれうる訳です。 ところがその確認を行う場合には、リセット手続き・・・一旦パワー off して再度パワー on する手続きが求められる可能性が高い訳です。

 ここで超三結 V1 アンプの「障害検出および保護」回路の機能について、運転整備状態および運転状態とに明確に分離・定義することによって、目的および動作の定義が、より平明にならないかと考えるにいたりました。
 すなわちアンプとしては、動作点調整工程では「動作点調整モード」または「調整モード」にあり、実用可能で運転に入れば「運転モード」にある、との稼働状態モード概念の導入が、何かと好都合な訳です。
 その狙いは「調整モード」にあっては「障害を発生させその検出をおこない、保護回路は動作させずに障害検出回路をリセットさせうる」・・・すなわち調整時に過大電圧などに短時間設定して障害検出回路の動作確認し、なおかつ正常状態にもどせることであるとし、「運転モード」にあっては「障害を検出して保護回路が動作するもリセットはできない」ことによって、原因追及なしの運転再開による大事故の誘発を防ぎたい訳です。 (2010/06)


3.2 障害検出および保護回路の実装

 本章では、以後「初段」とは初段管に限定せず、「初段管」は真空管の場合を指すことにします。
 前記 「2 初段管ヒーター断線の検出と出力管の保護」の方法ではバイポーラトランジスタ/FET による初段の故障ケース、それに初段管ヒーター断線以外の内部ショートなどの故障ケースは検出できません。
 そのような構成のバリエーションに対応して、大抵の故障ケースも検出できる方式としては出力管のカソード電圧またはカソード電流の監視・保護が有効であり、具体的には以下の方法となります。

 「3.3 ツェナーダイオード(等)による初段障害の監視および出力管保護」
 「3.4 リレー(等)による出力管カソード電圧またはカソード電流の監視と保護」

 すなわち、ツェナーダイオード(等)またはリレー(等)にて初段の動作を疑似的に継続して出力管の G1 電位が上がるのを防ぐか、または初段のプレート/コレクタ/ドレーンを接地するなどして、カソード電流の増加を抑制または制限します。 リレー(等)による方式では出力管のプレート回路/スクリーングリッド回路を B 電源から切りはなすのも有効な方法です。 


3.3 ツェナーダイオード(等)による初段障害の監視および出力管保護

 この監視・保護回路方式では、「動作点調整モード」および「運転モード」の設定は、アンブを調整し運転する人の操作・監視および判断に頼っていることになります。 (2010/06 追記)

● まずは実装・・・ツェナーダイオードの挿入
 初段が真空管に限らずバイポーラトランジスタ/FET であっても、故障状態になると、電圧帰還管のグランドが宙に浮いて出力管のプレートからの B電圧がモロに出力管のグリッドに現われます。 それを防ぐために、初段管プレート/コレクタ(バイポーラ Tr)/ドレイン(FET) 電位が、動作時の電位+信号の振幅よりも高くなった場合に始めて始動するツェナーダイオード (ZD) をグランドとの間に予め並列に接続しておきます。 
 この回路にて初段が断線状態になると、 ZD が (正常稼働状態の初段よりも少し高い電位ではあるが)、直流電圧配分機能を支え続け、アンプとしての動作は止まっても出力管のカソード電圧・電流が若干増えた状態にて、出力管その他関連部品等を極端なオーバーロードから保護するものです。 すなわち ZD は正常動作時は全く死んでいて、初段が故障した場合にのみ動作する「疑似初段」機能です。
 ZD に LED を直列に挿入しておくと、故障知らせ灯として利用できます。 ZD が負担する電圧に LED 分が上乗せになるけれどわずかです。
 定電圧放電管でも 75V など規格によっては ZD 同様に利用可能です。 しかし各種の豊富な品種が揃い安価なツェナーダイオードに敢えて対抗する特段の理由がなく、始めから対象外としました。(2010/06)

