五球スーパーの製作

1997/06/18〜2003/10/31 (rev3) 宇多 弘

始めに

 前回の「並三の製作」に引き続き、今回は五球スーパーの製作に挑戦しましょう。
 五球スーパーの製作に先だっては、回路方式、回路構成、高周波増幅回路、発信回路などの基礎固めがある程度必要になります。
 五球スーパーの製作では、各種測定機が完備していないと調整ができないとお考えの方も居られるかもしれませんが、実用的に差し支え無いレベルまでならば、テスターと並三/並四ラジオ、すこし精度の高い中波放送用受信機できれば全波受信機、各一台と少々の部品があれば何とかなります。
 少し難しくなるけど、前説はサッと読んで、製作に入り戻るもよし、ジックリやって遠回りするもよし、皆様のペース次第です。


1 スーパー方式概史

 スーパーヘテロダイン方式そのもの開発の歴史はずっと古く、初期の電池管、それも三極管しかない真空管の実用化直後の時代に既に考案され、実用化されつつありました。
 「並三の製作」の解説にて触れたように、日本でスーパーヘテロダイン方式が普及したのは第二次大戦後 1950 年代でした。勿論それ以前にも、業務用・軍用に製造され、また限定的な家庭用ラジオ製品として少数ながら製造・販売されていました。 欧米ではメタル管およびミニチュア管の製造が開始された 1930 年代後半から製造・販売されました。
 放送と受信機の歴史の詳細は「ヴィンテージラジオ物語」(誠文堂新光社)等を参照していただくこととして、ここでは原理の説明の便宜上、前回シリーズの並三ラジオを含むオートダイン方式、およびヘテロダイン方式等の古典回路を引用して、回路機能の説明に供します。

1.1 ヘテロダイン方式

 ご存じの通り、初期の真空管は電池式の三極管しかありませんでした。 これによる高周波増幅は発振を起こしやすく、それを可変の受信周波数全体にわたって安定に制御し、且つゲインを稼ぐことは大変な技術課題でありました。
 ストレート方式での三極管による高周波増幅〜再生検波よりも、更に十分な受信機の三大要素である感度・選択度・安定度を得るため、各種回路の試作等模索が続けられました。

 そこで、ヘテロダイン方式という回路が考案されました。発明者は、中波のオートダイン受信機の応用で、検波管の発振周波数と受信数周波数の差(ビート)を増幅すれば安定した増幅ができ、三大要素を満たすことができるとの発想でした。

 すなわち、再生検波管のプレート回路には音声信号トランスではなく、例えば 50kHz 位のビート周波数を通過させる「中間周波」(これをヘテロダイン周波数という呼び方がありました)トランス (IFT=Intermediate Frequency Transformer) を挿入し、以後何段かの安定な「中間周波増幅」を行った後に二度目の検波を行い、音声信号を得るものです。

 低い固定周波数の中間周波増幅ならば、三極管でも楽に安定で高いゲインと選択度が実現できました。 なお、中間周波増幅を含む高周波増幅回路については、後に細述します。

 ヘテロダイン方式では、検波段の同調コイルの共振周波数は、再生検波の発振周波数にセットされており、アンテナからの受信信号は中間周波数だけ「離調」した状態で動作するわけです。  したがって、中波において 50kHz 位の離調状態によるゲイン低下 (15 db 位か) を我慢すれば、三極管単球でこのような「混合回路」と「発振回路」から構成される「周波数変換回路」が実現できました。  ヘテロダイン方式の同調操作は従って、再生検波の発振周波数を可変とすれば、中間周波数だけズレた周波数の信号が受信できることになります。

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 オートダイン (Autodyne) とは「自力」の意味で、一つの回路で発振と受信周波数とを混合する発想ですが、一方ヘテロダイン (Heterodyne) とは他力の意味で、他の周波数のお世話になるとの意味と理解されます。  低価格の真空管式 FM チューナの周波数変換回路は、古くて新しい実に 6AQ8 の1ユニットによるヘテロダイン方式で構成されていました。但し、発振強度と受信信号強度とのバランス等を考慮した適正な動作点にセットする必要があり、広い周波数範囲の安定動作は難しいものです。  FM では、周波数の上下比が 76 MHz〜90 MHz (日本) または 88 MHz〜108 MHz (欧米) と小幅なので中波の周波数変換回路よりも遥かに容易でした。

1.2 スーパーヘテロダイン方式

 上記の、ゲイン低下の原因となる離調の課題を解決するには、発振用の共振回路と受信同調用の共振回路を分離するしか方法がありません。三極管一本でこれを実現するのは困難なので、実際にはヘテロダイン方式の検波回路と発振回路を、球も含めて別組みで機能分担させ、離調の課題を解決しました。これがアームストロングと言う人が考案したスーパーヘテロダイン方式です。

 検波回路の動作は、むしろ検波というより、一つのグリッドに受信信号と発振信号を入力し、やや深いバイアスによる検波管の非直線性の強い部分を利用して、受信信号と発振信号の和または差を得る「周波数混合」の機能です。この回路は、音声信号をとり出す目的の検波回路とは区別して「混合回路」詳しくは「周波数混合回路」と言います。

