ホワ餃訪ねて380円

ホワ餃訪ねて380円

       

はるか〜こうげんを〜♪
ひとりたびのくもへ〜♪

乃木坂駅のホームに佇む私の脳裏には、あるメロディが流れていた。
私は亀有まで行かなくてはならない。
遙かアメリカに旅立つMさんに、なんとしてもホワ餃を食べていただかなく
てはならないのだ。
しかしながら、ついに私の熱意が学生さんに伝わることはなかった。
なぜ・・。
私は拳が震えるのを禁じ得なかった。

亀有は遠い。
よくもまあ、こんな所から通う気になるものだ。

綾瀬を過ぎて亀有までの中頃あたりに、『ホワイト餃子』という大きな看板が、
何かを象徴するかのように小汚いアパートの上にたっている。
ついにここまで・・・・。
万感が私を襲う。

亀有のホームを降りて、私は疑うことなく230円の切符を投入し、改札を
通り抜けた。
抜けてしまった。
驚くべき事に料金は380円だったのだ。
激しい警告音が鳴る。
動揺しているのを見抜かれると恥ずかしいので、手早く切符を取ると、有人
改札から再び入構し、精算機の列へと紛れ込んだ。
警告音は鳴り続け、帰宅ラッシュの改札口はその一つを失った。
冷たい視線が私に突き刺さる。
なぜ私がこんな目に・・・。
私の中で怒りは学生へと向けられた。

亀有の駅からホワイト餃子は徒歩12分。
歩いてみると、思いの外、遠くはない。
予想通り「ホワイト餃子」は小汚く、予想外に空いていた。

席に着いた私は、とりあえず焼餃子定食を注文し、いつ生ホワ餃200個を
注文するか考えていた。
「あの人、一人で200個も食べるのかしら?」
なんて思われたらどうしよう。
動揺は隠しきれない。
しかし、「あの人、一人で200個も食べるのかしら?なんて思われるとか
考えてるんじゃないの?」などと見抜かれたらそれこそ恥ずかしい。
私はあたかも常連のごとく、平然と注文して見せた。
何時いかなる時も、ホワ餃はスマートに注文せねばならぬものなのだ。

帰路、200個のホワ餃は私の手を締め上げる。
苦しさの中で私は思った。
なぜこうまでして、私はホワ餃を買ってこなければならないのか?
しかし、その答えは常に自分の内側にある。
なぜ、ホワ餃を食べるのか?
それはそこにホワ餃があるから。
知らなければ食べなくても済んでいく。
しかしながら、一度知ってしまった以上、もう食べずにはいられないのだ。

答えを見つけたとき、私の中にもはや「Mさんに食べさせるため」という
動機は存在せず、只ひたすら「ホワ餃を食べたい」という思いだけが私を
突き動かしていた。
亀有の駅はすぐそこにあった。


<解説>
これは、研究室の学生、及びOB等に送りつけた作品。

助手のMさんが1年間、留学する事になったため送別会を開くことになった。
2次会で是非Mさんにホワイト餃子を食べていただきたかったのだが、学生は
面倒がって買いに行ってはくれなかったのだ。
亀有までは40分ぐらい。
通勤距離としてはリーズナブルな距離だろうと思うんだけど、私には耐え難い。

ホワイト餃子に説明が必要なのだろうか?
揚げ餃子と焼き餃子の中間のような食べ物で、非常にコストパフォーマンスが良い。
一度食べてしまうと、癖になって食べずにはいられないのだ。
詳しく知りたい人は検索してみよう。
いろいろな説明文が見つかるはずだから。

ちなみにこの送別会、私は1次会で大酔いし、2次会突入前に倒れた。
さらに仮眠用のソファーの上でゲロファイヤーし、学生さんに面倒を見てもらった
のであった。
心にまた一つトラウマが刻まれた。