 保護回路図(3) ツェナーダイオードによる初段障害の検出および出力管保護をご参照ください。

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● ネオンランプの挿入 (2010/06)
 野田@愛媛さんから ZD+LED と同等の機能を実現する素子として「ネオン管」を採用するアイデアを頂きました。
 ネオン管の場合では、一定のツェナー電圧の ZD およびゼロ電圧 LED による発光動作に同等と看做せます。 従ってツェナー電圧の加減・・・ZD の調整・交換だけができない特殊なケースと考えてもよいでしょう。 そういえば半前世紀前には定電圧放電管の代わりに簡易定電圧回路に用いられていました。
 ネオン管は約60V にて放電開始するとのことで、真空管初段の場合なら殆ど問題なく置き換えが可能と考えられますが、Tr/FET 初段では利用する品種により高すぎるかもしれません。 電圧帰還管のK=出力管の G1 電位を監視するよう変更してもまだ不十分な場合もあるでしょう。
 なお野田@愛媛さんから「アンプの立ち上がり時にネオン管が点滅して、スピーカから若干の雑音を発生する場合があった」とのご報告を頂きました。
 その原因は、ネオン管の放電開始電圧が放電電圧より少し高いので、一旦放電を開始したのち電圧降下にて放電が停止し、電圧が回復して再度放電開始する場合と想定されます。 初段、帰還段、終段の各真空管のウォームアップ・タイム、および動作電圧配分、カソード回路時定数などが点滅に関連するものと考えられます。 アンプの立ち上がり時なら支障はないけれど、止まらないようなら直列抵抗の挿入など動作電圧の調整等が必要となりましょう。 
 100V〜110V 仕様のパイロット・ランブ用ネオンランプを使用する場合は、電流抑制用の直列抵抗を外す必要があります。
 下記の保護回路図(3-1) ネオン管による初段障害の検出および出力管保護をご参照ください。(2010/06)

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保護回路図(3-1) ネオン管による初段障害の検出および出力管保護

● ツェナーダイオードの動作確認
 LED の動作電圧を予め正しく設定してあれば、アンプの動作状態にて初段管を抜くと LED が灯り「疑似初段回路」が動作したことが示されます。 また、初段管を抜いたままパワーオンすると LED が灯り同様な状態になり、確認できます。 バイポーラ Tr/ FET 初段ではソケットを利用していれば、ソケットから抜くことにより同様に簡単に動作確認できます。

● ツェナーダイオードの音質への影響
 筆者はこの ZD による保護が、アンプの正常運転時の音質に与える影響が気かがりでした。 取り敢えず、予備実験として 初段管プレートの常時動作時の対グランド電位が 45V 程度の初段管が 6AK56BM8 超三結 V1 アンプの初段管プレート〜グランド間に、「疑似初段回路」として 30V300mA の ZD RD30E 二個と LED を直列に接続したもの・・・60V 強で動作開始する・・・を並列接続しました。
 アンプに音声信号を加え試聴しながら、「疑似初段回路」を初段管に並列に入れたり外したりした所、クリップに近い大信号を入力しても LED が灯ったり、音質を損ねたりの影響がない・・・正常動作時には影響しない・・・ことが判り、ホッとしました。 ということは、出力管のグリッド入力信号の peak to peak 振幅は一応クリアー、マージンは一応確保されていると考えられます。
 また、アンプの動作中に試しに二個の ZD のうち一個だけをショートしてみると、信号波形の頭が刈り取られてガサガサ音となり、30V にて保護開始したのでは正常時の動作電圧が不足することが証明され、併せてツェナー電圧が不足の場合の歪み音も確認できました。