 この回路の動作時には混合管のプレートに、受信信号、発振信号、和信号、差信号の周波数が現われますが、そのうち一般に差信号だけを中間周波トランスにて選択します。  中間周波増幅以後の構成はヘテロダイン方式と同じです。 一方、発振回路は、混合回路に対して受信信号より中間周波だけ離れた周波数をもつ発振信号を供給する回路です。  構成は再生検波回路と同じものですが、外部からの信号は貰わず、無変調の発振回路のみ、または外部への接続による影響を取り除く緩衝増幅を含む回路にて構成され「局部発振回路」と呼ばれます。  「混合回路」および「局部発振回路」をセットにして、「周波数変換回路」と呼ぶのが一般的です。

 混合回路を、後の音声信号を得る「第二検波回路」との対比において「第一検波回路」という場合があります。しかし、業務用等の高性能受信機では二度の周波数変換を行なうダブル・スーパー、三度の周波数変換を行なうトリプル・スーパーなどの構成もあります。 それぞれの混合回路または周波数変換回路に対しては第n混合回路、第n周波数変換回路と呼び、音声信号をとり出す目的の最終の検波回路を単に検波回路とする方が、混乱防止の観点からも好都合です。

 ヘテロダイン方式では選局操作が1ダイアルで済んだのに引き替え、スーパーヘテロダイン方式の同調操作は、混合回路への入力信号の同調調整と局部発振回路の発振周波数調整の、異なる周波数のダイアル2個を操作する必要があります。  まず局部発振を受信周波数+中間周波数に設定して、次に混合回路の同調を受信周波数に設定します。

 後になって、「二連バリコン」(並三ラジオの製作にてご紹介した)を利用して、バリコンのどの設定角度に対しても、常時二つの周波数の関係が保たれる様な、調整可能なLとCの組み合わせによる「トラッキング調整」方式が開発され、同調操作を1ダイアルとする「ワン・コントロール方式」が可能となりました。

 スーパーヘテロダイン方式の操作性のイノチは上記のトラッキング調整によって支えられると言えるでしょう。

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2 高周波増幅回路について

 これまでに、発振、検波、周波数混合等の回路の概要を説明してきました。  低周波または音声信号周波の電圧増幅回路および電力増幅回路、電源回路は、オーディオアンプを設計製作される皆様には改めて説明するまでもありませんので省略します。  上記以外に説明が残っていた回路要素として、高周波増幅回路が挙げられます。  高周波増幅回路は、10 kHz のVLF 超長波から、通信衛星による中継の ギガ(10**9) Hz のように極めて波長の短い高周波信号のそのまま増幅する回路であり、1-V-1 等ストレート方式にも適用されます。

2.1 高周波増幅回路の応用

 高周波増幅と言う名称には、二つの意味があります。

◇広義の高周波増幅:
 あらゆる高周波増幅の総称です。 これにはヘテロダイン方式で出てきた中間周波増幅、および下記の狭義の高周波増幅が含まれます。

◇狭義の高周波増幅:
 受信信号周波数のまま増幅する場合が該当します。1-V-1 の高周波増幅段はこれに相当します。 この名称は明らかにストレート方式時代の命名法を引きずっています。 本当は「無線周波増幅」という別名で区別するのが正解です。  スーパー方式でも周波数変換回路の前に無線周波増幅回路を置く場合があります。

2.2 高周波増幅回路の要件

 高周波増幅回路の要件は、

◇入力と出力のインピーダンス整合、
◇発振の防止、
◇ゲイン調整の方法、

 と言う三点でしょう。 これらが揃わないと正常な増幅ができません。

 高周波増幅用真空管素子としては、「表1 高周波増幅用真空管素子と回路」に示すように、三極管によるものと四/五極管によるものがありますが、五極管のカソード接地 (プレート負荷) 回路がゲインおよび回路構成の簡単さにおいて主流で、殆どがこれです。 三極管1ユニットによる増幅回路では普通のカソード接地回路も使えますが、それ以外にグリッド接地方式があり、その変形にて2ユニットを合成して使う、カスコード接続、カソード結合等の変形回路があります。

 三極管1ユニットだけの増幅では、プレートに現われた出力がプレート〜グリッド間の静電容量によって直ちにグリッドに入力され、発振を起こします。 そこで中和回路というブリッジによるプレート〜グリッド間容量りの打ち消し回路にて発振を防止します。 但し広い周波数範囲をカバーするのはバリコンの容量変化がブリッジのバランスを崩すため困難です。

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表1 高周波増幅用真空管素子と回路
   
四/五極管
三極管
カソード接地回路
◎:ラジオは殆どがこれ△:FM チューナ以外では殆ど見ない
グリッド接地
X:送信機の終段例あり ○:テレビのフロントエンドの後段、専用管としては 6J4 のみ
カスコード接続
○:テレビのフロントエンドの例 (6AK5-6J4) あり ○:テレビのフロントエンドの例 (6BQ7) あり  
カソード結合
X:まれに発信回路、混合回路として

2.2.1入力インピーダンス整合  

 通常の五極管カソード接地回路は、短波帯の 20MHz 辺りまでは、グリッド入力インピーダンスは無限大として高インピーダンスの入力が可能です。 通常はLCから構成される同調回路の両端をそれぞれグリット、接地に接続します。  これより高い周波数の場合、グリッドの入力容量の影響により、同調回路からの入力電圧がグリッドの入力容量とで分圧されるため、充分にグリッドに入力されない状態が起きます。 これを避けるには同調回路のLを適宜タップダウンして、グリッドに入力します。 三極管によるカソード接地回路でも、五極管とほぼ同じ条件です。  上記は同調増幅回路 (Tuned Amplifier) です。 高周波チョークなどをグリッドにいれた 非同調増幅回路 (Untuned Amplifier ) 、同調幅を広くとった広帯域増幅回路などの例がありますが省略します。

