1998/09/12〜2003/01/06 宇多 弘
幾つかの真空管関係のホームページをブラウズして、半世紀前の数々の日本独自のタマに巡り会い、大変懐かしく思い出し、また私の全く知らない奇怪!な数々の球に接して新鮮な驚き!!を以ってイタク感激いたしました。
私が学生だった1950〜1960年頃、この種のゲテモノ球をしばしば秋葉原で
入手し、国産・米国系の標準 ST/GT/MT 球と混合編成して随分イジりました。
例えば RH4-ソラ による 0V1 SW 受信機、UY-36A〜39A 系 6.3V管の1V2、スーパー RX の各段では RH4/6305 によるミキサー、メタル管 61 による IF amp 等、またオーディオアンプへの活用等でした。 当時の手帳を見ると下記の球がリストされていましたが、氷山の一角をカバーしただけでした。 不良品もかなりありました。
汎用管 | ソラ (南極探検の故 西堀栄三郎氏の設計と言われる) [航空機搭載用] 〜RH2 類似 FM(2A05)A [航空機搭載用] |
H 管シリーズ等 | RH2/RH4 (検波増幅)、PH1 (電力増幅)、DH2 (双二極検波)
61 (RH2 類似 6.3V メタル)、6305 (RH4 類似 6.3V メタル) |
USA 系球 の国産化 |
UZ-6302 (6AC7 類似)、UZ-6001 (=:UZ77 低雑音)、UY-71H (71 相当の傍熱管)
Ut-6L7G (6L7 のST化)、UY-36A〜UY-39A/KY-84A (A 付理由不明) |
伝送業務系 | MC-656A (UY の4.5V RF 五極管)、CZ-501D (現在も WE310 代用として人気) |
レス GT 系 | 0.18A:12G-R4 (sharp c/o)、12G-V3 (remote c/o)、0.175A:30G-K5 |
新名称系、それに改良球、相当球 例えば 30M-P27=:30A5 / 6R-P15=6BQ5 等は、小改良またはメーカ届け出の関係で同一の名称が使えなかったかで、非対象かなとも思いますが、いかがでしょう。 しかしそれを言い出すと 6Z-P1 も 6W-C5 も接続口金が異なる 6G6G/6SA7 相当管となってしまいますね。 また例えば、電池管 25mA SF シリーズ、A 付の2.5V0.8A/6.3V/12V 球、その他の 6M/6R ミニチュア管族の相当数が、はっきり対象として定義しにくいのですが、一応グレイゾーンになりましょうか。
このようなグルーピングの発想には、独自球の埋もれた歴史と用途・開発経過
などの情報発掘が促進できないかな?、ヒョットして使用する機会があったら、参考事項はいかに?、と言う淡い期待があります。
いずれにしても平面的な分類法では完全な整理は困難で、多次元キーが必要ですが、時代、用途、命名法、利用機器との関係、類似品種などのキーによる分類が必要でしょう。
このようにやって見ると真空管研究とは、分類だけでもチョット手に負えないスケールですね。
上記の分類法は仮のもので、不完全です。 この機会をとらえ、私の独断と偏見でとりあえず国産独自球を下記のように更にザッと五通りの時代別・系統別グループに整理して見ました。
●戦前系〜1945年
電池式のラジオから、エリミネータ式に移行し、並四が家庭用ラジオの標準となった時代です。 一部の球は家庭用には大きすぎるらしく小形化が行われました。
国産電池管系 | 11/14/30/109/111 系等、使用経験がなく、判りません。 |
性能改良系ラジオ球 | (H電流低減/μ向上) 227/27→ UY-27A/UY-27B, 226→ UX-26B, 12B→12F(改良点不詳) |
スケールダウン系 | x46→ 46→ UY-46C, x47→ 47→ UY-47B |
●戦中、終戦直後系〜1955年
軍需用に多くの球が開発・製造されました。終戦後それが秋葉原にドッと現われ、標準球が入手できない場合の代用に、また修理・改造に使用されました。 表中の「トラレス」とはトランスレスの略称です。
国産電池管特殊管系 |
13x/16x 系等、使用経験がなく、判りません。 |
直熱の傍熱化系 USメタル管ST化系 6.3VST 改良系 |
6A3→ UY-6A3B (6.3V1.6A)、45→ UY-45H、71A→ UY-71H (6.3V0.8A)
6L7→ Ut-6L7G, 6H6→ Kt-6H6A, 6L6G→ UZ-6L6A UY-36A, UY-37A, UY-38A, UY-39A, KY-84A (移動用、通信業務用) 、 6F7A (軍用メタル化) |
H シリーズ等、独自系 | ソラ RH8/4/2 CH1 PH1 DH2 KH2 2A05 630x 61 UZ-6001 |
トラレス新名称系 ST トラレス改良系 ST/GT |