 一般に、初段管として予備実験アンプとは異なる五極管を使用するアンプ、異なる電源電圧にて動作するアンプ、異なる出力管を使うアンプ、またはバイポーラTr または FET 初段等・・・のそれぞれの場合、当然 ZD の (合計) 動作電圧を実際の回路動作と照らし合わせて、現物合わせする必要があります。 
 大信号入力時に LED が点灯しない場合には ZD を交換して電圧設定を徐々に低くしていくと、信号のピークにて頭がつぶれる点が発見されるでしょう。 何種類かの ZD を用意して少しずつ減らして行けば最適点が判る筈です。 また、予め組み合わせた ZD と LED とで、動作点調整済みのアンプのカソード電圧にて LED が常時または信号に従って点灯してしまう場合には、適当な電圧の ZD を継ぎ足して大信号入力時にも灯らない状態に再調整する必要があります。 また、AC ライン電圧変動等を考慮してある程度の余裕が欲しく、ギリギリにセットするのは適当ではないと考えます。 

● 「疑似初段回路」の始業点検?機能
 6BM8 超三結 V1 アンプではパワーオンすると各管のヒーターの加熱が終わった頃に一旦 LED が灯ります。 すなわち初段のプレート電圧が一時的に 60Vプラスアルファ (LED の点火電圧) に達することを意味します。 初段管よりも帰還管のウォームアップが早い場合に起きるものと考えられます。 他の超三結 V1 アンプでも同様な状態が発生しました。 しかし別の超三結 V1 アンプではこの状態が起きないものもあります。 その直後に LED が消えて正常動作に入ります。 
 このドキッとさせる動作は、パワーオン時に必ず行われる「疑似初段回路」の正常動作確認の「始業点検」であると理解しました。
 従ってバイポーラ Tr/ FET による初段では、ヒーターが暖まっている真空管と同じで即時動作開始するから一旦 LED 点灯は起きない筈です。

● 制限事項・・・適用可能なアンプの条件
 予備実験に使用した 6BM8 超三結 V1 アンプでは、初段管を抜いて LED が灯り保護状態に入った状態にて、出力管 6BM8 の五極管部 (p) のカソード電圧が上がり、カソード〜プレート間電圧は 200V、カソード電流が 47mA、従ってプレート損失+スクリーン損失合計 =9.4W 程度となり、明らかに 6BM8(p) の許容損失合計を超えています。 しかし、これを超えないように ZD の電圧を下げれば、大振幅入力時に音質を損ねる可能性が十分あります。 予備実験に用いた 6BM8 超三結 V1 アンプのように出力管の動作点と最大許容損失との間に余裕の少ない場合には適さないですが、設定した動作点が最大プレート損失+最大スクリーン損失に対して相当余裕のある・・・控えめに設定したアンプの場合は、本方式でも問題は少ないでしょう。

● メリット・・・それでもコスト効果は抜群
 しかしながらタッタの ZD 四個および LED 二個とラグ板によるソコソコの改造費用にて、正常動作機能と故障時保護機能との「二羽の兎」に対して完全性を求めるのは「強欲」というものでしょう。 また、出力管が規格オーバーにて幾分は劣化・損傷したとしても、決定的な出力トランスのな損傷・断線、出力管カソードのバイパスキャパシタの爆発、電源トランスの決定的な焼損、極端にはアンプ火災等の大事故から免れる訳で、保険としてのコスト効果〜保険費用対損失額比は大変優れているとも考えます。


3.4 リレー(等)による出力管カソード電圧またはカソード電流の監視と保護

 ツェナーダイオードによる保護方式よりも積極的に出力管の過大カソード電圧または過大カソード電流の検出および出力管保護が可能な回路として、電圧・電流の異常監視・保護回路動作に DC リレーを使用する方式を考えました。 以下、検出〜異常監視との用語が錯綜するので・・・全て「監視」に統一しました。

3.4.1 リレー(等)による監視と保護、共通事項

● リレー(等)による監視対象は出力管のカソード回路
 初段の異常により出力段のカソード電圧が異常上昇し、同時にカソード電流も同様に異常上昇した状態を対象に、出力管のカソード回路に挿入した DC リレーが自動的に動作して監視し、保護回路としては初段回路を接地ショートする回路を働かせるものです。 したがって、出力管自体の故障によるカソード電圧、カソード電流の減少またはゼロ状態などは、監視の対象ではありません。
 リレーコイルに所定の電圧または電流の何10パーセントかを流すと、マグネットを引くので、この機能を出力管の過大カソード電圧または過大カソード電流の監視に使い、リレー接点を利用して保護回路を動作させます。 従ってリレーコイルは出力管のカソード回路に、並列または直列に挿入することになります。

