超三極管接続 V1 回路の動作原理概説

2001/05/27 (Version 2) 宇多 弘


1 いきさつ

 超三極管接続回路 (以下、超三結) のオリジネータである上條氏によれば、超三結の回路にも何種類かがあります。 そのうちでも、特に回路構成部品が最も少なくてすむ超三極管接続回路バージョン1 (以下、超三結 V1) を、筆者は好んで実験してきました。 しかし超三結 V1 の動作を判りやすく説明するのは大変難しいことでした。 拙ホームページ (以下、HP) に記載した 実用回路 (注) をベースに展開した説明内容は、読まれた方から難解であるとのご意見、または誤りと考えられるコメントも頂戴し、これらに対応するには平明な説明を用意するしかない、と何回も改訂を重ねてきました。

 筆者がその過程にて色々模索した結果、超三結 V1 の原形回路の位置付けと考えられる P-G NFB 併用カソフォロ・ドライブ回路 (P-G NFB'ed cathode follower drive circuit) によるアンプを三種類ほど試作試験し、実用回路と同様の超三結 V1 回路の効果を得ました。 またこの回路形式から超三結 V1 の説明に入るのが大変スムースであると気がつきました。
 そこで、拙 HP 別項に記載の「超三結アンプの実装法考察」を単に抄訳した本文の Version 1 は廃版し、今回一新した Version 2 に置き換えました。 まだ内容的には不完全と思いますので、今後さらに判りやすく記述すべく努力する所存です。

 本文では、各回路の説明の都度回路構成図を挿入すべきところを、纏めた方が同時に前後の回路を参照できて相互関連が把握しやすいと考え、敢えて一枚の図に集めて押し込めました。 
 なお本文の回路動作説明では、必要な直流電圧配分、電圧自己バイアス用の抵抗、または電源等は省き、また C/R 結合となるであろう部分についても直結表現となっていますので、この点をご了承願います。

 さらに詳しい説明は、拙 HP に記載の下記文をご参照ください。 (今回の本文改訂にともない、いずれ下記も追って更新する予定です。)
<<<超三結アンプの実装法考察>>>
 http://www2u.biglobe.ne.jp/~hu_amp/amput3.htm 構成・動作原理:(前半)
 http://www2u.biglobe.ne.jp/~hu_amp/amput32.htm 実装例、調整法:(後半)

(注) 以下にて逐次説明しますが、超三結V1 回路は、下記の三種に分類できると考え、筆者はこれらを便宜上区別し命名しました。

(1) 動作原理の説明導入に都合の良い、超三結 V1 原形回路 (Basic STC V1 Circuit)、
(2) 実際の動作を説明するための、超三結V1 動作原理回路 (Theoretical STC V1 Circuit)、
(3) 簡潔な回路で実装例の多い、超三結V1 実用回路 (Practical STC V1 Circuit) 


2 超三結 V1 の原形回路〜 P-G NFB 併用カソフォロ・ドライブ回路

●回路の概要
 「図4.1 超三結 V1 の原形回路」を参照してください。
 まずは、大変ポピュラーなカソードフォロア・ドライブ回路(カソフォロ・ドライブ回路)を変形し、カソフォロ・ドライブ用の三極管のプレートを終段のプレートに接続して、動作に必要な DC 電圧と NFB 信号電圧=終段のプレートに現われた信号電圧の供給を受けます。
 これで終段のプレートから終段自体のグリッドに NFB を掛ける、所謂 P-G NFB 回路となります。 なお P-G NFB を掛けたカソフォロ・ドライブ用の三極管は、上條氏の命名による電圧帰還管と呼びます。  

 さてカソフォロ・ドライブ回路を利用して、終段に対して深い P-G NFB を施すためには、電圧帰還管=カソフォロ・ドライバ (管) の内部インピーダンス Zi よりも、カソードに挿入した負荷インピーダンス Zk を大きくとる必要があります。
 そこで負荷インピーダンスには定電流素子を加えて低い電圧ながら高いインピーダンスを実現します。 もし、定電流素子を使わずに高インピーダンスを実現するとなると、高抵抗とマイナス電源にてカソードを引っ張る必要があります。
 またカソフォロ出力を終段グリッドに C/R 結合すると、Zk に並列に次段のグリッドが入り、負荷インピーダンスが若干低下することになりますが、Zi の十分に低いドライバ管種を選択すれば、ある程度まではインピーダンスの比率を保てます。
 終段のグリッドに信号電圧を入力した場合、電圧増幅されて終段のプレートに現われた出力電圧が、電圧帰還管にて電圧配分された結果、終段のグリッドには逆相の信号として

