30V の B 電圧で動作するアンプの試作

2004/07-2005/01  宇多 弘
lbamps.jpg
6080 cathode follower pp/ temporal power supply/ Driver amp/6Y6GT(T) cathode follower pp

1 低 B 電圧アンプの試作経緯

 B 電源電圧が 30V 以下の真空管アンプを作る・・・と言う宿題を貰いました。 制限事項は下記です。(2004/07)
 (1) 真空管終段のプレート〜カソード間の Ep ではなくナマの B 電圧 Ebb=30V 以下
 (2) SRPP/SEPP それぞれ 30V 構成は対象外・・・やるなら、上下足して 30V?

 低い電圧で動作する出力管は、規格表上では相当種類があります。 
 たとえば、(1) 電池管一族、(2) 12.6V 動作一族、(3) 30V 以下で動作の少数派 26A7, 28D7
 しかし、どの球も出力は 100mW 前後が精一杯、また入手可能性および価格も心配です。
 それなら (4) 入手可能な普通の傍熱管で可能性を探る・・・手っ取り早く実験価値もありそうです。

 規格表の Eb-Ib 特性図をチェックすると、三極管または三極管接続によるゼロ・バイアス Ecc=0V、プレート電圧 Eb=30V の条件にて、プレート電流が Ib=30mA あたりの一群の管種がありました。 これらなら何でも使えそう、中には Ib=100mA を超えるものも見つかりました。 これらを所定の動作点にて鳴らすことができれば目的を達します。 基本的には低電圧領域での強い非直線性を吸収すべくプッシュプル構成としました。 
 なお参照した規格表は 一木典吉氏著「全日本真空管マニュアル」ラジオ技術全書002A ラジオ技術社 です。


2 基本構想

 対象となる出力管を選定しました。 Eb が低いので専ら Ib で稼ぐことを考慮します。 早速、下記の条件に適合する一般的な管種を表に掲げてみました。(2004/07)

  (1) 規格表に Eb-Ib 特性図が記載されたものの中から 
  (2) Eb=30V/Ecc=0V 条件にて Ib=25mA 程度以上の 
  (3) 入手が容易な三極管、または多極管の三極管接続  

 多極管の三極管接続では、水平偏向出力管は概ね含まれ、一般的なオーディオ出力管では低電圧動作が前提の一部の球が含まれます。 さらに小 Ip なら殆どすべての出力管等が含まれます。

表 三極管および三極管接続の Eb=30V/Ecc=0V における Ib(mA)
三極管
Ib
GT/三極管接続
Ib
MT/三極管接続
Ib
6DE7(2)
32
6DQ6A
38
6AS5
25
6EM7(2)
40
6W6GT
25
6CW5
32
12B4A
32
6Y6GT
25
30A5
28
6080/2
100
12G-B3
50
50C5
35
6336A/2
130
25E5
40
50EH5
23
但し 6DE7(2) は Pp=7W、6EM7(2) は Pp=10W、6080=6AS7G、25E5=6CM5(6.3V)


3 回路構成

 もっぱら実用性・再現性・低コスト・入手の容易さを第一目標にして、適用する管種は特殊なものは避け、ゼロ・バイアス PP 回路構成を前提にプレビューしました。 (2004/07) 

● 前提条件 (2004/07)
 (1) ゼロ・バイアス前提でグリッド電流は当然大手を振って流れる。 ドライバーには A2 級および B 級ドライブに
   対応できる規模があれば完全。 簡単にパワー IC およびトランスを併用したトランス・ドライブとする。     
 (2) となると、プラス側とマイナス側とではグリッド電流もプレート電流もアンバランスが生じ、シングル・アンプでは
   音質が問題、これはプッシュプル (PP) で解決する。 従って、パワーも得やすくなり、実用性も向上する。   
 (3) Ep が低い分大 Ip を流して出力を得る必然性あり、結構大きな出力トランスが (OPT) が必要となる。 
   しかも低電圧大電流なので負荷インピーダンスを低くとる必要があるかもしれない。