 なお会員の野田@愛媛さんから頂いたバリエーション例では、DC リレーの代わりに電圧比較回路 (コンパレータ回路) および SCR にてスイッチ回路を構成するものです。 リレーコイルの磁力が限度をこえて接点が動作する状態をシミュレートし、フォトカップラにてリレー接点と同様な機能を実現することにより、リレー仕様に依存の動作開始電圧または動作開始電流の確認およびアンプ回路との整合性等の調整を不要とするものです。 (2010/06)

● リレーの個数・・・チャネル独立に
 初期には一個のリレーにて、L/Rチャネル同時監視と保護回路動作を計画しました。 実験の結果、大抵の超三結 V1 アンプではL/Rチャネル共用としても、運転する上では殆ど問題はありませんでした。 しかし組み立て後の出力管バイアス調整時(ないしはユニバーサル・アンプでの出力管変更のバイアス調整時)にて、片方のチャネルの動作点調整中に障害状態を起こして保護状態に到ると、アンプ全体が巻き込まれて不便です。 またリレーはL/R共用できても、発生チャネルの識別は必要、そのための障害表示灯および回路も個別に必要です。
 そこで若干コストは掛かるけれど、リレーはL/Rチャネル独立二個装備を標準にしました。 これならモノラル・アンプ構成にも適用できます。 

● リレーの規格と適用アンプの仕様、検出モード
 リレーコイルの挿入箇所には並列・直列の相違はあるも、本質的にはオームの法則に則る動作であり大差はありません。 しかし使用するリレーの規格によって監視対象を電圧ベースとするか、電流ベースか、の相違がでてきます。 
 挿入方法をカソード抵抗に対して並列(電圧ベース)とするか直列(電流ベース)とするかは、使用リレー規格とアンプ本体との適合性によります。 アンプ本体のカソード電圧または電流に適合するリレーが適切です。 所定の規格のものが入手できれば問題はありませんが、手持ち品の流用などリレーの規格が限られる場合には、若干の事前検討および工夫が必要です。
 本文では、挿入箇所の並列・直列の相違、および使用するリレー規格の利用可能範囲、調整方法等を考慮して、下記の二とおりに分けました。

(2) 過大カソード電圧を監視する「電圧監視式」 または
(1) 過大カソード電流を監視する「電流監視式」

● リレーは四接点お勧め。
 接点数によってリレーの価格・物理サイズは殆ど変らず、四接点がお勧めです。(2004/02) 

 ◇第一接点・・・出力管保護・・・初段のプレート等の接地ショートに使います。 
 ◇第二接点・・・後述の「自己ホールド機能」に充てます。 
 ◇第三接点・・・障害発生表示灯に利用します。
 ◇第四接点・・・別系統の障害発生表示灯、ブザー動作等に利用できます。

● リレーの併用にともなうカソード抵抗の変更および調整

 (1) 使用するリレーに合わせて、嵩上げ+自己バイアス発生用終段カソード抵抗にも
   若干の変更・調整が必要となります。すなわち、リレーの併用により終段カソード抵抗が、
   リレーを直列にすれば増加し、またはリレーを並列にすれば減少するので、
   併用後も変更前の抵抗値となるように、調整が必要です。 

 (2) また終段カソード抵抗が併用前と全く同一とはならないでしょうから、初段の
   カソード/エミッタ/ソースに挿入した終段動作点調整用の可変抵抗についても、
   再度調整が必要となります。

 (3) 電圧監視式・電流監視式、何れの場合も常時終段のカソード電流(の一部)を流す
   連続動作なので、発熱などの状態点検など動作確認が必要となります。
   また保護回路が動作した「自己ホールド状態」についても点検および動作確認が必要です。 
   (監視・保護回路がトラブルの原因となっては信頼性の確保になりませんね。)

