並三ラジオの製作

1997.03.25 (初版) - 2004.06.06 (改訂3版)  宇多 弘

1 製作記だけでは・・・

 ある日、編集局から上記の標題を戴きました。 サァ〜テ、並三ラジオの歴史、構成・構造・動作を理解して頂くのが、まず課題です。 何故それらが課題なのか・・・・
 そうです「単なる製作記では勘弁して貰えないだろう。 この際は放送と受信機の歴史の上で、並三ラジオの誕生から消滅にいたる歴史を明らかにするとともに、当時の利用者=放送リスナーの疑似体験もカバーしよう」と筆者は思ったのです。 何故ならば、そのようすれば、製作に挑戦される方の理解度はもとより、球コレクター各位の球に対する歴史考証に、また死蔵防止に、プラスかな、と筆者は考えたからです。
 とにかく、アンプを作られる方を対象にして、大昔中学・高校の頃に散々オイタした、並三ラジオの製作・調整に解説付きで挑戦しましたので、ご一読の上、更に製作に挑戦して頂ければ、辛く且つ楽しいのではないかと思います。


2 並三ラジオとは

 蛇足ながら、何を差し置いても「並三」および「ラジオ」という用語の由来について、筆者の独断と偏見に満ちた解説を始めます。

2.1 用語の由来

 日本で初の中波放送が、東京の港区宕山から送信されたのは大正時代の始め (1920 年代) にさかのぼります。 当時はやっと真空管が実用化され、受信機に使われ始めた時期です。 国内で放送が開始される前にまず米国が先行していた、一般大衆が聴取する無線電話による放送の名称である Radio broad casting が日本語化して「ラジオ放送」となりました。 それを受信する機器の名称は、正確には「ラジオ放送受信機」ですが、日本では何時の間にか「ラジオ受信機」の略称も経ずに単に「ラジオ」と呼び、また放送の内容情報を「ラジオ(放送)の内容では、かく言っていた」が「ラジオがそう言っていた」等言いならわされ、結局「ラジオ」は放送内容および受信機という二つの実体を意味する言葉になりました。 そう言えば、テレビ/FM についても全く同様の誤用の現象がありますね。

 現在では、中波 (MW) 放送が AM (振幅変調方式) なので AM 放送と言い習わされていますが、これは明らかに誤用で、短波 (SW) 放送でも AM ならば AM 放送ですが、慣用語にはかないません。 一時中波放送を標準放送 (Standard) Broad Casting と称し、略して BC と呼んだ時代もありました。 一方、1950 年代に米国で超短波 (VHF) による FM (周波数変調方式) 放送が出現するにおよび、AM 放送に対して FM 放送と呼ばれるようになり、日本もこれを倣いましたが、この FM と言う呼び方も AM と同様に誤用です。 何故って、中波・短波でも FM 放送は技術的には可能なわけですから。

 中波放送の開始当時、スピーカから音声を聴くことができる AC100V を電源とする受信機の最小構成が「並三」でした。  並三という名称は、主要回路それぞれに、真空管を一本づつ使った三球構成の受信機を意味するものらしいのですが、並三が出現してからずっと後になって、役所か NHK が統制品としての受信機のクラス別の正式な分類名称を考え「並三球式受信機」と呼んだのでは、と想像しています。 このあたりの事情をご存じの方、どうぞご教示くださいませ。

2.2 中波放送の周波数

 中波放送の周波数帯は、国際電気通信条約によって取り決められています。  第二次大戦前から1950 年頃までは 550kHz 〜 1,500kHz の周波数帯となっていました。 その下と上の周波数は船舶通信用でした。 上端の 1,500kHz とは波長が 200m とキリが良いだけではなく、実はもっと以前に電波を波長にて呼んでいた時代の名残りが感じられます。

 第二次大戦後 (以下、戦後)、欧米列強の植民地だった多くの国が独立し、それぞれの国が自主放送するため、周波数需要が増加し、一方船舶通信は VHF 電話などの機器の開発と利用が進展したため、中波利用の必然性が減少し、一部を放送波に譲りました。 通信条約会議を通じて 1950 年頃 535kHz 〜 1,605kHz の周波数帯に拡大されました。 また送信する中心周波数は 540kHz から1,600kHz を10 kHz 毎に区切って使うよう原則づけられました。 1980 年代の途中では、さらなる周波数需要に応えて、割り当てピッチが 9kHz 毎に変更され、割り当て可能周波数が 10kHz 毎の時代に比べ一割増加するとともに、現行の 526.5kHz 〜 1606.5kHz の周波数帯となり、初期に比べ全体では130kHz 広くなりました。

 この変更では、各放送局の中心周波数を 10 の整数倍 kHz から直ぐ上の 9 の整数倍 kHz に変更し、例えば NHK第1 は 590kHz → 594kHz と端数が付くようになりました。 何故直ぐ上かというと、従来の送信アンテナはそのままで、主発振機以外の機器は交換せずに調整の範囲で周波数を変更できるからでした。

 一次拡大割り当ておよび現行割り当てでは上端・下端ともに周波数に端数がついていますが、各送信周波数に対して単に中心周波数を割り当てるのではなく、AM 方式の場合、音声エネルギーは上下に発生する側帯波と言う波により伝達されるため、これを考慮して一つの中心周波数の前後 5kHz または 4.5kHz を含めて「帯域」と捉える考え方が反映されました。 すなわち、中波放送帯を 9kHz セパレーションとした場合は、最下端の中心周波数 531 kHz の 4.5kHz 下は 526.5kHz、同様に最上端の中心周波数 1,602kHz の 4.5kHz、上は 1606.5kHz となり、現行割り当てではこの幅を中波放送周波数帯と定めたものです。 前後 5kHz または 4.5kHz の帯域幅では、隣の波と混信を起こします。 しかし、国内の中波放送に関しては、局の地域別、周波数、電力の割り当てをうまくやって強力な局同士が接近しないように設定しているので、実用上は問題ありません。


