ひとこと new version

ひとこと new version '99_07_20



彰(あきら)は、いつの頃からか、目立つことになれてしまっていた。
背の順で並べば、クラスではいつも後ろから2〜3番目に位置しており、かつ
大きな体を持っていた。
デブ、とまでは言えない、がたいの大きな男だったのだ。

しかし、ついぞその事が彼にとってプラスになることはなかった。
どちらかといえば、彰は目立ちすぎることを嫌う質だった。
出来ることならば人目に付きたくなかった。
自分では、そう信じていた。

ところが、彰は今ある種の寂しさの中にいる。
それは友人の結婚式の2次会でのこと。
自分に注目が集まらない。
自分よりも大きな男がいるのだ。
体重ではほぼ互角だが、背丈が10センチは高い。

こういう場では会話を続ける必要上、話題になる人間が求められる。
彰は自分がそういう人間であることに、いつしか慣れてしまっていたのだ。
いま自分が『寂しい』と感じていることに、彰は戸惑いを感じていた。
誰かにこの気持ちを話したいと思った。

彰は杜屋(もりや、学生時代の新郎と共通の友人)を見つけると、酒を一口煽っ
てから近寄っていった。

「よう、久しぶり。
 元気にしてた?」
彰ははやる気持ちを抑えて、無難な挨拶から切り出した。

「おう、アッくん。
 久しぶりやなあ〜。
 元気にしてたかあ。」
彰は『アッくん』と呼ばれていた。
杜屋は三重の出身で、自称関西人らしく(三重の人間は東海の仲間に入れられる
のがイヤ?)怪しげな関西弁で返してくる。
彰はしばし杜屋との会話に時間を費やした。
彰は話を切り出すタイミングを計っていたが、程々に酔いも回り、そろそろ話し
始めても不自然じゃない頃合いに思えてきた。

「いやぁさ、今日やりにくいね。
 ほら、彼、でかいじゃん?
 キャラかぶってだよねえ。
 しかも、向こうの方がでかいし〜。」
彰は軽い同意を求めて、正直に話してみた。

すると杜屋は答えた。
「おお、そうやなあ。
 でも、アッくんの方が顔はでかいで。」

「えっ!?」