2.2.2 出力インピーダンス整合

 通常の五極管カソード接地回路では、短波帯の 20MHz 当たりまでは、プレート出力インピーダンスはかなり高いので高インピーダンスの負荷が可能です。 通常はLCから構成される同調回路の両端をそれぞれプレート、接地に接続し、これを次段の入力とします。  発振など動作不安定になる場合は、Lの途中からタップダウンして出力インピーダンスを下げ、むしろミスマッチ状態にさせて、安定化します。  三極管によるカソード接地回路では、プレート出力インピーダンスが低いので、Lの少ない負荷コイル (結合コイル) にて、出力インピーダンスをマッチさせます。  通常は結合コイルを次段の入力用同調回路に電磁結合させます。

2.2.3 発振の防止 (高周波五極管に限定)

 高周波増幅回路では「表2 発振を起こす原因と措置」に示す幾つかが発振の原因となります。 発振してしまうと正常な増幅ができないことはオーディオ回路と同様です。  また、配線の長さによるLと、線とグランド(シャーシ)との間のCにより構成された同調回路を相手に、オーディオ管でも発振を始めるのです。 この場合、発振が弱ければグリッド電流によりバイアス電圧の狂いを発生する程度で済みますが、強ければグリッド電流が深いバイアス電圧を誘起してカットオフに達し、C/R 結合のタイム・コンスタンスに従ってブロッキング発振を起こす場合もあります。

表2 発振を起こす原因と対策措置
         
原因概要
原因詳細
対策措置
Cpg 結合による発振 各真空管が持つ固有の P/G 間静電容量によるPG 帰還 入力 and/or 負荷インピーダンスを減少する。 同調を外す(仮処置)。 MT ソケットセンターシールドの接地を確認する。 シールド板を追加する。 中和回路を設ける、球の品種を変える。
コイルの結合 による発振 前段の同調回路と後段の同調回路との電磁結合、静電結合 同調回路の相互位置を離し・角度を変えて結合を除く、電磁・静電の遮閉 (シールドケース、ついたて) を講じる。
配線の結合 による発振 P/G の配線が接近(Cpg 結合発振と同じ原理) P/G の配線を短く、かつ離す、場合により部品配置を改善する
回路の不良による発振 (1) RF 増幅出力が B 電源に回りこんでいる。 増幅段毎にデカップリング回路を入れる
回路の不良による発振 (2) RF 増幅出力がヒーター電源に回りこんでいる。 増幅段毎のヒーター配線の両側に C を入れてグランドに落し、 ヒーター配線の RF 電位を下げる
接地不良 SG 回路 または K 回路のバイパス不良 バイパスCの接地およびその場所を確認する

2.2.4 ゲイン調整の方法 (高周波五極管に限定)

 高周波増幅に限らず、特に受信機全体の総合ゲインが高い場合は、どの段にてゲインを調整するかが課題です。   当然、中間周波増幅段、検波段それぞれの入力電圧には上限があるため、その限界レベル以下の範囲で動作させないと歪が発生します。 従ってできれば入力に近い部分で絞れれば歪が少なくできます。

   ゲイン A は、 A=Zp/(Rp+Zp) * Gm
             但し Zp= 負荷インピーダンス、Rp= 内部抵抗、Gm= 相互コンダクタンス

から求められます。 Gm が高ければゲインも取れると思われがちですが、雑音、安定度、負荷インピーダンス、帯域幅、Cpg 等の制約から、どんな球でも良いという訳にはいかず、最適な球が選択されます。 

 高周波増幅のゲイン調整方法には下記があります。

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●手動 ◇入力信号をポテンショ(ヴォリューム)で加減するもの−(例)アンテナ入力を絞る。
◇高周波増幅管の スクリーン グリッド(G2) 電圧のポテンショ調整によるもの − Gm 値を加減する。
◇可変μ高周波増幅管の バイアス電圧のポテンショ調整によるもの  − Gm 値を加減する。

 可変μ高周波増幅管 (バリアブルμ管、バリミュー管) は、別名リモートカットオフ管 (R/C 管) とも呼ばれ、 Eg-Ip 特性の内、深いバイアスを与えてもカットオフせずに、バイアス値に沿ってプレート電流がダラダラの坂にそって流れるため、大入力に対して深いバイアスで Gm を低下させながら対応できる構造の球です。

●自動  また、受信周波数ダイアルをスキャンしながら受信する場合、弱い信号でも強い 信号でも、同一音量レベルにて動作するには、ゲイン・コントロールから手を離せないことになります。 そこで検波出力から得た整流電圧をR/C 管による増幅回路 のバイアス値に加えて、大入力時のバイアスは深く、小入力時のバイアスは浅くするフィードバックによる AVC (Automatic Volume Control) またはもっと精密な AGC (Automatic Gain Control) が考案されました。


3 発振回路

 これまでは、発振回路を再生検波回路にて説明してきました。これでも間違いではないのですが、より安定な発振を行なうには、発振専用の回路にする必要があります。  発振回路は増幅回路の一種です。 増幅作用がある所、常に発振の準備ができていると考えるべきです。 その意味では発振回路に対して恐れを抱く必要は全くありません。  ここでは、真空管による自励発振回路について概要を説明します。

