四季の眺(生田流)

【解題】

 都会の近郊の野辺や山里の自然の風景の四季の移り変わりを描いたもの。


析】

○梅の匂ひに    |柳もなびく    |春風に、      |桃の弥生の|花 見て戻る    、

 梅の匂いに引かれて|柳もなびく、そんな|春風に、私も誘われて、桃の弥生の|花を見て戻る道すがら、

○ゆらりゆらりと     |夕霞     、春の野がけに|芹 蓬(せりよもぎ)、摘みかけた る|面白さ。
 ぶらりぶらりと歩きながら、
 ゆらりゆらりと     |夕霞が立つ中を、春の野遊びに|芹や蓬      を|摘みながら行く|面白さ。

○ 里の卯の花 、田の面の早苗 、色 見え て  |茂る|若葉の 陰 |とひ ゆけば、
 村里の卯の花や|田の面の早苗の、色が目立ってきて|
                |目に見え て  |茂る|若葉の木陰を|訪ねて行くと、

○まだきに|初音    の|山ほととぎす|  一声に、  花の名残り  も@忘ら| れ  |て、
 早くも |初音を聞かせる|山ほととぎす、その一声に、桜の花の名残惜しさも|  | つい |
                                     |忘れ|てしまっ|て、
                                     A忘ら| れ  |  で、
                                     |忘れ|られ  |なくて、

○家  づと に|     |語ら| ばや  。
 家への土産話に|夏の訪れを|語り|たいものだ。

○草葉 色づき|野菊も咲きて、秋 深み  野辺の朝風   露 身に沁みて|      、ちらりちらりと
 草葉が色づき|野菊も咲いて、秋が深まり、野辺の朝風に散る露が身に沁みて|冷たくなる頃、ちらりちらりと

○  村時雨 、よしや|    |濡るとも|紅葉葉の、  |染め  かけたる面白さ |        。
   村時雨 、
 その村時雨に|たとえ|わが身が|濡れても、紅葉葉が美しく|染まってゆく  面白さが|味わえるなら、
                                             |それもよい。

○野辺の通ひ路 人 目  も|草も|冬枯   れて、落葉 しぐるる    |木枯らしの風   、
                
 | 離(か)れ |
 野辺の通い路は人の出入りも|  | 絶   え 、
              |草も|冬枯   れて、落葉の時雨を吹き散らす|木枯らしの風の中に、

○峰の炭  窯 @煙も淋し   |              、          、
 峰の炭焼き窯の|煙も寂しい  、簫条(しょうじょう)の冬景色。しかし、それもやがて、
        
A煙も寒く   |
        |煙も寒々として、

○降る雪に野路も山路も   |白 妙 の  、見渡したる      |面白さ。
 降る雪に野路も山路も一面に|真っ白に変わり、見渡した その雪景色の|面白さ。

【背景】

 人目も草も

○山里は冬 | ぞ |寂しさ |まさりける |人 目  も|草も|枯   れ| ぬ  と|思えば
                               
|離(か)れ|
 山里は冬が|特に|寂しさが|つのることだ。人の出入りも|  |絶   え、
                            |草も|枯   れ|てしまうと|思うので。

                          (古今集・巻第六・冬・315・源宗于(むねゆき)
 テキストの異同

@   (生田流)
A博信堂(山田流)
作曲:松浦検校
箏手付:八重崎検校
作詞:殿村平右衛門茂済
    〔1795〜1870〕

【語注】













忘られて 
「忘ら」はラ行四段の未然形、「れ」は自発の助動詞「る」の連用形。
@Aのテキストがある。













人目も草も
⇒背景
落葉しぐるる 落葉が時雨のように降ること。落葉時雨。


煙も淋し @Aのテキストがある。










離(か)れ 「離(か)る」(ラ行下二段)の連用形。「離れる・遠ざかる」の意。ここでは、人が訪ねて来なくなってしまう意。

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