英語の語順の秘密
なぜ英語は「私は/する/テニスを」という語順になるのか。


「『私はテニスをします』というのを英語に直すとI play tennis.だよね?」

「うん。」
「中学一年の時の英語の授業を思いだしてみて。英語では『私は/する/テニスを』という語順になるんですよ、と先生は教えるよね。」
「しょうがないから覚えたね。ほんとはそんな語順にものすごい違和感を感じながらも、そういうものだ、って。理屈抜きに覚えなきゃいけないでしょ。だから英語って好きになれなかったんだ。」
「でもさ、僕たちが日本語をしゃべるときもそうだけど、言葉を話す、ということは自分からあふれる気持ちをつたえようとすることでしょ。アメリカ人やイギリス人といった、英語を喋る人々がどんな気持ちで言葉を話してるのか、理解しながら英語を話してみたいと思わない?」
「そりゃそれができればいいけれど・・・。」
「単語とかはね、覚えていかなきゃいけないよ、そりゃ。でもね、いままでと違った勉強の仕方をすれば、生きた言葉として文法を勉強できると思うの。」
「でもさ、文法って数学でいう公式じゃん。どうも生きてるようには思えないし、しかも数学よりもタチが悪いのがさ、たくさんの『例外』があって、もう勘弁して、っての。」
「ところがね、実はそうじゃないの。文法っていうのはね、どこかの会議で決められたルールにみんなが従っているとか、そういうことじゃないの。こうやったほうが楽だな、とか、こういう気持ちがあるから言葉の組み立てが自然にこうなる、とか。ようするに言葉の並び方を決めるための『心の働き』っていうのがあるの。これを理解しながら英語を勉強すると、今までと違った『生きた文法』が見えてくるんだよ。」
「じゃあさ、英語で一番最初に教わる、『語順』の問題。なんで『私は/テニスを/する。』じゃなくて、『私は/する/テニス』っていう語順になっちゃうの?これにもちゃんと理由があるっていうの?」
「もちろん!」
「エッ!?マジで?」

「結論から話す」のが英語。「説明を先に話す」のが日本語。

「僕の知りあいに日本語がペラペラのアメリカ人がいるんだ。でもね、日本語でしゃべっていても頭の中はやっぱり英語なんだね。彼のこんな言い回しを耳にするたびに、ああ、英語国民だなぁ、って思うよ。」
「どういうこと?」
「彼はね、こういうんだ。
『今日ね、遅刻したの。なぜかっていうと、目覚まし時計がこわれてたの。』
 普通の日本人なら、『今日ね、目覚まし時計がこわれてたから遅刻したの。』って話すでしょ。つまり『目覚まし時計がこわれてた』という説明が先に来て、「遅刻した」っていう結論を後にもってくるのが日本人の感覚。ところがアメリカ人の彼は『遅刻した』という結論を先に話してから、『目覚まし時計が・・』っていう説明を後にもってくる。」
「なるほど、日本語と英語ではこんなところでも逆なんだね。」
「そう。それでね、この結論(大事なこと)から先に話して、説明は後という感覚こそが英語の持っている『心の働き』なんだよ。英語を操るひとは皆、この感覚を身に付けてるの。つまり、脳を『日本語』から『英語』にスイッチするということは『結論から話すことを心がける』ということなんだよ。」


「ね、先に『僕するんだよ』という結論を言っておいてから『で、何をするの?』という相手の疑問に答えるように『テニスを、なんだけどね。』と説明をいれます。」
「なるほど。結論から先に言おうとする心の働きか。」
「ヒデヤさんはこれを『骨と肉付けの関係』と呼んでるの。『骨』というのは結論のことです。人間だって骨がなけりゃぐにゃぐにゃして真っすぐ立つこともできない。骨はなによりも大切な土台です。だけどガイコツだけがやって来て挨拶してもさ、『オマエ誰だよ?』って話になる。だからガイコツに肉をつけてあげて、つまり説明をきちんといれてあげることでハッキリと情報が伝わるというわけ。上の例文でも「僕はする」というガイコツは大切だけど、それだけでは何をするのかがわからない。だから「テニス」という肉付けをしてあげて、意味が通るわ、つまり顔が出来るけです。日本語は英語とは逆で、『テニスを』という肉づけを先に持ってきてから『する』という骨組みがやって来ます。」
「英語は骨を組み立ててから回りに肉をつける。日本語は肉で外見をつくってから、中に骨をいれる。どっちを先にしようか、という違いが語順の違いを生むんだね。」
「そう。主語だとか動詞だとか形容詞だとか、そういうことを考える前に、言葉というのはこの『骨』と『肉』の二種類でしかない、というふうに考えたほうがいろいろと分かりやすいと思うよ。」
「こうやって、『結論から先にいいたいんだ、っていう気持ちの強さ』がわかっていれば、少しとっつきやすくなるな。」
「想像なんだけどね、『自分の気持ち』に素直な言葉だと思うんだよ、英語って。あふれる感情がそのままでちゃう。例えば原始時代にねどこかで二人の人間が歩いてて、その1人がこんなふうにつぶやく。

A: I want!!(オレ、したい!!)
B:「なんだよ、いきなり。何したいの。」
A: Eat!(食べる!)
B:「ああ、食べたいのね。で、何を?」
A: Meat!(肉!)
B:「なるほど、肉たべたいのね。」

