ぼく、ピカチュウ

屋上にて '98_12_28



素晴らしい場所を見つけた。
屋上だ。
風がなければ、冬でも結構いける。
暖かな日射しの中で、景色を眺めるのも良いものだ。
私は昼休みをここで過ごすことにした。
太陽が気持ちいい。

東京とはいっても、周囲は案外ひらけている。
ここのあたりに高い建物は少ない。
遠くのビル群を眺め、近くの交差点に目をやり、我々は滅びの種だ、などと
考えていた。
どう考えたって、まともじゃない。
これだけの車が走り、あのビルでは途方もないエネルギーが消耗されていく。
果たして、この生活がいつまで続くだろう?

ああ、太陽の光を浴びている割には、なんだか気が滅入ってくる。
どうしたもんかね、と思っているとベンチに寝転がっている男が目に付いた。
どうやら研究疲れで、仮眠をとっているようだ。
特に防寒装備をしていないが、暖かな日射しを受けているので、寒くないの
だろう。

しかし、そのすぐそばまで建物の陰が迫っていた。
冬の太陽は傾くのが速い。
寒くなったらおきるだろうか?
体のどのくらいまで陰が覆ったら、目が醒めるんだろうか?
気になって私は眺めていた。

体の半分が隠れても、依然として目覚める様子もない。
私はふと太陽を見上げた。
相変わらず眩しく輝いていた。
この太陽だけが、我々に与えられた恵みなのだと思った。

目を戻したとき、彼は起きあがっていた。
陰はすでに彼の体、全体を覆っていた。
彼は疲れた眼をこすり、おもむろにたばこをくわえた。
あれを吸い終えたら戻るのだろう。

私もまた戻らなければならない。
戻らなければならないのだ!