タマリントン超三結アンプ・・・2SC4029→2SC5200→2SC3486 終段変遷記
2004/05 - 2006/03 宇多 弘
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1 始めに・・・その後の経過

● 「スーパータマリントン・アンプ」とは、田中 安彦氏が考案した、パワーTr および電圧増幅三極管をダーリントン接続した「タマリントン回路」の発展形です。 類似回路としては、多賀氏によるバリエーション回路もあります。 今回はこれら回路のコピーおよびバリエーションに挑戦してみました。
 RF 関係を含めて、筆者はこれまでに 1W 程度までの小パワ− Tr/FET やパワーIC 等をアンプに使ったことはありましたが、大形パワーTr によるアンプのそれも「玉石混淆」による自作は始めてです。 従って、一台試作した程度では様子が判らないと考え、再現性試験を兼ねて 2SC5200 互換の 2SC4029 を使用したタマリントン拡張アンプを二台平行試作しました。
 筆者がそれらの回路を再現・拡張中のことです。 ゲイン確保のため初段を加え、その歪みを押さえるべく P-K NFB 相当の終段コレクタ〜初段カソード間の NFB を加えました。 すると・・・図らずも筆者が命名した「準超三結回路」を実装したアンプの出力管を単にパワーTr に変更した形です。 なぁ〜んだ、結局はあの回路に落ち着くんだ・・・思わずニヤッとしました。(2004/05)
● 一応の成果を得て一号アンプは分解・転用、その出力トランスを二号アンプに乗せ換えました。(2004/08)
● ドライバ段動作追加実験を兼ねた小改造を施し、出力トランスを再度変更しました。(2005/06)
● ゲイン補足のため初段を 6AK5 に、互換性確認のため終段を 2SC5200 に変更しました。(2005/07)
● 本アンプの終段を 2SC3486 に変更してみました。(2005/12)

2 スーパータマリントンの回路構成と課題

 タマリントン回路を再現し拡張していく途上にて、下記のような回路構成上のポイントが判明しました。

2.1 ドライバ段管と NFB、電源と電圧
 (1) 田中氏のオリジナルでは、ドライバ段の真空管(以下、ドライバ段管)は 12AX7 のパラレルです。
 (2) また、多賀氏のバリエーション回路( 以下、バリエーション回路 )でも同様に 5751 (special 12AX7) です。
 上記のいずれも、ドライバ段に直接信号を入力しています。 それで実用になるゲインが確保できるのなら、ダーリントン接続によるコレクタ〜ベース間 NFB(以下、C-B NFB)はあまり深くないものと判定しました。
 なぜならば、終段 Tr に掛けられる C-B NFB 量は、ドライバ段管の内部抵抗 Rp、終段パワーTr のベース回路に挿入したドライバ段管のバイアス調整抵抗(以下、カソード抵抗)、ベース〜エミッタ間抵抗に等よる電圧配分、およびドライバ段のμに依存するものなので、Rp が相対的に少なくμが少ないドライバ段管のほうが NFB が深く掛かるからです。 このような NFB 量およびトータルゲインとの関係は 2A3/300B 等の「準超三結回路」の実装時等にてドライバ段管の選定・変更にて確認したものです。
 そこでドライバ段管の選定には比較実験および選択が必須と考えました。(2004/05)

 電源電圧 Ebb=Vcc+ については終段 Tr 2SC5200/2SC4029 の Vcbo=230V から、Ebb=Vcc+ はその半分の 115V に抑えておけばまずセーフ、若干オーバーしても出力トランスによる電圧降下が見込まれる・・・と設定しました。 そこで AC100/100-50VA のセパレーション・トランスの二次 115V をブリッジ整流、約 10,000uF を使用したリップル・フィルタを経て、動作時コレクタ電圧には DC115V を得ています。(2005/04)

2.2 ドライバ段管のバイアス設定方法
 (1) 田中氏のオリジナル回路では、終段 Tr エミッタ回路に自己バイアス抵抗+バイパスCにて、ドライバ段管のバイアス電圧を発生させています。
 (2) 多賀氏のバリエーション回路では、終段 Tr エミッタ回路には微少の抑制抵抗のみ挿入、ドライバのカソード〜終段ベース間に挿入した自己バイアス抵抗(以下、カソード抵抗)にて賄っています。
 筆者は後者にて動作点の探索・調整を計画しました。 そうした理由は、オリジナル回路の場合にはカソード抵抗とバイパスCによる音色への影響が想定され、一方バリエーション回路では筆者の好みであるゼロ・バイアス 6AC5GT/CV18 A2 級、6N7 B 級などとも類似の、終段カソードまたはエミッタには(僅かな抵抗以外)何も入らない清潔さ?が保たれ遥かに音色への影響が少ないだろう、と考えたからです。