3 並三の構成

3.1 並三の主要回路

 並三は下記の主要回路にて構成されます。

◇電波から音声信号を取り出す「検波回路」、検波段=検波管

◇音声信号をスピーカを鳴らすよう増幅、「電力増幅回路」、電力増幅段=電力増幅管

◇B電源を作る「整流回路」〜適当な整流素子がなかったことも一因=整流管

 ラジオでも、アンプのように単位機能回路に対して「段 (stage)」と呼ぶことがあります。 各々の段に使用する真空管はその用法の分類名称として、検波管・電力増幅管・整流管とも呼ばれます。 真空管の用途上の分類でも同じ呼び方が適用されます。

 ラジオ受信機の構成には、並三以前に、もっと原始的な金属酸化物の整流作用を利用した「鉱石ラジオ」(後のゲルマラジオ)、並三より遥かにポピュラーな低周波増幅を一段追加した「並四」、より微弱な放送もキャッチできる「高一」という構成および名称がありました。

 レシーバと言う名称こそ本来の (無線または放送) 受信機ですが、今日では更に意味が変り、家電メーカおよび家電販売業界では、チューナつきアンプをレシーバと称しています。 今日のヘッドフォンは当時はレシーバと呼びました。 この名称も誤用ですが、こちらは放送開始以前から存在した電話機用語として、耳当て式受話器をレシーバと称したことに由来しています。

 並三/波四のイノチは検波回路にあります。 検波は高周波と低周波のゲートウェイであり、並三/並四では回路全体がシンプルな故に非常に重要です。

 電力増幅回路および整流回路は、皆様が日夜ご苦労の、否もとえ、お楽しみのシングルアンプのそれと全く変りません。 従って検波段のみを製作されれば一応並三/並四は完成します。 検波回路は、下記のような幾つかの要素から構成されます。

3.2 同調回路:

 同調回路・検波器・イャフォンから構成される、ゲルマラジオの構成をご存じの方には話が早いのですが、ともかく受信機を操作して特定の受信周波数にあわせる回路です。 普通のアンプには装備されないものなので、後ほど別途に詳しくご説明します。

3.3 グリッド検波方式:

 放送された信号、すなわち振幅変調された高周波信号から整流作用=検波作用によって音声周波信号を取り出す検波回路の一つの方式です。  整流管を使っても、またはゲルマニュームダイオードでも検波 (二極管検波) はできますが、一旦取り出した音声周波信号を、別の回路に導いて改めて増幅するのも面倒なので、三極管または多極管のコントロール・グリッド〜カソードによる整流作用を利用して、得られた音声周波信号をそのままその球が増幅も行う方式です。

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 グリッド検波方式の他に真空管による検波方式には、プレート検波、無限インピーダンス検波、前記の二極管の半波整流による検波、ブリッジによる検波、倍電圧検波もあります。 しかし、真空管および各パーツが高価であった当時には、真空管の使用本数や使用部品点数が増える方式は敬遠されて、グリッド検波方式およびスーパーヘテロダイン受信機に用いられた UY75, Ut6B7, 6ZDH3A, 6B8, 6SQ7, 6AV6 等による二極管検波方式以外は一般的ではありませんでした。

3.4 再生検波方式:

 グリッド検波回路では検波と音声周波増幅を同一真空管にて行なう訳ですが、検波の時に残った高周波成分も一緒に増幅され、プレートに紛れ込む高周波成分を同調回路に同相にて戻すと、皆さんがアンプでは大変お悩みの発振を起こします。

 再生検波方式では、うまく調整してこの発振の直前にセットし、同調回路のインピーダンスを高めゲインを上げて高感度にする、正帰還動作をうまく利用した回路で、別名「オートダイン」とも呼ばれます。

 従って、受信調整時には一旦自己発振と受信波とのビート(唸り)がピーキューギャーと賑やかにしてから発振の直前に持っていくことになります。 再生検波段の総合ゲインは 55db 位と言われ、再生作用の効果はプラス 20db 位と考えられます。

3.5 受信機の構成の表現方法:

 すこし脱線して、受信機の構成の名称について解説します。 受信波をそのまま増幅し、検波する方式をストレート方式といいます。 今日の受信機では、例外なく受信波を一旦別の周波数に変換して、一定の周波数による安定な増幅回路〜検波回路を通るスーパーヘテロダイン方式(通称スーパー)またはコンバージョン方式になっています。

 初期的な検波回路には、ソフトバルブと言う真空度の低い球が使われたため、再生検波段をVと表わしましたが、後に検波段の意味に変り、またVの後の数字は低周波増幅段数を、Vの前の数字は高周波増幅段数を表わしました。  従って、

●高周波増幅なし、検波、低周波信号出力または直ヘッドフォンの構成は 0-V-0
●高周波増幅なし、検波、低周波増幅1段の構成は 0-V-1、「並三」に相当
●高周波増幅なし、検波、低周波増幅2段の構成を 0-V-2、「並四」に相当
●高周波増幅1段、検波、低周波増幅1段の構成を 1-V-1、「高一」に相当

 となります。 また、高一では高周波増幅の価値〜感度と分離度が目立っため、特に低周波の段数は論じなかったようで、「高一低一」等の名称はありません。 なお、曾てのハム用短波受信機には 1-V-2 構成が大変ポピュラーであったし、業務用・軍用には 2-V-2 構成の長中波受信機もありました。

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4 並三の時代背景

4.1 並三の誕生から成長

 大正末期から昭和初期に誕生した量産型並三では、検波管、電力増幅管としては UY27B - UX12A などのローμ三極管しかないので、それら二本と整流管一本で構成しました。 この構成では送信所から近距離での強電界から中電界での受信はともかく、微電界を含むサービス・エリア全体を対象の受信機としては感度不足であったと考えられます。

 当然、三極検波管の負荷はトランス結合にして、ゲインを稼いだ訳ですが、先輩格にあたる更に低周波増幅を一段加え感度の高い「並四」が並三の存在を脅かしていました。 但し量産型並四の使用球は整流管以外はすべて三極管であり、四極管や五極管を混用したものは殆どありませんでした。 また当時は B 電源用に適当な整流素子がなく、整流管がかならず使われたため当然球数に含まれ、また複合管は現われる前なので、一球一素子でした。

