1619 超三極管接続アンプ製作記

1998/03〜2002/05 宇多 弘
1619.jpg
シャーシ更新後、電源トランス変更前の写真です。 リレー/セメント抵抗は放電用です。


1 始めに

 直熱ピーム出力管 1619 の超三結アンプを作る事になり、早速規格の調査にかかりました。  手近の規格表は国産球しか記載されておらず、また古い規格表では送信管の部には下記項目だけが記載されていました。(1997/12)

 1619:Ef=2.5V,If=2.0A, Epmax=400V,Esgmax=300V,Psgmax=3.5W
 口金接続:1=Metal shield, 2=Filament, 3=Plate, 4=Screen grid,
      5=Control grid, 6=No connection, 7=Filament, 8=Beam electrode

 その規格表には肝心の Pp がありません。そこで、MJ 誌 1992年 11月号掲載の宍戸公一氏の記事「設計理論から製作まで〜直熱ビーム管 1619 ppパワーアンプ」を参照しました。 それによると下記表のとおりです。

 AB2 pp の無信号時にプレート損失は 400V 37.5mA から、Pp=15W と推定されます。 どうやら、A1シングルでは 6BQ56BM8 の間の小パワーですが、家で聴くには十分です。

表 1619の動作例

諸元
表記 (単位)
A1single
AB1 pp
AB2 pp
陽極電圧Ep(V) 300400400
遮閉格子電圧Eg2 (V) 250300300
制御格子電圧Eg1 (V) -10-20-16.5
最大入力電圧Ei peak (V) 1040 (G-G)77 (G-G)
beam 電極電圧Ebeam (V) 000
無信号時陽極電流Ip0 (mA) 4452*75*
最大信号時陽極電流Ipsig (mA) 4680*150*
無信号時 sg 電流Isg0 (mA) 43.5*6.5*
最大信号時 sg 電流Isgsig (mA) 610.0*11.5*
負荷抵抗**RL (kΩ) 8.814 (P-P)6 (P-P)
歪率Dist (%) 7.03.03.0
最大出力電力Pomax (W) 3.017.536.0
注*:Push-pull 二管の合計
注**:(P-P)=プレート〜プレート間

2 設計の前に

 1619 には下記の三つの問題がありました。 調査の結果、それぞれ判明しました。

 ●1 ピン メタルの管外被  :シャーシに接地します。
 ●8 ピン ビーム電極の扱い :フィラメントにいれるハムバランサの中点に接続します。
 ●フィラメント点火法   :バイアスが浅いので直流点火は不適当、交流点火とします。


3 基本回路設計と実装設計  

 1619 は極めて普通のビーム管と考えて差し支えないとの結論です。 シングルならば直結タイプの超三結回路で十分ドライブできると判定しました。 但しフルパワーとするためには、B 電源は 350V 程度が必要になるでしょう。

● 回路
 最新の全体構成は下記のとおりです。(2002/05)

初段   電圧帰還管     終段   出力トランス  stopping diode
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
6U8-p   6U8-t     1619    中型    1N4007
 ←   P-G NF   →  直結   5kΩ/8Ω

● 終段
 「表 1619 の動作例」から、A1 シングル動作例を適用します。

● 出力トランス
  インピーダンス:3.5kΩ/8Ω
  通過電流   :50mA〜 中型形出力トランスにて納まります。

● ストッピングダイオード
  プレート     :1N4007 に変更し固定しました。(2000/06)
  スクリーングリッド:ドロッパ抵抗の先に 1N4007 を直列に挿入します。

● 前段球とリニアライザ
 電圧増幅五極管プレート電圧=40V とします。 電圧増幅五極管スクリーン電圧=50V =1619 カソード(ハムバランサ中点)とします。 1619 のバイアスは -10V となります。
 リニアライザは廃止して、P-K NFB に変更しました。(2000/06)

● B 電源
 350V 100mA 以上とします。 終段プレート電圧は、超三V1とするため、自己バイアス分を加算して 300v+50V=350V とします。 出力トランスによる電圧降下は 5V 程度を見込みます。 終段スクリーン電圧は対フィラメント電圧 250Vを確保します。

● フィラメント/ヒーター電源
 F=2.5V2A x 2:1619 フィラメント二系統
 6.3V1.2A  :初段、電圧帰還管、P-K NFB 挿入素子。
 6.3V2.5A  : ストッピングダイオード=6AS7GA/6080・・・1N4007 に変更したので不要です。(2000/06)

● ハムバランサ
 22Ωの固定抵抗を二個使い、それに100Ω可変抵抗を並列とし、可動端を固定抵抗の中点に接続して、ハムバランサの抵抗を減らすとともに微細な調整を可能としました。(回路図を参照)

