◎ 「兄弟殺し」解答 平成元年十二月山戸朋盟

◎ 基本問題

問一 殺人事件の解明には、地図が役に立つ。シュマールの隠れていた所、ウェーゼの事務所、自宅、殺人現場、パラスの家を地図に書け。

         │   |◎ウェーゼの事務所     北
         │   │             西ネ東
         │   │              南
         │   │
         │  ○│ウェーゼ
         │  ↓│        
         │   │        □ウェーゼの家
─────────┘   └───────────
              ●シュマール

─────―──―┐   ┌…─―┐───────
         |   │◇パラス|
         |   └―――┘
         |   |
         │   │        ┏
         │   │         \
         │   │       月光(南東から北西に射す)

 「月の明るい夜」だから、月は満月の前後。夜九時の満月は、南東から斜めに地上を射す。待ち伏せするシュマールを月光が照らす。パラスのアパートの道路に面した壁は月光の陰になり、部屋の明りをバックにパラスの太った体が窓に黒く浮き上がる。ウェーゼは初めは月光の陰の中を歩き、角を曲がる所で月光の中に出る。その時初めて、自分の曲がろうとする方向に金色の月を見る。その様に方角が決められなければならない。
 この配置でシュマールがウェーゼに襲い掛かる姿勢を想像すると、シュマールは左利きの方がよさそうだ。

問二 なぜ傍線部@のようなことをしたのか。

 「誰もが身震いする夜の空気」の中で、薄手の上着のボタンをはずしても全く寒さを感じないほど、シュマールは熱している。彼は獲物が目の前に現れるのを待つ間も殺意をこらえられない。殺意の対象を求めて煉瓦に切りつけ、凶器を刃こぼれさせてしまうほど、シュマールは身も心も殺人に燃えているのだ。この部分は、シュマールの衝動的で激しやすい性格をよく表している。

問三 「ユリア」とは誰か。

 ウェーゼ夫人。シュマールがウェーゼ夫人の名前を知っているほど、シュマールとウェーゼは近しい関係である。

問四 傍線部Cで、なぜ証拠の短剣を隠さずに現場に捨てたのか。

 シュマールにとって、ウェーゼを殺すことだけが目的だった。殺人に成功したあと、何かする計画があったわけではなく、逃げる気にもならなかった。その後のことはどうでもよかった。彼はこの殺人に、彼の世界観の証明を賭けたのだ。

問題に戻る。