2SK3689-01 D-K NFB アンプの試作

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2012/07 宇多 弘

1 試作の経緯

1.1 発生時点
 実は 2006年に MOSFET の 2SK3689-01 を数個頂戴して、早速様子見のため別項に示す試験回路 *2SK3689-01 R-div NFB を作って、一応は実用になるレベルに調整しました。
 そして、その後はフォローする機会がなく、追実験は延び延びになっていました。 前記の試験結果では、若干明瞭さが不足・・・高音の不足以外には特段の問題がみあたらず、ドライバを改良すれば一応完成するとして放置していました。
 今回はさらに真空管アンプに近いレベルに完成度を上げるべく着手しました。

1.2 今回の契機
 今回はチョット捻った試作課題が出されました。 それは「ディスクリート半導体による出力トランス付きアンプ」という基本仕様です。 
 半導体アンプと云えば出力トランス (以下 OPT) を使わない OTL アンプがアタリマエの今日ですが、嘗てトランジスタが現れた 1960年頃では、ポータプル・ラジオ等の音声増幅回路にはキャラメル大の入力トランス (以下 IPT) および OPT が併用されていたものです。 それが、今日では IC 化された OTL アンプとなり音質も一段と改善されて、大型のスピーカに繋ぐとそのまま静かに聴ける程になっています。 従って「OPT 付き半導体アンプ」とは一見時代に逆行するかのように感じますが、トランスのもつ偉大な効用を再認識する機会として、この追実験は大変意義深いものと考えます。 

1.3 過去の試作例(2012/07)
 今回のアンプ試作に先立ち、これまでに筆者が試作実験したいくつかの OPT 付きアンプ/OTL アンプの例を参照して、何らかのヒントを得ようと思い立ち、下記の一表にまとめてみました。 なおついでに今回の試作例も最後に加えました。
 表を見る限りでは、使用電源の欄から概ね (1) 高電圧小電流の動作モード、および (2) 低電圧大電流の動作モードに二分していることがお判りいただけるでしょう。 
 実際問題としては、設計の結果から使用する OPT を製作する過程を踏むのは困難です。 そこで、むしろ既製品 OPT を意識して各実験ケースを設計・調整することになった・・・(むしろ<丸ビ>アマチュアの特権的な)実態がお判り頂けると思います。  

*** ディスクリート半導体利用の OPT 付きアンプ /OTL アンプ 試作例一覧 ***
試作年
構成名称
IPT/ドライバ他
終段素子構成
OPT接続方法/(NF)
電源/ch
1
2004
~2005
球リントン・OPT シングル
(初段 6AK5/6AS6)
12AT7/2~2SC4029

12AU7/2~2SC5200
T1200x2/3kパラシリ
OPT-10S/SGタップ
54B57x2/パラシリ
100V50mA
120V70mA
100V50mA
2
2005
球リントン・OPT シングル
(初段 6AU6)
12AU7パラ~2SC3486
10WS /パラシリ
200V130mA
3
2005
OPT シングル
(初段 2SK117)
2SD864k
54B57x2/パラシリ
T1200x2/3kパラシリ
60V80mA
4
2005
OPT DEPP
ST-24 (1k-2kCT)
2SD864k x2
OPT-20P-5k/SGタップ
60V180mA
5
2005
SEPP-シングル/OTL
ST-75 x2 反転兼
2SD864k x2
SEPP-シングル 切換
独立25V500mA
6
2006
R-div OPT シングル
12AT7/2 C/R結合
2SK3689-01
10WS (D-G NFB)
130V50mA
7
2006
-2008
球リントン SEPP/OTL
TDA1552Q 8/600Ω
→P/K分割 →ミュラード
(12AU7/2~
2SC5200) x2
(中点→初段K)
独立120V300mA
8
2012
OPT シングル
7044/2 カソフォロC/R結合
2SK3689-01
OPT-10S (D-K NFB)
140V60mA
但し略称詳細
● 球リントン:田中安彦氏が考案整備した電圧増幅三極管および BJT によるダーリントン構成。
● パラシリ :OPT を二個使用し一次側並列、二次側直列によるインピーダンス調整。
● SGタップ:UL 接続用のスクリーン・グリッド端子を利用したインピーダンス調整。

メーカ別製品一覧
◇東栄変成器  :T1200(3kΩ),OPT-10S,OPT-20P 5kΩ (pp),T850-600 (8Ω/600Ω)
◇SANSUI   :ST-24,ST-75
◇ノグチ トランス :PMF-10WS
◇春日無線変圧器:54B57
◇フィリプス  :Power IC TDA1552Q 

1.4 今回の試作目標
 球リントン回路とは真空管式超三結アンプの終段をパワー BJT に置き換えたようなものですが、MOSFET の球リントン回路につき簡易試験したところ NFB の効き過ぎ傾向がみられたので「球 MOS リントン」は一旦後退、D-K NFB (所謂 P-K NFB 相当) による「穏やかな」なシングル・アンプにて様子を見ようと方針変更しました。
 前回 2006年の「様子見」試作では入力容量の問題を後回しにて「とにかく動作」する状態でしたが、今回はそれはもはや許されません。 正面から「入力容量の大きい MOSFET は、どのようなドライバーにて、何れくらいまでドライブできるのか」を確認しようと考えました。
 このドライブ方法につき簡易実装法を発見して慣例化できれば類似の MOSFET は全て制御でき、さらに終段管またはその相当管・類似管が入手できないアンプ等の場合にドライバを追加して MOSFET にて終段を置き換えて寿命を延長できる訳です。 


2 ドライバ選択、回路図

 2SK3689-01 のゲート入力容量は 2100pF とあり、その容量のキャパシタに対して如何なる周波数でも一定の電圧が印加できる出力インピーダンスをもつバッファ・アンプならば、この MOSFET をドライブできる訳です。 不明な状態からのスタート、各ドライバ候補管種のカソードフォロワにて動作状態を点検しました。 
 そこで初段 12AT7/2 のプレートを次段のグリッドに直結し、次段をカソードフォロワ・ドライバとして動作試験に掛かりました。 その結果 12AU7/12BH7A はやや力不足、5687/7044 は概ねセーフでした。 但し動作 B電圧が 140V と低いため、十分能力が発揮できない可能性があるとともに、より強力な管種が必要な場合もあるかも知れません。  
 MOSFET には色々な仕様の品種があり、やや過剰仕様ながらドライバ管は 5687/7044 をとりあえず標準としました。 一般のドライバ段では小型 MOSFET のソースフォロワ・ドライブ例もありますが、電源まわりおよびシャーシ上の配置等、管球式アンプの環境を利用してカバーしたいです。 回路図は下記のとおりです。

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3 できばえ、フォロー

 今回の試作では 2006年の初回実験よりはマトモな音を得て一旦終了しました。 いずれにしても、まだ試作ケース数が少な過ぎです。 「常套手段」を身につけた状態には程遠い状況であり、さらに多岐にわたる失敗経験とその蓄積が必要であると痛感しました。
 さらに今後としては (1) 900V 級などの、より高耐圧の MOSFET の利用実験 (2) MOSFET 利用した「球リントン」すなわち「球 MOS リントン」化実験 など、逐次開拓整備しながら、新規の応用テーマを発見し充実させていきます。  
以上

改訂記録
2012/07:初版
2012/09:分解転用
End of text