 Zk/(Zi+Zk) where Zk > Zi or Zk >> Zi

 の比率で戻されます。 すなわち終段で増幅して稼いだはずの電圧が逆相の電圧振幅としてグリッドに返され、うまくやれば終段の電圧ゲインを =1 近くまで抑制でき、すなわち出力信号の電圧振幅は終段グリッドへの入力信号の振幅近くにまで抑えられます。 しかし Zi はゼロにはならないので、完全に =1 にはなりません。
 一方 P-G NFB では終段管の相互コンダクタンス Gm によって得られた入力電圧の変化 (ΔEin) に伴う出力電流の変化 (ΔIout) ・・・出力中の信号電流成分の量には影響せずソックリ残ります。
 すなわち、P-G NFB 併用カソードフォロア・ドライブ回路の形式である原形回路は、深い P-G NFB によって従来の電力増幅方式に比べ出力電力中の電圧成分の少ない 〜または言い替えれば、電流成分比率の大きい出力が得られ、超三結V1 回路動作の特徴を持つことになります。

amp_v1.gif

 原形回路にて終段の動作にのみ着目すると、後に述べる超三結V1 実用回路と全く同じでありますが、終段管のドライブ振幅相当の信号入力振幅を必要とするので、このままソース信号を受け入れるにはゲイン不足であり、前置電圧増幅段が必要です。 その前置増幅段には、終段管が多極管であれば電圧増幅三極管による抵抗負荷増幅回路で十分ですが、μの低い三極出力管の場合は SRPP 回路などによる十分な信号入力振幅が必要となります。
 原形回路では、前置増幅段の回路構成要素が終段から切り離されているとの観点からと、それに純粋の超三結V1 回路である動作原理回路実用回路とも区別するために、筆者は準 超三結回路、Semi-STC circuit としても分類し、命名しました。
 原形回路による実装例は、拙 HP の6JS6C/EL509 準超三結 V1アンプの回路図、他数例に (準超三結) とコメントして示しています。


3 倒立μフォロワ回路=超三結 V1 実用回路への道

●μフォロワ回路の概要
 「図4.2 μフォロワ・ドライブ回路」を参照してください。
 1996年頃でしょうか、アメリカで流行ったといわれるμフォロワ回路 (Mu follower circuit) とは、前段の負荷抵抗を定電流源として動作させて、目一杯前段のゲインを稼ぐ・・・大振幅ハイゲイン・ドライブ回路です。 (高抵抗負荷による飢餓回路ではゲインを得ることはできても振幅は取れないし、定電流源の代わりに高抵抗と高電圧で動作させれば電源が大がかりになります。)

●倒立μフォロワ回路の概要
 「図4.3 倒立μフォロワ・ドライブ 回路」を参照してください。
 倒立μフォロワ回路 (Inverted Mu follower circuit) とは、筆者が命名したμフォロワの変形回路です。 初段の負荷=定電流源を、電源と入れ替えて初段カソードの下に持ってきただけで、μフォロワ回路と全く同様の動作です。
 但し困ったことに、倒立μフォロワ・ドライブ回路のアンプでは、圧倒的に一般化されている片側がアース電位にある RCA ピンジャックによる非平衡入力ラインをそのまま入力信号に使うことができず、ライン入力トランスにてアース電位から隔離して、初段のグリッド〜カソード間に入力する必要があります。 平衡入力ラインの場合は必然的にライン入力トランスを使うので、このままの回路でよい訳ですが。

●P-G NFB 併用倒立μフォロワ・ドライブ回路の概要
 「図4.4 超三結 V1 動作原理回路」を参照してください。
 倒立μフォロワ回路の初段のプレートを終段のプレートで吊ると、P-G NFB 併用倒立μフォロワ・ドライブ回路 (P-G NFB'ed inverted Mu follower drive circuit) の回路形式となり、「2 超三結 V1 の原形回路」にて説明した回路と類似動作となり、初段は単なる電圧増幅管の動作から変化して電圧帰還管の位置付けとなります。 また電圧帰還管の負荷には、終段の負荷である出力トランスが混在しますが、本来の負荷である定電流源に比べれば殆ど無視できるオーダにあります。
 信号入力される電圧帰還管は増幅動作を行うので、むしろ電圧帰還増幅管相当の動作となり、原形回路と本回路との最大の相違は 電圧帰還管が NFB 素子として動作する他に、増幅作用を行い電圧ゲインを持つ事です。  従って本回路では前置増幅段無しでソース信号を受け入れることができます。 

