黒髪

【解題】

 昔逢った男に捨てられ、今は独り寝をする女の、悲しく切ない思いを切々と歌っている。この曲は、もともと「大商蛭小島」という芝居のめりやす(下座音楽)で湖出市十郎作曲とされている。芝居では、伊藤の娘辰姫が、恋慕っている頼朝が2階で政子と逢っているのをじっと耐え忍んでいるという凄艶な場面でいわゆる歌舞伎の髪梳きの場の下座音楽として使用された。

析】

○ 黒髪の|結ぼほれ   たる|思ひをば、とけ て|
    |寝た夜の枕こそ|      、
 《黒髪》《結ぼほれ》
         《解け》
  黒髪が|絡み合うように  |
     |鬱屈し    た |思いを!、晴らして|あなたと|寝た夜の枕 は |嬉しかったが、

○  |独り 寝る夜の|仇  枕、袖 は片  敷く |   夫(つま)ぢゃと|    言うて   、
 今は|独りで寝る夜の|悲しい枕、袖を 片方に敷いて|これが夫    だ と|わが身に言い聞かせる|

○愚痴な|女の心を |知ら|  で、しんと更けたる  |鐘の声|       。
 馬鹿な|女の心 も|知ら|ないで、しんと更けた 夜に|鐘の声|が聞こえてくる。

○昨夜の夢の|今朝|覚めて、ゆかし |懐かし |遣る瀬な や 、
 昨夜の夢が|今朝|覚めて、逢いたい、懐かしい、遣る瀬ないなあ、

○         |積もると |知ら|  で、      |積もる 白 雪。
                <シラ>             <シラ>

 そんな私の気持ちが|募 るとも|知ら|ないで、いつの間にか|積もる 白 雪。

【背景】

 片敷き
 
○きりぎりす 鳴くや霜    夜の|さむしろ|に|衣 |かた      しき |
 こおろぎ が鳴く!霜の降りる夜の| 寒 い |
                 | むしろ|に、衣の| 片 方の袖を下に敷いて|

       ┌───────────-┐
     ┌─────────┐  |
○独り |か|も|寝 |   む|↓  ↓
 独りで| | |寝る|のだろう|か|なあ。 (新古今集・秋・518・藤原良経(よしつね))

作曲・湖出市十郎






【語注】


黒髪
結ぼほれ解けは縁語。
枕こそ 「枕こそうれしけれ」などの結びの省略。


仇枕
 寝る人のいない枕。
片敷く (昔、男女が共寝する時は二人の衣を重ねて敷いたことから、)自分の衣だけを敷く。片方の袖を下に敷くという説もある。⇒背景
鐘の声 諸行無常を教えるもので、恋の迷いとは対置されるものである。
知らしらは同音反復。
白雪 冒頭の黒髪と対照されている。黒髪は恋に迷う心の象徴であり、白雪は澄んだ心の象徴である。白髪を例えているという説もある。

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