2.3 ドライバ段管の比較・選択 (Ep=100V)

● 12AX7 (Rp=80kΩ, Gm=1.25mS, μ=100)
  パラレルにてバリエーション回路を試験的に Vcc=100V 程度にて動作して見ると、
  予想通り超三結アンプに比べるとどうも音が甘く、またややトータルゲイン不足です。

● 12AU7/5814 (Rp=6.5kΩ, Gm=3.1mS, μ=20)
  バリエーション回路にて、カソード抵抗の値 =4.7kΩを変えずに挑戦してみました。 
  これはコレクタ電流が多量、出力トランスの許容 DC 電流を遥かに超えており、
  調整余地はあるとは考えつつ取りあえずは不適としました。 
  なお、5963 の規格は若干異なるも、殆ど無調整にて挿し換えが可能です。

● 12AT7 (Rp=15kΩ, Gm=4.0mS, μ=60)  
  12AT7/2 の一ユニットにて、12AX7 のパラレル程度の Gm が見込め、内部抵抗は
  12AX7 パラレルより遥かに低いので、終段コレクタ〜ベース間の NFB 量が増えて、
  ドライバ段として「よさそう」と考えて選択しました。
  実験の結果、音質的には締まった良好な音質が得られるも、カソード抵抗 =4.7kΩでは
  若干出力トランスの許容 DC 電流を超え、5.1kΩに抑えて適量なコレクタ電流に設定しました。
  以後この基本構成で進めることにしました。 なおトータルゲインは大幅に不足でした。

2.4 コレクタ電流の調整と限界
 使用予定の入手可能または手持ち出力トランスの仕様確認が、何よりも最初に必要です。 パワーTr の動作点を設定する場合、コレクタ電流はベース電流・・・その上流であるドライバ段のカソード抵抗値を加減して若干調整でき、また B 電源電圧 (Ebb=Vcc) を調整しても加減できるけど、上限は出力トランスの許容 DC 電流にて制限されます。 それを前提にコレクタ電流を決定します。(これこそ「丸ビ」アマチュアの宿命であり、また特権でもあります。)  

2.5 トータルゲインの調整
 12AT7/2 によるドライバ段管では終段の C-B NFB 量が増えてゲインが低下し、初期の回路に比べて大幅ゲイン不足となり、余った 12AT7/2 を初段=電圧増幅段として加えました。 初段は標準的な抵抗負荷回路とし、ドライバ段に C/R 結合しました。 裸の初段にては若干歪み感が残ったので、終段コレクタから初段カソードに少量の C-K NFB ? (真空管回路の P-K NFB 相当) を加えました。(2004/05)
 ドライバ段管を 12AU7/2 に変更 (2005/06) して NFB が深くなったためトータルゲインが若干不足、初段を低い B 電源電圧でも対応できる 6AK5 に変更し補いました。 (2005/07)

2.6 出力トランスのインピーダンス
 実験の結果、一次側インピーダンスの低い出力トランスが必要と判定しました。

● 一号アンプ:
   一次 7kΩ/二次16Ω=3.5kΩ/8Ωの出力トランスではかなりミスマッチングであり、
   東栄変成器 (通称) T1200 を二個使用して、一次 3kΩ並列/二次 8Ω直列=1.5kΩ/16Ω
   =750Ω/8Ω相当に 80mA 流した状態にて、何とか聴けるようになりました。 

●二号アンプ:
   3.5kΩ/8Ω 10W 程度のものでは音が優れず、更にインピーダンスが低いものを探すと、
   稼動中のアンプの東栄変成器 OPT-10S に UL 接続用の SG タップを発見、コレダ!シメシメ
   とばかり召し上げて試験の結果、予想通り P−SG 間タップより、B−SG 間タップが良好でした。
   (注) UL タップは全巻き数の 44%辺りとされ、下記概算から約 700Ω/8Ωとなりました。