● ドライバー段 (2004/07)
 別項に示した CV18/ 6N7(GT)/ UZ79 の A2/B 級アンプのドライバ段と同様の構成です。 パワ−IC philips TDA1552Q の出力を、愛用の小型出力トランスの 600Ω/8Ω版を一次二次逆に使用してドライブします。 本トランスをチャネル当たり二個使用し、一個は正相、他は逆相動作とします。 接続方法は、周波数特性を考慮して巻き線の少ない接続上の一次側 (0-8Ω) を一方のみ逆 (8Ω-0) に並列とし、分布容量などがより関係しそうなインピーダンスがより高い接続上の二次側 (0-600Ω) は本来の接続とし特性を合わせます。 ドライバ段のパワ−IC、その電源およびドライブ・トランスを別のケースに組み込みました。 600Ω出力4組みを独立に引き出せるようにコネクタを装備して、G2 ドライブおよび SEPP ドライブにも対応可能としました。

● 電源回路 (2004/07)
 電源回路は極めて簡単です。
(1) ヒーター電源
  6.3V5A にて、6080 (6AS7G) を二本、または 6Y6GT を四本
  点火します。 これだけあれば大抵の中形出力管なら四本点火できます。 
(2) B 電源
  24V1A のトランスをブリッジ整流して、6800uFx4/10Ω によるπ型フィルタを通しました。 
  他に電圧調整用に 1〜10Ωのドロッパ抵抗を挿入しました。
(3) ドライバ段電源
  DC15V1.5A のスイッチング・レギュレータによる AC アダプタを利用しました。


4 試験対象管種と試験経過

4.1 単三極管/双三極管

 種々の要素があって迷いました。 6336/6336A は最大なるも、大きな Ip を収容できる出力トランスが必要となるので見送り、入手容易な 6080 を代表例に選びました。 これが合格すれば、各種双三極管・単三極管も同様に動作試験できることになります。

4.1.1 最初の試練

 最初試験したのは、素直なグリッド信号入力・プレート負荷の出力トランスを接続したゼロ・バイアス PP 回路でした。 出力トランス (OPT) は東栄変成器の OPT-20P を用意して SG タップによるローインピーダンス対応を考慮しました。 Ebb=29V にて Ib=75mA 近辺で一応動作はしました。 しかし微少音量ならともかくも、少し出力をあげると鼻つまり音で NG、ガッカリでした。  
 そこでもしや?と思い付いたのがカソード・フォロワ PP 回路です。 配線を変更して信号はグリッド〜グランド間に入力、プレートはナマ B 電源に接続、カソ−ドを OPT に接続して中点をグランドしました。 動作試験では「普通の音」がでてきました。 2004年 7月上旬のことで、出題から早くも一週間が経っていました。
 「普通の音」・・・カソード・フォロワだから、カソード電圧はグリッド電圧に追随して、波形が崩れにくい筈です。 また実際に、半導体アンプではコンプリのエミッタ・フォロワまたはソース・フォロワの SEPP 構成ですね。 負荷の OPT を SG タップに変更してみると出力が低下するので、ローインピーダンス対応は不要、OPT を春日無線変圧器 OUT-6635P に変更しました。 試聴の結果、二次側は 16Ωタップを選択しました。
 B 電源のドロッパ抵抗を加減して Ebb=28.6V とすると1ユニット当たりの Ib=64mA、調整余地があるも、制限事項の Ebbmax=30V に若干の余裕を残して一応完了としました。 出力を増やすにはグリッドに+バイアスを掛ける余地もありますが、+半サイクルではグリッド電流が結構流れそうで、四系統独立の+バイアス電源が必要、動作点を現状より+側に寄せると歪みが増えるかも知れません。 パワーを搾り取ることは本実験の目的外であると、見送りました。 

4.1.2 早速の拡張と一般化

 6080 はソケット接続が一般的な GT 双三極管と同じであり、別項に示した「スーパーユニバーサル C/R 結合超三結アンプ」にて挿し換えできる GT 管およびミニチュア管の双三極管または単三極管が、そのままあるいはアダプタを利用して直ちに片チャネルの動作試験ができ、アダプタを二組用意すれば全部を挿し換えて試験ができます。
 カソード・フォロワの PP にて GT 双三極管の 6SN7GT, 6BX7GT, 6BL7GT, 5998/5998A は、そのまま挿し換え試験ができます。 また、ミニチュア双三極管または単三極管の 12AU7/12BH7A, 6350, 5687/7044, 12B4A, 7233 それに GT 管の 6EM7(2) は、上記アンプにて挿し換える双三極管アダプタを利用して、直ちに片チャネルの動作試験ができ、アダプタを二組用意すれば全部挿し換えて試験ができます。 