 (4) さらに電圧監視式・電流監視式、何れの場合も、厳密には連続運転させて、
   リレーコイルが温度上昇して抵抗値が落ち着いてから動作点を再度調整するのが、
   本来は正しいのですがそこまで神経質にする必要は、まずないでしょう。(2004/02) 

3.4.2 リレーによるカソード電圧の監視「電圧監視式」

 電圧監視式回路では、リレーコイルと直列に入れた抵抗を調整し、リレーの動作開始電圧を調整します。 実機のカソード電圧を利用してチェックできます。 動作開始電圧は、正常動作カソード電圧の20% 増位に設定します。 これも余裕がないと、動作点調整時にすぐリレーが動作してしまい不便です。 さらに終段カソード抵抗は、リレーコイル+直列抵抗、および更に並列接続にて所定の抵抗値となるように計算した抵抗を並列に加えます。 

 (1) 動作電圧電流が DC100V10mA など高電圧小電流の DC リレーにて、
   出力管のカソード電圧を監視します。

 (2) 出力管の保護措置として、第一の接点にて初段のプレート/コレクタ/ドレイン
   電位を落とし維持します。 直接接地が簡単です。 ツェナーダイオードによる
   保護とは異なり終段は深いバイアスに設定されます。

 (3) 自己ホールド・・・保護措置にて出力管のカソード電圧が一旦減少するとリレーが復帰して
   自動車のウインカーと同様にバタバタの繰り返し動作となるのを防ぐため、第二の接点を使い、
   別途の B 電源等からリレーを引く「自己ホールド」機能にて保護状態を確保します。

 (4) カソード電圧および自己ホールド電源からの動作電圧は、ダイオードの or 回路にて
   相互に逆流するのを防止します。

 (5) 自己ホールドは主電源(AC 100V) のオフにてリセットを原則とします。 
   原因追及抜きの リセット〜復帰は状態を繰り返すだけです。 
   ATS (自動列車停止装置) の解除と同様、復帰は要注意です。

 (6) 別途の故障発生表示灯等・・・第三の接点にて、ヒーター電源等による豆球または
   高輝度 LED 等の目に付きやすい「故障発生表示灯」の点灯、ブザー等も利用できます。 

● リレーによる監視・保護回路の実際(電圧監視方式)
 筆者は計画段階にて、初段管を 6EJ7 にて構成した、出力管挿し替え可能の「汎用超三結 V1 アンプ一号機」 のカソード抵抗にリレーを並列に接続して保護回路を構成してみました。 保護回路図(4)  リレーによるカソード電圧の監視をご参照ください。

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 さて、上記の回路図を実装して試験に掛かりました。
 筆者が使用した DC100V/9kΩ のリレーは、実測の結果約 45V (5mA) にて動作開始しました。 この開始電圧では、嵩上げを含めた出力管の自己バイアス電圧よりも低いため、各種出力管の動作点調整ができません。 また動作開始電圧を十分に高く設定しないと、EL509 などのバイアスが深い出力管では、初段故障の過大電流と間違えてリレーが動作してしまいます。 
 そこで前記の回路を少し変更し、リレーのコイルに 8.2kΩの抵抗を直列に挿入して、見かけ上のリレー動作開始電圧を約 80V になるように調整しました。 保護回路図(4x)  リレーによるカソード電圧の監視と障害時保護/障害表示回路の実際例をご参照ください。(2003/08)

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● リレーを半導体回路に置き換えた監視・保護回路の例
 野田@愛媛さんから頂いた 6EJ7〜8B8/11BM8 超三結V1 アンブにおける、コンパレータ/SCR/フォトカップラの組み合わせによるバリエーション例〜リレー方式のシミュレーション回路図を下記に示します。
 動作電源電圧 Vcc=6.3V, L/R チャネルのカソード電圧監視ポイント TP1/TP2 はバイアス+嵩あげ抵抗 Rk のグランド側 470Ωから引き出しています。  保護回路図(4-2)  半導体回路によるカソード電圧の監視と障害時保護/障害表示回路の実際例をご参照ください。(2010/06)

