X-tal コンバータが利用されるに至った問題の発端は、スーパーヘテロダイン方式の局部発振周波数 (以下 Fosc) 安定度に依存する、高い周波数において受信周波数の安定度を確保する課題にあります。
一般に短波帯以上の周波数では、コイルとキャパシタを組み合わせた L/C 発振回路にて高い安定度を得るのが困難なため、より安定な水晶発振 (以下、X-tal osc.) 回路を活用してカバーします。 X-tal コンバータ(クリコン)は、高い受信周波数を安定な X-tal osc. にて周波数変換を行い、低い受信周波数では高い安定度の親受信機に附加して受信する方法であり、ダブルスーパー方式の一種を構成するものです。
1.1 L/C 発振回路の一般的不安定要素と対策概要
L/C 発振器の発振周波数の不安定要素について概要と対策を説明します。 L/C 発振では周波数が固定・可変に拘わらず、
◇ 熱的環境・・・・温度の変動 (日較差〜季節変動、空調、機器自体の動作発熱)、
◇ 電気的環境・・・制御・動作電圧の変動、回路構成および実装方法の不適
◇ 機械的環境・・・熱膨張〜物理サイズの変動、外力による歪み変形、振動
等が原因となって Fosc の安定度が損なわれます。 周波数可変ではさらに電気的には制御電圧の精度・安定度、機械的には可動部分ロック機構、耐振強度などが関係します。 対策の概要下記の通りです。
◇ 熱的環境 ・・・温度補償では、温度係数が+のLに対して、温度係数が−のCとの
組み合わせにて全体の温度係数ゼロになるように調整し、
・・・恒温槽では L/C を含む回路全体をオーブンに入れて周囲温度より高く
サーモスタットにて一定温度に暖めます。 エンジン同様に暖気運転が必要です。
◇ 電気的環境・・・定電圧電源にて変動を防止し、また回路ぉょび実装方法を改善します。
◇ 機械的環境・・・機械強度向上、振動対策等にて、変形を防止します。
一般にLの温度係数は、主に熱膨張による物理サイズの変化とかコア材の温度係数によるものです。 実は温度係数が非直線で厄介です。 言うまでもなく本件全般は試験発振機 (テストオッシレータ) および1-V-2 等のオートダイン受信機等にも適用されます。
1.2 方式固有の不安定要素1・・・連動する同調回路等に起因
スーパーヘテロダインの特徴である高周波回路要素に起因する不安定です。 高周波増幅段 (以下 RF amp.)〜周波数混合/周波数変換段 (以下 Freq mix./Freq conv. {注}) と同時に局部発振 (以下 Loc osc.) の周波数を可変とする連動バリコン〜トラッキング方式の受信機では、Loc osc. 周波数が、他段の同調 (Tuning) 状態によって影響されることがあります。
(1) たとえば、トラッキング調整中に RF amp./ Freq mix.-conv. の同調を取り直すと Loc osc. 周波数の変動につれて受信周波数 (以下 frcv) が動く現象があり、バリコンが抜けた大 L/C 比になるにつれ影響が大きく出ます。
(2) また例えば RF amp. の同調回路にアンテナ・コンペンセータを付属させ調整するとシッカリ同調はできるのですが、この現象が出て周波数読み取り精度が低下します。
これらの原因は、多連バリコンの各セクションの接地されたロータ (可変翼) が同一の導体=シャフトであること、それが原因となってどのようにアースラグからアースを取っても、多少なりとも Loc osc. 同調回路と他段の同調回路との混触が残ることらしいです。 これが原因でアンテナを変えても frcv に影響することがあります。 (ただし発振回路自体の欠陥 〜G3=K の配線によるでき損ない ECO 等〜 によるボティエフェクトやアンテナの揺れによる不安定は問題外です。)
対策としては、本格的な高級受信機では Loc osc. 回路のセクションだけロータを絶縁した連動バリコンや、同一仕様の独立バリコンを絶縁物で浮かせて発振回路に用い、他の連動バリコンとはプーリ連動として、上記影響から逃れた例があったと記憶しています。