      3.5kΩ x (0.44)**2 = 3,500Ω x 約0.2 = 約700Ω

2.7 ヒートシンク 
 終段パワーTr 2SC4029 はA級動作なので予想以上に発熱します。 一号二号いずれのアンプも動作点が120V80mA 辺りの動作ですが、やや過剰仕様と思われる 100x200mm 程度のヒートシンクにて、動作開始1時間後に室温が25゚C の時、ヒートシンクのパワーTr 直上位置での温度が 40゚C 程度、概ね室温+15C゚となりました。

2.8 その他モロモロ

● 他のドライバ段管の可能性など
 さらにカソード抵抗値はそのままにして、12AY7 (Rp=25kΩ,μ=44)、5965 (Rp=7kΩ,μ=47) も挿してチェックして見ましたが、バイアス調整抵抗を若干調整しても歪みが多く、また音質とコレクタ電流の最適組み合わせできる抵抗値を発見できませんでした。 若干失望して 6DJ8 (Rp=2.6kΩ,μ=33)、6AQ8 (Rp=9.7kΩ,μ=57) を含めて、これらの適用性試験は見送りました。 
 ドライバ段の選択に際して試みに挿した 12AU7 一族は、カソード抵抗値を調整することにて、実用範囲に持ち込める可能性があると考えました。 低いμと低い Rp が効いてゲインは相当に低下するけど、タマリントンの低電圧大電流動作〜大出力化の方法が垣間見えた訳であり、大電流対応の出力トランスが入手できれば挑戦できそうです。

● カソード抵抗のバイパスC
 カソード抵抗にバイパスCを並列にしてみたらドライブ力が増すのでは・・・と考えて、取りあえず100uF 並列にて試みたのですが、歪みが多くなって NG でした。 どうやら終段ベースには信号振幅よりも必要な直流電流を確保するのが先決の様で、ベース電流が大幅に増えた状態では有効になる可能性があります。

● 終段 Tr のコレクタ電流の監視
 終段 Tr コレクタ電流の代わりにエミッタ電流を監視することにしました。
 エミッタ回路に挿入した抑制抵抗 0.5Ωの両端電圧 mV の読みを二倍して mA と読み替えました。

● カソード抵抗一本の難しさ
 バリエーション回路では、カソード抵抗一本にてドライバ段の最適動作点と終段 Tr ベース電流を両立させることになり、実際には最適化は至難のワザと考えられます。 また、ドライバ段が終段 Tr のベース電流なみの少ないプレート電流による動作であり、問題含みではあります。
 とはいうものの、メディアムμ電圧増幅三極管では、自己バイアスにて動作させる場合には、相当に深いバイアス電圧でも容易にはカットオフフせずに実用可能な例が、筆者等による多数例の超三結 V1 回路 (帰還管 12AT7/2 の Rk=8.2kΩなどの例) および野々村氏による合成三極管回路 (帰還管 6CG7/2 のナント Rk=18kΩ!! という深いバイアスの例) にも散見され、結構自由度が高いようにも考えられます。

● ドライブ出力の分流方式〜可能性
 カソード抵抗から直接終段 Tr のベースに全電流を流し込むほかに、部分的に接地に逃がす分流方式が考えられます。 ベース電流を抑制することによって、ドライバ段管のバイアスが過剰に深くなり、十分なドライブ振幅が得られなくなるような場合には応用できそうです。
 但しその反面、分流することによって終段 Tr へのドライブ力が失われる可能性もあります。 それは終段 Tr の規模に比べてドライバ段管が過剰仕様の場合の調整方法として有効と考えられます。
 今回は、タマリントン準超三結アンプの実用化を優先して、本件は試験範囲外としました。

2.9 回路図
 初期の一号アンプおよび二号アンプ(ドライバ以後のみ)の回路図は一枚に収めました。 二台平行に試作して再現性が確認され、一号アンプの出力トランスは二号アンプに乗せ換えて「二号アンプ改」とし、一号アンプは分解しました。 (2005/04)  

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3 改造記

3.1 小改造(二号アンプ改II→二号アンプ改III)

● 実験環境整備、出力トランスの変更
 初期の「二号アンプ改」では L/R ともに初段とドライバ段を一本の 12AT7 により構成しましたが、初段およびドライバ段を挿し換え交換し実験するため、初段管を一本の双三極管にて L/R 分担し、ドライバ段管も同様に一本にて分担する構成とするため配線を変更し、初段は 12AT7 としました。
 出力トランスを春日無線変圧器製 OUT-54B-57 二個使用に変更、一次側は 0-5kΩ間をパラレルにして、抵抗値〜発熱およびアンペア・ターン〜直流磁気飽和に余裕を得、二次側は 16Ωをシリーズにて 1.25kΩ〜8Ω相当としました。 (2005/04)