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保護回路図(4-2)  半導体回路によるカソード電圧の監視と障害時保護/障害表示回路の実際例

● 動作電圧の異なるリレーの場合
 DC100V リレーの自己ホールドのための電源は B 電源からドロップさせていますが、DC 24V, 48V のリレーの場合は動作電流が大きくなる筈であり、従ってドロッパ抵抗の所要ワッテージが大きくなります。 
 別途に自己ホールド電源を用意できれば全く問題ありません。 また動作開始電圧と電流の関係が変わってきますから、後述の電流監視式の方が適切となるかもしれません。 いずれにしても工夫次第、使えない訳ではありません。

3.4.3 リレーによるカソード電流の監視「電流監視式」

 原理的には電圧監視式回路と同じですが、アンプ実機の回路に加える変更箇所がやや異なります。 
 電流監視式回路では、終段カソード電流をバイパスさせる並列抵抗を調整して、リレーの動作開始電流を調整します。 実機のカソード電流を利用して事前チェックできます。 正常動作カソード電流の20% 増位に設定します。 余裕がないと、動作点調整時にすぐリレーが動作してしまい不便です。 リレーコイルおよび並列のバイパス抵抗との合成に、更に残りの抵抗値を直列に加えて、所定の終段カソード抵抗値に合わせます。

 (1) 動作電圧電流が DC12V100mA など低圧大電流の DC リレーにて、出力管カソード電流の異常を監視します。 

 (2) 出力管の保護措置  →「3.2.2 リレーによるカソード電圧の監視」同様です。

 (3) 「自己ホールド」機能→「3.2.2 リレーによるカソード電圧の監視」同様です。

 (4) の「カソード電圧」は、カソード電流と読み替えます。

 (5) 自己ホールド機能  →「3.2.2 リレーによるカソード電圧の監視」同様です。

 (6) 故障発生表示灯の回路構成と動作 →「3.2.2 リレーによる・・・」同様です。

● リレーによる監視・保護回路の実際(電流監視式)
 原理的には電圧監視式と同じです。  リレー動作開始電流が出力管カソード電流より大きいと監視不能なので、50mA 程度のものを選びます。 DC12V のリレーならばヒーター回路の 6.3V の倍圧整流にて自己ホールド電源が構成できるので手軽で便利です。 半波整流は避けましょう(2004/02)。
 筆者の場合は初段管を 6AU6 にて構成した 6550/EL34 パラレル超三結 V1 アンプについて、DC12V 132Ω (90mA 動作) のリレーをカソード抵抗の一部として直列に接続しました。 このようにすると10% 程度カソード抵抗が大きくなる訳ですが、特に問題は起きません。 勿論、出力管の動作点は調整し直します。
 筆者が使用したリレーでは、実測の結果約 7V (53mA) にて動作を始めたので敏感すぎます。 そこで120Ω程度の抵抗をリレーコイルに並列接続し、動作開始を100mA 程度まで鈍くなるように調整しています。 敏感過ぎる場合、出力管の動作点調整の途中で少しオーバーすると直ちに過大電流発生!と検出して保護回路が動作してしまい、調整の邪魔になります。

 保護回路図(5) リレーによるカソード電流の監視をご参照ください。

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3.4.4 リレーの規格値と実動作条件

 前記のように、リレーの動作電圧規格については、表示値と実際動作の間に相当の開きがあります。 表示規格値はむしろ確実な動作を保証する条件値であると考えられます。 従って使用するリレーについては、実装する前に動作開始電圧等を予め実測し、それにしたがって回路構成しておく必要があります。
 例えば小型で動作電流の少ない DC12V リレーなら電圧監視式としての利用も可能でしょう。 また動作電流が 50mA 等大きいものは電流監視式にて利用できます。 もっと大きいものはカソード電流では引けない場合もあるので、使えない場合もあるかもしれません。 適宜工夫して戴きたく存じます。