 その後、四極管 UY224, UY24A, UY24B や五極管 UZ57 の検波管が出現して、検波ゲインが上がり、また五極電力増幅管 UY247, UY47, UY47B の起用により、並三の総合ゲインは並四に並びました。 が、しかし結局メーカ製品の量産型並三はあまり数は増えませんでした。 その原因は下記が考えられますが、どれが支配的要素なのかよく判りません。 

●初期の並三の感度不足との不評が後々まで尾を引いた
●ユーザには球数が多い並四の方が高級に見え、並三は安物乃至倹約型と写った
●総合ゲインでは並四にくらべて不足だった(個人的にはそのように感じていますが)
●メーカや販売店がそのように誘導宣伝した
●メーカに並四製品・材料の在庫があった
●並四がかなり普及していて、精々買い換え需要だった
●買い換え需要の一部が高一に流れた
●オール三極管構成の並四に音質的に負けた (補足1)
●並四の UX12A は並三の UY47B よりヴォイスコイルの断線が少ない (補足2)

(補足1) :音質は並三、並四ともにカンチレバー式のマグネティック・スピーカで、お世辞にもいい音ではありませんが、クセの強い五極電力増幅管 UY47B よりは、三極電力増幅管 UX12A の方が、それなりにソフトだったかもしれません。
(補足2) :またプレート電流も UY47B=20mA に引き替え UX12A=8.5mA と少なく、しばしば起きたスピーカのヴォイスコイルの断線を回避できたこともありましょう。

4.2 並三、並四の使用球

 並三の使用球は、雑誌記事/実物では下記の組み合わせがあったと記憶しています。 これは、並四のバリエーションのなさに比べて大変多様なものです。  またこの時代でも既に、球メーカとセットメーカの関係があり、製造できる球とセットの間にその関係が現われているかもしれません。 電池時代では検波管に直熱管を使っても問題はなかったのですが、交流式が家庭用としての条件となれば、傍熱管でないとハムが取れないので、UY224/UY227 が利用されました。 並四の低周波一段目に使われた UX226 は明らかに電池管時代の遺物で、フィラメント電圧が 1.5V と低く、何とか直熱でも使えたようですが、傍熱管に変更される暇もなく並三に主流が移ったようです。

4.2.1 球の改良と互換維持

 三極管しかない時代から五極管主流の時代への推移とともに、並三・並四の使用球構成も平行して変化しました。 その過程ではナス管から ST 管への互換性を維持しながらの改良、電池管の流れの消滅、実用性を重視した仕様の縮小、第二次大戦中の資材節約型トランスレス球、また第二次大戦後 (ゴシック体で記載) には保守品種およびケミコン保護策としてソケット互換・傍熱型の出現、等によりセットの寿命が延長されました。

●改良例 UX112(ナス 5V0.25A) 〜UX12A(ST 5V0.25A) 〜UX12AK(ST 5V0.4A 傍熱型*)
●改良例 UY227(ナス 2.5V1.75A) 〜UY27(ST μ=9) 〜UY27A(1.5A) 〜UY27B(1.0A μ=27)
     〜最終的には UY56 に移行した。
●改良例 UY224(ナス 2.5V1.75A) 〜UY24A(ST) 〜UY24B(改良点不明)
     〜UY57S(57 の G3/K 共通)
●改良例 KX112(ナス 5V0.5A) 〜KX12B(ST) 〜KX12F(?) 〜12FK(傍熱型)
●消滅例 UX226(ナス 1.5V?A) 〜UX26B(ST 1.5V1.05A)
     フイラメント電圧が 1.5V と特殊なため使用されなくなり、消滅した。
●縮小例 UY247(ナス) 〜UY47(ST) 〜UY47A(?) 〜UY47B(規格縮小) 〜3YP1(6ZP1 改、傍熱型*)

傍熱型* 注:管内でヒータの中点にカソードを接続して直熱管とのソケット互換を確保している。

4.2.2 並三の使用球

 典型的な並三の使用球構成例を下記に掲げます。 但し -(T)- は段間トランス結合(三極管のみ)、廉価品では C/R 結合としたものもありました。(ここでは管球名のゴシック表示を省略します。)

●初期型ナス管構成 三極+三極 UY227 -(T)- UX112A - KX112B  いずれも低感度並三
●初期型 ST 管構成       → UY27/A/B -(T)- UX12A - KX12B 検波管の改良
●高性能標準型構成 四極+五極 UY24A/B - UY47B - KX12B
                UY224 -UY247 構成は不明
●マイナーな構成  五極+三極 UZ57 - UX12A - KX12B/12F
●量産高性能標準型 五極+五極 UZ57 - UY47B - KX12B/12F
●戦時型トラレス球 五極+五極 12YR1 - 12ZP1 - 24ZK2

 並三では四極+三極 (UY24A/B + UX12A?) の組み合わせ製品は見聞きしたことがありません。 メーカ系列が別で成立しなかったのかもしれません。

4.2.3 並四の使用球

 参考までに典型的な並四の使用球構成例を下記に掲げます。 但し -(T)- は段間トランス結合(三極管のみ)、安物では C/R 結合もありました。(ここでは管球名のゴシック表示を省略します。)

●初期型ナス管構成 UY227 -(T)- UX226 -(T)- UX112A - KX112B
●標準型 ST 管構成 UY27/A/B - UX26B - UX12A - KX12F 検波管の改良が適用された。
●バリエーション  UY56 - UX26B - UX12A - KX12F
●後期型 ST 管構成 UY27B - UY56 - UX12A - KX12F    この頃には並三も認められてきた。
●例外的 ST 管構成 UZ57 - UY56 - UX12A - KX12F    小型セット一例だけ記憶がある。

4.2.4 6.3V 球は?

