神は神に似せて神を創った '99_10_03

神は神に似せて神を創った '99_10_03

 

彼は自分に疑問を感じ始めていた。
「神」
彼は人々からそう呼ばれていた。

彼には何もできない。
ただ地上の人々からの願いや感謝を聴くだけが人生だ。
幸いにしてというべきか、不幸にしてというべきか、地上とは時間の流れが違うので日に何億回と唱えられる願いも、彼には一つ一つハッキリと聴くことが出来た。
だがやはり聴くことしかできない。
時には助けてやりたいと思うこともあるが、何一つしてやることは出来ないのだ。

彼はなぜ自分が存在しているのかわからなかった。
それはとても苦しいことだ。
彼は自問した。
「自分は何者なのか?
 自分は何もしてやれないのに、なぜここでこうして彼らの祈りを聴かなければならないのか?」
 いったい何の意味があるのか?」
しかし、答えは見つからないのだ。

苦しさの中で、いつしか彼は何かにすがりたいと思うようになった。
答えは作り出すしかない。
「だって、おかしいじゃないか。
 自然な状態で自分がこうしているはずがない!
 何物かが私をこうせしめていると考えなければ辻褄が合わない。
 神だ。
 私にも神がいるんだ。
 彼が私にこう生きさせしめているにちがいない。」

かれの神の存在を仮定することによって、全ての疑問が氷解したように思えた。
「全てを超越した「神」が私にこの役目を与えたのだ。」
そう考えたとき、自分の内側にある苦しさが霧散していくのを感じた。

次に彼は「神」に形を欲した。
ただ漠然と「神」というだけでは物足りなくなってきたのだ。
彼は彫像を作ることにした。
だが、はたして「神」はどんな形をしているのだろうか?

意外なほど彼には想像力が欠乏していた。
出来上がった「神」の像は自分と同じ形をしていたのだ。
手は2本だし、足も2本だ。
また、目鼻口の位置もまるで自分と同じ。
それ以外考えられなかった。
獣と同じ四つん這い姿の「神」は想像できなかったし、口が二つある「神」も想像できなかった。
神だって自分を創るとき、自分に似せて創るに違いないと思った。

自ら作ったその像を頭上に押し頂いた時、あまりの神々しさに彼は感動を禁じ得なかった。
確かにそこには「神」がいたのだ。
彼は安らぎに満たされていくのを感じた。

彼は知っただろうか?
自分が存在するわけを。