3.1 発振回路の要件

 発振回路の要件は、

◇安定な周波数、
◇(可変周波数の場合の)安定な出力、
◇可変周波数の場合の周波数帯の確保、

となります。 どの事項についても、外部に出力を供給する場合に発振周波数または接続する負荷による変動を最小にする必要があります。

3.2 発振回路の例

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 基本的な発振回路は三極管(用途としては発振管といいます)で構成されます。 その基本回路を五極管に応用したものもあります。 下記のプロトタイプがあります。

◇カソード・タップ式−−Lのタップ Hartley 回路の原形 −−Cのタップ Colpitz 回路 の原形
◇プレート同調式 −−プレートに同調回路を入れ、グリッドにコイルで結合
◇グリッド同調式 −−グリッドに同調回路を入れ、プレートからコイルで結合

 以前「並三ラジオの製作」にて例示した実験機は上記 1. カソード・タップ式、オリジナル回路は上記の「グリッド同調式」に該当します。 Hartley, Colpitz はその回路の考案者の名前です。 

3.3 周波数安定度

 発振周波数の安定度は、球の動作、LC の構造、LC の物理特性などで支配されます。

◇供給電圧(ヒーター、B 共に)、発振管の内部抵抗 (=B電圧の変化)、
◇同調回路のインピーダンス(L/C)、タップのインピーダンス比、結合コイルとの結合度、
◇コイルとキャパシタの温度特性

 L/C による発振回路では特別な電圧管理および温度管理を行なわなくても、総合で ΔF/F = 1/1000 すなわち 1MHz では 1kHz 位の精度と安定度を得ることができます。 この値ならば、標準の中波放送帯では実用上問題ありませんが、短波帯では、この程度の精度・安定度では受信機としての基本性能の問題となります。


4 五球スーパーの設計

4.1 基本回路構成

 前回「並三の製作」にて五球スーパーの基本構成を簡単に紹介しました。 その構成は下記図の通りです。 rx5ss06.gif
 

複合管:  周波数変換 −     中間周波増幅 −検波・低周波増幅−電力増幅−整流  ・・・五球

単一管:<周波数混合+局部発振>−中間周波増幅−<検波+低周波増幅>−電力増幅−整流   ・・・七球             

 五球スーパーの構成を、本来の回路単位毎に別の球を使うバラ構成をとれば、7球になります。 しかし製品とするには、球数とコストの関係から、周波数変換および検波・低周波増幅には複合管を利用して5球になりました。  また、既存のモノ・シングル・アンプとその電源を利用するならば、周波数変換、中間周波増幅、検波までの三球でも、五球スーパーと同じ構成になります。

 このような構成以外に、無線周波増幅を周波数変換の前に配置した「高一スーパー」、中間周波増幅を二段重ねた「中二スーパー」等があり、高一と中二を構成した「RF1 - IF2」がアマチュア無線では標準的受信機であった時代があります。 その後、感度、安定度、選択度、および受信周波数の精度を実現するため、各種の形式によるダブル・スーパーまたはダブル・コンバージョンが標準になりました。

4.2 球の構成

 メーカー製品として出回った五球スーパーの構成球は下記のようなシリーズがあります。 一部には ST 管 と GT 管の混ざったもの、戦時型 12VトランスレスST 管の構成もありましたが、マイナーな存在でした。

◇古典 2.5V 管    2A7 - 58 - 2B7 - 2A5 - 80
◇ 6.3 V ST 管    6A7 - 6D6 - 6B7 - 42 - 80/ 6A7 - 6D6 - 75 - 42 - 80
◇ 6.3 V 全メタル管  6A8 - 6K7 - 6B8 - 6F6/6V6 - 5T4
◇ 6.3 V 新メタル管  6SA7 - 6SK7 - 6SQ7 - 6F6/6V6 - (5Y3GT)
◇トランスレス ST 管 12WC5 - 12YR1 - 12ZDH3A - 12ZP1 - 24ZK2
◇ 6.3 V ST 管    6WC5 - 6D6 - 6ZDH3A - 42 - 80 (80K)
   同小出力    6WC5 - 6D6 - 6ZDH3A - 6ZP1 - 12F (12FK, 80HK, 80BK)
◇標準 6.3 V GT 管   6SA7GT - 6SK7GT - 6SQ7GT - 6F6GT/6V6GT - 5Y3GT
◇標準トランスレス GT 管 12SA7GT - 12SK7GT - 12SQ7GT - 35L6GT - 35Z5GT
◇標準 6.3 V MT 管  6BE6 - 6BA6* - 6AV6** - 6AR5/6AQ5/6AK6 - 6X4/5MK9 *6BD6 可 **6AT6 可
◇同大出力      6BE6 - 6BA6 - 6AV6 - 6BQ5 - 6CA4/5RK16
◇標準トランスレス MT 管   12BE6 - 12BA6 - 12AV6 - 30A5 - 19A3

 但し、戦前系の周波数変換管 (2A7, 6A7, 6A8 他) は標準 (6WC5, 6SA7, 6BE6) のものとは異なる発振回路の形式なので、周波数安定度に若干の問題がありました。
 また戦前系の検波・低周波増幅管の主流は二極・五極管 (2B7, 6B7, 6B8) でしたが、二極・三極管 (2A6, 75, 85) も存在しました。
 試作するとすれば、標準 6.3V MT 管が最も入手しやすいと思いますが、アンプ用の球も流用してデコボコの混成チームとするのも楽しいものです。

