6JS6C/EL509
超三結/ D-NFB/ 超三結 V1 各アンプの実験

1999/08〜2000/10〜/12〜2001/04〜/10 宇多 弘
el509.jpg 6js6c.jpg
(左) 初期の超三結 V1 アンプです。 (右) 後に D-NFB アンプ〜準超三結アンプに改造しました。

目次
1 EL509 超三結アンプ製作に到るいきさつ
2 EL509 の初期動作試験
3 追加試験、更新と方針変更
4 6JS6C/EL509 D-NFB アンプの試作〜いきさつ
5 D-NFB アンプの回路図
6 D-NFB アンプの動作試験
7 変形した準超三結 V1 アンプに戻る


1 EL509 超三結アンプ製作に到るいきさつ

 6P145C (EL509) を G2 ドライブ(スクリーン・グリッド・ドライブ)にすると Pp=40W まで入力できるとの事で、SOVTEK の 6P145C をTさんから「これを料理してみて」と依頼があり、サンプル 3本とソケットを頂きました。 なお 6P145C は欧州系の EL509 および米国系の 6KG6 の同等管ですが、OTL アンプ等ではむしろ 40KG6 の方が有名です。 本文では EL509 と、欧州名で統一しました。(1999/08)

 その後、EL509 を超三結アンプとして色々動作試験した結果、通常のビーム管として動作させると規格通り (Pp=34W) であり、少し無理すると簡単にプレートが薄赤くなることが判りました。 (G2 ドライブの動作では G2 電圧を 100V 以下に抑えるので、Pp が相当に規格オーバーでも助かるようです。)(2000/09)

 そこで EL509 は電源からシャーシから、全て首位の座を 6550 に譲ってしまい、仮動作であった 6JS6C の「コンパクトロン〜マグノバー水平さんチェッカー」アンプとしてまとめて面倒を見ることにしました。 シャーシは、出力管を二種類挿し替えできる、チューブ・チェッカーに移行した 807/16256146 の試験台を再利用しました。
 このような経過により、以前の中間報告的な 6JS6C 仮動作のページは、本ページに吸収合併しました。(2000/10)

6JS6C/EL509 の規格
諸元↓/管種→
表記(単位)
6CL5
6JS6C
6KG6
EL509*
口金接続 8GD 12FY 9RJ 9RJ
ヒーター電圧 Eh (V) 6.3 6.3 6.3 6.3
ヒーター電流 Ih (A) 2.5 2.25 2.0 2.5
最大プレート電圧 Epmax (V) 700 990 700 900
最大プレート損失 Pp (W) 25 30 34 35
最大遮蔽グリッド電圧 Esgmax (V) 200 220 250 300
最大遮蔽グリッド損失 Psg (W) 4 5.5 7.0 7.0
<<動作例>>
プレート電圧Ep(V) 175 175 500
遮閉グリッド電圧Eg2 (V) 175 125 280
制御グリッド電圧Eg1 (V) -40 -25 -82
負荷抵抗RL (kΩ) 1.65
制御グリッド入力電圧 E0 (Vac) 50 p-p
無信号時プレート電流 Ip0 (mA) 90 130 70
信号時プレート電流 Ipsig (mA) 100
無信号時遮閉グリッド電流 Isg0 (mA) 7 2.8
信号時遮閉グリッド電流Isgsig (mA)
相互コンダクタンス Gm (mS) 6.5 11.5 18.0
プレート抵抗 Rp (kΩ) 6.0 5.5 8.0 nom
最大出力電力Pomax (W) 14
歪率KF (%) 0.9 at1W
EL509*: Refered from Svetlana Catalog

2 EL509 の初期動作試験

 元々、手持ちの規格表には EL509 の Rp/Gm が記載されていません。 勿論 A1シングル動作例はありません。 取り敢えず、規格表の Epmax=700V/Esgmax=250V, Pp=34W/Psg=7W を頼りに、動作点を模索し調整することにしました。(1999/08)
 
B 電源 Si Diode 整流に加えて、傍熱整流管 6AX4GT/6CA4 パラによるスロースタータとしました。
プレート電位 カサ上げ電圧を含めて 400V (対カソード 320V)以上と高めに設定しました。
カソード電位 820Ω にて Ik=90mA と調整して、Ek=74V と頃合となりました。
G2 電位 この系統の球は、G2 電位をキチンと設定しないと色々ありそうなので、ブリーダ電流を多めにとって、15kΩ+39kΩの途中から 264V (対カソード 190V) にて G2 に供給しました。

3 追加試験、更新と方針変更

3.1 初期セット

 取り敢えず、EL509 の動作点は Ep=320V/Esg=190V, カソード電流 Ik=90mA に落ち着きました。 それでも逆算したプレート損失は 28.8 W 以下なので十分に規格内です。 (1999/08) 

3.2 電源および出力トランスの更新、本体シャーシ変更

 初期セットのパワーアップを計るべく、本体部分および電源部分を別シャーシとして、出力トランスは中型二個を並列使用にして余裕を持たせ、Ik にて約 120mA まで上げてみました。 Ep は約 310V、Pp は約 35W となり、Pp=34W の規格をわずかにオーバーしています。 この状態にてプレートは少し赤熱しています。 (2000/08)