 また 6080 アンプのソケットに 6Y6GT の三極管接続を二本挿し換えできる「三極管接続ペア・アダプタ」を作り、動作試験できるようにしました。 これを利用すれば、ヒーター電流の容量さえ許せば、大抵の 6.3V 出力管を挿して動作試験ができます。
 但し 6CA7/EL34 は 1.5A、四本灯すと 5A のヒータートランスが容量不足となり(短時間か片チャンならセーフです)、またピン1=G3 の配線が必要となり 6G-A4 とはアダプタを共用できませんが・・・
 調子に載って、さらにプレートキャップ付きのアダプタに着装した 6DQ6B を、三極管接続ペア・アダプタに2本「屋上に屋を重ね」て着装し動作させたら、さすがに Ebb=30V のカソード・フォロワと言えども、プレートやグリッドの線が錯綜して発振ぎみでした。 そこで、6080 ソケットのグリッドに低抵抗を入れたり、6DQ6B アダプタのプレート線にパラ止めを入れたり、三極管接続ペア・アダプタのプレート、SG にも直列抵抗を入れて抑え込みました。 これで安定化して「何でも来い」となりました。

 実試験では上記の一部に止め、なおかつ個別に Ip は計測せず、挿し換えて音質に異常がないことを確認するに留めました。 Ip 値は、前記の出力トランスによる自己バイアス効果、それに B 電源電圧によっても前後するでしょう。 さらに各管種の個体差があり得ます。 これまで試験した数例から類推すると、前掲の「Eb=30V/Ecc=0V における Ib」表の 60%〜70% の範囲と考えられます。  
 また種々の出力管に対応するため、負荷インピーダンスの調整範囲を広げるべく、ミノムシクリップにて出力トランスの二次側のタップを選択可能に変更しました。(2004/09)

 後日「グリッド接地 (GG) PP 回路」はどうかな、と思い付きました。
 (1) カソ−ド〜グランド間にドライバー・トランスで信号入力、グリッドはグランドに、プレート負荷・・・
  だがしかし、ドライバー・トランスの電流容量および直流電流対策(エアギャップ)を考えると、
  カソード電流を 50mA も流したら飽和して音質は期待できないでしょうね。 
 (2) それでは大袈裟だけど 2ユニットを使い、最初のユニットはカソード・フォロワとし、
  チョークコイルによるカソード結合にて GG のユニットをドライブする案はどうでしょうか? 

しかし、すでに単純なプレート負荷では NG だったから、いずれの案も NG でしょう。(2004/09)

l6080cfp.gif
上記回路図では グリッドを傷める可能性があります。

 なお、カソード・フォロワ負荷 OPT の一次巻き線直流抵抗が若干の自己バイアス抵抗として作用します。 一般に一次巻き線直流抵抗は、製品ごとに色々な値であり、自己バイアス電圧 Eg 〜それに影響されるプレート電流 Ib は例記の通りにはならないので確認を要します。(2004/10)
 6080 および 6Y6GT(三結) によるゼロ・バイアスのカソード・フォロワ PP 回路が一旦完成して、本ページを製作し掲出しました。 勿論、最初に定められた制限事項二項目の範囲内です。(2004/07) これでしばらく実用していたのですが・・・(2004/10)

4.1.3 設計・検査誤りの発見

 ある日 B電源のスイッチを入れ忘れているのに、6080 カソフォロ PP が鳴りはじめてビックリしました。 すなわち Ebb=0V でも音質が若干悪化するもソコソコに鳴るのです。 さらに B電源を ON にすると、出力が上がり音はシッカリします。 直ちに動作状態の問題・・・検査不足、遡れば設計不良、かつ筆者の思い込みであったことが判明しました。 要するに・・・(2004/10) 