4.3 回路の説明

 では、最も標準的な回路について、段毎に追って動作を説明しましょう。

4.3.1 周波数変換回路  

◇アンテナ回路

 アンテナ端子からアンテナコイルの同調巻線にL結合されたアンテナ巻線を通ってアースに抜け、同調巻線とバリコンの容量によって同調した受信信号 (Fr) は周波 数変換管のコントロール・グリッドに入力される。 

◇局部発振回路   

 周波数変換管の G1/G2〜G4 は三極管を構成しており、バリコンと発振コイルからなるカソード・タップ式の発振回路を構成して、Fo =受信周波数(Fr)+中間周波数 (Fi)を発振し、カソード・タップに生じた局部発振電圧が、受信信号とともに周波 数変換管のコントロール・グリッドに加えて入力される。

◇周波数変換管

 周波数変換管の G3〜G4〜G5 は五極管を構成しており、プレートには   Fr, Fo, Fo - Fr, Fo + Fr が現われるが、 Fo - Fr = (Fr + Fi) - Fr = Fi   中間周波数 Fi に変換された中間周波信号だけがプレートの負荷に用意された 第一中間周波トランスの一次側に受け入れられる。    

◇周波数変換ゲイン

 同調コイルの共振、周波数変換管の増幅等で総合ゲインは 12〜15 db (4〜5倍)といわれる。 

4.3.2 中間周波増幅回路

 初期のスーパーでは三極管による中間周波増幅のため 100 kHz 以下の中間周波トランスが使われていましたが、余り低い中間周波では、局部発振から高い方の差の周波数まで同時に受信されてしまう「イメージ信号」による混信(イメージ混信)を避けるため、後になって175kHz 程度に上げた時代を経て、最終的には中波放送帯の下465/463/455 kHz のうち、455kHz が標準となりました。

◇中間周波増幅 第一中間周波トランスの二次側に誘起された中間周波信号を、中間周波増幅管の G1 に入力し、増幅する。増幅された中間周波信号は、中間周波増幅管のプレートの負荷に用意された第二中間周波トランスの一次側に受け入れられる。

◇総合ゲインは一段にて 46 db (200 倍) 程度といわれる。

4.3.3 検波・低周波増幅回路

◇二極管検波 第二中間周波トランスの二次側に誘起された中間周波信号を、二極管にて整流し 低周波をとりだす。ゲインは -20 db (1/10 倍) 程度といわれる。  

◇低周波増幅 検波出力をハイμ三極管にて約 30db (30 倍) 程度増幅する。

 ここまでの合計ゲインは 12 + 46 - 20 + 30 = 70 db (3,000 倍) であり、ラフな計算では1mV の電波が 3V の出力となって電力増幅管に入力されることになる。

4.3.4 電力増幅回路 (電源回路は省略)

 電力増幅回路のゲインを約 20 db (10 倍) として、5000Ω/8Ωの出力トランス(-30 db) を通ると、3V x 10 / 30 = 1V/ 8Ωから、125 mW の出力が得られる計算となる。

 このようなゲイン配分方法はオーディオ・アンプの設計と類似しています。

4.4 部品の入手および設計製作

 五球スーパーの製作に必要な特殊部品は、バリコン、アンテナコイル、発振コイル、中間周波トランス (IFT) 、ダイアルです。  その他の、パワートランス、アウトプットトランス、シャーシ、ソケット、スイッチ、ヴォリューム、パイロットランプ、端子、C/R 類等はお手持ちのものでも、しっかりしていればジャンク品再利用でも構いません。 
[図6 五球スーパーの基本回路を参照]

4.4.1 バリコン

 並三に使った二連があればOKですが、中波用のトラッキングレスという大小の二連は、調整が困難なので避けます。もし 430PF のフル規格のものが入手できれば、たまに見かけるジャンクながら、往時の標準規格コイルが利用できます。  現在ジャンクにて入手できるバリコンは最大容量が 335PF なので、標準規格コイルでは所要の周波数をカバーしません。そこで、コイルは自作が必要となります。

 バリコンにトリマーキャパシタが組み付けのものと、ないものがあります。 ないものでは30PFぐらいの適当なトリマーを予め取り付けておくと便利です。  三連があれば調整時に使い回しが効き、改造しながら受信を楽しむ余裕があります。

 バリコンの羽根は、半円の中心からはずれています。何故でしようか?  バリコンの形式には容量直線形、波長直線形、周波数直線形の三通りがあります。回転角に対してそれぞれ容量、波長、周波数が比例するように羽根の形を設計してある訳です。  容量直線形を主同調に使うと、羽根が入った方では周波数変化の効きが悪く、抜けた方では効きすぎとなることは、

同調周波数 F = 1/{2*π*SQRT(LC)}    但し、SQRT(LC) は LC の平方根

となり、角度に対して C が平方根でしか効かないことによるものです。  ただし、小容量の容量直線形を補助同調に使う場合は、平方根でも一次係数近似になり、均等な目盛が期待できます。短波用受信機では、小容量の三連などにて混み合った短波放送周波数帯を拡大して展開するバンドスプレッド・バリコンを併設しました。