3.3 大方針 ?? の変更

 EL509 は意外に弱い? (Pp=34W) 〜ムリが利かないことが明らかになったので、Pp=42W の 6550KT88 互換アンプから独立させて、以前の EL509 アンプの電源および出力トランスをセットにて 6550 に全て明け渡してしまいました。
 そこで「宿無し」となった「素浪人」 EL509 は Pp=30W 級の 6JS6C と急遽合流することになりました。

 電源は回路図に記載してありませんが、タンゴ ST220 による 280V 両波整流出力をタンゴ MC3-350 による CH input として160mA 負荷時に 230V を得ていますから、ほぼ 6JS6C の動作電圧に嵩上げ電圧を加えた値になっています。 例によってかなり控え目な動作点設定となりましたが、これから段階的に出力トランスと電源トランスを交換したりして、増やしていきます。
 下記の回路図にて、6JS6C/EL509 ともに動作時に Ik= 約 80mA を得ており、殆ど同一なので挿し換え可能と判定しています。 (2000/10)

el509sch.gif


4 6JS6C/EL509 D-NFB アンプの試作〜いきさつ

 ラジオ技術 2000年 7月号に野呂 伸一 氏が考案された D-NFB 回路 (NFB for Distortion only 回路) の記事が掲載されました。 その回路は歪だけを取り去るのが目的の NFB 回路のようです。 従って Distortion minimizing NFB の名を適用しても D-NFB とも言えそうですね。

 その記事を読んで、超三極管接続アンプとの共通点・相違点などをアレコレ考察したのですが、私には完全に理解できませんでした。 その後上條 信一 氏のホームページにD-NFB 回路の解析、シミュレーション、EL34 D-NFB アンプの試作例が掲載されました。 その内容は大変判りやすく不明点がクリアーになったので「ナ〜ルホド納得、ではとりあえず追試験してみよう」・・・となりました。
 コストの軽減のため、例によって新造せず「血祭り」アンプの選定にかかりました。 槍玉に上がったのが、発熱が大きいのにソケットの周りに放熱孔の開けられていない設計不良シャーシに乗った 6JS6C/EL509 の挿し換え運用タイプの超三結アンプです。

 電源部分および前段ヒーター配線のみ残してその他の配線を一旦取り除き、ソケットを外して終段のソケット穴四個の周辺に 30度毎に電気ドリルで回すテーパーリーマにて10mmの通風孔を10個あけました。 そのソケット穴四個からなる長方形だけを残してシャーシ全体をマスキング・テープで養生し、以前の塗装であるメタリック・シルバーを吹き付けて上塗りし乾燥させてシャーシ改造は終り、ソケット等を取り付け直して復旧しました。 実はソケット穴からシャーシ内部にも吹き込んだ塗料が、残したヒーター配線等にも付着してしまい、あまり見た目には美しくありませんが、シャーシ内部はヤタラに見せるものでないからカンベンナです。 (2000/12)


5 D-NFB アンプの回路図

 上條 氏の試作例では初段と帰還段は 12AT7 でしたが、私の場合は改造前の 6U8A のヒータ配線が残っており、シメシメと 6DJ8 にしました。 勿論そのまま 6AQ8 が挿せるし、配線し直せば 5965/12AY7 等も利用可能でしょう。 
 さて 6JS6C/EL509 ともに本機を製作する以前には、標準的な C/R 結合アンプによる動作確認を経ずに直接超三結アンプとして製作したので、自己バイアス動作の経験がありません。 それで自己バイアス用のカソード抵抗の値も、適正なスクリーン・グリッド電圧も確信が持てません。 しかし「なあに超三結アンプでは動いていたことだし・・・」と、Ik=80mA で Eg1=-24V 辺りなら十分安全圏内、闇雲に 300Ωにイッパツ目をつぶって決定、スクリーン・グリッド電圧は「現物合わせ」を覚悟の上、仮に12kΩ+27kΩのブリーダの途中から供給することにしました。
 また、超三結アンプではカソード抵抗とスクリーン・グリッド電圧配分は 6JS6C/EL509 ともに共通とし、無調整で挿し替え OK となっていました。 すなわち「規格の小さい6JS6C に合わせておけば常にアンダーの筈だから何ら問題は起きない」という怠けたセコい考えから、今回も無調整挿し替えを押し通しました。 (2000/12)
 以下に回路図を示します。

6js6cdnf.gif


6 D-NFB アンプの動作試験

 さて動作試験ですが、何も考えずにあらかじめ帰還管のグリッド入力である、終段のグリッド・リーク兼ポテンショメータ(以下ポテンショ)の摺動端を接地側に回し切っておき、パワーオン。 各部分の電圧を当たって、動作電圧配分に問題が無いことを確認します。 カソード電圧、スクリーン・グリッド電圧ともに思惑通り、一発 OK です。 次に信号入力とスピーカとを接続し、帰還管のポテンショが接地された「超三結バージョン3」状態にて、入力ヴォリュームを上げながら音の出具合を確認します。
 この状態で十分実用になります。 次にポテンショを上げていくと少しゲインが上がるので、この回路は部分的に PFB として動作することが判ります。 ポテンショを回しすぎると C/R 結合の時定数に従いボボ・・・・とエンジン見たいな発振を始めるので戻します。 上條氏の試作例中に記された調整法に従い、スピーカを接続しても外してもスピーカ端子の電圧が変らない点にポテンショを合わせ、調整は完了とします。

