世界一のゲーマーという名の言霊
世界一のゲーマーという名の言霊 '98_12_23
「世界一のゲーマーになりたいんだ。」
自分でも思いがけない言葉だった。
それは、「どうしてそんなにゲームするんですか?」と質問されて、なにげに
答えたにすぎなかったのだ。
しかし、その言葉は自分の中でどんどん大きくなっていき、いつしか言霊に
なった。
彼は私に問いかける。
『世界一のゲーマー』ってなんだ?
どうしたら『世界一のゲーマー』になれるんだ?
確かにゲーム大会で優勝できたら、とても嬉しいだろう。
しかし、自分の得意なゲームで優勝したからといって、それをもって世界一だと
いう事は出来ないし、世間でもっとも流行っているゲームで優勝したとしても、
やはり世界一とは言えまい。
もちろん、ありとあらゆるゲームにおいて、トップを取ることが出来れば、
あるいはそれで世界一と言えるのかもしれない。
だが、それは不可能なことだし、もしそうだとすれば、とても私にはなれそうも
ない。
でも、ゲームがうまいということだけが、私たちにとって価値のあることでは
ないはずだ。
私はかつて自分の方が「こいつよりも上だ」と感じたことがある。
「怒首領蜂」がやりたくて、ゲームセンターに通っていた頃のこと。
私がやり始めた頃には既にピークを過ぎていたのか、通っていたゲームセンター
に凄腕はいなかった。
ある日、見かけない男が「怒首領蜂」をプレイしているのを見つけた。
彼は一周目のラスボスをクリア目前で、ほぼ理論値を叩き出していた。
実に完成されたプレイだった。
いとも簡単にボスの弾幕をかいくぐり、ダメージを与え続けていた。
私は、ふと彼の横顔をのぞき込んで、不思議に思った。
そこには何の感情の起伏も感じられなかったのだ。
君はそれで楽しいのか?
なるほど、君は私に3倍するスコアを叩き出している。
だが、それで本当に楽しいのかと。
そんなプレイだったら俺の方が上だ、そう思った。
(彼の名誉のために付け加えておかなければならないが、パターンを作り出して
いく過程に楽しさがあるわけで、その過程を私は見ていないだけかもしれない)
私は自分が初めて「怒首領蜂」の一周目をワンコインクリアしたときの事を思い
出していた。
人目をはばかることなく、ガッツポーズしてしまった時のことを。
あの時の興奮を。
私はあの時の自分を誇らしく思う。
もし、そこに価値を置くならば、自分がゲームを楽しむということ、それだけに
価値を置くならば、あるいは私にもなれるかもしれない。
『世界一のゲーマー』
今日も彼は私に問いかける。
私は答えを探し続けなければならない。
いつかその日のために。