P-G NFB 切り替え式水平偏向出力管アンプの試作

2002/08〜09 宇多 弘 UDA Hiroshi
arpgnfp.jpg

P-G NFB selectable amp for horizontal beam tubes as:
6AU5GT, 6AV5GA, 6BQ6GTB, 6DQ6A/B, 6G-B3, 6G-B6, 6G-B7.
Picture ---- Testing with S2001 (6146 compatible Japanese tube.)

1 いきさつ

 以前、田村さんが試験していた、超三結回路に類似の、終段に対する P-G NFB を抵抗による電圧配分とした「(直接式の) 強 NF 回路によるアンプ」・・・強 NF アンプを追試験してみたいと計画していました。
 直接式強 NF 回路では、終段プレートの出力電圧の一部を抵抗にて電圧配分して直接終段グリッドに入力するという強引な回路なので、ハイインピーダンスの電圧増幅管による抵抗負荷などではドライブが不可能です。 ドライブ信号の一部が終段プレートに吸われてもビクともしない強力なカソード・フォロワ段を通してドライブします。
 一方、準超三結回路では終段をドライブするカソード・フォロワのプレートを 終段のプレートで吊って動作電圧供給と NFB 信号電圧供給を同時に受け、1/μの P-G NFB を実現します。
 ここで、準超三結回路と直接式強 NF 回路の回路構成を比較すると、非常に似ており、少しの追加部品にてスイッチ切り替えが可能と判りました。 そこで動作中に切り替え可能なアンプにしよう・・・(2002/08)

2 回路構成

 例によって使い回しする「タネ機」は、改造前の三極管ユニバーサル準超三結アンプとそのシャーシです。 予め取りつけてあったソケット等を一部流用します。

 ● 初段の 6BL86BX6 に変更しました。
 ● カソード・フォロワ段には 6SN7GT を使うことにしました。
 ● 終段管は水平偏向出力管の 6AV5GA および 6DQ6B を基準としました。
 ● 出力トランスは 3.5kΩ/8Ωで最大 100mA 流せる特注品を利用しました。
 ● 電源は 260V300mA/6.3V3Ax2 の外部電源から供給しました。

 終段管 (基準管) に二種の水平偏向出力管を選んだ理由は特にありませんが、比較的廉価に入手でき、また筆者の手持ち出力管の中ではあまり稼働率が上がらないので、スクリーン・グリッドのブリーダ・ドロッパなど少々余分な手間がかかるけれど、この際積極的に利用しようと考えました。 
  6AV5GA および 6DQ6B は、構造上ではシングル・エンデッドとトッププレートとの相違はあるものの特性的には殆ど同一であり、これまでに試験したユニバーサル超三結 V1 での実績からも、これらにより一旦動作点等を設定すれば、他の類似水平偏向出力管もほぼ同等に扱える点を考慮して基準としました。(2002/08)


3 直接式強 NF 回路のドライブ方法

 田村さんから教えていただいたとおり、単なる電圧増幅段の C/R 結合からの信号を、終段プレートからのカップリングキャパシタを介した分圧抵抗および終段グリッドリークによる「分圧点」に注入しても、信号の一部が終段プレートに吸われて十分にドライブされないので、前段の後にカソード・フォロワ段を配備しました。
 田村さんのオリジナル回路では分圧抵抗は固定でしたが、筆者はこれを可変とし、動作中させながら効果の変化を観察することにしました。
 また、カソード・フォロワ出力を、上記の分圧点に直接注入せず、さらに分圧点と終段グリッドリークとの間にバッファ抵抗を挿入して、カソード・フォロワ動作を楽にするよう配慮しました。
 このような直接式強 NF 回路と、準超三結回路との切り替えを矛盾なく、また切り替え時のクリック・ノイズを最小にするため、終段プレートからの分圧抵抗はオープンにしないような配慮が必要ですが、既に P-K NFB の配分用抵抗にて P-G NFB 回路の直流電位をグランドに合わせてあるため、特段の処置は不要でした。

 以上の条件設定により、下記に示す回路図に到りました。

arpgsch1.gif


4 終段管の挿し換え

 当然ながら 6AV5GA および 6DQ6B は直ちに正常動作しました。 他の水平偏向出力管一族・・・6AU5GT, 6BQ6GTB, 6G-B3, 6G-B6, 6G-B7 の動作試験は、少々 Ip 過不足があるものの全て OK でした。
 その他何種類かの水平偏向出力管等については、自己バイアス抵抗の調整にて動作範囲に誘導できる筈ですが、今回は水平偏向出力管一族のユニバーサル化は目的外で本機のカソード抵抗は固定であり、上記の確認済みの管種に限定しました。(2002/08)

5 できぐあいなど

 判明したことは・・・準超三結回路の P-G NFB はかなり浅い・・・強 NF の可変抵抗を最大にした最も浅い状態・・・P-K NFB の分圧で 2/3 にした後、終段プレート〜終段グリッド間には 250kΩ、終段グリッド〜グランド間にも約 250kΩ、終段プレートに現われた信号電圧をほぼ 2/3 の半分の 1/3 に分圧した状態であり、準超三結回路の P-G NFB では、これよりも浅いことでした。 最も深くなるように可変抵抗をゼロに持っていくと 56kΩ対 100kΩおよび250kΩの並列の約 70kΩとなり 1対1以下に分圧した状態となります。
 直接式強 NF アンプの音は、もっとも浅い状態であっても準超三結アンプに比べて端正、清潔、少し寂しい・・・しかし、スピーカの中央に生ずる安定した音像など、超三結アンプの特徴も併せもつ、なかなか感じのよいもので引き込まれます。 また最も深い状態ではドライブが厳しくなり、ゲインが減って歪みが出やすくなると同時に、音はさらに寂しくなります。 本機では、このように動作中の切り替えおよび NFB の深さの加減ができるので、切り替え前後で音を忘れることもなく、正確な比較が可能です。
 本機は実用性は十分、他のアンプと互角に鳴っています。 逐次改造・追加して水平偏向出力管一族以外の多極管・三極管も吸収し、超三結 (多極管) ユニバーサル・アンプおよび準超三結 (多極管・三極管) ユニバーサル・アンプに対抗しうる「直接式強 NF ユニバーサル・アンプ」として整備しようと考えています。(2002/08)

 本機で得た結果を、但し帰還率は固定として、別項に示す「(三極管) ユニバーサル準超三結アンプ」に本機と同様に切り替えスイッチにて追加装備して、上記の「直接式強 NF ユニバーサル・アンプ」機能を部分的に肩代りさせ、本機は次の実験に転用しました。(2002/09)  


改訂記録
2002/08:初版
2002/09:改訂一版
以上