筆者の試作実験では、たとえシャフト一体バリコンであっても、バリコンを入れた状態=すなわち 「L/C 比」が小ならば顕著には出ないから、バリコンに並列に固定キャパシタを入れて最小容量を大きくする=L/C 比を小に保つのが実用的解決でした。 この方法では下記のデメリットがあるけれど、安定度向上を優先させるにはやむを得ません。 本件はテストオッシレータおよびオートダイン受信機にも適用できます。
(A) L/C 比はあまり大きく取れない、従ってゲインはあまり稼げない、
(B) バリコンの最大〜最小容量比が 圧縮されて frcv 範囲が狭くなる、
(C) 疑似波長直線のバリコンでは、角度〜周波数の関係が崩れて高端が広がる。
{注}:周波数混合と周波数変換の機能区別について
一素子にて局部発振と周波数混合を一挙に行う場合を周波数変換と呼び、局部発振と周波数混合とを個別の素子にて行う場合は、各々を個別に機能にて呼びます。 例えば 3-3/3-5 極複合管等にて局部発振と周波数混合を行う場合は各々を機能別に呼びます。 以下本文のクリコンでは局部発振と周波数混合とを分離し、また Q5'er では周波数変換管を使用する前提にて記述します。 周波数変換専用管にて周波数混合を行ったり局部発振を行うこともありますが、そのような場合にはそれぞれを機能にて呼ぶことになります。
1.3 方式固有の不安定要素2・・・局部発振出力の注入方式に起因
Loc osc. 回路発振出力の Freq mix. 回路への注入方式、Freq mix. の真空管の電極間容量などによっても Loc osc. 周波数に影響が及びます。 もっとも手軽で調整しやすい Loc osc. のグリッドから Freq mix. のグリッドへ微小容量でリンクするグリッド注入方式では引っ込み現象が見られます。
これもトラッキング調整中に Freq mix. の同調を触ると Loc osc. 周波数 (Floc) → Frcv が動く現象です。 でも発振回路に微小容量で別の同調回路を接続するのでは、影響するなと言うのは土台無理な話です。
より影響の少ないミクサー回路としては、カソード注入、スクリーン注入、果てはサプレッサ注入などのが考案されるも、手軽さ・動作ゲインなどの点ではグリッド注入方式にはかないません。
さらに影響を防止するため、バッファ的動作要素を取り入れた ECO 回路、またはカソード・フォロワ・バッファ付き等が考案され、高級機の一例では Loc osc. 回路をバッファ付きとしたカソード注入方式のカソード結合型・・・すなわち差動ミキサーも現れました。 その後半導体時代に入ってからは、初期のディスクリート Tr/FET による真空管回路に準じる方式から、差動ミキサー、バランスド・モジュレータ、DBM に発展しました。
1.4 L/C 発振回路の安定化対策・・・連動を諦め、隔離策をとる
一方、後述の固定第一 Loc osc. 周波〜可変中間周波 (以後、可変 IF) 構成としたダブルスーパー方式では、 Loc osc. 回路とそのバッファを隔離・独立した所謂 VFO (可変周波数発振器) にして、外部からの回路的な影響と、機械強度の問題を切り放しました。 また Fosc 範囲を限定でき温度補償・電圧安定化も容易となり、安定度が向上して既製品のアマ局むけレシーバ/トランシーバの大勢はこの方式に傾きました。
但し、一部のメカを使って解決した軍用〜業務用の超高級機を除き、オペレータが VFO の同調のほかに RF amp. 〜 Freq mix. 段の同調を取り直す・・・二段の同調操作を迫られる・・・これは明らかにスペック・ダウンです。 バンドは固定として周波数変更は狭い範囲に限った運用モードなら主同調操作だけですむので我慢できましょう。 しかしコンテストなどで、コンディションに応じてアッチコッチのバンドを頻繁に渡り歩き、上から下またはに下から上に掻き回す場合、バンド変更は繁雑で時間を要しました。
それが最近の一部機器ではプリセットのアンテナチューナを含めてメモリーが付いていて、ボタン一個で直ちに前のバンドと周波数に移れる・・・何も知らずにボタンを押すだけの操作・・・絶句。
1.5 妥協点、X-tal と osc. 回路、方式の選択
