岡康砧

【解題】

 華やかな砧の器楽部分を挟んで、短い前歌と後歌を付けたもの。簡潔な詩句ながら、前歌は曲全体の主題を明快に提示し、後歌は余韻を残して曲を締めくくっている。

析】

○月の前|の|砧  は、   夜寒   を|つぐる 、雲 井|      の|雁は、
 月 夜|の|砧の音は、   夜寒の訪れを|知らせる。
           |また、夜寒の訪れを|知らせる 高い空|を飛んで来る |雁は、

○      |    琴柱   に|うつし   て|面白   や 。
 その列の形を|    琴柱の並びに| 写 したようで、
       |鳴く声も琴 の調べに| 移 し   て、風情があるなあ。

○夜半の砧の 時雨の雨       と、夜半の砧の時雨の雨と、
 夜半の砧の、時雨の雨のトレモロの音と、

○    |うち連れ立ち て、けふ|の| あそび |は      。
 箏の音が|  連れ立っ て、
     |リズムを合わせて、今日|の|セッション|は、実に面白い。

【背景】

 月の前の砧は

 組歌表組の『菜蕗(ふき)曲』の第三歌に、こうある。

○月の前の調べは、夜寒を告ぐる秋風。雲居のかりがねは、琴柱に落つる声(こゑ)々。

 雲井の雁は琴柱にうつして

 
「菅家文草」(菅原道真の詩文集)の中に、

重陽の節 、   宴 に侍 し、同じく、「天 浄(いさぎよ)うして |賓    鴻(ひんこう)を
 重陽の節に、宮中の宴会に出席し、同じ時、「天が清らかに晴れているので、飛んでくる鵲(かささぎ)が

識(し)る」といふことを|賦す 、  製に応(こた)へ|まつる  。
 良く見える」ということを|書いた、帝の詩に答    え|申し上げる。

と題する詩があり、その一節に、空を飛んでくる雁の列を

○碧玉の装い |せ   る|箏の 斜めに立てたる| 柱(ことぢ)
 碧玉の装飾を|ちりばめた|箏の、斜めに並べた |琴柱    のようだ。

と描写している。雁の列を琴柱の配列に見立てた古い例である。

作詞:不詳
作曲:岡安小三郎



【語注】

月の前の砧は⇒背景
雲井 高い空。語源は「雲居」で、雲の居る所の意。
雲井の雁は琴柱にうつして⇒背景






あそび 糸竹の遊び。音楽の演奏。














重陽の節 九月九日。菊の節句。

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