四季の曲
【解題】
 
 組歌の奥組に属する曲。日本人の伝統的な季節感は、万葉集・古今集以来の和歌文学の中で培われたが、この曲もそ
れらの四季の代表的な景物を取り出し、季節の変化の順に配列した。それぞれの植物名や自然現象の後ろに、厚く積み
上げられた和歌の自然観照の世界があることを忘れてはならない。

【解析】

 
第一歌

○花  の春 立つ      朝(あした)には、日 影 くもら| で |にほやかに、

 花が咲く春が始まる立春の日の朝     には、日の光が 曇り|なく| 鮮 やかで、

○人の心も|おのづから、のびやかなる      |ぞ|四方 山    。
 人の心も、                    |四方の山を眺めて、
     |自然と  、のんびりとしてくることだ|!|

 第二歌

○春は梅に鶯、つつじや藤に山吹。桜 |かざす |宮人は、花に|心 |うつせ|  り。

 春は梅に鶯、つつじや藤に山吹。桜を|髪に飾る|宮人は|花に|心を|奪われ|ている。

 
第三歌

○夏は卯の花、橘、あやめはちす、撫子。風 吹けば涼しくて、水に|心 |うつせ|  り。

 夏は卯の花、
     花 橘、あやめはちす、撫子。風が吹くと涼しくて、水に|心を| 映し |ている。

 
第四歌

○秋は紅葉、鹿の音、 千  草の花に松虫。雁 鳴きて、夕暮れの月に|心 |うつせ|  り。
 秋は紅葉、鹿の音、種々の草の花に松虫。雁が鳴いて、夕暮れの月に|心を|引かれ|ている。

 
第五歌

○冬は時雨、初霜、霰、みぞれ、木枯らし。冴え  し|夜の曙。雪に|心 |うつせ|  り。
 冬は時雨、初霜、霰、みぞれ、木枯らし。冷え込んだ|夜の曙。雪に|心を| 寄せ |ている。

【背景】

 春たつ朝

○春の初めに|詠め|る|
 春の初めに|詠ん|だ|歌。

○ほのぼのと| 春|こそ  |空に  |   来|に|け|らし
 ほのぼのと、 春| は   |空にまず|やって来| た |のだなあ。

○             |天の香具山 |かすみ |たなびく
              |空にそびえる|
              |天の香具山に|
      |立春|の今日は|
 ほのぼのと|              |かすみが|棚引いている。

                         (新古今集・巻第一・春上・2・後鳥羽上皇)

 桜かざす宮人は

○百敷(ももしき)の|大宮人 は|いとま| |あれ|  や  

          |大宮人達は| 暇 |が|ある|のだなあ。

○桜 |かざし て けふも  暮らし|つ

 桜を|髪に飾って、今日も一日暮らし|たことだ。(新古今集・巻第二・春下・104・山辺赤人)

 心うつせり

 この歌詞について、田藤清風先生の『山田流箏歌講話 前編』に、次のような大変参考になる講話があるので、引用させていただく。

 四季を通じて各歌の終わりに心うつせりとあるが、この歌としては、この句が最も必要なもので、春夏秋のように花を並べただけ、また冬のように自然物を並べただけでは植木屋へ行ったか、気象庁の予報を聞く程度で価値の低いものになるが心うつせりで風雅人がただ徒(いたずら)に古いものをのみ貴びそれにあこがれているものではなく、時の移り行くにつれて春は花、夏は水、秋は月、冬は雪というふうにそれぞれに心を打ち込んでいるという事に注意すべきである。

作詞:不詳
作曲:八橋検校




【語注】



春立つ朝⇒背景








かざす 花を髪や冠に挿して飾ること。
桜かざす宮人は⇒背景
心うつせり⇒背景
冴えし夜
 「冴え」は「冴ゆ」(ヤ行下二段)の連用形。








来にけらし 
「来にけるらし」の短縮形。











百敷の 
「大宮」に掛かる枕詞。

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