2SC5200 タマリントン SEPP アンプ試作実験
2006/02-2010/05 宇多 弘
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左側 P-K 分割型は分解しました。

1 いきさつ〜その後の経過

 パワー Tr 2SC4029/2SC5200 による「超」簡易型タマリントン SEPP/OTL アンプを試作し、改良を重ねてきました。
 実は真空管による超三結の SEPP/OTL 試作実験を以前から計画していました。 その過程では、別項に記載の真空管式出力トランス合成 SEPP 実験二例、および 2SC4029-2SC5200/2SC3486 タマリントン超三結シングルアンプ実験、2SD864(K) による簡易型 SEPP 兼シングル OTL アンプ実験が、本アンプ実験の準備工程となりました。

 「タマリントン」とは、田中 安彦氏により考案・実用化され命名された、電圧増幅三極管およびパワー Tr をダーリントン接続した回路です。 この基本的な組み合わせおよびその動作は、「単一の電力増幅三極管によるA級動作に相当する」との前提にたちます。
 筆者は原タマリントン回路に適用可能な電圧増幅三極管ドライバの品種範囲を拡張したり、動作電圧およびバイアス抵抗を加減したり、前段を加えた「タマリントン超三結」アンプとして組んだりバラしたりして、タマリントン回路が温度安定性が優れ、特段の保護回路は不要、再現性〜製作容易性〜実用性も真空管式超三結アンプなみであることを確認しました。 当然これらの特徴も本アンプの試作実験に反映しました。 

 これらの実験結果を踏まえて、終段はパワー Tr にても超三結 SEPP/OTL が構成でき、試作実験が可能であると判定して、とりあえずパワー IC およびドライバ・トランスにて位相反転兼用の前段/プレドライバ構成による本アンプの初期型を試作し、終段部分 SEPP/OTL の動作を確認しました。(2006/02) 
 その後再現性試験などを経て、重量軽減および音質改善を考慮して前段/プレドライバ部分を真空管回路に置き換えました。(2008/04) 
 さらに稼動試験を経て一応完成と判定し、本文の途中経過等を整理しました。(2008/08)


2 回路構成および構成要素

2.1 回路構成

● 終段回路の検討全般
 実用性を考慮して、一電源タマリントン回路による(エミッタ共通)SEPP とし、結果的には本来の狙いであった準超三結 SEPP/OTL 構成に到達しました。 回路構成上の要点は下記のとおりです。 (2008/04)

 (1) 初段は 12AU7/5963 の半分とし、次段の位相反転回路とは直結。
 (2) タマリントン SEPP 終段を十分ドライブするため、位相反転段はリーク・ミュラード回路、
   上下の負荷の差を少なくするためハイμの 12AT7 を採用。
 (3) タマリントン構成を単一の三極管とみなした(エミッタ共通)による SEPP 終段。
 (4) パワー Tr をドライブする真空管ドライバーは実験の結果 12AU7/5963 を選択。
 (5) 真空管ドライバーがパワー Tr のベース電流を確実に抑制するため、終段保護回路は省略。
 (6) 初段〜位相反転回路の関係により、SEPP 終段はグランド・ライン上の二階建てに。
 (7) スピーカ出力は、安全性を考慮し「中点直出し」から「出力キャパシタ経由」に変更。
 (8) スピーカ出力は、ノイズ防止などの目的にて、電源連動のリレー制御に変更。

● 回路構成上の特記事項

(1) リーク・ミュラード位相反転回路
 差動動作する上側下側それぞれの三極管のプレートに動作電圧を供給する際に、上側は抵抗負荷の電源側に SEPP の中点からの C/R 結合による信号が与えられ、その先に信号阻止抵抗器を挿入するので、その電圧降下が問題となります。 また下側は上側と同様な電圧配分とするため同じ構成とし、 SEPP 中点からの信号の代わりにグランドに落して、動作条件を一致させます。 ゲインがやや過剰で NFB を掛ける余裕が十分残りました。(2008/04)

