6BQ5 超三結プッシュプル・アンプ試作記

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2002/05〜2003/07 宇多 弘


● 始めに〜簡易回路への道筋

 以前から超三結のプッシュプル・アンプに挑戦しようと考えていました。 これまでにホームページを見せて頂き、接した超三結プッシュプル・アンプ作例では、
 上條氏による EL34 の Version 5 の例:http://www.ne.jp/asahi/evo/amp/el34/intro.htm、
 および「かつさん」による 2A3 の例:http://www.gem.hi-ho.ne.jp/katsu-san/audio/stc2a3.html があります。

 それ以外では、かなり以前に私が属しているクラブ・メンバーによる試作二〜三例がありましたが、何れも直結部分の安定度に課題を抱えていたようでした。 その後しばらくメンバーによる実験例が跡絶え、最近の実験例では S さんによるモノラル超三結シングル・アンプ二台によるトランス入力と出力の逆接続にて合成したバランスド・シングル例、最近では T さんによる実験例に触発されて・・・。

 私が考える超三結プッシュプル・アンプとは、アマチュアが特殊部品を使わず、難しい調整が不要、手軽に低コスト高品質のものが作れる・・・と欲張って、しかも超三結アンプの特徴を失わないもの・・・がネライです。 
 しかし、なかなかこれらの条件を満たすような発想も試作もできず、時間稼ぎにシングル超三結アンプの間口拡大〜パラレル化、汎用化、三極管への適用などを進めながら、模索を続けてきました。 その実験過程にて得た経験をもとに、ではこの辺りで踏み切るかと考え・・・超三結プッシュプル・アンプの安定動作と容易な製作のための条件は〜すなわち制約事項は・・・

   (1) DC バランス安定化問題回避のため、終段は C/R 結合とする
   (2) 位相反転回路を諦め、入力トランスにて完全プッシュプル化する

の二項目となりました。 上記 (1) は超三結アンプでの C/R 結合回路の実験結果から、音質への影響が少ないことを確認し、(2) は CV18 超三結ドライブ GG アンプにて「超三結 V1 理想回路」の入力回路にトランジスタ用小形ドライバー・トランスを試用し「これなら行ける」と確認したことによります。 これで残る課題は AC バランスと歪みの問題となり、その要素は殆ど初段〜電圧帰還段に集中することになります。(2002/05)

 本機のタイトルを「準」超三結としていましたが、C/R 結合 V1 は「純」超三結に分類されるので、準を外しました。(2003/07)

● 設計?目標〜部品選択

 とにかく、高性能、シンプルかつ低コストにしたいのですが、一般の入力トランスは結構高価、一瞬試作意欲を失いかけます。 そこで容易に入手できる山水のトランジスタ用 ST-75 を起用しました。 これはトランジスタ・アンプでの B 級終段ドライバー用トランスであり 10KΩ/600Ω (約 4:1) にステップダウンする規格ですが、一次二次を逆にして 600Ω受けで使います。
 本来用法とすれば二次側 600Ωのセンタ・タップをグランドに落として位相反転用法しますが、入力レベルを 1/8 にも落とす・・・20db 弱の低下を増幅してカバーするのは何とも無駄であり、その挽回のための増幅によって音質にも若干影響するでしょう。 そこで一次二次を逆にして若干通過帯域幅を損ねても 4倍、A 級動作にてグリッド電流を流さない前提、位相反転のために抵抗にて中点出しが適用でき、しかも 2倍〜約 6db 昇圧しゲイン確保が楽になります。
 また、入力信号源とのマッチングでは、一般の CD プレーヤの出力が 1kΩ以下であり、300Ω2V 出力等も一般化しており、先ずは問題にならないと割り切りました。 実際に使ってみると低域が若干弱く感じられるものの、低域が膨れる傾向のある超三結アンプだから丁度都合が良いと割り切った訳です。 従って、管球式のハイ・インピーダンス出力のプリアンプとの接続には適しません。
 一方プッシュプル用出力トランスについては、各社から様々の規格のものが発売され、選択に迷う位品種が豊富であり、特に問題はありません。(2002/05)

● 試作経過1(回路)

 最初の回路構成では 12AU7/2 による抵抗負荷増幅初段のプレートから直結した 12AU7/2 による定電流負荷入りのカソードフォロワにて、C/R 結合にて終段の 6BQ5/7189A に入力したのですが、回路図をご覧になった メンバーから NFB があまり効かないことをご指摘頂きました。 確かに超三結 V1 と比較すると初段に対しては NFB が掛からず音が緩い感じで、P-K NFB を追加しようとは考えていましたが。 
 そこで 6BL8 による超三結 V1 C/R 結合回路にしようと考え、実際には 2SK30A〜12AT7/2 の超三結 V1 C/R 結合回路を試みました。 これによって最初の回路より締まって改善されました。 次に欲張って P-G NFB を深くするため、電圧帰還管はよりμが少ない 12AU7/2 に変更すると、更に硬く締まった音が得られました。
 直結の V1 回路にμ=20 以下のメディアムμ〜ローμ電圧帰還管を使う場合は終段とのカネアイにて電圧配分が難しく、最適調整点を見つけにくく「カサ上げ電圧」の変更調整に巻き込まれますが、 C/R 結合では問題なく設定できます。 とは言っても 2SK30A-Y にムヤミに高いドレーン電圧は掛けられないし、音の上でも適正なドレーン/バイアス電圧〜30V/1V 見当〜があるので 2SK30A-12AU7/2 各々のソース/カソードに挿入の自己バイアス抵抗を調節して、 回路図に示すような値に落ち着きました。

