彼は自分に疑問を感じ始めていた。 「神」 彼は人々からそう呼ばれていた。 彼には何もできない。 ただ地上の人々からの願いや感謝を聴くだけが人生だ。 幸いにしてというべきか、不幸にしてというべきか、地上とは時間の流れが違うので日に何億回と唱えられる願いも、彼には一つ一つハッキリと聴くことが出来た。 だがやはり聴くことしかできない。 時には助けてやりたいと思うこともあるが、何一つしてやることは出来ないのだ。 彼はなぜ自分が存在しているのかわからなかった。 それはとても苦しいことだ。 彼は自問した。 「自分は何者なのか? 自分は何もしてやれないのに、なぜここでこうして彼らの祈りを聴かなければならないのか?」 いったい何の意味があるのか?」 しかし、答えは見つからないのだ。 苦しさの中で、いつしか彼は何かにすがりたいと思うようになった。 答えは作り出すしかない。 「だって、おかしいじゃないか。 自然な状態で自分がこうしているはずがない! 何物かが私をこうせしめていると考えなければ辻褄が合わない。 神だ。 私にも神がいるんだ。 彼が私にこう生きさせしめているにちがいない。」 かれの神の存在を仮定することによって、全ての疑問が氷解したように思えた。 「全てを超越した「神」が私にこの役目を与えたのだ。」 そう考えたとき、自分の内側にある苦しさが霧散していくのを感じた。 次に彼は「神」に形を欲した。 ただ漠然と「神」というだけでは物足りなくなってきたのだ。 彼は彫像を作ることにした。 だが、はたして「神」はどんな形をしているのだろうか? 意外なほど彼には想像力が欠乏していた。 出来上がった「神」の像は自分と同じ形をしていたのだ。 手は2本だし、足も2本だ。 また、目鼻口の位置もまるで自分と同じ。 それ以外考えられなかった。 獣と同じ四つん這い姿の「神」は想像できなかったし、口が二つある「神」も想像できなかった。 神だって自分を創るとき、自分に似せて創るに違いないと思った。 自ら作ったその像を頭上に押し頂いた時、あまりの神々しさに彼は感動を禁じ得なかった。 確かにそこには「神」がいたのだ。 彼は安らぎに満たされていくのを感じた。 彼は知っただろうか? 自分が存在するわけを。 |