 上記の組み合わせに見る通り、第二次大戦前 (〜1941 年) の国産民生用受信球はほとんどが 2.5V 球でした。 一方 6.3V 球はバッテリーの関係から車載用または船舶用として存在しましたが、民生品には殆ど姿を見せず、おそらく軍需等に回っていたものと思われます。 例外的に UZ78-UZ77-UZ41-KY84 という構成の高一セットに接した事があるだけですが、このメーカ製受信機は終戦後に軍需在庫品で組んだ可能性があります。
 戦後秋葉原のジャンク屋の店頭には UZ6C6, UZ6D6 等の新型球とは別系統の、6.3V 国産球(と言ってもアメ球の規格コピーですが)UY36, UY37, UY38, UY39, UZ41 および UZ75, UZ77, UZ78, UZ89 等が一斉に並んだことがあり、筆者の眼には新鮮に映ってそれらを買い漁った記憶があります。 なお有名な UZ42, UY76 は旧型名称のまま UX2A3, UZ6C6 など数英数方式による新名称の仲間と合流しました。

4.3 並三、並四の消滅

 第二次大戦の終戦 (1945 年) 当時、日本に進駐した米軍は、他の受信機に受信妨害を与える並三式、並四式の受信機の製造・販売を禁じ、スーパーヘテロダイン方式を推奨しました。 この政策は、今にして思えば日本軍が禁止していた海外短波放送の受信と、低感度の受信機による情報封鎖状態からの解放を意図したものであったと理解できます。
 従って、並三式、並四式のメーカによる製造はこの段階で打ち切りとなりました。 一方、高一の生産は禁止されなかった訳ですが、それまでは NHK 一本だった放送の解放の一環として生まれた、短波を含む全国の民間放送への対応では、感度・選択度ともにスーパーヘテロダイン方式にはかなわず、メーカ製品の高一も姿を消しました。

 戦後 1955 年頃までは、手軽な娯楽と言えばラジオと映画だけで、テレビが家庭に普及する前の時期でした。 また戦時中は、球も部品もすべて軍需優先であって、民生品のラジオや部品製造が中断していたため、戦前製ラジオおよび不良部品の多い戦時型ラジオは、相当の台数が故障の憂き目に遭っていました。 この状況に対応するため、当時 NHK は全国修理キャラバン隊を組んで、公民館等にて巡回ラジオ修理を定期的に行っていました。

4.4 五球スーパー黄金時代(更にすこし脱線します。)

 このような環境が「五球スーパー」の製造・販売ブームに火を付け、故障の多い旧型ラジオの買換え需要がそれに拍車をかけて、1950 年頃から家電メーカ各社はもとより、専業セットメーカが雨後のタケノコの如く参入し、競争しました。 また、町の電気店やアマチュアでは、旧機種の修理を手がける傍ら、ブームに連動したパーツメーカと球メーカのバラ売りを買い集めてラジオを受注製造販売し、セットメーカの補完機能を果たしました。 「五球スーパー黄金時代」は TR ラジオが現われる 1960 年頃まで続き、最後は低価格トランスレスのセットで時代の終焉を迎えました。

 当時、町の電気店には既製品のセットの他に球や修理パーツ一式が置いてあり、店主も修理が暇な時には自家製品を作って売るような状態で、特殊品以外は秋葉原に行かなくても一応用が足り、仲良くなるとアマチュアにも色々教えてくれ、逆に教えてあげたりしたものです。

 私事ながら、当時通信工学系の学生であった筆者にも多様なラジオの修理依頼が持ち込まれ、球と部品、回路の近代化更新を含む修理に精をだしました。  保守品種となった球を使っているセットは、球+ソケット交換で近代化しました。極端な例では 2.5V 球構成の高一を、外観はそのままにして出力管、整流管を残して、前段3球を MT にて近代化し、5球スーパーに改造した例もありました。 また、自家用以外にアルバイト兼ボランティアで2〜3球のパーソナル・ラジオを延べ15 台ぐ らい、パーツ代の2割程度の薄利で受注製造した経験がありました。 キッカケは長期療養で入院している友達から「イヤフォン・ラジオを作ってくれ」と頼まれ、製作納入したことでした。 そのセットを見た療養仲間から次々と発注が掛かり、製造〜納品に多忙な時期がありました。 何分病床で使うラジオなので、何よりも小型であり、スピーカは装備しても常時はイヤフォン聴取であり、アンテナは長く張れず、ノイズはなく、ツマミは少なく操作は簡単で、安全性は高く、ということで利用者が申し出る以外の本来の要求仕様を満たす厳しい条件を、MT 管を利用して構成し懸命にクリアーしたものです。

 このようなラジオの世代交代を通じて、ほとんどの真空管は 6.3V 球に移行しました。 従って 6.3V 球によるメーカ製並三、並四受信機は生まれる機会がなかったのです。  一方、皆様ご存知の 6ZP1 は大戦中に生まれたトランスレス球の 12ZP1 と同規格で、オリジナルは米国の 6AK6/6G6G であり、五球スーパーの電力増幅管として大活躍しました。


5 並三の回路図と工作

 さて、歴史の話はこれぐらいにして、並三の製作に挑戦しましょう。 すこし丁寧に且つ執拗に説明しますので、しばらく我慢をお願いします。

5.1 球を選択、構成する

5.1.1 球の構成

 まず、球を選択し構成ましょうか。時代考証的な観点から、各球の製造された時代を揃えて構成するならばば、前記「4.1 並三の誕生から成長」に記載の構成、または下記のようになりましょう。 構成美にこだわる方はともかく、お手持ちの旧型管または入手が容易な近代球にて、またはズボラに新と旧、2.5V 球や 12V 球、ST/GT/MT をゴチャマゼにした不統一の美もまた楽しいものです。 (ここでは管球名のゴシック表示を省略します。)

●36 - 38 - 84 or 77 - 41/89 - 84             戦前の車載系 6.3V 球
●6C6 - 6ZP1 - 12F (12FK/80BK/HK),  6C6 - 42 - 80  教科書的標準構成
●6J7/6J7G/6SJ7/GT -6G6G/6K6GT - 6X5G/GT (5GK3) メタル、GT/G管構成
●6SH7/GT - 6V6/6F6GT - 5Y3GT            同上強力版
●6AU6 - 6AK6/6AR5/6AQ5 - 6X4 (5MK9)        7ピンMT スリム構成
●6CB6 - 6CL6 - 6CA4,  6SH7 - 6AG7 - 5T4      ハム色の濃い MT/GT/メタル構成
●6267/EF86 - EL84(6BQ5) - EZ81(6CA4)        欧州ムード 9ピンMT 構成