12Y-V1, 12Y-R1, 12Z-P1, 24Z-K2, B-37 (バラスト管)
(12V/30V 0.175A) 12Y-V1A, 12Y-R1A, 12G-C5=:12SA7, 30G-K5 等 |
JRC 独自シリーズ
電話中継 CZ 系他 | (12.6V0.18A) 12G-R4, 12G-V3 他新名称系
501D/501V, 504D/504V, MB/MC/TA/TB/TC 系 |
●戦後〜1960年の民生品
戦後暫くの間は、セットメーカの生産もままならず、戦前のラジオを修理して使った時代があり、真空管の製造が再開された時点では、少量の旧型品種対応には量産品の一部改造によるソケット互換品が宛てられました。
また、当時のケミコンの性能に問題があり、サージ電圧を避けるための傍熱型整流管が開発されました。
3Y-P1/6Z-P1 グループにはすでに 12V レス球の系統を踏襲して新名称形式が適用されていました。
2.5V 差し換え保守品種 同 差し換え傍熱三極管 2.5V0.8A 電流低減系 |
UY-24B → UY-57S (=57) の G3-K 管外コモン接続、
UY-47B → 3Y-P1 (=6Z-P1) の 2.5V 化ヒーター中点 K 接続 12A → 12AK フィラメント断線対策?、ヒーター中点 K 接続 UY-56A, UZ-57A, UZ-58A 性能は変らず |
傍熱整流管系 ST | 80BK〜80HK〜12FK (以上半波), 80K (両波) これらの球は slow start=ケミコンのパンク対策として生まれた。 |
少数派 (見たこともありません) |
ミニチュア電池管 B-01/ B-03/ B-03A 6.3V ミニチュア VH-2/ VH-3/ VH-5、サブミニ二種 |
●新名称系等1955年〜:
この時代は、民間放送と短波の民間放送がはじまり、五球スーパーに大挙して移行しました。 またモノクロ TV 放送が開始され米国系、欧州系の球が多用されました。
新名称の球は 2.5V ST, 6.3V ST/GT, レスGT, MT 管系に相当な品種数があり、戦中からあった 12V 系の 12Y-V1〜12Y-R1〜12Z-P1〜24Z-K2 にはじまり、 6A7 相当の 12V管 12W-C1 とか、マジック・アイ 6E5 相当の 6Z-E1 辺りまでは納得できますが、その以後はやや [コジツケ] 命名のようです。 実在が??な 3X-A2=2A3 なんていう名称の球も古い規格表にあります。
下記はポピュラーな品種に限定しました。
傍熱整流管 | GT:5G-K3 (半波) 5CG4/5G-Kxx 族(全波)→TV用を含む
MT:5M-K9 (半波) 5R-K16=:6CA4 (全波) |
ST ラジオ球
五球スーパー 対応 |
6W-C5= 6SA7, 同スーパー化対応 2.5V 系 3W-C5
75 の単二極管 6Z-DH3 →シングルエンド化 6Z-DH3A →カソード分離? 6W-DH3S、 同スーパー化対応 2.5V 系 3Z-DH3 →シングルエンド化 3Z-DH3A 6Z-P1= 6G6G/6AK6 |
MT ラジオ/ TV 球他 |
6R-DHVx 2-3-5族, 6M/6R TV族, 6M-HH3=6J6 改・・・/6R-HPx ・・・ 伝送業務系 6R-R8・・ |
●近代管1955年〜: (新名称系ほか)
五球スーパーとモノクロ TV 放送受像機に続いて、オーディオ(当時はハイファィ=High Fidelity の略)需要およびカラーテレビに対応する球の開発が盛んに行われました。
オーディオ系三極管 オーディオ系多極管 |
6G-A4, 6R-A2 (OTL用), 6R-A8, 6C-A10/50C-A10, 8045G (LUX) 6R-P15=6BQ5, 6R-B10, 6G-B8, 6G-B13, 6M-P20, 30M-P27 |
TV垂直偏向系 TV水平偏向系 |
6R-A6, 6R-A9, 6R-AL1, 6R-AL2 6G-B3, 6G-B6, 6G-B7, 6G-B9 |
レギュレータ系 | 6R-A3, 6R-A5 |
ハム用送信系 | S2001/S2001A =: 6146/同族 |
国内での一般民製品用の真空管製造が終ってから 30年以上経過したでしょうか。 しかし、いまでもなお第二次世界大戦の前後に製造され、あるいは改造されたラジオ受信機に接することがあります。
そのような場合に、それに使用されている真空管の生い立ちとか、それが選択された時代背景とか経緯等を類推する必要が生じます。 また逆に使用管から機器等の製造時期を類推する場合もあるでしょう。
いずれにしても、国産独自のそれも単に真空管の発達史に限定せず、ラジオ/TV 放送やオーディオを含めた音声・文字・画像情報技術史〜機器発達史〜大衆化史の一端として把握したいと考えています。