『したい』という感情があふれ出てまずこれが口をついてでる。そして「あ、言い忘れたけど」てな感じで何をしたいのかを説明して、『食べたい』ってことが伝わったらさらに補足ってことで最後に何を食べたいのかを説明する。今言ったやり取りの中の英文を現代英語でひとつにまとめるとこうなります。

I want to eat meat.(オレ、肉食べたい)

非常に原始的っていうか、実はシンプルな語順がそのまま残ってることがわかるよね。」
「でもさ、eatの前についてるtoってのは不定詞のtoでしょ?なんかそういう細かいのがやっぱ、ややこしいじゃん。」
「ご心配なく。学校の教え方がややこしいだけで、英語ってほんとは単純なんだよ。」
「本当?じゃあ、この不定詞っていわれてるtoって何なの?」
「toは不定詞だろうがなんだろうが、ただの『矢印(⇒)』だと考えてみて。日本語を当てはめるとすれば「〜に向かって」というのが一番ピンとくると思います。

I want ⇒ eat meat.(オレしたい ⇒ 肉を食べる)

「そうか、自分の『したい』という気持ち(I want)が『肉を食べる(eat meat)』に向かってるんだ。だから『オレ、肉食べたい。』ということなんだね。」

骨+肉付け=骨。さらに肉付けがプラスされて・・

「英語の文の作り方の基本的なルールを説明しましょう。なぁに、『オッカムのかみそり』に従うまでもなく、真実はいつも単純です。学校で習う『五文型』がわかっているにこしたことはないんでしょうが、もっと直感的な法則があるんです。例えば次の日本語を英語に直してみましょう。」

「私は昨日、歴史を勉強するために図書館へ行った。」


「そんなに難しい文にはみえないけど・・・」
「それはどうでもいいんです。この文を通して、日本語を英語に直すセオリーを身に付けましょう。」
「どうやるの?」
「文を骨と肉付けに解体するの。」
「骨と肉付け、といってもねぇ。具体的にどうやればいいのか・・・」
「早い話、『大事なことから先に言おう』っていう気持ちになればいいんだよ。骨というのは、基本的には、主語と動詞だよ。」

骨1:私は+行った
肉:歴史を勉強するために図書館へ

「骨だけなら短いから英語にすぐ直せるね。『私は行った→ I went 』だ。」

I went ・・・

「そう。さて、長い肉付けが残ってるね。長い肉付けは、さらに骨と肉付けに分解できるんだよ。」
「どうするのさ?『歴史を勉強するために図書館へ』・・・・」
「友達と電話で話をしてるとしてさ、相手が、いきなり『私は行ったんだ』っていったら、どう答える?」
「え?どこへ?ってなるね。」
「そう、それが足りない情報の中で一番大事なもの。つまりそれは・・・?」
「『図書館へ』だね。」

骨2:図書館へ
肉:歴史を勉強するために

「図書館は、『見知らぬ街でとある図書館をみつけてそこへ入った』のなら a library だけど、自分の中で『いつも行ってるあの図書館』という感覚があるだろうから、 the library とします。それに、『どこへ向かって(行ったの?)』という事を示すために『→』の意味を持つ to を付けます。」

I went to the library ・・・

「じゃあ、残った肉付けをまた解体するんだね。」
「そうだよ。残っているのは・・・

肉:歴史を勉強するために

だね。これを『歴史を勉強する事に向かって(私は図書館へ行った)』と考えてみよう。この中で一番先に来る情報は何だと思う?」
「ウ〜ン、『歴史』かなぁ?」
「違うね。こう考えるとわかりやすいよ。」


「え?この絵は何を表してるの?」
「これは『何に向かって図書館へ行ったの?』という事を表す図だよ。ここにさっきの残りの肉付け、『歴史を勉強することに向かって』を入れてごらん。こうしてみると、一番最初に来るべき情報は何かわかるでしょ?」
「そうか、まずは『向かって』がきて、そして次に看板の内容、『歴史を勉強する』がくるわけだ。」


「そう。だから、まず来るのは『→』を表す言葉、 to 。そして最後に、『歴史を勉強する』が来る。それでは、『歴史』と、『勉強する』と、どっちが大事な、つまり『結論的』な情報?」
「う〜ん・・・。歴史かな?」
「それが日本語的感覚なんだよね。日本語は名詞を大事な情報、つまり『つい目が行っちゃう(=心に留まる)』情報、として位置付ける言語だと言えるけれど、英語は動きに目が行ってしまう心理を持ってる言語なんだよ。これが大事なんだ。主語はその文の『主人公』の情報だから先頭に来るのは当然として、次に大事なのは動詞。『歴史』は主語、動詞、目的語のうちのどれ?」
「勉強するのは『私』だから、『歴史』は主語じゃないな。『歴史』は目的語だね。」
「でしょ?ということは、『勉強する』は動詞だから先。『歴史』は後だね。」

I went to the library to study history.

「これで完成か。なるほど。語順にも『大事なことから先に言おう』という意識がしっかり働いてるんだね。機械的にルールがあるわけではないんだ。」
「そうです。言葉は人の心が作ったもの。そんな角度から英語をみてみようね。」

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語順:著者・時吉秀弥
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