 なお、筆者が本文の裏をとるために行った実験は、カンニングになりますが 1991 年に組んだ 6C6 -37 -6ZP1 -12F 構成のプラグイン・コイル式 0-V-2 =並四をベースにしました。 茨城の田舎にある拙宅では、並三ではNHK1/2 以外はやや弱く、FEN が感度不足なのです。

 並三の回路は[図1 並三の回路図]に示したとおり極めて簡単です。 電源は Si ダイオードでも、半波整流でも、全波、ブリッジ、倍圧、何でも結構です。 結局、再生検波回路以外は普通のアンプと同じです。 アンプを組める方にとっては、並三で難しい箇所は、同調回路と再生回路だけです。 それには回路部品、特にコイルの自作が必要となり、その調整作業が必要となります。

[図1 並三の回路図を参照]

5.1.2 再生検波に適する球

 どんな球でも再生検波ができるかといえば、一応は三極管以上ならば原理的にOKです。 ただし、どんな球が再生検波に適しているかといえば、前記「球の構成」に掲げている高周波用のシャープカットオフ (S/C) 4/5 極管がベストです。 昔、色々やってみた記憶では、一般に下記「表 再生検波に適する球」に記載の通りです。

表 再生検波に適する球
           

真空管の種類

再生検波の適性

コメント

評価

三極管、パワー管 感度が低く利用価値少なし。 初期並四の検波が三極管でした。敢えて挑戦することもないと思います。

高周波用 G3 〜K が接続された5極管(S/C,R/C を問わず) 管内で G3 と K を接続した球は回路により不安定。 回路によってはボディエフェクト (注1) が出ます。但しカソード接地回路ならOK。中波では問題なしです。

高周波用4極管 使える。 UY24B, UY36, 6CY5 等の高周波4極管は安定しています。

高周波用リモートカットオフ(R/C)5極管 (注2) 使える。6BA6 が安くて優秀です。

高周波用シャープカットオフ(S/C)5極管 (注2) これがベスト 57, 77, 6C6, 6SJ7, 6AU6 が標準です。 6267/EF86 はローノイズで素晴しいです。

(注1) 6AG5, 6AK5, 6SG7, 6SH7 等が 該当、回路が不適当な場合・・・同調回路からタップをとりカソードに帰還をかけるHartley 式発振回路の発展形である ECO 回路 [Electron Coupled Oscillator] で G3 をカソードに接続した場合・・・短波では受信機に手などを接近すると、受信周波数がずれて操作が困難となる現象=ボディエフェクト body effect が起きます。 G3〜K を別に引きだした球でも G3 を K に接続すると同様の現象が起きて、それは正しい ECO 回路ではないのです。
(注2) G3〜Kが別に引きだしてある球、殆どはこれですが、G3 を接地すればボディエフェクトは起きません。

 以下、同調回路と再生回路の設計と製作、調整作業について詳しく述べます。

5.2 同調回路を設計する

 同調回路とは、コイル=インダクタ(同調コイル)とキャパシタ(同調キャパシタ)が並列に接続された共振回路であり、固有の共振周波数をもち、外部から共振周波数と同じ信号エネルギが与えられると、コイルまたはキャパシターの両端に共振電圧が発生します。

◆共振周波数Fは F(Hz) =1/{2π x SQRT (L(H) x C(F) ) } で求められます。 但しSQRT (A) は A の平方根の意味です。

◆例えば、100μHのコイルと 100 pF のキャパシタによる共振周波数は、

1/{2 x 3.14 x SQRT( 100 x 10**(-6) x 100 x 10**(-12) ) } = 1/{ 6.28 x SQRT( 10**(-14)) } =1/{6.28 x 10**(-7)} =10**(7)/6.28 = 10,000,000/6.28 =1.59 x 10**(6) =1,590,000 Hz =1.59 MHz
  但し10**(-6) は 10 のマイナス6 乗、**(6) は6 乗の意味です。

と求められます。もしLを4倍にすれば、Fは半分になり、Cも同様に4倍にすればFは半分になります。そこでL=2倍、C=4倍とすれば、Fは8の平方根 2.82 で割った値、1.59/2.82 = 0.564MHz となります。
 中波の放送周波数帯 (現行の電波法規では 526.5kHz 〜1606.5kHz) をカバーするためには、もう少しL、CいずれかまたはLCの積を大きくする必要があります。 そこで、LCの積を周波数から逆算します。

 0.564/0.5265 x 2.82 = 3.02 , 3.02**2 =: 9.1 となります。 但し =: は約の意味です。

 これから、前記のLC積 (100x100=10,000) を 9.1 倍の 91,000 とすれば、丁度予定の周波数帯の下限周波数になります。

5.3 バリコンを入手する

 共振周波数を可変にするためには、連続的に容量を変えられるキャパシタが必要です。 可変キャパシタには、伝統的な可変空気キャパシタである「バリコン」=バリアブル・コンデンサが手軽です。

 バリコンは現在でも秋葉原のジャンク屋にて入手できます。
 殆どが AM 用二連 に FM 用の小容量三連を併設したバリコンで、シンセサイザ以前の紐かけダイアル式の AM-FM チューナに使われていたものです。 AM 用二連または FM 用三連併設でも、AM 用では大きいセクションと小さいセクションとで構成されたものがありますが、五球スーパー用の「トラッキング・レス」と呼ばれるもので、大きい方のセクションが使えます。 リサイクル・ショップにて紐かけダイアル式 AM/FM チューナのジャンクを購入して、バリコンをプリント板から外すというテがあります。(2004/06)
 無理して古い「単連」を探す必要はありません。 また古いラジオから抜き取るのもテですが、むしろ修理して原形動態保存するほうが絶対楽しいので、それは止めましょう。
 送信機などに使う、羽根の数が 10 枚位の絶縁体がステアタイト(陶器)で小型のバリコンは、容量が少なくて中波放送帯をカバーできません。 しかし並列に色々な容量の固定キャパシタをロータリ・スイッチで切り替える覚悟があるとおっしゃるのなら、一切お任せいたします。
 また半導体のバリキャップに与える電圧を可変としても可能です。 但し 9 倍もの可変比が得られるものがあるのか、筆者は確認していません。 ある程度の可変容量が得られるなら、上記の小型バリコンと同様に並列固定キャパシタ切り替えとすれば、可能性が十分あります。(2004/06)