(2) 通常のエミッタ共通回路
 検討段階では、終段をエミッタ・フォロワ SEPP にすべく、机上にていろいろ位相反転回路を検討しました。 しかし初段+位相反転段がグランド・ラインの上に立っている伝統的な真空管回路となったため、タマリントン SEPP 終段をエミッタ・フォロワ(コレクタ共通)の OTL とする回路構成が不可能、実現には一次側を分離した、特殊な低インピーダンスの出力トランスが必要ですが、それでは OTL になりません。 結局、通常のエミッタ共通回路(コレクタ負荷回路)となりました。
 DF をできるだけ改善するため、タマリントン・ドライバの Rk を少なくしてカソード電流=終段ベース電流を増やし、一方では動作電圧を下げて出力インピーダンス低下を図りました。(2008/04)

(3) タマリントン構成とその動作点の検討・決定
 終段パワー Tr のベース電流をドライバー管のカソード電流にて賄うには、ドライバ管を選択・決定し、さらにその動作を調整する必要があります。 概ね下記のステップを経て決定します。 動作電圧またはドライバー管を変更する場合には都度の調整・確認を要します。(2006/02〜)
  ◇ パワー Tr への印加動作電圧を定め、
  ◇ 所要ベース電流 (DC および信号) との関係にて最適と思われるドライバ管の諸元を決め、
  ◇ それに適合するに近い管種を選択し、
  ◇ さらにカソード挿入抵抗 Rk は現物のアンプ上にてカット&トライすることになります。

● 回路図 

 最新の回路です。 真空管のみにて構成した SEPP/OTL 回路に似てきました。(2008/04)

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3 電源装置、ヒートシンク等

 電源装置はアンプ本体とは分離、コネクタ接続による外部電源としました。(2006/02〜) 

● ヒーター等の電源
 12V2.5A 出力のスイッチング・レギュレータ式 AC アダプタ出力を、初段、位相反転段、ドライバ段のヒーター点火、スピーカ接続用の12V リレー電源、さらに空冷ファンに供給しました。(2006/02〜) 

● 初段+位相反転段用の電源
 いずれも終段 SEPP 向け B電源では低すぎるので、L/R 両チャネル共通にて二次側 220V30VA 程度のセパレ−ション・トランスの出力をブリッジ整流して 280V80mA 程度を得ました。(2008/04)  

● 終段動作電源
 一次100V/二次115V〜100VA のセパレーション・トランスをブリッジ整流、π型フィルタを経て140V/DC を得ました。 同一仕様の L/R 独立電源としてクロストークを回避しました。 タマリントン構成ではパワー OFF 時にドライバ管のヒーターが冷えると終段パワー Tr の導通もなくなり、チャージが残るので AC100V リレー normally-close 2接点に L/R それぞれ 1kΩ10W の放電抵抗を用意し、停電時および誤って AC プラグを抜いた場合にも急速放電が可能としました。(2006/06〜)

● ヒートシンク等
 写真に示す通り、180x30x50mm 程度のヒートシンク一個にパワー Tr一個を着装、二個をセットにして低速に回転調整した 80mm ファン一個で上から吸い上げ空冷とし、真夏の昼間でも触れることができる放熱効果を得ました。 (2006/06〜)


4 動作点調整、温度ドリフト、パワー ON/OFF 課題

● 初段〜位相反転段の動作点〜動作電圧の点検
 直結部分の電圧を点検し、位相反転段の K-G 間の電圧が 1V 近辺になるよう、初段の負荷抵抗を若干加減しました。(2008/05)

● 終段電圧バランス
 初期にはドライバ段 Rk を調整可能とし、点検の結果では差が少ないので固定に変更しました。 ところが組み直した終段パワー Tr ではバラ付きが大きく、数%位のアンバランスが生じるので、再度ドライバ段 Rk に 50Ω程度の可変抵抗を直列に挿入して微調整可能に変更しました。(2008/05)

