ぼく、ピカチュウ

ぼく、ピカチュウ '98_12_11



目が覚めるとぼくはピカチュウだった。
うっそーっ!?

ぼくは身じろぎ一つ出来ず、ただ鏡を見つめていた。
そこには様々なピカチュウが、所狭しと陳列されている。
どうやらその一つがぼくらしい。
つまり、ピカチュウの人形だったんだ。

ぼくはその事実をどう捉えたらいいのか、よくわからなかった。
ただ一つ確かなことは、どうやらぼくは「等身大ピカチュウ」でもなければ、
「手のひらピカチュウ」でもない、普通のピカチュウらしいということだ。

お客が視界に入る。
あっ、やっぱりみんなの視線は「等身大ピカチュウ」に釘付けだ。
ぼくはなんだか寂しくなった。
ねえ、ぼくをもっと見てよ、みんな。

あれっ?小さな子供が寄って来るぞ。
なんだか嬉しいな・・、とか思っていると、子供の手はぼくよりも下に陳列
されている「手のひらピカチュウ」に向かっていた。
『ピカチュー』
なんかあいつ、手のひらで鳴いてるし・・・。
スゲー納得いかないの、ぼく。

お客の流れが切れた。
ぼくは思った。
どうしてぼくは普通のピカチュウなんだろう。
もっと特別なピカチュウだったら良かったのに・・・。
落ち込んでも、うつむくことすらできない。
ぼくは人形なんだ。

新しいお客が視界に入る。
ぼくは精一杯の笑顔を浮かべた。
動くはずのない口元を歪めて。