◆ 妥協点
アマチュアが自作する L/C 発振回路にて周波数変動を 0.01%程度の安定度・・・1MHz にて 100Hz 程度の変動・・・に抑えるのはかなり難儀です。 しかも周波数安定度はダイアル読み取り精度にも関係し、細かく読めれば誤差もますます目に付き、更にバリコンと周波数直線ダイアルとの関係もあって、ディジタル化とディジタル表示以前では機械系+電気系両面からの課題でした。
標準放送帯の AM を受信する限りでは上記の誤差は許容範囲内ですが、Frcv が高くなれば変動の絶対値は当然比例して大きくなり、同じ 0.01%ならば 10MHz にて1kHz の変動に相当し、狹帯域の CW (電信) フィルタ併用の受信では「信号の行方不明」は必至、常時ダイアルから手が放せない状態に、さらに高い Frcv では・・・
所が固定周波数の発振回路とするならば X-tal osc. (回路) が特段の温度、電圧、機械強度対策なしで使え、同条件下の L/C 発振回路にくらべて二桁近くも安定度が改善されます。
◆ X-tal と osc. 回路
肝心の X-tal そのもの、および X-tal osc. (回路) を説明していませんでした。 X-tal は水晶 (二酸化ケイ素の結晶) を加工して機械的な共振子とし電極をとりつけたものです。 これに励振を加えれば、電気機械変換〜X-tal〜機械電気変換にて固有の周波数に共振し発振回路が構成でき、また共振周波数以外を減衰させるフィルタとして使えます。 水晶の温度変化に伴う伸縮が少なく=温度系数が小さいため Fosc が安定な発振器が作れます。 水晶発振器=X-tal osc. では一個の X-tal で一周波数を発振しますが、フィルタでは複数構成にて所要帯域幅を持たせます。 類似のものとしてはセラミック共振子等があります。 詳しくは教科書をご参照ください。
◆ 方式の選択
そこで短波帯以上の受信機では、同じスーパーヘテロダイン方式であっても、
(1) 可変第一 Loc osc. 方式 (可変第一局発方式)
周波数可変の L/C 発振回路および Freq mix. 回路にて、可変の Frcv から直ちに固定周波数の
IF を得る所謂シングルスーパー方式よりも、
(2) 固定第一 Loc osc. 方式 (固定第一局発方式)
周波数固定の X-tal osc. および周波数可変の Freq mix. 回路にて、Frcv を、
一旦低い安定な可変 IF に落としてのち、シングルスーパー方式 (相当) で受信する
固定第一 Loc osc. ダブルスーパー方式が、はるかに安定に受信できます。
・・・所謂コリンズ・タイプのダブル・コンバージョン (構成) ですが、
・・・一旦高い固定中間周波数に落とし、再度低い中間周波数に落す構成例もあり、
・・・筆者は、第一 Loc osc. の固定/可変にて明確に定義することにしています。
1.6 周波数構成との関係・・・不可避的なスプリアス問題。
そのような訳でシングルスーパー(および選択度確保のため低い第二 IF 周波数に落とす固定第二 Loc osc. ダブルスーパー方式)では、安定化は実現しないのです。
安定度の課題からは外れますが、安定化したために発生する副作用も含めて、スーパーヘテロダイン方式に特有のイメージ信号などのスプリアス (sprious: 形容詞、偽の) 信号が方式共通にて課題となります。 ダブルスーパー方式ではスプリアス信号は複雑さを増します。 事前の周波数構成の検討、IF 周波数等の決定、スプリアス発生の抑制・排除策が必要となります。
◆ イメージ信号: Frcv と Loc osc. 周波数 (以下 flo) の差から中間周波数 (以下 fi) を得る際に、 RF amp. 〜 Freq mix. での選択度が不足している場合、2fi 離れたイメージ信号の周波数 fimg が混入することを言います。 一般に RF amp. 〜 Freq mix. の選択度は飛躍的に上げられないので fi を大きくとり、fimg を減衰させ易い上側ヘテロダイン (flo > frcv) にて対応するしかありません。 シングル・ダブル共通課題です。 なおワドレーループ方式やシンセサイザ方式の受信機では高い fi=70MHz 等に一旦持ち上げて解決しています。
