誰かが 2001_03_09

誰かが 2001_03_09

 

祐司は歩いていた。
理由など考えたこともない。
ただ歩いていた。
どこかへ歩いていくことが当たり前だったのだ。

まっすぐな坂道を上っていくと、やがて坂は終わり、その先は下り坂であった。
ただ上りと違うことには、道が曲がりくねっていた。
その曲がりくねった坂道を下っていくと、男が座り込んでいるのを見つけた。
男は小さな石塚に向かって泣いていた。

不思議に思った祐司は足を止めて訪ねた。
「どうして泣いているんですか?」
男は小さな石塚を指さして言う。
「眠っているんですよ・・・、私たちの大切なものが・・。
 未だにわかりません。
 なぜ逝ってしまったのか・・・。」
祐司にはそこに眠っているものが何なのかすぐにわかった。
「でも、成る可くして、ああなったんじゃないですか。
 あなたがそこで泣いていても仕方がないでしょう?」
男は頭を振って答える。
「誰かが泣いてやらなかったら、悲しすぎるでしょう?
 あんなにもすばらしい日々を私たちに与えてくれたのに・・・。
 私だけではないはずです。
 私がここにいなくても、必ず誰かが泣きに来ますよ。
 あっ!ほら、もう来たようです。」
そういうと男はすっくと立ち上がり、何処かへと歩いていった。

入れ替わるように、今度は女がやってきてシクシクと泣きはじめた。
また祐司は女に尋ねた。
「あなたもあれのために泣いているのですか?」
女はうなずくと、
「だって、誰も泣いてあげなかったら可哀想じゃない。」
と言った。
女はひとしきり泣くとどこかへ姿を消し、また別の者が現れた。

祐司は、もうここにいてはいけない、と思った。
歩かなくてはならないのだ。
止まることなく、どこまでも。
祐司は坂を下り始めた。

どれほど下っただろうか?
振り返ると、まだ微かに石塚とそれに頭を垂れる人を確認することができた。
なぜか祐司はホッとした。

更に坂を下っていく。
振り返ると、もう石塚も人も見えなくなっていた。
祐司は不安におそわれた。
もう誰も泣いていないんじゃないだろうか?
もし、誰も泣いてあげていなかったら・・・、もし誰も泣いてあげていなかったら可哀想じゃないか!

祐司はいま来た道を必死になって戻ろうとした。
曲がりくねった坂道をただひたすらに。


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