遠砧

【解題】

 
昭和四年秋に作曲された、箏二部、三絃、尺八の四重奏曲。従来の三曲合奏の形式を生かしながら、西洋音楽のカノンの手法を応用して、各楽器が、同じ旋律を追いかけて繰り返し、それによって、砧の音が、遠く、また近く聞こえるように工夫して作曲されている。

【解析】


○照る月に|野  末 の藁   屋(わらや)|ほの  見えて|    風につれ  くる|衣 打つ  声
 照る月に|野原の彼方の藁葺きの家    が|かすかに見えて、そこから風に運ばれて来る|衣を打つ砧の音。

○吹き送る|風の   まにまに|遠くなり|  近く聞こえ   て|打つ   砧   |かな
 吹き送る|風の変わるま まに|遠くなり、また近く聞こえたりして|打っている砧である|ことよ。

         ┌────────────────────────────────────────┐
○面白   や |誰(た)が手すさびに唐衣 |    さやけき 夜半の月  に打つ|     らむ|
 風情があるなあ、誰   が手慰み に 衣を|こんなに澄み切った夜半の月の下で打っ|ているのだろう|か。

作詞:磯部艶子
作曲:宮城道雄




【語注】

 「衣板(きぬいた)」の約。木や石の台の上に布を置き、槌(つち)で打って柔らかくし、また、艶を出した。秋の夜、冬の夜の女の夜なべの仕事とされ、季節を感じさせる風物とされた。
唐衣 からころも。「衣」の美称。

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