◆ 混変調:分離が悪い RF amp. 〜 Freq mix. の同調回路では fi 離れた二信号が Freq mix. 管の非直線性により fi を作るケースもあり、これもイメージ信号と同様に RF amp. 〜 Freq mix. の選択度は飛躍的に上げられないので、fi を高くとって抑制するしかありません。 混変調は Loc osc. を止めて同調ダイアルを端から端に回せば判明しますが、BFO off = A3 モードなのに同調時にビートを伴う場合は、確実に混変調と受信 IF とのビートです。 シングル・ダブル共通課題です。 なお前述の通りワドレーループ方式やシンセサイザ方式の受信機では高い fi=70MHz 等に一旦持ち上げて解決しています。
◆ その他のスプリアス:さらに第二 Loc osc. の高調波混入・・・VFO 高調波の受信バンドへの混入・・・例えば 5,500kHz ↓(チューニング・ダウン) の VFO を使用するレシーバ/トランシーバでは 200kHz の読み位置での 5,300kHz の四倍高調波が 21MHz バンドの 21,200kHz にバッチリ混入して周波数マーカ代わり? になりました。 このようなスプリアスは、ダブルスーパーだけでなくワドレーループ方式でも類似の問題が残ります。
◆ まとめ:この他に BFO/SSB 復調に注入する搬送波 (キャリア) の高調波の混入、可変・固定 IF に拘わらず fi への外来電波の飛び込みもあります。 周波数構成の事前検討とシールド、トラップの挿入等で防止・軽減しますが、実際にはコスト等も考慮した、カネアイの周波数構成および実装方法となります。 方式共通の課題です。
1.7 固定第一 Loc osc. ダブルスーパー→クリコン
X-tal コンバータ (クリコン) は、固定第一 Loc osc. ダブルスーパーの Frcv を一旦低い可変 IF に落とす部分に相当します。 これをアンテナと親受信機の間に挿入すれば、親受信機を可変第一 IF 以後の全機能と看做した固定第一 Loc osc. ダブルスーパー方式が構成されます。 クリコンの RF amp. にてゲインを確保し、クリコンが生成する高い周波数の可変第一 IF にてイメージ信号を排除します。 クリコンと親受信機とが連携するように同一シャーシに組み込めば、固定第一 Loc osc. ダブルスーパー受信機そのものです。
1.8 IF フィルタの発達と周波数構成との関連
曾ての無線通信機メーカー製の受信機では、455kHz 前後の IF によるシングルスーパー形式が主流でした。 それが、ある時期から一斉にダブルスーパーに移行し、また各種の周波数、帯域幅 (CW=電信、SSB=単側波帯、FM=周波数変調、等) の IF フィルタが開発されるに従い、455kHz の第一 IF のものは姿を消しました。
とって代わったのが L/C によるMHz オーダーの可変第一 IF で、イメージ信号を排除し、さらに MHz オーダーの固定第二 IF にて必要な帯域に絞ったフィルタにて選択度を確保する固定第一 Loc osc. ダブルスーパーです。 これが一般化し、さらに多様な帯域幅に対応するための 455kHz の第三 IF フィルタを装備する高級受信機も見られました。
アマチュア無線用などの受信バンドが限定された専用機では、可変第一 IF を厳密に同調せず、バンドパス・フィルタ=通過帯域型とし、VFO (可変周波数発振器) のみにて固定の第二 IF に同調する例がありますが、イメージ信号の排除は十分機能しており、運用時の調整箇所を減らすと同時にトランシーバとして色々な回路要素を送受信兼用とするにも好都合です。
1.9 PRE-MIX 方式も固定第一 Loc osc. ダブルスーパーが基礎
とはいえ、シングルスーパー形式が全く廃れた訳ではなく、固定第一 Loc osc. ダブルスーパーの変形に相当する、PRE-MIX という方式が考案され、実用化されました。 その構成概要は・・・
