祐司は歩いていた。 理由など考えたこともない。 ただ歩いていた。 どこかへ歩いていくことが当たり前だったのだ。 まっすぐな坂道を上っていくと、やがて坂は終わり、その先は下り坂であった。 ただ上りと違うことには、道が曲がりくねっていた。 その曲がりくねった坂道を下っていくと、男が座り込んでいるのを見つけた。 男は小さな石塚に向かって泣いていた。 不思議に思った祐司は足を止めて訪ねた。 「どうして泣いているんですか?」 男は小さな石塚を指さして言う。 「眠っているんですよ・・・、私たちの大切なものが・・。 未だにわかりません。 なぜ逝ってしまったのか・・・。」 祐司にはそこに眠っているものが何なのかすぐにわかった。 「でも、成る可くして、ああなったんじゃないですか。 あなたがそこで泣いていても仕方がないでしょう?」 男は頭を振って答える。 「誰かが泣いてやらなかったら、悲しすぎるでしょう? あんなにもすばらしい日々を私たちに与えてくれたのに・・・。 私だけではないはずです。 私がここにいなくても、必ず誰かが泣きに来ますよ。 あっ!ほら、もう来たようです。」 そういうと男はすっくと立ち上がり、何処かへと歩いていった。 入れ替わるように、今度は女がやってきてシクシクと泣きはじめた。 また祐司は女に尋ねた。 「あなたもあれのために泣いているのですか?」 女はうなずくと、 「だって、誰も泣いてあげなかったら可哀想じゃない。」 と言った。 女はひとしきり泣くとどこかへ姿を消し、また別の者が現れた。 祐司は、もうここにいてはいけない、と思った。 歩かなくてはならないのだ。 止まることなく、どこまでも。 祐司は坂を下り始めた。 どれほど下っただろうか? 振り返ると、まだ微かに石塚とそれに頭を垂れる人を確認することができた。 なぜか祐司はホッとした。 更に坂を下っていく。 振り返ると、もう石塚も人も見えなくなっていた。 祐司は不安におそわれた。 もう誰も泣いていないんじゃないだろうか? もし、誰も泣いてあげていなかったら・・・、もし誰も泣いてあげていなかったら可哀想じゃないか! 祐司はいま来た道を必死になって戻ろうとした。 曲がりくねった坂道をただひたすらに。 |