野球はスポーツの王様だ、と私は思っている。 それは単に私が好きだからそう思っているだけなのだが、これをテレビゲーム的な感覚で説明することも可能である。 というのも、野球に必要な道具が喜びを増幅する役割を担っているからだ。 野球は飛んでくるボールを円柱の棒(バット)で打ち返すスポーツである。 単純に言って、ボールは速く、遠くへ飛んだ方が嬉しかろう。 つまり速く遠くへ飛んだ方が喜びは大きいということである。 手で扱うことを前提としてボールを速く動かすためには、空気抵抗や腕の重さとの関係から、ある程度の大きさと重さが必要になるだろう。 ボールのサイズは小さい方が空気抵抗は小さいが、小さすぎては扱いにくい。 ボールが軽すぎてはすぐに失速するが、重すぎては投げられない。 そういったバランスから、我々は硬球なり、軟球なりを使う。 ただ、できるだけパフォーマンスを上げた状態でバランスを取るためにグラブを使っているのである。 普通では取れないボールがグラブを使うことによって取れる。 つまりグラブは喜びを増幅する効果を持っているのだ。 素手で野球をやるなら、我々がよくゴムボールで遊ぶように、もっと軽くて柔らかいボールを使わなければならない。 もっと顕著に喜びの増幅効果を持っているのがバットである。 バットはただの円柱ではない。 握りやすいようにグリップを細くした上に、重心を先の方に寄せてある。 その結果、振り回したときにモーメントが大きくなる。 だからボールが遠くまで飛ぶのだ。 つまりそれは、当たればより大きな喜びが待っていることを意味する。 そもそもバットにボールを当てること自体が大きな困難であるため、それを乗り越えることが出来れば大きな喜びが得られる。 そして、その喜びを更にバットの形状が増幅しているのだ。 大きな喜びを更に増幅するのだから、その喜びは計り知れない。 私が野球をゲームの王様だと主張する主な理由はここにある。 もちろん他にも野球の面白さはあるのだが、野球における喜びの中心はバッティングだ。 バッティングセンターはあっても、ピッチングセンターとか、守備センターはないことからも、それは伺い知れるところである。(ゴルフにも打ちっ放しがあるのは同じ理由からだと思われる) ここまで書いてきたように、野球は非常に喜びが大きなスポーツであると言える。 バットの芯でボールを打ち返したときの喜びの瞬時値は途轍もなく大きい。 だが、今の世の中それだけでイイと思ったら大間違いだ。 一瞬の喜びが大きいだけ、あるいは喜びの総量が大きいだけではいけないのである。 今は娯楽と娯楽が時間を奪い合う時代。 やはり時間平均の概念を入れなければならない。 つまり、総喜び÷時間で考えなければならないのだ。 今どきの野球は長すぎる。 一試合平均3時間15分とか考えられないだろ。 仮に喜びが一定なら、時間は短ければ短いほど良いはずである。 私にルールを決める権限があるのなら、NBAみたいに時間制限を入れるな。 ピッチャーがボールを持ってから15秒以内に投げなかったら、有無を言わさずボールにしたらいい。 バックネットに電光掲示板をつくって15からカウントダウンしてやったらいいじゃないか。 その代わりストライクゾーンをもっと広く。 フォアボールが多すぎるんだ。 ピッチャーはどんどん投げて、バッターはどんどん打つ。 そういう競技にしないと、野球は少なくともエンターテイメントとしては生き残れないだろうと私は思っている。 ところで、いま私はゲーム話を書いている。 圧倒的に本題より前振りの方が長くなってしまったが、私は『MLB 10 THE SHOW』の話を書こうとしているのである。 なんでこんな前振りを書いたかというと、このゲームが異常に長いからである。 一試合やるのに、まともにやると50分はかかる。 長すぎだよな。 基本的に、自分はボールを振らない、敵にはボールを振らせたいゲームなので、投球数がどうしても多くなる。 現実の野球を見事に再現しちゃっているから仕方ないんだけどな。 しかも、投球間隔が異様に長い。 投球の間合いまで再現しちゃった。 たぶん駆け引きタイムのつもりなんだろう。 ピッチングの間合い以外にもいらんシーンリプレーやらボール回しやら、つまらない時間がいっぱい挟まってる。 何せ「THE SHOW」なもんだから、やたらと演出を挟もうとするんだ。 でもこれテレビゲームだから、プレイヤーが得をするようにつくらないと。 演出なんてのはそのうち飽きて喜びを喚起しなくなる。 おそらくいまの日本は世界でも有数の娯楽大国である。 もう右を見ても左を見ても楽しいことだらけだ。 要求される喜びの時間平均が最も高い国だと言っていいだろう。 たぶんこのまま翻訳して日本に出しても駄目だろうな、という気はするな。 もっとアップテンポにしないと。 私は早回し機能を使って、エンジェルスの松井の打順が回ってくるイニング以外は飛ばしてやってた。 一試合50分では、ちょっとやるか、というわけに行かないんだよ。 <余談> ピッチングを喜びの増幅という観点で考えると、おそらく増幅率が1以下の行為であると思われる。 ボールを投げる際にはボールだけでなく、実は自分の腕も投げている。 投げた後、静止するのにも負担がかかる。 しかも腕はボールよりも圧倒的に重い。 これは極めて効率が悪い行為だ。 肩や肘を壊したり、血行障害になるのも尤もだ。 ピッチャーは試合をコントロールする意味で負担が大きく、成し遂げたときには大きな喜びが得られるが、ピッチングという行為が持つ喜びの増幅率は小さいというべきだろう。 ピッチングは極めてストイックなゲームである。 |