新潮(にいじお)

【解題】

 島崎藤村の詩集『夏草』所載の新体詩『新潮』を歌詞としたもの。原詩は六行が一連で、それが三十一連ある。この歌詞はその三・九・十連目を抜き出している。

【解析】


○夕  汐 青き|海原に|すなどり |す べく   |漕ぎ 来れば

 夕方の汐が青い|海原に、漁   を|するために舟を|漕いで来ると、

○   巻きては |開く 波の上(へ)の|鴎の夢も     |冷やかに     |浮かび流るる海草の
 波が渦巻いては又|広がる波の上   の、鴎も夢を見るように|涼しげに飛んでいる。
                              |冷やかに     |浮かび流れる海草が

○    目にも幽(かす)かに|見ゆる   かな
 海中に、目にも幽    かに|見えることだなあ。

○見よ|うるはしの夜の空|見よ|うるはしの空の星
 見よ、うるわしい夜の空、見よ、うるわしい空の星、

○北斗  の|清き  |影 冴えて|   望みをさそふ|天の花
 北斗七星の|清らかな|光が冴えて、人々の希望をさそう|天の花のような星々の

○とわの宿り     も|舟人の|  光を  仰ぐ       |ためし       かな
 永遠の住処である夜空も、舟人が|星の光をふり仰いで航路を定める|習わしとしているのだなあ。

○潮(うしお)を照らす篝火(かがりび)の|   きらめくかたを|窺(うかが)へば
 潮     を照らす篝火      が|海面にきらめく水中を|見つめる   と、

○松 の火 |赤く|燃ゆれ    ども 魚 行く   |かげは|見え    |わかず
 松明の火は|赤く|燃えているけれども、魚が泳いでいる| 姿 は|認めることが|出来ない。

○  流れは急(はや)し|ふなべりに|  触れて| かつ |鳴る   夜の浪
 潮の流れは速    い。 船 べりに|突き当たり、そして|音を立てる夜の波よ。

作詞:島崎藤村
作曲:
中能島欣一

【語注】

目次へ