 (1) 試作アンプは、純粋なカソード・フォロワ動作ではない。 何故ならば・・・
   ゼロバイアスでのカソードフォロワ動作では、ヒーターが点っていれば、グリッド電流は流せる。
   グリッド〜カソードの二極管が、ゼロバイアスでは Eb=0V でも入力信号の+半サイクルの間は
   整流動作であり、スピーカが鳴る程の電力で、グリッド損失を伴い焼けて危ないかも・・・
   ● 簡単なパワー IC と入力トランスによる強力なドライブが、二極管としての大振幅動作を助長した。
   ● 現状の構成による動作では、制御グリッド (G/G1) の許容損失を超える可能性があった。
    ピークにて 20V 程度の信号電圧がグリッド〜カソード間に掛かり、数十mA の可能性があった。
    一般に受信管の Pg1 は規格表に記載なく、送信管の 6146 は 1W、6360 は0.2W、
    受信管の送信管用法例では、許容 G1 電流は数 mA 程度、連続定格動作ではすでに危険範囲かも。

 (2) Eb=30V では+/−半サイクルともにカソード・フォロワ動作しうる。 
   ただし+半サイクルでは飽和しているかも。

 (3) 上記両者は、カソードに挿入された出力トランス負荷を共用して分離できない。
   ● 整流出力波形とカソードフォロワ出力波形が同一の負荷を通り、カソード回路では分離は不可能。

 (4) しかも両波整流+カソード・フォロワの PP 構成で歪みが殆ど発生せず、発見しにくい
   B電源の ON/OFF に関係なく、グリッド〜カソードで構成する直線性のよい二極管にて、入力信号の
   プラス側半サイクルを整流し、カソードに挿入の出力トランス負荷にて PP 合成、音質は低下しにくい。
   B電源 ON にては、カソードフォロワ動作が有効になり、入力信号のプラス・マイナス側ともに
   電圧電流変換して出力トランスにて PP 合成する。 本来カソードフォロワ動作は波形を崩しにくい。
   ● 歪みへらしを意図した PP 構成が、その真価を発揮?して結構音質がよく、発見を遅らせた。

 (5) 上記の (1) 動作を、精査せずに正常なカソードフォロワ動作と誤認して疑わなかった。
   しかるに、PP 回路の片一方側の波形を観測すれば・・・トランスのリターン・・・グランド側で、
   グリッド電流を監視すれば不具合を発見できた筈である。
   シングルなら、プラス半サイクル波形にて上半分がつよく、音が歪んで直ちに誤りを発見したであろう。

ということです。 筆者による動作試験時の精査不備にて、上記の設計不備に気がつかず甚だ恐縮です。
  Ebb=0V では、むしろ「全波整流アッテネータ+インピーダンス整合」動作のマイナスゲイン・アンプ?です。 B電源 ON ならアンプの機能を持つも、特に小型管の場合には、グリッドが過熱して傷める可能性があっては、設計不備です。
 ただし上記の動作状態であっても、課題の制限条件である、

 (1) 終段のプレート〜カソード間の Ep ではなくナマの B 電圧 Ebb=30V 以下
 (2) SRPP/SEPP それぞれ 30V 構成は対象外・・・やるなら、上下足して 30V?
のいずれにも抵触せず、依然として

 (3) 前段〜ドライブ段に関する仕様には特段の制限なし・・・パワ− IC によるドライブ・アンプは合格、
 (4) 真空管終段の回路形式は問わず・・・カソードフォロワ動作も、標準的な PP 動作も、その組み合わせも合格。

 形式的には セーフ ですが、設計不備な回路では自主的に アウト とせざるを得ません。
 従来の概念である、十分に高い B電圧と十分に深いグリッド・バイアスによるカソード・フォロワ動作ではこのようなことは起き得ないので、上記の状態を想定し得なかったとは・・・済んだことですが、より厳密な検討および計測を経るべきであったと悔やまれます。 初期の実験で発見したゼロバイアス・カソード・フォロワ PP 回路自体はバッチリ正解でしたが、ドライブ・トランス使用の回路実装に問題があったのですね。
 以上、マサカとは思いますが同じ誤りを繰り返して頂きたくない一心、恥を忍んで追加記述しました。(2004/10)

