6BM8 単球受信機の構成を検討するにあたり、最も伝統的な回路として思いつくのは、 6BM8 の三極管部で再生検波して五極管部で電力増幅する 0-V-1 ですが、一つ心配があります。それは、どう考えても絶対ゲインが足りないことです。 なぜならば、前に私が試作・試験した並三では、高周波用五極管 (6C6/77) による再生検波の出力を五極管 (6ZP1/41) で電力増幅しても総合ゲインが足りず、低μ三極管 (37/76) を追加して並四 (0-V-2) に変更した位でしたから。
従って、調整棒はLの相対的な値の点検のほか、設定した同調周波数の過不足、すなわちCの過不足も点検できるのです。 高一の場合、高周波増幅段および検波段の同調周波数の一致を調べる場合、ある放送の受信状態で、高周波増幅段のコイルにコアを挿入しても、金属環を挿入しても離調(同調が外れること)してゲインが落ちる状態ならば、調整はOKと判定できます。
○入力の条件:
高周波増幅用の同調回路から高周波をグリッドに入力する際に、低周波入力側に与える影響を最小にし、同様に低周波をグリッドに入力する際に、高周波入力に与える影響の最小化が必要です。一般に低周波入力源と高周波入力源とでは、インピーダンスが異なります。しかも増幅管への入力にはロスを避け、この矛盾をうまく解決する事が鍵です。
○実際の設計:
同時に入力する方法として、「図3 直列入力と並列入力」に示す方法があります。
●直列入力方式:各々の信号源を積み重ねて−−−原理的にはロスはないが
●並列入力方式:相互に影響の少ない方法で−−−すこしアヤシクても
●低周波入力:
同調回路の下(アース側)に低周波信号を入力するとすれば、その低周波入力の両端に高周波成分をバイパスするための並列キャパシタが必要になり、低周波入力が、ある程度低インピーダンスでないとハイ落ちになります。低インピーダンスで振幅をとるには電力が必要です。従ってこの方法はすこし問題を残します。
同調回路を独立にしてアースから浮かせれば可能ですが、バリコンを絶縁したうえプーリーなどで連動させる必要があります。同調回路を浮かせることが出来るスーパーヘテロダイン方式の中間周波増幅回路では、この方式が適用可能です。
上記の方法のほか、積み重ねを逆にして同調回路からグリッドへ至る途中に低周波トランスを入れる方法が考えられます。しかし、「浮遊容量」が同調回路に加わり、影響を及ぼします。低周波トランスからの入力経路に高周波チョークを入れて浮遊容量の影響を減らすことも考えられますが、これも同調回路へ影響し、さらに低周波信号にも影響しそうです。結局、この方法も問題を残します。
●低周波入力:
高周波入力に並列に接続する低周波の信号経路には、高周波チョークを直列に入れて、ローパス・フィルタとして高周波入力が漏れるのをストップする方法が考えられますが、同調回路に影響します。そこでチョークの代わりに同調回路の性能に影響しない
50kΩ 程度の抵抗を低周波信号経路に直列に入れて漏れをストップし、グリッドに接続します。
そこで結論は、部品構成が簡単な並列入力方式となり、これを採用することにしました。
●出力の条件:
高周波出力を取り出す際に低周波出力側に与える影響を最小し、同様に低周波出力を取り出す際に高周波出力に与える影響を最小にすることが必要です。
●実際の設計:
高周波と低周波を同時に出力する方法を、「図4 直列出力と並列出力」に示します。
○直列出力方式:
各々の負荷を積み重ねて−−しかし、バイパスは必要
○並列出力方式:
フィルタで分割して各々の負荷に振り当てる
●低周波出力:
結合コイルの下、B電源側に出力トランスを入れます。上記のバイパス用キャパシタが原因して、低周波出力にはハイ落ちの影響が出ます。同調回路をアースから浮かせることが出来るスーパーヘテロダイン方式の中間周波増幅回路の出力側でも、この方式が適用可能です。
●低周波出力:
