都の春
【解題】 明治23年、東京上野の東京音楽学校(現在の東京芸術大学音楽学部)の音楽ホールである『奏楽堂』が完成し、その記念の式典のために、同校教授であった初代山勢松韻が作曲した曲。作詞した鍋島直大(1846-1921)は肥前佐賀藩十一代藩主で、維新後は侯爵となり、明治天皇の側近として国政を支え、駐イタリア公使、貴族院議員も勤めた。当日、当時の山田流家元が総出演で華やかに演奏された歴史的な曲で、形式も山田流としては珍しく手事物である。歌詞は、京都を初めとして日本各地の春景色を歌い、新しい日本の繁栄を称えたもので、山田流の明治新曲の代表的な傑作である。 【解析】 ○残る隈(くま)なく|さはり なく、光り輝く 朝日 かげ 、加茂 の川風 のどかなる、 残る陰 もなく、遮るものもなく、光り輝いている朝日の 光 ! 加茂川の川風ものどかな | ○都の春になりぬれば、野山の草木 | おしなべて、花 咲き|に|けり 。白妙の、不二の高根もみちのくも、 都の春になったので、野山の草木も|皆一様 に、花が咲い|た|ことよ。真白な|富士の高根も東北地方も、 ○積りし雪の名残りなく、とけて|流るる | 川水の、行末 広き|難波潟、 積った雪が名残りなく|溶けて、流れ込む|その川水の|行末は広い|難波潟、そしてそれは、 ○浪路 のどけき| 四方の海 、 |よせ くる舟の|うちつどひ、恵みも深き大君の、 海路ものどかな|日本の四方の海に|繋がる。そこに|寄ってくる舟が|沢山集まり、恵みも深い大君の、 ○豊かなる世に|立ち返り 、よろず代 |うたふ声 ぞ|たえせぬ 。よろず代うたふ声ぞたえせぬ。 豊かな 世に|王政復古し、 万 代の繁栄を|讃える声が!|絶え ぬことだ。 |
作詞:鍋島直大 作曲:初代山勢松韻 【語注】 隈 光の当たらない所。 朝日かげ 「かげ」は光と闇の作る像を言う。光が当たらないために見えるものは「陰」であり、光が当たって見えるものも「影」であり、光そのものも「影」である。 加茂 京都市の東を流れ、桂川に合流する。下流で更に淀川に合流し、大阪湾に注ぐ。 難波潟 大阪湾一帯の海辺。「潟」は遠浅の海で満潮になると隠れ、干潮になると現れる砂地。干潟。 |