6BQ5 G1G2 ドリブン・シングルアンプの試作

2003/08 - 2004/03 宇多 弘
bq5g12v.jpg
6BQ5 G1G2 driven single amp and external power unit

1 いきさつ

 別項記載の 6BM8 G1G2 一括ドライブ方式によるシングルアンプを試験して、実用可能性を確認するなど一応の成果を得ました。 今回は再現性試験および汎用化 (ユニバーサル化) 可能性調査を兼ねて同一回路による 6BQ5 G1G2 ドリブン・シングルアンプを試作してみました。 

2 参照した G1G2 ドライブの特性

 参照した Eb-Ib 特性曲線は筆者の教科書にしている、武末数馬氏著「パワーアンプの設計と製作」ラジオ技術全書011A ラジオ技術社 上巻第2章 出力管部の動作特性(1)pp110. に記載の 6R-P15 の G1-G2 を結んで三極管接続とした場合です。
 その図面に記載された接続方法は、G1 がプラス領域にて動作する場合の損失を考慮してか、G2 から 20kΩの直列抵抗を通して G1 に接続し、G1 電流 Ig1 を抑制しています。  6R-P156BQ5 に類似であり、その Eb-Ib 特性曲線から、シングル動作させる場合の適正なプラス・バイアス電圧すなわち G2-K 間電圧は 40V 近辺にあると見当をつけました。

3 回路構成

(1) チャネル当り一球半で構成
 何回も使い回した実験シャーシに載っていた、9ピン MT 四本と 7ピン MT 二本の取り付け穴がある 6BM8 G2 ドリブン・シングルアンプを転用・改造しました。 7ピン MT は初段の電圧増幅管に宛て、次のカソードフォロワ・ドライバには MT 双三極管を使い、6BQ5/7189/7189A を終段に構成しました。

 ◆ 初段、電圧増幅 C/R 結合:6AV6〜三極部
 ◆ カソードフォロワ直結  :12AU7 パラレル or 12BH7A パラレル
 ◆ 終段 G1G2 一括ドリブン:6BQ5/7189/7189A (以下 6BQ5 のみ表記)

 初段〜カソードフォロワ段間は C/R 結合として安定稼働を目指しました。 前記 Eb-Ib 特性曲線が必要とする最大振幅は 100V程度です。 初段にはゲイン確保のために五極管が必要かなとも考えましたが、取り敢えず SG 関係の部品等の配線が不要な五球スーパーの検波増幅管 6AV6 の三極部 (μ=100) を充てました。

(2) カソードフォロワ・ドライバ管の選定
 一般の G2 ドリブン・シングルアンプの例に比べ、G2 電圧が低く「吸い込み」電流も少なくて済みそうなので、ドライバ管には一応 12AU7 で様子を見、足りなければ 12BH7A に挿し換え、さらに不足なら 12B4A へと変更する可能性を見込みました。

(3) カソードフォロワ・ドライバの回路
 6BM8 G1G2 ドリブン・シングルアンプの例に従い、終段のプレートからカソードフォロワ・ドライバ段のプレートに P-G NFB を掛け、併せて動作電圧も供給しました。 この場合、ドライバ段のグリッドにドライバ管の 1/μ相当の NFB が掛る計算になります。

(4) P-K NFB を採用
 6BM8 G1G2 ドリブン・シングルアンプの例に従い、初段の Rk/Ck (カソード抵抗とバイパスキャパシタ) の下に 100Ωを挿入し、終段プレートから 100kΩにて、心持ち程度に P-K NFB を掛けました。


4 実装・・・抵抗値の設定・調整、電源、回路図

(1) ドライバ段と終段の電圧関係
 ドライバ段は、例によってカソフォロ負荷をマイナス電源で引っぱる方式は回避し、接地から立ち上げることにしました。
 終段の G1G2 一括ドライブ入力はもともとプラスバイアスではあるけれど、直結するカソフォロドライブ出力の直流電圧は更に高く、それに合わせるため終段の自己バイアス形式の「嵩上げ抵抗」により発生する「嵩上げ電圧」にて調整します。
 このような簡便方式では余分な B電源電圧を必要とするけれど、電源電圧または動作電圧の変動に対して常に安全側に落ち着くので好都合です。

 カソフォロ・ドライバ段から適切なドライブ振幅を得るためには、その振幅に相当するぐらいの DC 電圧がカソフォロ負荷に掛るような抵抗値を選びます。 そこで、取り敢えず負荷抵抗を 12kΩ+1.2kΩとしました。 途中からグリッド・リークをとるために二分してあります。
 安全を見て、終段カソードの嵩上げ電圧を 50V 程度を見込み、終段カソード電流 Ik=40mA を見込んで、嵩上げ抵抗 Rk=1.2kΩとしました。 
 パワーオンして、動作点を点検するとともに信号入力してみると G2 の電流吸い込みが結構あるらしく、予想通り 12AU7 では低いヴォリューム位置からクリップが始まるので 12BH7A に変更し、音質に関しては OK となりました。

(2) ドライバ段〜終段の調整と G1 点検
 6R-P15 の例に習えば、終段の G1G2 に対カソードにて約 40V 見当のプラスバイアスを掛けることになっています。 動作点の点検では予定の Ik=40mA に達しないので、プラスバイアス電圧〜カソフォロ・ドライバ段の負荷を増やして持ち上げたり、終段の G1 電流抑制抵抗 Rg1 を変えたりして、やっと Ik=35mA に持ち込みました。