プレートに入れたローパス・フィルタの高周波チョークのB側に、さらに出力トランスを入れます。この状態では、出力トランスの前にカップリング・キャパシタがアースに落ちているため、低周波出力にはハイ落ちの影響が出ます。
●スクリーングリッド:
高周波分バイパス用の 0.05μF位のパスコンを入れる。
●カソード:
直接グランドに落して固定バイアスを掛けるので不要。このほうがカソード回路に挿入される共通インピーダンス結合による発振の危険性を低減できる。
●コントロールグリッドへのバイアス電圧供給回路:
高周波成分および低周波成分を取り除くパスコンを入れる。
Cpg の少ない高周波増幅五極管の場合は、結合コイルを高インピーダンスにして目一杯のゲインを稼ぐことが可能ですが、電力増幅五極管では、検波コイルへ結合する結合コイルには巻数の少ない低インピーダンス型を採用し、プレートに現われる出力電圧を抑えて、Cpg によるグリッドへの漏れを軽減します。 この処置により、ゲインはかなり犠牲になりますが、増幅は安定します。
また、グリッドへの入力インピーダンスが高い場合も発振の原因となります。これはプレートからの漏れがグリッドにシッカリ受け止められるためです。 場合により、高周波同調コイルからグリッドへの入力には、コイルのホット側から直に入力するのではなく、適宜タップダウンした点から入力する必要があるかもしれません。
巻線比の二乗がインピーダンスに比例するので、グリッドへの入力インピーダンスが低くなれば、プレートからのCpg による正帰還を低減できるわけです。
これらの発振対策は、ゲインを稼ぐ目的から後退しますが、高一の狙いである周波数選択度の向上は果たせるわけです。
検波出力はカップリング・キャパシタを通してヴォリューム(ポテンショ)に導き、その摺動端を直接五極管部のグリッドに入力すると同調が狂うので、少しゲインをロスするけれど同調回路に最小の影響で済む 50kΩの R を直列に入れました。
ハイμ三極管によるプレート検波で再生の併用は、今回が初体験です。ゲインでは当然五極管にかないませんが、マイクロフォニック・ノイズの静かさは 6267/EF86 に近いものです。発振開始点の穏やかさは Gm の低い五極管、6C6/77, 6J7/ 6SJ7, 6267/EF86 に比べて遜色なく、フワッと掛かり感じのいいものでした。
試作機用に準備したコイル類は「図5 コイルの製作」に示した、直径 40mm の紙筒に 0.3mm エナメル線を巻いたものです。直径を少なくする場合は巻き数を断面積比だけ増やせばホボOKです。例えば 40mm で 10 回なら 30mm では 16/9 = 18 回となります。
バリコンの最大容量には、時代背景を背負って 430 pF, 380pF, 335pF 等様々なものがあります。試作コイルでチェックした結果では、これらの最大容量の差によりカバーする下限周波数への影響は、 510kHz〜550kHz あたりにバラつくだけで、 NHK第一 (594 kHz) はマトモに受信できます。もし下限周波数を電波法の定める通りにしたければ、適宜巻数を加減して調整が可能です。
ダイアルはなくてもかまいません。高一では結構同調のピークが甘いので、バリコンのシャフトを直接ツマミで回して充分同調がとれます。
なお、図示した再生コイルの巻数は少し多すぎでした。試作機の動作点検では、高い周波数では再生発振を通り越してブロッキング発振に入りますが、低い周波数で再生発振が起きないのはもっと不都合なので、一応合格としました。減らすのが面倒なので、そのままにしてありますが、実際には15T (15 turn)を 1T〜3T 減らしても良いようです。
●バリコンのアース:
バリコンのアースは高周波増幅段および検波段、各々独立として、まずシャーシに落とし、そこにコイルのアース側を接続すること。
●五極管部の配線:
グリッドおよびプレートの配線は近づけないこと。少し長くなっても迂回して距離を保つこと。どうしても接近したり、クロスする場合は、またアンテナの配線も含めて(ハイ・インピーダンス型にしたので)最短のシールド線を使用する。
●ソケットまわり:
センターのシールドは、かならず最短にてアースに接続すること。試作機に使ったソケットはジャンクものの下づけで、アース・ラグが4方に出ているので便利でしたが、本当はシャーシ内のソケット周辺には銅板を敷くといいと思います。
◯発振抑止策の実施
オーディオ・アンプと同様にグリッドおよびプレートに適宜の値の抵抗(例えばグリッドには1kΩ、プレートには 100Ω)を直列に挿入して発振を抑制します。 試作機ではこれを適用しました。
更に検波段の負荷の下にはデカップリング回路を追加しました。
それでも発振が止まらなければ、高周波増幅コイルにタップを設けて、五極管部のグリッドに接続します。試作機では、これは適用しませんでした。
スクリーン・グリッドの電圧を下げて、ゲインを殺すというのもあります。 この対策は別のTさんからもコメントを戴いたものです。 試作機ではこれも適用しました。
バリコンが入った低い周波数では、高周波増幅のコイルに調整棒を挿入して、Lを増やしても、または減らしても離調してゲインが低下する状態ならば調整ができていることになります。
バリコンが抜けた高い周波数では、バリコン付属または外付けのトリマーを調整して、ゲインを最大にすれば周波数は一致している事になります。
実際には、トリマー調整によって低い周波数にも少しの影響が出ます。したがって厳密には、再度低い周波数にてコイルを調整し、次に高い周波数のトリマー調整を行なえばほぼ完全ですが、実用上は、下〜上一回でも殆ど問題はありません。
バリコンが入った低い周波数では、高周波増幅コイルに調整棒を挿入して、Lを増やすかまたは減らした場合にゲインが上がる状態ならば、幾分ズレていると判定されます。このような場合は、高周波増幅コイルの巻き数を若干調整し、低い周波数での一致を確認し、そのあと高い周波数部分についてはトリマーにて調整を行ないます。
調整が進むと、高周波増幅段および検波段の周波数が一致するため、発振をおこす可能性が高くなります。発振を起した場合は調整を中止し、対策を行ない、調整を続けます。 その昔、発振を起こすのを頼りに単一調整の状態を確認したことがある位です。
「図7 試作機の回路図」に、私の試作した 6BM8/16A8 単球レフレックス高一の回路図を示します。参考にしていただければ幸いです。
組み上げて、発振対策をとって一段落してから、「ヴォリュームを上げると、高周波発振の始動により検波段の再生発振が早く始まる」現象が発見され、早速対策しました。 この現象は、その昔組んだ「マトモな高一」でも起きたもので、周波段/検波段/低周波段の間に微結合が残るのが原因です。低周波段に漏れ込む高周波成分は、回路的には検波管のプレートに挿入したフィルタにより取り除こうとしていますが、完全にはとり切れず、低周波段に入って増幅されて高周波段に帰還するものらしく、フィルタのCを単に240pF 位に増やすか、二段πにするのが適当です。試作機では200pF に増やしました。
最初の回路では、五極管部のバイアスをカソード回路に抵抗を入れて自己バイアスとしていましたが、6BM8/16A8 の管内シールド及び五極管部の G3 がカソードに接続されているので、カソードを直接接地したほうが発振対策上有利と判断し、ヒーター電圧を 6BM8 の場合は半波倍圧整流、16A8 の場合は半波整流して、-20V 位の固定バイアス電源とします。
調整時には VR3 はより深いバイアス電圧となるように設定し、徐々に減らして行き、カソード回路に入れた 10Ωの両端の電圧が 0.4V 程度、すなわちカソード電流が 40mAとなる様に調整すれば、概ね適正なバイアス電圧に設定できたことになります。