 バリコンはシャーシへの取り付けます。 筆者はL型のアルミ板にてバリコンの前後にビス止めして、さらにシャーシへ固定する金具を作り、マウントしました。 AM/FM チューナ用のものなら、高さ 60mm のシャーシ内に取り付け、バーニア・ダイアル駆動が可能です。(2004/06)

 以下、最も入手可能性の高い FM 付き二連を想定して説明します。 並三用としては大きい1セクションだけを使います。 

 ジャンク・バリコンの中波用ユニットの最大容量は約 335pF です。 コイルのインダクタンスは、上記の計算から、

       91,000/335 = 272  

・・・と、約 270μHのインダクタンスが必要となります。 実際には入手したバリコンの規格がハッキリしているとは限らないので、所要Lは加減が必要です。 もし素性の知れないバリコンの場合は、様子の判っているバリコンを並列にして受信動作すれば、概略の容量が比較できます。
 同調回路がカバーできる下端と上端の周波数の比 (Fr) は、バリコンの最大容量 (Cmax) と最小容 量 (Cmin) に、各々真空管の入力容量、配線の浮遊容量等の合計 (Cs) を加えたものの比の平方根となります。 すなわち、Cs はバリコンがどのような容量にセットされようと常時加えられるからです。

       Fr = SQRT [ (Cmax+Cs) / ( Cmin+Cs) ]     SQRT:平方根のことです。

 もし、Fr を大きく取りたければ、Cs を極力少なくしなければなりません。 しかし、バリコン自体にも最小容量があり、どんなにガンバッテも Fr は4倍位が限界です。 中波放送周波帯では、前記の「2.2 中波放送の周波数」にて述べたように、精々Fr = 3 強となり、問題ありません。

 初期のラジオに使われた単連中波用バリコンは Cmax = 300 pF 程度でした。 所が1960年頃には短波を受信できるオールウェーブのスーパーが現われ、スイッチを使ってコイルを切り替え、またトラッキング調整という幾つかの同調回路が可変でかつ連動した状態で同一周波数とするため、トリマキャパシタを使い調整しますが、その余裕を見こんで、前記の Cs が大きくなりました。 これでは Fr が確保しにくくなるので、Cmax = 430〜450pF 程度の大容量のものが標準となった時代がありました。
 その後、家庭用ラジオでは短波受信に対する興味がうすれ、むしろ FM の併設が標準となって、中波 (AM) 用と FM 用を一つのバリコンに組み込むようになりました。 現在ジャンク屋の店頭にならべられているのは、主にこのタイプです。 AM - FM のセットではコ イル切り替えが不要なため、また小型化の要請もあって、中波 (AM) 用の Cmax は昔の容量に戻っ て 335 pF 辺りに設定されています。

5.4 コイルを自作する

 これから製作するコイルは、昔「並四コイル」として売られていたものの複製です。 勿論、並四コイルは、並三にも単球 0-V-0 に使えるわけですが、商品名からしても如何に並四が勢力を張っていたかを物語っています。 ただし、以後説明する再生回路は、当時のものから一部変更しますので、コイルの構成も昔の製品と全く同一ではありません。 変更した理由は最後に説明します。

5.4.1 並四コイルの構成

 並四コイルは、同調コイル、アンテナコイル、再生コイルの三種のコイルで構成します。 それぞれのコイルの機能と構造は下記「表 並四コイルの巻きかた」に示す通りです。

表 並四コイルの巻きかた

機能

巻き数の目安

線材、巻き方

アンテナコイル 同調コイルに、アンテナのインピーダンスの影響を与えることなく高周波信号をマッチングさせる 同調コイルの 1/10 程度 エナメル線またはアミラン線 0.3mm 単層密接巻き
同調コイル バリコンと組み合わせて受信周波数を決め、検波管のグリッドに高周波信号を供給する ボビンの直径が = 25mm なら130 回 位、 = 30mm なら100 回 位、 = 35mm なら 80回位

同上

再生コイル 帰還信号を同調コイルに与え検波管に発振を起こさせる  同調コイルの 1/20 程度の巻き数のタップを出してもよいが調整がやや面倒になる

同上

rx0v2_3.gif

5.4.2 ボビンを用意する

 自作するコイルは、D= 直径 25mm 〜 40mm 位の円筒、例えば秋葉原で売っているベークライト筒〜これを「ボビン」といいます〜を使うソレノイド・タイプとします。 ボビンには、例えば台所にあるラッピング/アルミフォイルの紙芯、DIYで売っている壁紙の巻芯等が固さも適当です。 ハンダ付けに注意すればビニパイプもOKです。 トイレペーパの芯は柔らか過ぎて握ると潰れて不適当です。  ボビンには、予め卵ラグを3mm のビス・ナットで6個所適宜取りつけ、ボビンの適当な位置に mm 位の線通し穴をあけておきます。1mm 穴はサンハヤトのプリント板用ドリルが最適ですが、普通の電ドリの 2mm、木工用四つ目錐でもOKです。 また、ボビンの下部にはL金具で自立できるよう 3mm の取り付け穴を2個所あけます。

5.4.3 線を巻く

 線の端を線通し穴をとおして0.3mm 位のエナメル線かアミラン線を平巻(端から一層巻)します。 コイルのインダクタンス (IL) は、巻き数 (n) の自乗 、ボビンの断面積→厳密には巻き線の太さを加えた円の断面積 (a) と関係し、下記の式となります。

         IL = K・ n**2/a (但し K は定数)

 巻幅も IL に関係します。 断面積との関係をもつ定数(K: 楕円関数)となり、数表のお世話になる必要がありますが、無視して調整にて逃げるものとします。 但し、太い線で巻き、幅が長くなると誤差が出るので、直径:巻幅=1:1前後となる線が良いでしょう。