 抵抗値の変更による電圧配分の調整過程を下記表に示します。

    
ケースドライバ段の
負荷抵抗
G2 電圧
Eg2
抑制抵抗
Rg1
G1 電流/電圧降下
Ig1/Vdg1
対グランド
G1電圧 Eg1
対グランド
カソード電圧 Ek
カソード電流
Ik
13.2kΩ 65V 24kΩ 1.1mA/27V 38V 37V 30mA
13.2kΩ+1.8kΩ 81V 24kΩ 1.8mA/43V 38V 37V 31mA
13.2kΩ 66V 20kΩ 1.5mA/29V 37V 36V 30mA
13.2kΩ+1.8kΩ 84V 20kΩ 2.1mA/42V 42V 41V 35mA

(3) 調整時にみられた終段の挙動説明ほか
◆ (ケース 1) 初期の様子見的な、安全側に立った設定値によるものです。
◆ (ケース 2) カソフォロ・ドライバ段の出力 DC 電圧を高くしても、単に Ig1 が増えるだけで
     Eg1-K 間電圧は保たれ、Ik は大幅には増えません。 
◆ (ケース 3) Rg1 を減らしても単に Ig1 が増えるだけで Ik は大幅には増えません。
◆ (ケース 4) Rg1 を減らし、且つカソフォロ・ドライバ段の出力 DC 電圧を高くして、やっと Ik=35mA に達しました。

 上記のように Rg1 および Rk 嵩上げ方式には「融通の効かなさ、頑固さ」が備わっています。 但し本音としては、自己調整機能がユニバーサル化に際して安全な動作点に落ち着くという有利な要素もあり、単純には厄介扱いできません。

 このような経過から、参照した教科書「パワーアンプの設計と製作」に記載の Rg1=20kΩは実に適正値に設定されており、これからあまり外れてはマズイことが判りました。
 Rg1 (24kΩ) にて発生した電圧降下および電流については 6BM8 の G1G2 アンプ例による (24kΩ) 20V0.8mA とは一致しませんが、何れの場合でも G1-K 間の電圧差は 1~2V程度と、6BM8 の場合とほぼ同一であり、無信号時に G1 で発生する熱損失 Pg1 は 1~2mW 程度、終段球の寿命には全く問題にならないと考えます。 恐らくカソードからの熱輻射による加熱が大きく、隠れてしまいそうです。
 また Ig1 はプラスバイアスの値すなわち G2-K 間の電圧 Eg2 に依っても変化するから、少々時間を掛けて各管種固有の傾向および一般的な傾向を見い出していく必要があります。 

 Ik 不足の原因には Eg2 不足の他、B 電源電圧 Ebb 不足も考えられます。 但し Ebb を上げるとなれば、カソフォロ・ドライバ段の電圧配分も変わってくるので、再点検が必要でしょう。
 さて、現状 Ek=41V 程度の「嵩上げ電圧」であっても、ドライバ段のドライブ振幅は確保できるものと見込んで、当面、Ek/Ik はこの値にて固定します。

(4) 出力トランス
 3.5kΩ/8Ω の中型出力トランスを使いました。

(5) 電源および回路図
 外部電源から約 260V80mA の B 電源、L/R チャネル直列とした 12.6V1.66A のヒーター電源を供給します。
 上記のような計画と実装を経て、実用に耐えるに至ったのが下記回路図です。

bq5g12s.gif

5 音と感想、ユニバーサル化可能性

 若干問題が残りましたが、6BM8 G1G2 ドリブン・アンプ例に近いやや甘めの、定電流アンブ音にも少し似た結構なサウンドが得られました。 超三結アンプと同様にエンクロージャの f0 固有音が若干耳につくので、ミスマッチにて出力が落ちる従来回路のアンプとは異なり、出力が負荷インピーダンスの変動に対して追随している事が窺われます。 

 今回の実験を通して、ユニバーサル G1G2 ドリブン・アンプ化に対して下記の条件など詳細レベルの問題提起がなされたものと認識しました。

 (1) 終段 Ik 設定〜Rk の設定と精度、カソフォロ・ドライバ段との相互影響と対策。 確認要です。
 (2) G1 に挿入の Rg1 の値と、Ig1 の各管種毎の差の確認と対策。 必要ならば切り替え方式。 確認要です。
 (3) ドライブ能力が結構必要、G2 ドリブン・アンプなみに強化し管種毎の相違を吸収。 これは容易に解決できます。

 上記の不確定要素が発見されて、果たして G1G2 ドリブン・アンプでは超三結 V1 アンプおよび G2 ドリブン・アンプの様に簡単にユニバーサル化できるのか、再検討が必要になりました。
 たとえば、抑制抵抗が示されていない球は、どのようにそれを設定したものかと考えています。 実験で決めるしかないかもしれません。 しかし G1 損失〜Pg1=Eg1*Ig1 は、これまでの例では精々 2V*2~3mA、もっと大きく見積もっても 5V*5mA 程度であろうと考えれば、カソードからの輻射熱にくらべれば誤差の範囲であり Ek~Eg1 および Ig1 が確認できれば OK にできそうです。 そこで適切な共通 Rg1 を決め、一方各管種毎に適した Rk を切り替え、Ik 監視を併用すれば、各管種毎にほぼ適切な動作点に設定できると思われます。


改訂記録
2003/08:初版:6BQ5 G1G2 ドリブン・シングルアンプ試作一号
2003/09:改訂第一版:呼称の訂正。(旧) G2/G1G2 ドライブ→(新) G2/G1G2 ドリブン
2004/03:改訂第二版:分解・転用
以上