 周波数直線形では角度Δに対して 定数1+定数2 * Δ二乗 とすることによって、角度と周波数の関係を直線としたものです。周波数直線形ではモノサシのよ うな整ったダイアルが使え、且つ目盛の間は一次補間により、直読が可能です。  市販のジャンクは、JES に定める波長直線形近似の形式で、正確な波長直線ではなく半円に偏芯シャフトを取り付けた、スペース・ファクタとコスト、直線性のカネアイの製品となっています。

4.4.2 アンテナコイル、発振コイル  

 五球スーパー全盛期には、430PF のバリコンに適合したアンテナコイル・発振コイルをセットにして、五球スーパーコイル、略して「五ス・コイル」として売っていました。 五ス・コイルを自作するには、並三の時に作成した要領にて、所要の数値を計算し、適当なボビンに卵ラグとL金具を取り付けてエナメル線またはアミラン線を手で巻くことになります。

◇アンテナコイル
 受信周波数は 526.5〜1606.5 kHz (周波数比 (Fr) = 3.051) に合わせることになります。 335pF のバリコンにて 526.5 kHz に同調するに必要なインダクタンス (Lin) は、

    Lin = 1/{ (6.28 x 526.5 x 10**3)**2 x 335 x 10**(-9) } := 270 μH

 これは、並三の時に設計したものと同じもので、グリッド側コイルには 35mm ボビンに 0.3mm 線を 90 回程度、アンテナ結合コイルには 20 回程度巻いたものです。

◇発振コイル
 アンテナコイルと同様です。アンテナコイルのような結合コイルはありません。

 できればアンテナコイル、発振コイル共に、ダストコア入りの可変Lにしたいものです。 適切なタップ位置を求めるため巻きもどしにて減ったLをコアの調整で逃げ、かつトラッキング調整にも利用できるからです。 しかし、コア入りボビンが秋葉原で手に入ればいいのですが、売っているとしても大体ボビンが細すぎて巻き切れないでしょう。 むしろトランジスタラジオ用のアンテナコイルおよび発振コイルを流用する術があります。

 所要のインダクタンスは以下の附加Cの計算の後に計算します。

 局部発振回路は、バリコンがどの角度にあっても、常に受信周波数+中間周波数の関係を維持する必要があるため、発振コイルには同調コイルよりもインダクタンスの少ないものを使い、バリコンは容量を減らすために直列にC〜パディングキャパシタ= Padding Capacitor 、附加Cを入れます。  局部発振周波数は 526.5+455 〜 1,606.5+455 kHz → 981.5 〜 2,061.5 kHz となり、  上端と下端の周波数比 (Fr) = 2,061.5/981.5 = 2.10 となり、最大容量が最小容量の約4倍ですむことになります。

◇附加キャパシタ(附加C)
 従って、同調コイル+パリコン (Cv) にて得た三倍の周波数比を得るに必要な容量の 4/9 の容量 Cs を実現するに必要な附加C (Cp) は下記の式から求められます。

  Cs =1/ (1/Cv + 1/Cp) → 4/9 x Cv = (Cv x Cp) / (Cv + Cp) →
  4/9 Cv + 4/9 Cp = Cp  → (1-4/9) Cp = 4/9Cv → Cp = 4/9 / (1-4/9) x Cv
  = 5/4 Cv この計算によれば、335pF のバリコンを使う場合、 Cp = 1.25 x 335 = 419 すなわち、局部発振側のバリコンには 419 pF の附加Cを直列に挿入すれば、

   1/(1/335 + 1/419) = (335 x 419) / (335 + 419) = 186

となり、最大容量が 186pF のバリコンに置き換えられるわけです。  附加Cは可変の方が調整が楽なので 400pF の固定キャパシタに 30pF 程度のトリマーを抱かせたものが良いでしょう。 従って、局部発振の下端周波数 981.5 kHz を発振するに必要なインダクタンス (Losc) は

  Losc = 1/{ (6.28 x 981.5 x 10**3)**2 x 186 x 10**(-9) } := 141.5 μH

となり、インダクタンスは巻き数に比例するので、発振コイルはアンテナコイルと同一ボビンに約半分の 45 回程度を巻き、2〜3 回加減できるように用意することになります。  なお、タップ位置は巻き数全体の 5%〜7%〜10% 位の引きだしを用意して、雑音・感度の最も良いものにセットすると快適でしょう。

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4.4.3 中間周波トランス (IFT)

 中間周波トランスは、[1] 周波数変換−中間周波増幅の段間および [2] 中間周波増幅−検波・低周波増幅の段間に各一個、計二個組みとなります。  おそらく、中間周波トランスの入手が最も難問でしょう。 以前、秋葉原では \3,000〜\3,500 で見かけた事がありますが、あまりにも高価です。 ここはナントカ自作で切り抜けたい所です。 別項「455kHz 中間周波トランスの設計・製作」にて詳細を説明しましたのでそちらを参照してください。

4.4.4 ダイアル

 裸シャーシに大型のツマミで直接バリコンを回すオープン・スタイルでも、垂直パネルをシャーシに取り付け、現在でも売っている減速バーニアダイアル〜フレキシ・カップラを使用してバリコンをドライブしても構いません。  ドライブ・シャフト〜糸ドライブ〜ドラム式の場合、市販部品は見かけませんので、古い糸かけダイアル式のFMチューナから部品取りするか、自作するしかないでしょう。
 自作する場合は、下記の表を参考にして工夫して見てください。