 実際には巻幅、バリコンの容量、配線および検波管の入力容量等の誤差を考慮に入れると、巻き数は「〜回位」の、当たらずとも遠からずの目安と考えた方が安全です。 筆者の試作では、35mm ボビンに、巻線はDIY店で売っている0.32mm 10m 巻きを全部巻くと、計算上は 90回程度となりますが、結果的に少し不足で、更に 0.4mm のエナメル線を 10回巻き足しました。 もしかするとバリコンの容量が推定値より少ないのかもしれません。 巻き幅は 0.3mm で約 30mm 強となりますが、線の太さで変ります。 調整時にほどく可能性があるので、予め 2mm 位離した予備穴を2〜3コ位開けておき、タップを出して置くとL調整が簡単にできます。 巻き終わったら、線の端は被覆をハガして、ラグにハンダ付けします。

[図3 並四コイルの自作を参照]

5.4.4 周波数を調整する

 同調コイルの一方をバリコンの絶縁された固定翼(ステータ)に接続し、他方をバリコンの可動翼(ロータ)に接続すれば、立派な可変周波数共振回路を構成します。 並三を動作させた場合に、NHK第1の 594kHz がバリコンを相当抜いた角度で同調するようならば同調コイルのインダクタンスが過剰なので、バリコンを20゚ 位抜いた所に来るように、コイルの巻数を様子を見ながら、少しづつ減らします。 もし、ほどき過ぎた場合、またはもともと巻き足りない場合には、付属の FM 同調用ユニットがあるバリコンならば、それを並列に接続しCにてある程度L不足を補えます。 または「再生コイル」を同調コイルと直列にして、検波管のカソードにはタップから接続して、Lを補う方法もあります。
[図1 並三の回路図を参照]

 筆者の場合はこの方法でL不足を解決して、下端は丁度 531kHz になりました。 Lが決まれば、バリコンを全部抜いた状態でカバーする上端の周波数が決まります。 バリコンの最小容量=Cmin 約 15pF 、配線および検波管の入力容量等=Cs 約15pF として、

     531 kHz x SQRT {(Cmax+Cs)/(Cmin+Cs)} = 531 x SQRT{(335+15)/(15+15)}
     =: 1,814 kHz

と 1,800kHz 辺りになります。 上端はナリユキまかせでも別段構わないのですが、どうしても気になる方は半固定のトリマーキャパシタか適当な固定キャパシタ、またはビニール線を二本よじった代用キャパシタをバリコンに並列に接続して Cs を増やし、上端を 1,610kHz 位に抑えればよろしいでしょう。 「アンテナコイル」は同調コイルのグランド側の反対側に、同調コイルと同じ方向に10〜15 回程度巻き、被覆をハガしてラグにハンダ付けします。

 中波用コイルの自作をマスタすれば短波用のコイルもどうということはありません。 Lが少ないので巻数が少なく、作りやすい反面、高い周波数では調整範囲が 1/2 回など微妙になります。 そのような場合は、ボビンの中に予め半巻を残して、それを巻方向に合わせて曲げればLが増え、反対方向に曲げればLが減るので、受信しながら非金属の割りばし等で曲げて調整します。


6 再生検波回路の調整その他

 ここからが再生式の一番難しいところです。 ガンバリましょう。 再生回路の動作と再生コイルの調整をセットにして説明します。

6.1 動作を適正化する

 「再生コイル」は同調コイルのグランド側の上にビニールテープを巻いた上、同調コイルと同じ方向に 4〜8 回程度巻き、被覆をハガしてラグにハンダ付けします。 この巻き数は、使用する検波管の gm によっても、また同一球でも供給電圧によっても微妙に変るので、動作させながら調整が必要です。 一般に Hi-gm 管では少なく、Lo-gm 管では多めにします。

 この再生コイル(またはタップ)が検波管のカソードに正しく接続されていれば、試作機を動作させ、検波管のスクリーン電圧を変える再生調整ツマミを上げていくと、ある角度以上で「ポッ」または「サッ」と発振を開始する音がスピーカから出ます。 この状態でアンテナを接続して同調をとる〜バリコンを回すと、ピョーというビート音を伴って、どこかの放送が入感します。 そこでビート音の周波数をゼロに近くなるように同調をとり直し、発振が止まるように再生調整ツマミを下げれば、聴取可能状態であり、一応 50% は完成です。

 なお、発信状態では近所のラジオに一斉に妨害電波を捲散らすことになるので、速やかに調整ツマミを戻して発信状態を止める必要があります。 筆者の場合は、再生コイルを本来の同調コイルの下に追加して、タップを出した状態にして、UZ6C6 (=UZ57/UZ77) の例では 5回巻で OK でした。

[図1 並三の回路図を参照]

 もし、全く発振を開始しない場合は、再生コイルの向き(位相)が逆の可能性があります。 点検して再生コイルに接続した二本の線を入れ替えれば解決します。 次に、大変悩ましい下記の調整を行います。

(1) バリコンがどの位置にあっても、円滑に発振できないと、バリコンを回してカバーできる周波数全部を感度よく受信できないので、受信機としては未完成です。 再生コイルの巻き数が少ないか、またはスクリーン電圧が不足だと、バリコンが一杯に入った部分で発振が開始できません。 これを巻き足しにて解決します。

(2) 再生コイルの巻き数が多いと低いスクリーン電圧で発振を開始してしまうため、検波段のゲインが十分にとれません。 更に極端に巻き数が多いと、ソフトな発振ではなくブロッキングを伴うビロビロ発振となる場合もあります。 いずれも、巻きもどしでこれを解決します。

 最終的には、上記の(1)(2)のカネアイで、バリコンのどの位置でもガマンできるような再生コイルの巻き数を見つけるのがこの調整です。 場合によっては巻き足しすることも必要です。 従って予め多めに巻き、様子を見ながら少しづつ巻きもどします。

6.2 オリジナル再生回路

6.2.1 実験機の回路形式

 実験機の再生検波回路は、同調回路からタップをとりカソードに帰還をかける Hartley 式発振回路の発展形である ECO 回路(Electron Coupled Oscillator)です。  計画段階では、調整の便と受信周波数への影響排除を考慮して再生コイルを別巻線としました。 動作上では別巻線とタップは等価です。 結合度を加減するため、同調コイルから直接タップをとるならば問題はありません。 実験機の場合は、タップ位置の調整のため巻数を加減するため、受信周波数に影響します。
[図1 並三の回路図を参照]