PRE-MIX 方式では高く設定した fi、高く設定した X-tal osc. および VFO の周波数 fvfo を事前に混合させ、
得られる差信号 fx - fvfo だけを選択し、通り抜けとか和信号などのスプリアスを極力取り除いて、
fx - fvfo = frcv + fi となる特定の Loc osc. 周波数にて上側ヘテロダインとすることにより
イメージ信号 fimg = frcv + 2fi をより高く追いやって減少させる・・・、
言い替えれば Frcv バンド毎に fx を選択して疑似的専用 VFO = (fx - fvfo) を用意する、一見シングルスーパー構成のものです。
PRE-MIX 方式では Frcv から以後の Freq conv. は一回で済み、 Freq conv. にともなうノイズ発生が少ない反面、PRE-MIX にて変換・合成された Loc osc. には、その Freq conv. 過程で発生したノイズ成分が含まれるので、結果的には固定第一 Loc osc. ダブルスーパーと互角かもしれません。
この形式も、実際にはイメージ信号を排除しやすい fi = 10MHz 前後の IF フィルタが開発されて発展したものです。 ぜひコピー製作・評価して見たい形式の周波数構成です。
1.10 シンセサイザの時代
このように複雑な周波数構成および厳しい読み取り精度によった従来方式の受信機の構成も、初期には旅館の冷蔵庫位に大型になった管球式シンセサイザ・・・勿論初の実用機は軍用・・・にて解決しました。
先行して考案された 1MHz 単位のバンド分割を安定に実現したワドレーループ方式は、シンセサイザの発展途上の方式であり、シンセサイザの主流に属するものと考えられます。
一方、受信信号の処理形態としては、Simple is best のシングルスーパー形式を貫いた PRE-MIX 方式に原形がみられます。 すなわち、あたかも 「PRE-MIX ユニット」を高度化させてシンセサイザに置き換えれば「シンセサイザ方式」源流と看做され、主流に属するものと考えられます。 従って一世を風靡した固定第一 Loc osc. ダブルスーパー形式はあくまでも実用的な解決法に特化したものであり、今や発展形態的には支流であったと考えられます。
その後シンセサイザはソリッドステート化され、更に逐次 IC 化が進んで、業務用機器やアマチュア無線用トランシーバ等はもとより、ポケットサイズの全波ポータプル受信機にまで採用され、すでに10年以上経過、携帯電話にも応用されています。 筆者も全波受信機を正確な周波数計として利用するなど、その恩恵にあずかっています。
以下、クリコンの運用・操作法と構造・製作を混ぜて記述します。 例によって電源の回路図と部品表はありません。 追試験される方はご容赦の程を。 また部品等の配置は写真にて示した通りです。
2.2 使用球
最初に製作したクリコンは 6BZ6 (RF amp.) - 6CB6 (Freq mix.) - 6J6 (ピアス P-G X-tal osc. およびバッファ兼ダブラー/トリプラー) の構成でした。 RF amp. は 6BA6 でもよく、 Freq mix. は 6AU6/6AH6/6AK5 等も使えます。 その後 6EH7 - 6EJ7 - 12AT7 に変更して結果がよく、今回はそれを踏襲しました。 また 6EH7/6EJ7 の何れも同一ピン接続の 6BX6 にて差し替え可能です。
クリコンの回路図を下記に示します。 但しこの回路図にはローバンド・コイルとその切り替え部分は省略しました。 また部品等の配置は写真にて示した通りです。
3.2 周波数構成その 1−−親受信機の Frcv 範囲
何故親受信機の Frcv 範囲を 4MHz 辺りにしたか・・・の理由です。
(1) クリコンのイメージ・レシオ限界
折角のクリコンがイメージ信号を派手に発生しては目的が危うくなります。 RF
amp. 一段のスーパーヘテロダインにて fi が Frcv の 1/5 程度までが限度、4MHz
の IF では 20MHz 位までが目一杯です。
(2) 親受信機のイメージ・レシオ限界