4.1.4 取りあえずの仮処置

 急遽、とりあえず確実に動作する一般的な PP 回路・・・マイナス・グリッドバイアスおよびプレート負荷による標準的な A級 PP 回路を試しました。 μ=2 の 6080 を Eb=30V で最大出力になるように振るには、Ec=-10V 辺りの動作点設定が適切と考えました。 Eb-Ib 特性図から読み取ると Eb=30V, Ec=-10V にて約 25mA の動作点となります。 早速固定バイアス電源を追加して、カソード・グリッドおよびプレート周りの配線を変更しました。
 前段はパワ− IC ドライブ・アンプをそのまま利用しました。  実際には OPT の R が影響して若干 Eb が低くなり Ip が予定より減ったので、各ユニット共に Ec=-9V にて約 20mA の動作点に設定しました。 さらに固定バイアスを少々前後しても音質的には大差ないので OK としました。 この状態にて概算出力はプレート入力 30Vx40mA の 25% として 300mW 見当です。
 鳴らしてみると以前の回路より出力ダウンでも、自室にてポピュラー系の音楽を聴くには十分です。 なお、各種の (双)三極管または三極管接続では各管種毎に固定バイアスの加減が必要、初期回路のような挿し換え運用はできなくなりました。

l6080pp.gif

4.1.5 さらに最終的に改修

 一方では、修復可能性を探ってグリッド電流の抑止を考え、初期のトランス結合回路に C/R 結合を併用して解決しました。 上記「4.1.4 取りあえずの仮処置」の後、アレコレと考えを巡らして、もしや?と思い付いたのが、前代未聞ながら何でもありだから「トランス・ドライブの C/R 結合」回路?!です。 ヒントになったのは後述の 6Y6GT での各種回路の模索にて試験した (5) 「抑制ゼロVカソフォロ」です。
 ○ 模索した各種の回路にて、なぜ音がスッキリしないか?、
 ○ 抑制抵抗だけではグリッド電流は完全には止まらないからか?、
 ○ トランスと抑制抵抗のインピーダンス配分では高音が失われるのか?、
 ○ それなら抑制抵抗にCを並列にすればよいか?、
 ○ それならグリッド電流を完全に近く止めるため C/R 結合にすればいいではないか?
・・・とにかく C/R 結合をやってみよう・・・です。

 通常の A 級トランス・ドライブ回路ではワザワザ C/R 結合とする必要はありませんが、それは終段管を高い B電圧および深いバイアス環境で動作させるから・・・常時はグリッド電流が流れにくい動作点にあるから、ですね。 本機のような低い B電圧環境において、ゼロバイアス近辺で動作させる場合には、グリッド・リターンが低抵抗のトランス、筒抜ではグリッド電流が流れやすく、カソードフォロワ動作を狂わせて不適当です。 そこでトランス・ドライブであるに拘わらず更に C/R 結合とすれば、カソードは素直にグリッド電圧の変動に追随して正しいカソードフォロワ動作・・・きわめて単純です。
 早速「仮処置プレート負荷 PP」アンプの配線を大幅に変更、最初に掲げた回路に加えて、グリッド回路のトランス側に 1μF のCを直列に接続、グリッド・リークに 200kΩの抵抗を接続しました。 これで出力管のグリッドは安全になります。 変更後の回路名称は「トランス・ドライブ C/R 結合ゼロバイアス・カソフォロ PP」?でしょう。

l6080cf2.gif

 早速パワー on、とりあえず音を聴いてみました。 初期の回路で得た音に比べると、スリムになりゲインが減った反面、色々やった中では素っ気なく透明、ベストのようです。 初期の回路と同様にプレート電流が大きくとれて、「仮処置マイナスバイアス、プレート負荷 PP」アンプにくらぺ、はるかに強力で聴きやすい音が得られました。 整流動作がなくなったことの確認のため B電源を切り Ebb=0V にて信号入力すると、スピーカに耳を付けて聞こえる程度のわずかなグジュグジュの歪み音が残るだけでした。 また、三極管各種および多極管各種の三極管接続についての試験条件は、改修前と変わりません。