 出てきた音は、何という表現をすれば適切なのか判りません。 超三結アンプの様に音が手前に迫り出して来ずにスピーカ位置に止まっています。 また明らかに電圧成分の多い、よりカマボコ的な特性のオットリして控え目の美しい感じの音です。 どちらかと言えばクラシック・ファンに好まれるかなぁ、と言う感じでもありますが、ジャズやフュージョン等を鳴らして見ても特段の違和感はなく、歪が少ない所為か長時間聴いても疲れしません。(2000/12)


7 変形した 超三結 V1 アンプに戻る

 しばらく D-NFB アンプにて楽しみましたが、時々物足りなく感じて、癖の強い超三結アンプに戻りたくなりました。 そこで、ふたたび改造を加えて試みたのは別項ページに示した 「2A3/45 P-G NFB jointed cathode follower driven」回路の初段 SRPP 部分を単なる C/R 結合増幅回路に変更した、変形 V1 回路です。
 要するに、電圧帰還管兼カソードフォロワをドライバー段として挿入し、そのプレートは終段のプレートで吊って、且つカソードには定電流源を挿入して深い P-G NFB による「終段のμ殺し」を積極的に行うもので、 超三結 V1 実用回路ではなく C/R 結合を使って変形した 超三結 V1 回路です。 

 但し、 に比べ、デメリットとしては
  ● C/R 結合となり、部品点数が増加する
  ● その C/R 結合が、音に影響する可能性がある
 の二点があると思います。
 その反面 のメリットとしては

  ● より低い B 電源電圧ですむ(直結部分の嵩上げが不要になる)
  ● 直結回路に必須の動作点調整と点検が不要となる
  ● 直結回路の未経験者でも容易に試験可能である
 の三点をもつことになります。

 なぜ筆者は、これまで試作した多数の多極出力管の超三結 V1 アンプに、この回路方式を適用しなかったのか?・・・C/R 結合は部品によって音が変るので、それを回避するためには音に影響の少ない「直結の 超三結 V1 アンプ」に限る・・・と単にこだわったのですね。
 しかし抵抗感を感じるとは言うものも、別項に示した大ドライブ振幅を要求する 2A3/45 の超三結 V1 アンプを、実用的な一電源にて構成するには目をつぶって C/R 結合に頼らざるを得なくなり 超三結 V1 アンプとなりました。 その試験結果「普通の C/R 部品」を使えば、音には極端な悪影響はないことが判明し、見直しました。
 これまでにも実際には別項ページ 「Triodes P-G NFB jointed SRPP Driven (1626, 2A3, 6EM7, CV18) 」に示すとおり、以前に何台か試作した「三極出力管相手の超三結もどき」アンプでも、一電源構成を優先させて SRPP 出力を終段に C/R 結合していましたし、6AC5GT 等、小ドライブ振幅で済む一部アンプを除いて、一般の大ドライブ振幅を要求する三極出力管相手では頭から の直結は、実用的構成としては諦めていた事実もあるのですがね。

 スイッチ切り替えにて他の直結 超三結 V1 アンプと瞬時 A/B 比較してみると、直結に比べて明らかに 平板 な音になっていることが判ります。 もしかすると 超三結 V1 アンプが、おとなしく且つ美しく聞こえる原因はこの 平板 さかもしれません。
 本機の場合は終段の電圧ゲインが 2A3/45 に比べて遥かに高いので、初段および電圧帰還管兼カソードフォロワ・ドライバーは 12AT7/5965/12AY7 で何とか足りていますが、終段のプレートから初段のカソードに掛ける P-K NFB の量が不足であり、これを増やすとなるとトータルゲインが不足しそうです。

 上記のような何例かの結果を踏まえて、今回は筆者としては初めて多極出力管に 超三結 V1 回路を(実験的に)適用したことになります。 回路図を下記に示します。(2001/01)

6js6cstc.gif

 電源部分は、超三結アンプ時代 (?!) の電源をそのまま流用して、タンゴ ST220 による 280V 両波整流出力をキャパシタ input として160mA 負荷時に 320V を得ています。 以下に回路図を示します。 (2001/04)

6js6cps.gif


改訂記録
(1999/08):EL509 初期動作
(1999/09):スロースタータ 6AX4GTB→6CA4 に変更
(2000/06):出力トランス変更、本体仮組み、電源トランス変更、外部電源化
(2000/08):動作点変更、出力トランス変更、本体組み直し
(2000/10):6JS6C と合流、組直し
(2000/12):D-NFB 回路によるアンプの試作
(2001/01):準超三結 V1 アンプに変更
(2001/02):出力トランス変更
(2001/04):電源部分の回路図追加
(2001/10):本機を電源内蔵ユニバーサル超三結アンプに改造。
以上