親受信機が 455kHz IF による RF amp. 付きシングルスーパーでは、4MHz の受信は上記の「1/5 程度が限度」よりも悪条件です。 実例として RF1/IF2 の親受信機単体では、夜間に強力に入感する日本短波放送 (NSB) の 3925/3945kHz 二波が RF amp. 〜 Freq mix. の二つの同調回路を通って来ても、親受信機をフルゲインにすると 2fi = 455kHzx2 = 910kHz 下の 3015/3035 kHz にてそれらのイメージ信号がかなり強力に混入します。
但し、このような状態が如何なる Frcv でも必ず発生するものではありませんが、その可能性があり対策が必要です。 例えば RF amp. の同調回路を二重にすればさらに改善できるかも知れませんが、飛躍的とは言えませんし、同一規格のバリコン連動等も課題となります。
(3) カネアイの結論
親受信機の Frcv を下げればクリコンのイメージ信号比が低下し、あげると親受信機のイメージ信号排除力と安定度が低下するので、カネアイによって最適な Frcv を決めるしかありません。 上記の (1) および (2) は実験や実測に基づく条件値例ですが、これらを勘案すると親受信機の Frcv の結論は 4MHz 程度となりました。 一方、親受信機の機械的安定度限界が 4MHz 程度と見ると、この周波数あたりが最適との結論に到ります。
そこで、クリコン局発用として秋葉原の店頭に並ぶ既製品の X-tal でキリの良い MHz 単位の、 Frcv +4MHz に相当する X-tal を買い集めました。
3.3 周波数構成その 2−−各 Frcv バンド
以下、各 Frcv バンド宛の Loc osc. 用 X-tal の周波数は、頭に(x=) を付して関係を示します。 なお筆者の試作例では五接点のロータリー・スイッチなので、下記の 7 バンド中の◇印 2 バンドは実装してありませんが、すでに上下ともに動作確認すみであり、七接点のものに拡張する場合は出力同調の調整にて OK の筈です。
ハイバンド
◆ 14MHz↑(より上) は x=18MHz との差 4MHz↓(より下) にて受信します。
◇ 18.068MHz(100kHz)↑は x=22MHz との差、3.932MHz↓にて受信します。
◆ 21MHz↑は x=25MHz との差 4MHz↓にて受信します。
◆ 24.89MHz(100kHz)↑は x=21MHz との差 3.89MHz↑これだけは逆にて受信します。
(x=29MHz との差 4.12MHz↓も可能ですが、範囲前提から外れます。)
◆ 28MHz↑は x=32MHz との差 4MHz↓にて「部分的」に受信します。
ローバンドを追加するならば
◆ 7MHz↑の信号は x=11MHz との差 4MHz↓にて受信します。
◇ 10.1MHz(50kHz)↑の信号は x=14MHz との差 3.9MHz↓にて受信します。
これらの水晶振動子は二回路 n 接点 (n は Loc osc. 周波数の数) のロータリー・スイッチの一回路にて切り替え、連動する他の一回路にてバッファ兼ダブラー/トリプラーのプレート負荷である出力同調回路のキャバシタのみをロータリー・スイッチの他の一回路にて同時に切り替えます。
各々の Fosc については、11/14/18MHz は X-tal の基本周波数そのままので問題ありません。 または5.5/7/9MHz 等をバッファ兼ダブラー/トリプラーにて二逓倍しても問題ありません。 21/22/25/32MHz は、3rd オーバートーンですが、11/14/18MHz と同一のピアース P-G 回路では、基本波の1/3のさらに 5KHz 以内程度↓で発振したけれど、実用上は問題ないのでそのままバッファ兼ダブラー/トリプラーで三逓倍します。 22MHz は11MHz の二逓倍でも兼用できます。
(1) 親受信機の設定
予め親受信機を 4MHz に同調しておきます。
スポット Freq Osc. か 1MHz のX-tal osc. にて 4MHz をキャリブレすると便利です。
(2) Loc osc. 周波数の設定