● 回路図
 初期の本体回路図および最近の改造すみ本体回路図、電源部分を示します。

1619sch.gif

1619sch3.gif

1619pwr2.gif


4 製作と動作試験

● シャーシ
 アルミ製 200x300x60 T=1.2mm の汎用シャーシの妻面下方にL型アルミサッシュをビス止めして補強し、縦型配置とし、後側面 (妻面) に AC 電源コンセント、電源スイッチ、フューズホルダを取り付けました。(1998/03)
 移動運用を考慮して、鈴蘭堂製の SU-8 ボンネット付きシャーシ 200x350x40 に移設しました。(2000/07)

● 動作点調整
 1619 の嵩上げ電圧込みのカソード電圧を 55V に設定し、前後に動かしても歪が発生しないことを確認しました。 実質 Ep=265V, Esg=210V (Esg ドロッパ=7.5kΩ/ 二管分) となりました。  この状態で P/G2 合計概算入力は 12.1 W となり Pp/Psg は、何れも充分に安全圏内にあることを確認しました。


5 出来映えとアフターフォロー

● 残留ハム
 B 電源リップルおよびフィラメントからのハムはスピーカに耳を付けて辛うじて聞こえる程度でした。 デイジタルテスターの AC レンジでスピーカ端子での残留ノイズを当たりながら、ハムバランサ調整による最小値では1mV〜2mV の間をふらついており、それ以下にはなりませんでした。(1998/02)

● 別のノイズ
 1619 がトランスからの振動を受けてか、フィラメントの AC 点火による振動か不明ですが、スピーカに耳を近付けると、わずかながら 400Hz 位のコンスタントなマイクロフォニック・ノイズらしい音を発生していますが、実用上支障なしとしてそのままにしてあります。(1998/03)

● 1619 の G1 の処置
 コールドスタートの power on 時には直熱管の1619 が前段よりも先に動作を開始するはずで、初段とカソフォロ段の電圧配分の状態が不明ですが、 G1 は初段がウォームアップするまでの間宙に浮いているのは気持ちが悪いので、回路に影響が及ばない 4.7MΩ程度の抵抗にて常時接地してみました。 抵抗なしにてスイッチ投入時にカソード電位を観測すると約 85V まで上昇し、以後降下します。 この抵抗にて接地しても電圧には変化がありませんでしたが、power on に発生するハムはへりました。 それで、もっと低い抵抗にする必要があるようですが、そのままにしてあります。(1998/03)

● P-K NFB の追加
 高音域の不足感を改善するために、1619 のプレートから初段のカソードに微小な P-K NFB を加えました。 このループに非直線素子を加えると、電圧帰還管からの歪を打ち消すことができるかと考え、2SK30A のダイオード接続を NFB 分圧抵抗に直列に挿入しました。 実験の結果、聴感上多少の効果があり、高音域の鮮明さが改善されたようです。(1999/03)
 2SK30A のダイオード接続を 6SL7GT/2 の二極管接続に変更しました。(2000/06)
 シャーシ変更に際して 6SL7GT/2 の二極管接続を 12AU7/2 の二極管接続に変更しシャーシ内に寝かせて取り付けました。(2000/07)
 単純に抵抗のみの P-K NFB としました。 (2002/05)

● 電源トランス、出力トランスの交換他
 シャーシ変更に際して、出力トランスを東栄変成器 OPT-5S からタンゴ U708 に変更しました。(2000/06)
 ストッピング・ダイオードは 1N4007 に固定しました。(2000/06)
 また B 電源には外付けの 450V5600μFのキャパシタをコネクタにて外づけ接続可能とし、音質の向上を図りました。(2000/07)
 電源トランスは初期のノグチ PMF150M (2000/07) から、東栄変成器 PT-160A に変更しました。(2002/05)

● 安全措置
 安全確保のため、電源 off 時、停電時、または動作中にコンセントを誤って抜いた場合には B 電源が 30 秒程度で放電するよう、100V AC リレーを通じて 5kΩ10W でシャントする放電回路を追加しました。(2000/07)
 初段が故障した場合の終段保護用ツェナー・ダイオードおよび故障表示の LED を追加し、あわせて B 電源の放電回路を回路図に追加しました。(2002/05)

以上

改訂記録
(1998/02): 試作および初期試験
(1998/03): 点検および部分調整
(1999/03): P-K NFB 追加
(2000/06): 出力トランス交換他
(2000/07): シャーシ更新、P-K NFB 非直線素子の変更、B 放電回路の追加
(2002/05): 電源トランス交換、終段保護回路の追加、回路図の改訂
End Of File