【解題】
聖徳太子が建立したといわれる難波の四天王寺の由来を解き明かし、その後、琵琶湖の竹生島にある日本三大弁財天の一つに詣でで、その由来を語るといった内容。同名の謡曲や山田流のものとは無関係。
【解析】
○さる ほどに|これはまた勿体 なくも|竹生島 |弁財天の御由来(おんゆらい)|
そうしているうちに、これはまたもったいなくも|竹生島の|弁財天の御由来 、
○詳しくこれを|ば|尋ぬるに|
詳しくこれを|!|尋ねると、
○ 津の国 |難波の 天王寺 | |仏法 |最初の御寺(みてら)| な り。
摂津の国の|難波の四天王寺が、日本に|仏法を伝えた|最初のお寺 |である。
○本尊 何 と|尋ぬるに|正面 童子の| |庚申(かのえさる) |
本尊は何かと|尋ねると、正面の童子は|大宝元年正月|庚申 の日に|
〇聖徳太子の|御建立(ごこんりゅう) 。三水四石(さんすいしせき)で|七不思議 |
聖徳太子の|御建立になったものである。三水四石 で|七不思議がある。
〇亀 井 の|水の底 |清く |千代に八千代にさざれ石 |巌となれや|
亀の形の石から湧き出る井戸の|水の底が|清く澄んで、千代に八千代に小さな石が|岩となるよ、
〇八幡山(やわたやま)|八幡に |八幡大菩薩(はちまんだいぼさつ)|山田の|矢橋(やばせ)|
八幡山のふもと の|八幡にある|八万大菩薩に参詣しようと |山田の、矢橋 に行き、
○ の|渡し守 | 漕ぎ 行く|船から眺むれば、女 波|男 波(めなみおなみ)の絶え間より|
その|渡し守が|湖上を漕いで行く|船から眺めると、低い波、高い波 の絶え間から|
○左手(ゆんで)に高き 志賀の寺、右手(めで)は|船 路(ふなじ)で|かた男波 | |
左側 に高くそびえる三井 寺、右側 は|湖上の航路 で|高い 波が|打ち寄せる、
〇沖なか|遥か を見渡せば|昔聖人の|褒め|たまふ |余国に 稀なる| |竹生島 。
沖あい|遥か遠くを見渡すと、昔聖人が| |お |
|褒め|になった|他国には稀な |有難い|竹生島が|ある。
〇孝安天皇の|御代 の時|頃は三月十五日 |しかもその夜は己(つちのと)の|
孝安天皇の|御治世の時、頃は三月十五日で、しかもその夜は己 で、
〇巳(み)を待つ|辰(たつ)の|一天 に|二股 竹 を|相添へて|
東南 の|天の一角に、二股に割れた竹が現れるのに|加え て、
○八声(やごえ)の鶏(とり)と|諸(もろ)ともに|
八度鳴く 鶏 と| ともに、
〇金輪(こんりん) |奈落(ならく)の| 底よりも|揺ぎ | 出でたる|島とか や。
大地を支える深淵の|地獄 の|奥底から 、鳴動して|噴出した |島とかいうことだ。
〇さ る |によって|鳥居にかげし勅額(ちょくがく)は|竹に 生まるる島と書く 。
そういう由来|によって、鳥居にかけた勅額に は、竹から生まれた島と書いてある。
〇これ 竹生島とは|読ます なり 。 弁財天は女 体なれ ど|十五 童子の|
これを竹生島と!|読ませるのである。御本尊の弁財天は女の姿であるが、十五人の童子の|
〇その 司(つかさ)|巌 に|御腰(みこし)を|やすらへて|琵琶を弾じて|おはします 。
上司であり 、岩の上に|お腰 を|据え て|琵琶を弾いて|いらっしゃるのである。
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作詞:不明
作曲:菊岡検校
箏手付:八重崎検校
【語注】
弁財天 七福神の一柱で、音楽や知恵、財福の神として広く信仰されてる。インドの女神サラスヴァティーを起源とし、水神としても知られている。
津の国難波 現在の大阪。
三水 かつて四天王寺に存在していたとされる三つの井戸や湧き水のこと。現在は「亀の井」だけが残っている。他の二つは、「六時礼賛井」、「地獄の釜の水」とされるが、詳細な場所は由来は特定できず、伝説的なものとなっている。
四石 四天王寺内にある四つの霊石のこと。金堂・西門・南門・東門の四箇所に配置され、順に「転法輪石」「引導石」「熊野権現礼拝石」「伊勢神宮遥拝石」と呼ばれている。
童子 四天王寺の本尊である青面金剛童子(秘仏)のこと。大宝元年(701年) 正月七日庚申の日、豪範僧都が疫病に苦しむ多くの人々を救わんと一心に天に祈ったところ、帝釈天の使者として童子が出現し、除災無病の霊験を示された。
亀井 寺内の亀井堂には「白石玉出の水」が湧いていて、その水で供養した経木(キョウギ)を流すと、極楽往生できるとされる。経木は供養のために教文を書き込むもの。
八幡山 山城の国にあり、麓に日牟礼八幡宮がある。
山田 滋賀県草津市山田町
矢橋 滋賀県草津市矢橋町
孝安天皇 神武天皇から数えて六代目の天皇。
巳を待つ辰 辰巳(たつみ・東南)。巳(み)は南南東で辰(たつ)は東南東、辰巳は辰と巳の間で、東南。
勅額 天皇から下賜された扁額。島内の宝厳寺の境内にある勅使門に、勅額とされる扁額がある。扁額とは、寺社の名称を門や鳥居に掲げた横長の額の事。
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