Frcv に対応する Loc osc. 周波数をロータリ・スイッチにて選択します。
(3) RF amp. / Freq mix. の同調
同調バリコン・ツマミを回転して Frcv に同調すると、親受信機から受信信号および
雑音が出て、Frcv への同調が検出できます。
判らない場合はテストオッシレータまたはディップメータで確認します。
ローバンドを受信する場合、コイル選択スイッチ on にて切り替えます。
(4) Frcv バンドの受信
親受信機にて起点から下向き同調 (↓) 、一部は上向き同調 (↑) にて、所定の Frcv バンドを
スキャン (かき回し) できます。 必要に応じクリコン側を再同調します。
SSB 受信の場合は LSB/USB の関係が変わるので、各組み合わせに対して設定表等で整理します。
(筆者は殆ど CW 受信だけで、SSB 受信は考えていませんでした。)
5.1 RF コイルの自作
(1) ハイバンドの RF amp. コイル〜 Freq mix. コイル
0.6mm 単線の被覆線を引っぱってマッスグに伸ばし、直径 15mm の「マジックインキ」の筒を利用して自立空芯の 8T (8回密着巻き、以下全て密着巻きです。) とし、430pF のバリコンに接続してバリコンを端から端まで回してディップメータで同調範囲をチェックすると 11-36MHz 位をカバーしています。 この状態にて実機に着装すれば、トラッキング用トリマー、真空管入力容量、配線のストレー容量が加わって 10-32MHz 位となり、ハイバンドは確実にカバーできます。
RF amp. コイルはコイル間の誘導を主にするため、8T の同調コイルのグリッド側 (G) と 4T のアンテナ・コイルのアンテナ側 (A) が反対になるように、ミニラグ上にならべてハンダ付けします。
Freq mix. コイルも同様にコイル間の誘導を主にするため、8T の同調コイルのアース側に、少し直径の大きい
5T のプレート・コイルを被せるようにして、同調コイルのグリッド側 (G) と RF amp. のプレート側 (P) が反対になるようにミニラグ上にハンダ付けします。
RF amp. コイル〜 Freq mix. コイルはできるだけ離して、接続する真空管のソケット近傍のシャーシにビス止めします。
(2) ローバンドの RF amp. コイル〜 Freq mix. コイル
直径 15mm 程度のブラスティック筒 (ボビン) に 0.4mm 程度のホルマル線を同調コイルには 20T 前後 (要調整) 巻き、そのアース側に 6T のアンテナ・コイルのアース側を突き合わせて 2mm 程度離して巻き、何れも接着剤で固定し巻き始めと巻き終り、それぞれから数 cm のリード線を残します。 これを二個作ります。
いずれのコイルも、シャーシ内に取り付け固定できるよう、適宜ラグ板に取り付け、リード線を用意するなど、予め配線の準備をします。 なお、筆者はローバンドのコイルにはトリオ製の SB(3.5-10MHz) コイルを利用しました。
(3) バッファ兼ダブラー/トリプラー出力同調コイル
全周波数共通の直径 15mm 程度の 10T コイルをミニラグにハンダ付けし、シャーシにビス止めします。
5.2 ローバンドへの切り替え
ローバンドをカバーし受信する場合は、コイル選択スイッチにてリレーを動作させ、
RF amp. / Freq mix. のコイルをローバンド用に切り替えます。 切り替えリレーには、オムロン
RZ-12 小型二回路二接点 12VDC 仕様を使いました。 RF amp. / Freq
mix. に各一個、発振を避けるため離して、それぞれのグリッド・・・ソケットの近くに取り付けます。
◆ Normaly Open 接点 :リレー動作時の接続接点を 7/10MHz 用とし、
◆ Normaly Closed 接点:リレー非動作時の接続接点を 14-28MHz 用とします。
切り替える回路は下記です。
(1) RF amp. コイルのアンテナ入力・・・・・・・・・リレー1-1
(2) RF amp. コイルの同調ホット側・・・・・・・・・リレー1-2