3.4.5 自己ホールド電源について

 自己ホールド電源をヒーター回路から得る場合、半波整流は避けてください。 ブリッジ整流が望ましいです。 リップル吸収のキャパシタ容量が少なく、また電圧(電流)が足りないとリレーが唸るので、整流回路に十分な容量のキャパシタを並列にします。 
 自己ホールド電源を B電源からドロッパ経由にて供給する場合には、十分なワッテージ(五倍程度)を持つ抵抗器を、放熱を考慮して取り付けます。 自己ホールド状態にて発熱故障などを併発しては、信頼性の確保になりませんね。
 自己ホールド状態が簡単にリセットできてはまずいことは、前述の通りです。 また、自己ホールド電源が独立に on/off できることは好ましくありません。 主電源 SW を off にしないとリセットできないように設定すべきです。

3.4.6 リレー式監視・保護回路のコスト効果

 リレーによる監視・保護回路の追加に要するコストはL/R二系統にて \3,000 程度必要となります。 リレーをラグにマウントし取りつけるのが簡単ですが、他にリレー専用ソケット・・・写真参照・・・併用もできます。 それにしても廉価な出力管なみのコスト・アップにてアンプと出力管の損傷事故を防げるとなれば、ぜひ適用したいものです。

4 出力管保護の総括

 さて、超三結 V1 アンプの出力管保護方法を総括すると下記のようになります。 できるだけ有効な方法をお勧めしたいと思います。(2003/09)

(A) より無難な C/R 結合に回路変更し、改造して転進する (後退する ?)
 (A1) 超三結 V1 C/R 結合回路に、
 (A2) 超三結 V3 回路に、
 (A3) 準超三結 {Semi-STC} 〜P-G NFB 併用 カソフォロ・ドライブ回路に、
 (A4) またはその他の回路に。

(B) 直結の超三結 V1 アンプ回路にこだわる (死守する ?)
 (B1) 無改造の状態にて初段障害の目視発見と速やかな手動処置、でも限界が・・・

 (B2) 初段管ヒーター断線監視〜連動型出力管保護回路への改造による
  (B2.1) 初段管と出力管のヒーター直列構成====特定構成によるヒーターのフューズ機能
  (B2.2) 初段管と電圧帰還管を三極五極複合管で==特定構成によるフューズ機能の変形、
     または独立の初段管と電圧帰還管の組合せ=いずれも特殊にすぎるので、お勧めしない。
  (B2.3) リレーによる初段管ヒーター断線検出===一般化して構成の制限をフリーに・・・

 (B3) 出力管カソード電圧・電流監視〜真空管初段に限らず異常監視+出力管保護回路への改造による
  (B3.1) ツェナーダイオード(等)による疑似動作====不完全でも重大な事故は回避
  (B3.2) リレー(等)制御による監視・保護制御=====完璧さを求めてバッサリと・・

 より信頼性の高い、画期的な、ローコストな、色々なアイデアを実験された方が居られましたら「球アンプ分科会〜超3アンプ掲示板」等にご報告を戴きたく存じます。 その際にはご了承を頂ければ本文に書き加えて、さらに皆様の超三結 V1 アンプの一層の信頼性向上の御役に立ち、楽しんで戴きたいと考えています。(2010/06)

以上

改訂記録
2002/03:初版
2003/08:改訂第一版:「3.2.1 リレーによるカソード電圧の監視」文章および図面を追加他
2004/02:改訂第二版:「3.2 リレーによる出力管カソード電圧またはカソード電流の監視と保護」拡充、用語の整理他
2007/03:改訂第三版:文章整理、「4 出力管保護の総括」の修正他
2008/03:改訂第四版:「2 初段管ヒーター断線の自動検出と出力管の保護」三極五極管の利用上の注意追加
2010/06:改訂第五版:監視保護回路のバリェーション例追加、アンプの稼働モードの導入追加ほか