コロンボ君の作文技術 2006/08/08 山戸朋盟

 読書感想文を書くということは、どういうことでしょうか。また、どうしたらよい感想文が書けるのでしょうか。この質問に答えるとき、私はいつも次のように説明することにしています。

 「読書感想文を書くということは、刑事が事件の捜査報告書を書くことと同じだ。」

 まず、あなたが刑事だと思ってください。名前をコロンボ君としましょう。コロンボ君の前には、いつも殺人事件が持ち込まれます。そして、殺人事件には、必ず「謎」が含まれています。犯人は誰か、殺人の動機は何か、犯行はどのように実行されたのか、などなど。そこにコロンボ君が登場する。その殺人事件の全容を明らかにすることがコロンボ君の役割なのです。

 読書において、殺人事件にあたるものが本(小説)です。殺人事件と同じように、小説の中には必ず「謎」が含まれています。この登場人物はこの場面でなぜこんなことを言ったのか、なぜこう考えたのか、なぜこうしたのか。また、作者はなぜここにこんなことをこのように書いているのか・・。例を挙げればきりがありませんが、事件の捜査と同じで、どんな小さな謎もゆるがせにできない。小説を読むということは、君たちがコロンボになって、それらの謎に誰もが納得できる答を示すことなのです。

 もちろん、小説の中の謎はお互いに複雑にからみ合っています。しかし、からみ合う多くの謎の中に、その中心となるもっとも大切な謎が必ず存在するのです。本の中のもっとも大切な謎とは何でしょうか。それは、その小説を通じて作者が何を読者に訴えたいのか、という謎です。

 その小説を通じて作者がもっとも強く訴えたいこと、それをその小説の「主題」と言います。これをぜひ憶えておいてください。「主題」とは、作者が、「これこそ自分が発見した人生の真実だ。このことをすべての人々に知らせたい。」と強く願っていることです。それを言うために、作者はその小説を書いたのです。

 そこでさっきの、「読書感想文を書くということは、捜査報告書を書くことと同じだ。」という言葉を正確に言い換えましょう。

 「あらゆる小説は推理小説と同じ構造を持つ。そこでは謎が提起され、推理され、解明される。その結果、推理小説では事件の全容が明らかにされ、一般の小説では人生の真実が明らかにされる。」

 お分かりでしょうか。読書感想文を書くということは、単に「読書」の「感想」を「文」にすることではないのです。「この時、被害者はどんなに悲しかったことだろう。僕にはとても想像できない」だとか、「僕は犯人の頭のよさに感心した。僕にはとてもこんなトリックは思いつかない」だとか、「難しい事件だったが、うちのかみさんが励ましてくれたので頑張った」だとか、コロンボ君は、こんな事件の内容と関係ない感想だけを並べた捜査報告はしません。これらは、本当はなくても構わないのです。読書感想文を書くということは、主題は何かということを推理し、論証することです。次に、そのための注意点を考えてみましょう。

 その第一は,現場をよく観察するということです。読書において、現場とは文章の中身のことです。ここにこう書いてあるからこうなのだ、という論証を積み重ねることによって主題を探し出すことが大切です。どんな小さな謎も、事件の解決に結びつく可能性があります。注意深く読む人ほど、たくさんの謎を発見するものです。謎を発見することは謎を解くことにつながります。事件の現場をボーッと眺めるだけで何の謎も発見しない人は、謎を解くこともできないのです。現場を踏まえない勝手な想像からは、真犯人(主題)はけっして見つかりません。

 第二は、表現の仕方を工夫することです。捜査報告は、誰が聞いても納得できるように書かれているのが理想です。コロンボ君の説明は明快でドラマチックですね。感じたことを素直に書けばよい作文ができるというのは、小学生に言うことです。中学生になったら、ある程度背伸びをして、人をうならせる、カッコイイ文章を書けるようにひそかに努力してください。

 もう一つ、とても大切なことがあります。それは、良い感想文を書くためには、よい本を選ぶことが大切だということです。コロンボ君も、難しい事件に出会うからこそ優れた推理が展開できるわけで、平凡な交通事故の後始末ばかりしていたのでは、実力の発揮しようがないでしょう。