● ドライバ段管の追試験と最終化、エミッタ電流調整
 課題の 12AU7/5814/5963 の可能性を知るため、若干の危険を覚悟でカソード抵抗 (Rk) を 5.1kΩのまま挿し換えしてみました。 初期実験どおり L/R いずれのチャネルも、終段 Tr のベース電流が増えエミッタ電流が 12AT7/2 の約二倍以上の 160mA と大変大きくなりました。 出力トランスの許容 DC 電流を超えるので、Rk を 8.2kΩに変更し、電源電圧を Ebb=100V に抑えるとエミッタ電流 (Ie) が約 90mA に設定できました。
 次に 12AT7/2 に挿し換えて、Rk を減らしながら Ie を増やしてみました。 初期の Rk=5.1kΩから逐次減らしても Ie は大幅には増えず Ebb=110V の場合 Rk=2.4kΩにて Ie=96mA となりました。 ついでに同じ Rk にて 12AY7 および 5965 を挿し換えチェックすると 12AT7 とは若干のゲイン差と Ie 差があるだけで全く問題なく動作しました。 初期に設定した Rk では高すぎてこれらのドライバ段管はうまく動作しなかったようです。
 音質的に比較した結果、ドライバ段管は最終的に 12AU7/5814/5963 としました。 かくして「二号アンプ改II」ではドライバ段管の自由度を得るとともに、ドライブ力が増して若干パワーアップしました。(2005/06)

● 初段の変更によるゲイン調整・終段の 2SC5200 互換性確認
 ドライバ段管を 12AU7/2 に変更して NFB が深くなりトータルゲインが若干不足しました。 B 電源電圧が低いので初段を 12AX7/2 に挿し換えても不足気味でした。 そこで五極管に変更すれば万全と、超三結 V1 アンプにて低電圧動作に耐えた実績のある 6AK5 に変更しました。 これに伴いシャーシ更新が必要となり、載せ換えに併せて終段を 2SC5200 に変更して 2SC4029 との互換性を確認しました。 今回の改造により二号アンプは「改III」となり、回路図は下記のようになりました。(2005/08)

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3.2 終段の変更(2SC4029/2SC5200→2SC3486)

 終段を変更して、本アンプは 「2SC3486 タマリントン超三結二号アンプ」に変わりました。 課題はドライバ段管のカソード抵抗 (Rk) の調整です。
 別項に記した 2SC3486 一号アンプでは 12AU7 パラレル・ドライブ、コレクタ電圧は 200V、コレクタ電流は 140mA 程度の動作点として大パワーをねらいましたが、本アンプでは 12AU7/2 ドライブであり、電源容量および出力トランスの制限から 140V-80mA 程度の動作点となるよう、カソード抵抗 (Rk) を 1.2kΩに設定しました。
 終段の変更前に比べてコレクタ電圧が高くなり、コレクタ電流が少なく、また終段の hfe が小となりコレクタ〜ベース間の NFB 量に影響したのか、以前の出力トランスの接続のままではマッチング状態が変わって通過帯域が低音よりにずれました。 そこで一次側パラレル〜二次側シリーズの接続を一次側パラレル〜二次側パラレルの 2.5kΩ〜8Ω相当に変更してほぼ OK となりました。
 初段を 6AK5 と同様に低電圧動作に耐える 6AS6 に変更しました。(2005/12)

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4 最後に

 出力トランスによる差はあるものの、試作アンプ二台の音質はこれまでに聴かせて戴いたタマリントンよりも締まって、超三結各アンプに類似です。 カソードに C/R が入らない 6AC5GT の準超三結アンプがより近い感じです。(2004/05)
以上

改訂記録
2004/05:初版記述:一号/二号アンプ
2004/08:改訂第一版:一号アンプ分解、「二号アンプ改」・・・トランス変更
2005/04:改訂第二版:「二号アンプ改II」・・・パワーアップ等小改造、文章整理
2005/06:改訂第三版:ドライバ段管の追試験と最終化
2005/07:改訂第四版:「二号アンプ改III」・・・初段・終段の変更、シャーシ更新
2005/08:改訂第五版:2SC5200 による「二号アンプ改III」回路図更新
2005/12:改訂第六版:終段を 2SC3486 に変更 、回路図更新
2006/03:分解・転用
End of text