4.2 多極管

4.2.1 初期の試験

 代表管種として 6Y6GT を選び、試験機を組みました。
 まず最初は試しに 「G1G2 ドライブ・カソードフォロワ PP」に挑戦しました。 G1 に直列抵抗 10kΩを入れて G2 に接続し、ドライブ・トランスに接続、トランスの他端は B 電源に接続したうえ、カソードフォロワ負荷として動作させて見ましたが、微少音量ならともかく、少しでも出力をあげるとミゴトに音が NG、6080 のプレート負荷回路と同様でした。 ダメついでに「G1G2 ドライブによるプレート負荷 PP」動作を思い付くも、同様に NG だろうな・・・確認試験では予想どおり NG でした。
 そこで三極管接続に手戻りしました。 プレート負荷 PP 回路は既に 6080 で NG が証明されているし、グリッド接地 PP 回路は対象外なので、無条件にカソード・フォロワ PP 回路に変更、Ebb=29V にて Ib=24mA 近辺の動作となりました。 当然、普通の音が出ましたが 6080 にくらべると力不足でした。
 なお回路図は三極管接続部分を除き、前掲の 6080 回路図と同一であるため省略しました。(2004/10) 
 代り映えしないけど、Ebb=30V 環境では三極管接続でしかもカソード・フォロワ PP 回路とするしか適当な回路方式はないのかなぁ・・・と思いました。 
 これで多極管の試験もクリアーしたので、アダプタを使えば「スーパーユニバーサル C/R 結合超三結アンプ」に適用できる各種 6.3V1.25A 以下のオーディオ出力管および水平偏向出力管がカバーできます。 6080 のソケットにアダプタ併用にて挿し換えすれば、同じ試験環境となるので、 6Y6GT 三極管接続試験セットはお役御免、一旦は分解したのですが・・・

4.2.2 改修回路の模索

 6080 アンプでの失敗は大ショックでした。 そこで分解した 6Y6GT (三結) PP アンプも対象に救済方法を模索すべく、急遽復帰させ下記各回路の Ebb=30V 動作概要を調査しました。 

 (1) マイナス固定バイアスによるビーム接続による Esg=Ep プレート負荷 A級 PP、
 (2) 同じく固定バイアスの、三極管接続プレート負荷 A級 PP、
 (3) G1接地の G2 ドリブン PP では G2 供給電圧をブリーダにて何とおりか加減、
 (4) G1-G2 ドリブン PP、G1-G2 間に 10kΩ、G1-G2 供給電圧をブリーダにて加減、
 (5) 初期の三極管接続回路の G1 に直列抵抗を挿入して、プラス半サイクルのグリッド電流
   を抑制し、純粋のカソードフォロワ動作に近づけた「抑制ゼロVカソフォロ」回路

 上記 (4) の G1-G2 ドリブン PP は以前の実験にては NG だったけれど、可変供給電圧にて再挑戦しました。 
 どの回路も一応使える程度には鳴ってくれるけど・・・・ノイズ気味で音が気に入りません。 また上記 (5) の抑制ゼロVカソフォロでは、直列抵抗を 10kΩ/56kΩ/200kΩ と増加していくと音質が改善されるも (1)〜(4) には負けました。 
 総合評価では、(1) プレート負荷 A級 PP の端正さ、または (4) G1-G2 ドリブン PP の少し大きい出力かなという程度でした。 また 6080 の抑制ゼロVカソフォロ化改造は、上記 (5) の結果から一旦は期待薄かなと思いました。 6Y6GT と併せてアダプタ着装の 6G-B7/6CU6 への挿し換え比較でも、大差はありませんでした。  なお上記それぞれの回路図は省略します。  

 ところが・・・どうしてどうして、(5) が大きなヒントになって、 前記の 6080 の課題が一気に決着したのでした。
 ついでに 6080 と同一回路、すなわちパワー IC トランス併用の C/R 結合、三極管接続カソフォロ PP 回路を仮組して動作を確認、音質と出力を点検しました。 なお回路図は三極管接続部分を除き、前掲の 6080 回路図と同一であるため省略しました。(2004/11)