 そのほか、終段スクリーングリッドおよびプッシュプル用出力トランスの中点にはストッピング・ダイオードを挿入しました。 前者は直流安定供給機能・・・逆流防止、後者は不平衡出力の電源への流出阻止のつもりでいます。
 例によって汎用外部電源を使うため、回路図には電源要求仕様のみを記します。 実際には最小でも二倍程度の電流容量が欲しいところです。(2002/05)

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● 試作経過2(最小の調整)

◇PP 終段の調整
 従来回路の DC バランス調整と同様に、プッシュプル終段の自己バイアス電圧値→カソード電流値に換算してバラツキを点検します。 本機では各々の終段球独立の自己バイアス抵抗方式ですから、電圧値=電流値の高いものから順に並べ直して・・・例えば #1/#2 を Lチャネル、#3/#4 を Rチャネルに挿すなどして、極力バランスをとります。 誤差が出力トランスの許容不平衡電流範囲なら「頬被り」しても実用的には構わないですが、もっと正確にしたい場合または許容不平衡電流表示のない場合では、高いものまたは低いものは自己バイアス抵抗値を加減して、カソード電圧を気にせずにカソード電流値にて合わせます。

◇前段直列部分の調整
 2SK30A-12AU7/2 各々のソース/カソードに挿入の自己バイアス抵抗値に関しては 12AU7/2 のユニットのバラツキは概して少なく、6.8kΩ固定にてまず問題ありません。 一方 2SK30A-Y は結構バラツキがあり、同じ自己バイアス抵抗の 220Ωに対して発生するバイアス電圧も、それにつれて決まる動作点によってもドレーン電圧がバラツキます。
 超三結 V1 シングルの初段に 2SK30A-Y を使う場合なら、ソースに挿入の可変抵抗にて調整してもあまり問題はありませんが、プッシュプルでは上側と下側のゲイン不一致に係わり、その調整方法は不適当と考え、L/R チャネル合計 4個使用したもののどれもがドレーン電圧が殆ど同じになるようにします。
 実際には 4個のうち 1〜2個が高いか低いでしょう。 予め 10個位買い溜めておき、試行錯誤で・・・本当は予め 30V程度のドレーン電圧による選別回路で個体別にドレーン電流を測定しておけばイッパツで済むのですが、サボッて・・・交換選別してあわせます。   
 この状態では、歪みが結構残ると思われます。 それを最小にするにはさらに 初段に対する最適ドレーン電圧、最適バイアス電圧、それも電圧帰還管とのカネアイで AC バランスを含めて追及の必要がありますが、一旦はここで打ち切ることにしました。(2002/05)

● できぐあい、その他

 終段に挿した国産某社の 7189A は、終段の自己バイアス電圧値→カソード電流値のバラツキが 1%以内と非常に良く揃っていたので DCバランス調整・・・カソード抵抗の加減・・・は免除、早速期待の試聴に入りました。 
 試聴チェックにて確認し、まず何よりも安心したのは超三結アンプの最大の特徴である L/R スピーカの中央に安定に定位する・・・人によってはモノラル的に聞こえるという表現になる・・・音像が、シングル超三結アンプに比べてすこしだけ拡がるも殆ど同じ位に丸く留まるという点です。 昔作った従来回路のプッシュプル・アンプでは例外なくヴォーカルの唇が横にバーと1m 位に拡がった感じに比べ驚異的です。 出力の電流成分が勝っていることの証でしょうか、よく判りません。
 その反面、非直線性を残すシングル超三結アンプにくらべ、L/R スピーカの+−接続を反転した場合に、音像が前に纏まって出てくる状態から奥に引っ込んで拡がる・・・実は録音内容にもよりますが・・・という傾向がかなり弱まり、殆ど判別がつかなくなりました。 位相反転〜増幅 (電流変換) 〜合成にて原波形がシッカリと維持されているからでしょうか。
 また豊かな低音と明瞭な高音のフンイキは超三結アンプシングルの音に似ていますが、より端正な感じ・・・二次歪みが打ち消されて少ないからでしょうか。 入力トランスの使用にて心配した低域の低下は、メディアムμ電圧帰還管 12AU7/2 による深い P-G NFB にて締め上げて、さらに不足気味ながらも明瞭度の向上には多いに寄与して感じの良いものに仕上がり、安心しまた満足しました。
 やや感じられる高域のアバレは AC バランス調整〜2SK30A-Y の厳密なペア取り、電圧配分、NFB バランス調整・・・まとめて差動回路にて収拾する?ことになりましょうが、聴感的にも簡易組み立てモデルとの実用的観点でも、このままで使えそうです。(2002/05)

 別項に掲げた 6Y6G/GT による追試験を経て本機の実験を終了し、本機は分解し、次の実験に転用しました。(2002/10)

以上

改訂記録
2002/05:初版
2002/10:実験終了
2003/07:タイトル変更