当HPの読者(この方は私のラジオ番組のリスナーの方でもいらっしゃるんですがね。)からご質問をいただきました!嬉しい(^^)。
というわけで、せっかくですからここに公開して、皆さまの知識の足しにしていただければと思いますぅ。(←なんだこの小さい「ぅ」は?)
皆さまもご質問があればミクシィ経由、もしくはFM浦安(Webでも聞けますよ。)「ヒデヤさんの語ってんで、オイ!(毎週土曜日・夜9時〜)」までメールをお寄せくださいね。


質問があります。

likeを使ってその度合いを示す時、betterもしくはbestを使うと思います。
ex.
I like tennis better than soccer.
I like spring the best of all the seasons.

likeの場合はbetter/bestだと思っていたのでhateの場合もthe bestを使ったら、ネイティブの人にthe mostと直されました。
ex.
I hate The YOMIURI GIANTS the best of all teams.
→I hate The YOMIURI GIANTS the most of all the teams.

質問@
そもそもlikeの場合にbetter,bestというのがわからなくなりました。
I like tennis very much.のmuchの度合いを比較しているのであれば、
比較級/最上級はmuchの比較級/最上級であるmore/the mostで
あるべきなのかなと思います。
→I like tennis more than soccer.(比較級)
→I like spring the most of all the seasons.(最上級)

なぜbetter/bestになるのかご解説できればお願いします。

質問A
likeの場合の比較/最上表現がbetter/the bestであるとして、
なぜその反対のhateはbetter/the bestではなくmore/the mostなのでしょうか?


[解答します!]
質問@ について:
likeにおいても正式、つまりフォーマルな形ではmoreやmostを使うことがあるといわれています(ジーニアス英和辞典likeの項、他動詞1の例文参照)。

ではなぜ他の動詞と違って、likeにbetter, best が使われるのかは、はっきりした根拠となる資料をみつけられませんでした。ですから、あくまで推測で述べます。ただし、専門的なお話になりそうなので(しかも長い!)、辛抱して最後までおつきあいください。

結論からのべると、likeの中にはloveやhateのような、「容器の中で、液体のように増減する感情のイメージ(例えば「愛情あふれる」とか「怒りと悲しみに満ちた」などですね)(注1)」ではなく、「違和感がない、お似合いだ、好ましい、うまくフィットする」という感覚が強く存在するので、「より良く(better)フィットする」「一番好ましく(best)フィットする」という風にbetter, bestが使われるのではないか、と私は推測します。

ではなぜ、likeにはそのような感覚が存在するのでしょう。
秘密はlikeの語源にあるのではないか、と考えられます。
likeは元々英語に固有語としてある単語で、その遠い先祖であるゲルマン祖語においてはgalikaという形ではなかったかと推測され、現在のドイツ語のgleichと親戚関係にあります(注2)。
で、そのgalikaの-likaの部分ですが、これはbodyを意味するもの、と「注2」の辞書では書いてあります。bodyは文字通り「身体」という意味は持ちますが、語源としては「酒樽」であったり、「木の幹」であったりするわけですから、これを認知言語学的に解釈すれば「円筒形の閉じた形態」を意味スキーマ(単語の持つ、意味においての根っこの型紙のようなもの)として持つということになる、と考えられます。わかりやすく言えば、「ひとつのまとまった形・フォーム」というのがlikeの言いたいことだ、と言えますね。

さて、ここでlikeの根っこが見えてきます。
「まとまった形」というのは「安定感」というものをイメージさせます(注3)。水の詰まった袋が破れて、水がこぼれて流れてしまうと同時に、その袋がヘナヘナとしぼんでしまう様を想像してください。「まとまらない形」というのは、不安定さでもあります。
「まとまった形」というのが、いつしか「安定感」を意味の中心に持ってくるようになり、さらに、「近い形のもの同士」=「両者違和感がなく安定感、安心感をもたらしてくれる」(注4)という変化が、いつしか-likaという言葉を「近い形」という意味に持っていったのでしょう。

「近い形」というのがlikeの根っこです。

ここから、「(形が近いから)似ている」という形容詞や、「〜のような」という前置詞としてのlikeが発展し、また、「両者形が近いから違和感が無く、一致」→「合一=好ましい・うまくフィットする」(逆に言えば、「合わない=ピタッと来ない=好ましくない」)ということにより動詞に「好む」という意味を生じさせた、とかんがえられます。

likeの「好む」の根底に、「うまくフィットする」という感覚が横たわっている、ということ、理解していただけたでしょうか。そして、結論に戻りますが、「より良くフィットする」という感覚が、恐らく
betterやbestを使わせる、と考えられるのです。
これに対し、loveやhateは「容器に入った液体の量」を表すメタファーから、「感情の量=much」が比較級のmore、最上級のmostへとつながっていくのだと考えられます。

質問A について:
hateは「憎む・嫌いだ」という、強い否定イメージをもった言葉です。従ってこれを強調するのにプラスイメージであるbetter, best といった言葉は使えません。



注に関する解説
注1:これは私の持つ勝手なイメージではありません。認知言語学者ケヴェシェスは「感情は容器内の液体である」と述べています。認知言語学では隠喩(メタファー)を重視します。例えば、感情という抽象的でつかみ所のない概念は、液体という具体物の性質に投射されることで、初めて具体的に言語に‘翻訳’して扱えるようになったと考えられます。人間が抽象的思考を開始し、文明を創始できたのは、比喩を使って抽象的概念を自由に言語的に取り扱えるようになったことが大きな原因と考えられるのではないでしょうか。

注2:Webster's New World Dictionary、like・1の項より

注3:20世紀前半にドイツで発生したゲシュタルト心理学は、認知言語学、および認知心理学に大きな影響を与えた「形態の認識理論」ですが、そのゲシュタルト理論によると、人間にはある形状のものを「他の形状よりもたやすく安定的に」認識するのだそうです(これを「知覚機構化に関するゲシュタルトの法則」といいます)。いくつかあるそれらゲシュタルト的な形態のひとつに、先程述べた、「閉じた形」つまり「ひとつのまとまった形」というのがあります。人間は「輪郭が閉じて、ひとつのまとまった形を持つ形状」を「安定した、好ましい形=認識しやすい形」として知覚する(これを「閉合の原理」と言います)のです。

注4:形がバラバラの積み荷が並ぶ風景と、統一された形の積み荷が並ぶ風景を想像し、両者を比べてみてください。同じ形状というのは幾何学的な安定をもたらすと考えられます。


ホームへ戻る

この単語の言いたいこと・一覧へ