(3) Freq mix. コイルの RF amp. プレート回路・・・ リレー2-1
(4) Freq mix. コイルの同調ホット側・・・・・・・・リレー2-2
リレー電源には 6.3V ヒーター電源を Si ダイオードにて半波整流し約 9V を得、適当なキャパシタを並列にし、スイッチにてヒーター電源の片側を on/off しましたが、二個のリレーは同時に確実に動作します。 但しリレー動作を確実にするため、両波整流またはブリッジ整流にしたいところです。
但しリレー電源回路が RF amp. 〜 Freq mix. 間の結合回路を構成し発振するので、たとえ別の場所で直流的に片方が落としてあっても、リレー1の+−両側ともに 0.05μF 程度のキャパシタにて RF amp. のアースに落とします。
実は信号経路の切り替えリレー実装は始めての経験でした。 従来バンド切り替え等の都度接点が磨かれるロータリースイッチに限るものと考え、リレーによる長期稼働の経験がありませんので随時フォローする予定です。
5.3 Loc osc. バッファ兼ダブラー/トリプラー出力の同調と Freq mix. の動作
バッファ兼ダブラー/トリプラーでは、X-tal の基本周波数を利用するのか二逓倍か三逓倍かを、同調して選択しなければなりません。 バリコンとコイルを接続し、ディップメータで求めた共振周波数とバリコンの最大容量から算定した全 Fosc 共通コイルのインダクタンスL値をもとに、所要のキャパシタンスCを算出します。
少なくてすむ高い周波数では 50pF のセラミック・トリマーのみ、低い方では 50pF-100pF 位の適宜のCをトリマーに並列に抱かせます。 調整時にトリマーの調整範囲に収まらない場合は、並列の固定キャパシタを加減したり、トリマーの容量を再検討します。 筆者の場合は、予め計算した固定キャパシタ+トリマーにて全て同調できました。
一つのコイルおよび各周波数毎のキャパシタ切り替えにて全ての周波数をカバーしたため、楽に発振できる低い周波数側では L/C 比が小さくなり、同調インピーダンスが低くゲインが抑えられ、減衰しやすい高い周波数では
L/C 比が大となり、出力とのバランスがうまくとれたようです。
Freq mix. へのグリッド注入法による Loc osc. 入力レベルの調整・・・実際は微小のカップリング・キャパシタ、それもビニール線に単線を 1cm の幅で絡ませた数 pF 相当のもの・・・は全 Fosc 共通で調整不要でした。
5.4 Freq mix. の負荷および親受信機との接続方法
Freq mix. のプレート負荷は同調トランスとします。 ローLハイCの組み合わせではゲインが落ちるとともに通過帯域幅が狭く100kHz も動けば同調操作が必要になり繁雑なので、ハイLローCの鈍い固定同調にて、帯域の中央あたりに置き、上下の離調には目をつぶります。
目見当として50μH のインダクターと 30pF のトリマー調整でほぼ (多分若干調整要)
同調します。 ローインピーダンス出力のリンク・コイルは巻数にして1/5 程度でしょう。 同調コイルのコールド側に背中合わせで巻きます。 筆者は FCZ の シールドケース入り 3R5 コイルに所定より少なめの 100pF 固定キャパシタと100pF トリマーキャパシタにて 3.9MHz 辺りに同調しました。
クリコンからの出力コネクタは RCA ピンジャックで代用し、長さ 50cm の 5DFV 同軸ケープルにて親受信機に接続しました。
RF amp. / Freq mix. の同調バリコンは、つまみにて直接シャフトを回しています。 あまりシャープではないので問題はありませんが、バーニア・ダイアルにより各受信バンドの同調位置が判った方が操作しやすい筈です。
最も心配していた、親受信機での日本短波放送 (NSB) の強力な 3.925MHz/3.945MHz が、各バンドの受信時に 4MHz↓(より下) へスキャンしていく際に 55KHz/75kHz 相当の周波数で飛び込むのではという懸念は、クリコンのシャーシを密閉したためか、殆ど感知できない位に減衰しておりホッとしました。