 本回路は、実は上條氏の考案された 超三管接続回路 V1・・・と殆ど同じものです。 上條氏の超三結 V1 回路では終段への入力を電圧帰還管のカソードに挿入した I/V 変換 (兼自己バイアス) 抵抗を介して入力しています。 そのようにした理由は、終段のグリッド電流が流れると定電流源の高いインピーダンスが維持できなくなるので、定電流源動作を終段管のグリッド電流の影響から守るためであると考えられます。
 前述のとおり筆者はこの回路を超三結 V1 動作原理回路とも呼んでいます。 本回路による筆者の実装例では、拙 HP の CV18 para 超三結 driven GG アンプの製作の回路図にて、初期には実際にライン入力トランスを併用して 6Y6GT/6CW5 による CV18 のパラレルのグランデッド・グリッド終段のドライブに使っています。

 従って、原形回路動作原理回路の相違を纏めると下記のようになります。

 原形回路は、信号入力を電圧帰還管のグリッド〜グランド間とした
  P-G NFB 併用カソフォロ・ドライブであり、電圧ゲインはない
 動作原理回路は、信号入力を電圧帰還管のグリッド〜カソード間とした
  P-G NFB 併用倒立μフォロワ・ドライブであり、電圧ゲインを持つ。  


4 超三結 V1 実用回路への展開

 まず「図4.5、図4.6、図4.7」の各々に目を通して下さい。
 勿論のこと動作原理回路のとおりに回路構成すれば超三結 V1 アンプとして成立し実用できました。 しかし、実装コスト面および音質面から・・・ライン入力トランスを使わずに非平衡入力ラインを直接入力できないか・・・という課題を解決したのが、上條氏が真空管のみで構成した超三管接続回路 V1 の例であり、筆者が超三結 V1 実用回路と呼ぶ回路です。
 改めて言うまでもなく、ドライバ段の下の五極管またはバイポーラ・トランジスタ/FET が定電流源動作であり、且つ V/I 変換機能であり、P-G NFB 信号の電圧配分の殆どを分担していることを理解できることが、実用回路の回路動作を理解する前提条件となります。
 動作原理回路から実用回路へのスリカエは下記の「三段飛び」で実現しています。 順を追わないで理解するのはチョット厳しいかなと思います。

 (1)「図4.5 動作原理回路1」 グリッド〜カソード 間トランス入力・・・参照のこと
   ライン入力トランスにて電圧帰還管のグリッド〜カソード間に信号入力します。

 (2)「図4.6 動作原理回路2」 カソード〜グランド間トランス入力・・・参照のこと
   ライン入力トランスにて電圧帰還管のカソード〜グランド間に信号入力します。
   但しグランドとは・・・実際は定電流負荷が下にあり、それとの接続点にグリッドが
   接続されているので、接続点をグランドと看做したグランデッド・グリッド回路 (GG 回路)
   の動作です。(本当のグランドでないと該当しないと言う頑固な意見もあるけど・・・)

 (3)「図4.7 超三結 V1 実用回路」 定電流源に信号入力・・・参照のこと
   ●実装に適した、ライン入力トランスを使用せずに、非平衡入力信号を 受け入れる回路です。
   ●そのために、定電流源を入力信号で電流変調する・・・すなわち、
    動作原理回路では定電流素子としてだけ動作した下の五極管が事実上の初段となり、
    グリッドには非平衡入力信号が加えられ、定電流素子の性格を保ちながら、
    入力信号の電圧〜電流変換 (V/I 変換) を行います。
   ●五極管のプレート電流には V/I 変換された信号電流 id が含まれます 
    この信号電流 id を電圧帰還管のカソードに挿入された電流〜電圧変換用の抵抗 Rd によって
    Vd = id x Rd により電圧信号に戻し (I/V 変換) 、(2) 動作原理回路2 と同様に電圧帰還管の
    カソード〜グランド間に入力され、動作原理回路2 と等価の動作となります。

 上記の (3) は、非常に簡単に動作のステップだけを示しています。 この部分が実用回路の中ではもっとも難解かもしれません。  詳細は、拙 HP に記載の「<<<超三結アンプの実装法考察>>>構成・動作原理:(前半) 」をご参照ください。 
 超三結 V1 実用回路の実装例は、拙 HP の EL34 パラレル超三結アンプの回路図をはじめ、回路方式に関するコメントの無いアンプのすべての回路図が該当します。

以上

改訂記録
(Version 1) 2000/04/01(Rev 3.6), 04/15(Rev 3.7)・・・廃版
(Version 2) 2001/05/27・・・全面更新
End of file