表 紐掛けダイアルの自作
       
ドライブ・シャフトの自作 ヴォリュームのシャフトの一部をグラインダーで細くして、ストッパーを外せばOKです。
ドラムの自作 丸い缶詰の空缶の底を 5mm 位に切り取り、縁に銅線をハンダ付けして、中心にはツマミをハンマーでこわして取り出したシャフト止め金具をハンダ付けし、スプリング掛けと糸穴を縁の一箇所にあければ完成です。 スプリングにてドライブ糸に一定の張力を掛けます。
ドライブ糸 太めのナイロン道糸などが利用できましよう。 ドライブ・シャフトに2〜3回巻き付けてスリップを防ぎます。
ダイアル指示 ドラムに目盛板をじか付けして回し、パネル面の窓から周波数を読んでも良し、バリコンのシャフトをパネル面の外側に飛び出させて、ツマミを壊して得たシャフト止め金具に針をハンダ付けし、固定の目盛板上を針が動く形式もよし。 後者はプラスティック・ケースの蓋などでカバーすれば測定機風になります。

4.4.5 シャーシ

 五球スーパーのシャーシ上の配置には、これと言ってキメ手はありません。 シャーシ内にコイルを配置しなければ、シャーシの高さは 40mm で充分です。機械強度も中波専用ならば、1mm のペラペラシャーシで充分です。ただし短波などを追加するとシャーシの隅を持ち上げるとシャーシが変形して配線などがズレて周波数がズルズルと動く受信機になりますが。

 信号の進行方向に沿ってL字型にコイル、球、中間周波トランスを交互に、バリコンを中央からやや右に配置するとスッキリします。   なお、中間周波トランスはパワートランスに近くに配置すると磁気漏洩ハムの原因となるので、余り接近しないほうが無難です。

 全面パネルに小型のスピーカまで組み込むならば、横長の配置が使い易いかもしれませんが、机上に置くならば設置幅を狭くして縦長とする配置も通信機みたいでカッコウが良いでしょう。  アウトプットトランスはパワートランスから離して高周波関係の部品のなかに潜り込みハム対策とするのも手です。

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5 五球スーパーの組み立て・調整

5.1 取り付け、配線

 アンテナコイルおよび発振コイルは調整時に取り外す可能性があるので、手の入りやすい場所を確保しましょう。余り神経質になる必要はありませんが、周波数変換−中間周波増幅のそれぞれグリッドおよびプレート関係はできるだけ短くなるように、ソケットのピンナンバー位置を考慮した実体図を書き、30mm Φの丸穴をあけて中間周波トランスの取り付け方向を変更できると発振対策が楽になります。 

5.2 調整

 調整は五球スーパーに「魂」を入れる作業です。調整には AF テスト・オッシレータ、RF テスト・オッシレータ、ミリバル等の測定機の準備があったほうが良いのですが、テスター1台と並三1台、それに周波数読み取り精度の高い中波ラジオ1台、調整棒一本があれば相当の所まで進める事ができます。

 調整棒とは、プラスティック棒の一端にはダストコア、他の一端には金属環がはめられていて、Lを増やすには〜ダストコア、Lを減らすには〜金属環をコイルに挿入してLの値が過大か、過小か、または同調した周波数が過大か、過小かを判定する道具です。

 調整は次の順番で行ないます。

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5.2.1 電源投入と電圧確認、低周波回路の動作確認

●まず、整流管を抜いて、電源を投入し、ヒーター点火を確認します。
●次に、整流管を挿し電源を投入し、B電圧および各球の各電極の電圧を確認します。
●検波・低周波増幅段〜電力増幅段の動作を AF テスト・オッシレータ または CD プレーヤの出力などで確認します。

ここまではアンプの初期試験と同様です。

5.2.2 中間周波トランスの調整

 RF テスト・オッシレータ(テスオシ)をお持ちならば、発振周波数を中間周波の中心周波数 455 kHz にセットします。 並三/並四ラジオをお持ちならば、200PF 位のキャパシタを並三/並四ラジオのバリコンに並列接続して発振させ、他の中波ラジオの 910 kHz で、 455 kHz の第2高調波を捉え(どんな発振機でも、基本周波数の整数倍の高調波を含みます)、テスオシの455kHz 代用とします。 並三/並四ラジオでは発振出力を外部に接続し供給すると、発振周波数がズレる可能性があるので、接続後に周波数を点検します。

  テスオシ出力または並三/並四ラジオのアンテナ端子を、中間周波増幅管のグリッドに、5pF 程度の微小容量のキャパシタ(被覆線を撚り合わせたもので可)を介して接続し、中間周波トランス [2] の検波入力LCおよび中間周波増幅管の負荷LCの同調をとります。  検波出力電圧をテスターであたり、最大値になる所が同調点です。  もし同調点がタダッ広くて良くわからない場合は、中間周波トランスの同調Cを増やしても減らしても出力電圧が減る、丘の中央あたりにとどめておきます。

 次に、テスオシ出力または並三/並四ラジオのアンテナ端子を、周波数変換管のグリッドに、5pF 程度の微小容量キャパシタを介して接続し、中間周波トランス [1] の中間周波増幅入力および周波数変換管の負荷の同調をとります。 検波出力電圧をテスターで当たるのは上記と同様で、最大値をさがします。

 もし、中間周波増幅が発振し始めれば、検波出力電圧が異常に増加し、テスオシ出力または並三/並四ラジオのアンテナ端子をはずしても出力電圧が残るので識別ができます。 発振対策は前記「3.2 高周波増幅回路の要件」◇発振の防止 (高周波五極管に限定) に示した何れかの対策をとります。