4.3 おまけの動作確認4例

 代表管種の問題が一応片付いたので、幾つかの類似回路構成および類似管種による簡単な動作試験を行いました。

(1) 6EM7 #1/#2 (2004/11)
  6Y6GT (三結) PP アンプは、ソケットおよび OPT を残して一旦分解、下記の構成にて 6EM7 PP アンプとして組み直し、電圧増幅回路によるドライブ段との組み合わせ例として動作確認しました。 回路図は省略します。
  (a) 外部電源には 250V40mA を追加、
  (b) ドライバー段にはパワ− IC ドライブ・アンプを使わず、山水の Tr アンプ用トランス ST-24 にて
    代用「ライン入力トランス反転」して、#1 ユニットは Ebb=250V の動作抵抗負荷による電圧増幅回路、
  (c) #2 ユニットは 1μF/200kΩ の C/R 結合による Ebb=30V ゼロバイアス・カソフォロ PP 動作。
 出力段である #2 ユニットの動作点は 30V 22mA にて音質的な問題はないものの、6Y6GT PP アンプに比べて出力不足でした。 

(2) 6SL7GT/2-6080/2 (2004/11)
 更に上記 (1) の類似構成として 6EM7 の#1 ユニット部分を 6SL7GT/2に、#2 ユニット部分を 6080/2 に変更、動作確認しました。 パワー IC によるトランス〜C/R 結合ドライブに比べて最大出力が落ちました。 上記 (1) の 6EM7 例も含め、高インピーダンス電圧増幅ドライブでは、どうやら励振不足のようでした。 回路図は省略します。

(3) 6BY5-GA (2004/11)
 ついでにと、独立二極管を2ユニット封入した整流管 6BY5-GA を2本使って、ヒーター点火のみの整流式 PP 回路にて動作させました。 負荷のミスマッチか管内電圧降下でしょうか、不備回路にくらべるとやや荒れた音でしたが、音楽を聴くには支障はありませんでした。 回路図は省略します。

(4) 6080 回路変更確認 (2005/01)
 一旦完了した 6080 「トランス・ドライブ C/R 結合ゼロバイアス・カソフォロ PP」の出力を増やせないかと考え、信号をグリッド〜グランド間入力からグリッド〜カソード間に変更し、早速動作させてみました。 出力は大差なく、少し歪みが増えました。

l6080cf3.gif


5 できぐあいと感想・・・

5.1 とにかく動いてよかった (2004/07-09)
 Ebb=30V に対して、QRP 発想で対応すれば 100mW 級で完成することでしょう。 それはそれで一つの正解例です。 しかし種々の管種の Eb-Ib 特性図を見ると、1W 程度とれそうなものもあることだし・・・と、やってみたら何とかなりました。 本実験が早期に完了した背景には、A2 級〜B 級アンプ用のパワ− IC ドライバによるトランス・ドライブが役立っていました。
 挿し換えればどの管種もカソード・フォロワ PP、音質的には特徴が失われれて寂しい限りです。 しかしながら省エネアンプおよび簡易チューブ・チェッカとしての存在は認められることでしょう。

5.2 改修を経て、改めての感想 (2004/10)
 何が幸いするか判りません。 B 電源スイッチを別に装備し、いれ忘れにて回路の不備を発見、追い回して解決策を見付け「バンザイ」は回避できて、大変ラッキーの連続でした。 もし別装備せず、またはいれ忘れせず・・・と思うと血が逆流しそうです。
 初期実験にて発見?したゼロバイアス・カソードフォロワ PP 回路は、その時点にてすでにイイ線に達していたのですが、詰めが甘く・・・精査とレビューを怠り設計不備の発見が遅れ、また手抜き構成のトランス併用パワ−IC ドライバー段では、グリッド電流を流す A2/B 級動作との混同が加わって、遠回りしてしまいました。
 初期に Eb-Ib 特性図から 6080 を Ebb=30V 用の終段管として直感的に選びました。 これで作ってみるとパワーが得られ、一本に2ユニット収容して省コスト、省スペース、容易な入手・・・大飯食いのヒーターはともかく、能率の低いスピーカでもある程度は実用に耐えそうで、ほぼ正解かなと思っています。

以上

改訂記録
2004/08:初版
2004/09:改訂第1版:出力トランスの交換、6Y6GT アンプ運用停止
2004/10:改訂第2版:Ebb=0V 動作、模索、改修、追実験等につき追記
2004/11:改訂第3版:三極管接続ペア・アダプタにつき補足追記
2005/01:改訂第4版:追加の回路動作確認、文章構成の整理、分解・転用