6.2.2 オリジナルの回路

 前述「5.4 コイルの自作」の項にて予告した、オリジナルの並四コイルとの違いは再生回路方式の相違にあります。 以下にその相違を説明します。  オリジナルの並三/並四の再生検波回路では、検波管のプレートに漏れ込む高周波成分を同調コイルに結合するための再生コイルを巻き、同調コイルとの結合度は小容量 (50pF 程度) のバリコン=再生用豆コン=で加減する、オーディオでは P-G NFB に似ているけど、実は逆の PFB 正帰還回路でした。

rx0v2_4.gif

6.2.3 オリジナルから変更した理由

 実験機の計画に際しては、再生用豆コン=小容量バリコンは秋葉原でも入手が困難なことを考慮して、オリジナルの再生検波回路(グリッド同調回路)を変更し、前記の ECO 回路にしました。 実験機の結合度調整を、プレートからグランドに落とす小容量の固定キャパシタをバリコンにて調整する方式(豆コン方式)にすれば、オリジナル回路に近くなりますが、それでは小容量バリコンの入手課題は解決できませんので、再生の調整はスクリーン電圧を加減する方式にしました。

6.2.4 再生回路の比較

オリジナル回路方式の方が、検波管のスクリーン電圧を高く一定に保てるので、感度はすぐれています。 しかし、結合度の加減により受信周波数が若干ズレる欠点があります。 短波帯ではズレが大きくて使い物になりませんので、実験機に適用した再生回路が使われます。

6.2.5 オリジナル回路を実験するには

 もし、余剰の(普通の)バリコンをお持ちの方は、適当な (80pF 程度の) キャパシタを直列に入れ小容量バリコンの代用にすれば、オリジナル回路の実験が可能です。 この場合、実験機と同様に再生コイルは巻く方向に気を付けて 10〜20回程度巻き、ほどきながら様子を見て調整することになります。 Hi-gm 管では少なく、Lo-gm 管では多めにするのも原理は同じです。

6.3 再生検波の操作

 バリコンを回して受信周波数を変えると、最適スクリーン電圧(オリジナル回路方式では所要結合度)が変るため、都度再生調整ポテンショ(オリジナル回路方式では豆コンの角度)を調整する、発振状態の適正化操作が必要なのが再生検波方式の最大の欠点です。 この操作は大変煩わしいのですが、昔はバリコンと再生調整ツマミを両手で同時に微妙に操作して、放送周波数帯や短波の放送周波帯を上から下へ、下から上へとかき回すのが楽しみだという名人クラスの方もいました。

6.4 周波数の測り方

 これまでの記述は、あたかも受信周波数を計測したかの様に表現していました。 勿論受信した放送局の周波数はそのものズバリですが、波の出ていない周波数は判らないではないか、停波する夜中はどうするの?と言う質問が出るでしょう。 この質問に対しては、手持ちのラジオ等にて、かなり正確な周波数の計測が可能とお答えします。 方法は至って簡単です。 高周波オシレータは無くてもいいのです。

 まず、読み取り精度の高い、すなわち受信周波数とダイアル目盛との一致度が高い中波放送受信機を検定機として用意します。 検定機は、パワーをいれて所定の周波数にて受信状態に置き、ヴォリュームを上げておきます。 一方並三実験機を発振状態にして、同調ダイアルを下から上へ、またはその逆に回してみると、周波数が一致した点で検定機からシューバサッと受信音がでます。 このときの周波数が実験機の受信周波数です。 シンセサイザ・チューナの検定機なら、周波数がバッチリ、ディジタル表示されます。 但し、実験機が発振状態にないと、すなわち再生回路がうまく調整されていないと、この計測法は成立しません。

6.5 アンテナ入力の加減

 ゲルマ・ラジオを経験した方はご存じの通り、ゲルマ・ラジオや実験機のように同調回路が一つしかない受信機では、アンテナ入力が大きい場合、同調を外しても(離調といいます)その信号の裾野が広く他の信号に重なって受信されます。 その裾野を狭くする、否、実際は狭くならないけど影響を軽減する方策は唯一つ、それはアンテナ入力を絞ることしかありません。 絞り方には下記の方法があります。

●アンテナを短くして、信号入力を絞る。
●アンテナ端子からアンテナコイルに至る間に可変抵抗を直列に入れ、入力を絞る。
●アンテナ端子からアンテナコイルに至る間にバリコンを直列に入れて入力を絞る。
●アンテナ端子とアース端子の間にポテンショメータを入れて、可動端子からヴォリューム加減のスタイルにて、絞ってアンテナコイルに入力する。

 最初の方法は、ちょっと実用的ではありません。 二番目の方法は実用的です。 三番目の可変抵抗の代わりのバリコンは高く付き、グランドから浮かせるので取り付けが面倒です。 最後の方法は、常時ポテンショメータがアンテナコイルに並列にはいり、気持ちが悪いのですが、中波放送帯ならば無視してもいいでしょう。 二番目または最後の方法の、可変抵抗またはポテンショの抵抗値は、実験で決めて下さるようお願いします。 おそらく 500Ω見当だと思います。

 信じ難いことですが、実はこのようなアンテナ入力加減装置は並三、並四にはありませんでした。 安い製品では音量調整ツマミもなくて、やむを得ず混信の少ない側に離調して音量調整を代用していたのです。 ホントですよ。


7 最後に

 40年位前までは、みなこのようにして AM 放送を聴いていたのです。
 再生検波という発振回路を組み実験することによって得た知識・経験が、アンプの発振原因を追及し、防止対策する際にも役立つことでしょう。
 いかがでしょう、試しにやってみませんか。 貴方はタイムトンネルを通って、40年前の自作受信機の放送リスナーに戻れるのです。


*** 改訂記録 ***
(1997.03.25):初版
(1999.11.30):文章の整備〜表現の補足等。 不完全な ECO 回路のボティエフクトにつき補足。
        本html から link する画像の symbol を整理・変更して統合。
(2001.10.31):表現の補足・訂正等。
(2004.06.06):使用するバリコンにつき補足、誤字訂正等。
以上