● エミッタ電流の温度ドリフト
 構造的に「オーブン式恒温槽」に入っており安定している真空管ドライバが、終段パワー Tr のベース電流浮動を抑えて温度安定性確保に寄与しているようです。 パワー ON 直後は Ie がやや少なく、ゆっくりと 10% 程度まで増えて平衡し、室温変動でもヘヤードライヤによる加熱試験にもあまり影響を受けませんでした。(2006/05〜)

● パワー ON/OFF 時のスピーカからのノイズ等の課題と対応(2008/04〜)
(1) スピーカ・スイッチまたはスピーカ・リレーを使わずに、本アンプにスピーカを接続したまま
  パワー ON する場合、スピーカ端子間に数V の DC 電圧が現れて揺れるも異音およびコーンの揺れはなく、
  問題は起きません。 但しスピーカを外してパワー ON し、スピーカ端子の電圧を監視すると、
  しばらく揺れる 50V 以上の充電電圧が現れ、その緩和に180Ωの抵抗をスピーカ端子に加えました。 
(2) スピーカ・スイッチまたはスピーカ・リレーを使わずに、本アンプにスピーカを接続したまま
  パワー OFF する場合、しばらくしてキャパシタの放電条件等によって軽いノイズが出るので、
  スピーカ接続は切るのが望ましい、と判定しました。 
(3) そこで、スピーカ・リレーを併用し、常時スピーカを接続したまま運用することにしました。
  パワー ON と同時にリレー電源が立ち上がり、スピーカ・リレーも ON となり接続され、
  パワー OFF 時には同時にリレー電源が OFF、スピーカ・リレーも OFF となり解放されます。


5 音質改善と調整

● ドライバ管変更と音質改善
 一時 7044 (12mS)、6DJ8 (12.5mS)、または 6CG7 (2.6mS) に挿し換えて Rk を調整すると若干聴き易くなるも、ゲイン等には大差ありませんでした。 必ずしもハイ Gm 管にてドライブ力が発揮される訳でも無く、終段ベースに与えるアイドリング電流量およびドライブ信号振幅との間には一定の比率を必要とする感じがあり、効果がハッキリせず、初期設定の 12AU7/5963 に戻しました。(2008/04)

● 終段エミッタ挿入抵抗 Re の除去他
 パワーTr のエミッタに挿入した抑制抵抗は、真空管ドライバに強力な抑制機能が備わっており不要と考えて除去、若干音質が改善されました。 長時間ランニング・テストにて安全性を確認しました。(2006/05〜) 
 この抵抗を除去したためか、スピーカ・ケーブルの品質および長さによる音質への影響が感じられ、何通りか交換して変化を確認しました。 さらにシャーシ内のエミッタ、コレクタ、リレー等の出力信号経路の配線を太いスピーカ・ケーブルに交換して改善が感じられました。 ただし厳密な計測を経ておらず因果関係は不明です。(2008/08)

● 負帰還の調整
 終段をアンバランス出力としたため、リップル・ハムがスピーカ出力端にて 1mV 程度と若干残り、スピーカ出力ホット側から初段カソードに微量の NFB を掛けて抑えました。(2008/04)


6 最後に

 試作段階にて諸性能・機能は不十分ながらも、極めてシンプルな回路にて石アンプらしい音が得られました。 また結果的に真空管のみで構成した SEPP/OTL アンプの終段管を「タマリントン構成ユニット」にて置き換えただけのシンプルな構成になりました。 なお 8Ω負荷による on/off 法にては、出力抵抗=5.2Ω、DF=1.5 が得られました。(2008/04)  本アンプでは真空管ドライバ併用にて電力効率が悪く、さらに保守性が不十分なため、次の実験に備えて運用停止・分解しました。(2010/05)
以上

改訂記録
2006/02:初版    :初期構成
2006/03:改訂第1版〜:文章整理 
 ・・・途中省略・・・
2008/08:改訂第10版:文章整理
2010/05:改訂第11版:運用停止・分解