5.2.3 受信周波数の調整(アンテナコイルの調整)

 もっとも簡単なのが、電源を入れずに周波数変換管のグリッドとグランドの間にゲルマダイオードとクリスタル・イヤフォンを直列にして〜ゲルマラジオとしてカバー可能な受信周波数を点検する方法です。 検波・低周波増幅段の検波入力を中間周波トランス [2] ではなく、周波数変換管のグリッドに至る配線を外して、二極管検波ラジオにしても同様です。 だが、何れも殆ど出力がないのである程度放送が受信できるようになった段階で、再度調整すると確実です。

 受信同調周波数は、厳密には 526.5〜1606.5 kHz (周波数比 (Fr) = 3.051) に合わせることになりますが、NHK第一 (594 kHz) が、バリコンを 20 度位に抜いた所で同調すればOKです。 もっとバリコンが深い所で同調する場合はグリッド・コイルを巻きたし、もっと抜いた位置ならば巻きもどしです。 上端の受信周波数は、1,600 kHz 辺りの信号をテスオシまたは並三/並四ラジオで発生させ、トリマーを調節すれば終わりです。

5.2.4 発振周波数の調整(トラッキング調整)

 局部発振はアンテナコイルにて決められた周波数に沿って中間周波数だけ高い発振周波数を持つ必要があります。 これをトラッキング (Tracking) 調整といいます。しかし、バリコンの全回転位置でどこでもピッタリ合わせるのは不可能です。

 実際の調整の要領は、「アンテナコイルにて決められた周波数に、局部発振周波数が追髄していることを」意味するので、バリコンの入った位置、真ん中あたり、抜けた位置の3ポイントで感度最大の設定調整ができれば、実用上は問題ありません  実際にはテスオシはなくても放送波を受信して、調整が可能です。 ただし深夜に停波する局は深夜の調整には使えませんけど。

 受信周波数の下端 (NHK第一:594 kHz)、中央 (TTBS:954 kHz) 、上端 (文化放送?:1242 kHz か、もっと上)・・・言い替えればバリコンの入った所、真ん中、抜けた所でそれぞれ、附加C、インダクタンス、トリマーで調整ができます。 これを三点調整と言います。これら三つの可変要素のどれを触っても全体が崩れるので、下から上へ繰り返し3回程度の兼ね合い調整が必要です。

 少しインチキな方法としては、下と上だけ合わせて真ん中は逃げてしまう方法もあります。 これは二点調整です。 下 (NHK第二:693 kHz)は附加Cのみ加減して合わせ、上はトリマーをいじってカンベンしてもらう訳ですが、実用的には差し支えないレベルに追い込む事ができます。

 何故このようなヤヤこしいことになるかと言うと、直列の附加Cを背負ったバリコン角度〜容量カーブが、裸のバリコンのそれとは比率的に一致しないことに原因があります。 式に値を与えてカーブを描けば判るはずですが、真ん中が弛むかまたは盛り上がる可能性があり、これを抑え、局部発振周波数がアンテナコイル〜裸バリコンの変化に中間周波数だけずれて追髄していく必要があるからです。

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  FM 放送などカバーする周波数比が小な場合は二点調整、極めて小な場合は真ん中一点とします。 高一ラジオまたは、無線周波増幅付のスーパーラジオでは無線周波増幅段の同調と検波または周波数変換段の同調についてもトラッキングが必要ですが、同じ二連または三連バリコンを使うので、容量カーブが同一であり、下端をLで合わせ、上はトリマーで合わせ、二回繰り返しにて調整が完了します。

 この段階で、別途に調整用・比較用として用意した中波ラジオ(基準機)の受信周波数の上限と下限と、試作機のそれらを比較して、ひどく異なる場合はアンテナコイル及び発振コイルのインダクタンスを再検討し、巻きたしまたは巻きもどししながら、トラッキング調整をし直して、基準機のダイアル指示に近づける必要があります。

5.3 完成して

 IFT の調整および中波帯のトラッキングをマスターすれば、立派な「スーパー使い」の資格を手に入れたことになります。 短波帯の受信機でも、またもっと高い周波数の IFT を使うダブル・スーパー等のトラッキングも、基本はすべて同じです。
 本文の中波帯でのトラッキング方法は「上側ヘテロダイン」という局部発振を受信周波数より IF 周波数だけ高くとる方式ですが、「下側ヘテロダイン」という IF 周波数だけ低くとる方式もありえます。 FM チューナのフロント・エンドがこの方式のようです。 この場合でも基本はすべて同じです。
 中波帯のスーパー・ラジオの次に、短波帯に挑戦されるとよいでしょう。 短波帯のコイルは巻き数が少なく、非常に簡単に作れ調整も簡単ですが、イメージ信号等に悩まされることになるでしょう。 その対策など、スーパーへテロダイン方式には多くの要素と課題とがあり、奥深いものがあります。


*** 改訂記録 ***
1997/06/18:初版記述
1999/11/30:Rev1:Linkage Symbol の整理・変更、誤字訂正、中間周波トランスの自作の Cc 部分を補足
2003/01/05:Rev2:プレートフォロワ→カソード接地回路に訂正
2003/10/31:Rev3:「6 中間周波トランスの製作」を分離、別項「455kHz 中間周波トランスの設計・製作」に移行