月の光〜沈める鐘の殺人〜

スタンダード 2003_03_03

 

楽がしたい、と思った。
このところ『斑鳩』と並列してやってきたゲーム達が重いモノ揃いで、消耗している自分を感じていたのだ。
そんな時たまたまビクターのホームページを覗いていて見つけたのが『月の光〜沈める鐘の殺人〜』。
ああ、これがイイ、と思った。
だって、サウンドノベルってラクそうじゃん。

『月の光〜沈める鐘の殺人〜』はタイトルから容易に想像がつくように、ミステリー系のサウンドノベルである。
敢えて言うならば、これは打破すべきPS2用の作品でもある。


私はこの『月の光〜沈める鐘の殺人〜』をプレイしてきて、普通に面白いと思った。
しかし一方で、いつもある別のゲームとの比較を考えてもいた。
私が以下のような感想を持ったのはそれが故である。

この『月の光〜沈める鐘の殺人〜』をプレイして一番はじめに私が感じたことは、えらい安い作りだな、ということだった。
2D絵師の方が頑張って3D陰影っぽくデザインしたと思われるシルエット画が、えらく安っぽくみえたのだ。
ヒロインの公子に全く魅力が感じられない。

それからプレイを進めていくうち、私はおかしいと思った。
フローチャートがない。
ということは、全部読ませるゲームなんじゃなくて、謎を解かせるゲームなんだろう。
ところが、そう考えるとボリュームが足りない。
このボリュームだったら、正解以外も全て読ませるゲームとして創られているんじゃないか。
だったら、フローチャートまではいかなくても、何かプレイヤー側の負荷を減らす仕組みを導入しなければならないはず・・・と思ったのだが、何も手は打たれていなかった。
にもかかわらず、全部読まないとおまけシナリオが出てこなかったりする。
なんでだろう?
なんでだろう?
なんでだなんでだろう?

こんなつまらないことを考えながらプレイする羽目になったのは、いつも私の頭の中に『かまいたちの夜2』があったからである。
『かまいたちの夜2』が私の中でサウンドノベルのスタンダードになってしまっていた。

『かまいたちの夜2』はフローチャートをプレイヤーに提供することで負荷を減らし、分岐後の演出をデラックスにすることで喜び量を大きく取るように設計されている。
非常に手間のかかるつくりだが、あれはたくさん売れる見込みがあるから出来るわけだ。
そうすると、単位負荷あたりに得られる喜び量は当然大きくなるし、そこがスタンダードになる。
また、真理(ヒロイン)なんか思わず「ビューティホー」と心奪われてしまうほどのCGデザインだった、シルエット画なのに。
そこがスタンダードになるから、公子が貧弱に見えて仕方がない。
その結果、私は面白いなとは思いながらも、『月の光〜沈める鐘の殺人〜』に違和感を覚えていたのである。
結局、攻略ホームページを見ながらこのゲームを進めることになった。
私のスタンダードでいうと、オールコンプリートするにはバランスが取れていないのだ、このゲームの負荷と喜びは。

ここでもちろん私は『月の光〜沈める鐘の殺人〜』を弁護しなければならない。
このゲームの発売日は『かまいたちの夜2』よりも前なのである。
『かまいたちの夜2』スタンダードを適用するのは、あまりにも可哀想だ。

ただ、今後サウンドノベルを創る皆さんは、大変苦労するだろう。
『かまいたちの夜2』の評価はどうあれ、どうしても比較されるから。
CGはともかくとして、負荷を下げるか、喜び量(=情報量)を増やすかする仕組みを導入しないと、プレイヤーがついてこないんじゃないか、という気がしてしょうがない。
例えば、分岐後に共通シナリオへ復帰させないようにして別エンディングに直結させるとか、あるいは明らかに間違っている選択肢は選ばなくても「おまけシナリオ」が出てくるようにするとか。
それは創り手が想定するプレイタイムに対して、仕事量が格段に大きくなるということを意味する。
同業の皆さんにとってはやっかいな存在になってしまった、『かまいたちの夜2』は。

まあ、ハナから攻略HPをあてにして、一部の頑張り屋さん達にレベルをあわせておく、という判断も出来なくはないんだろうけど。
私は受け入れられないだろう・・・というか、間違いなく攻略HP見るだろう・・・というか、攻略HP作ってくれている皆さんありがとう。



<追加 2003_03_09>

『月の光〜沈める鐘の殺人〜』をオールコンプリートすると、「あとがき」を読むことが出来る。
そこには、もの凄く丁寧な言葉で謝辞が書いてあって、読んで衝撃を受けた。
「オレにはこの謝辞を受ける資格がない!」と。
だって、自力でコンプリートしたわけじゃないからね。
あれは自分で頑張った人に対する謝辞である。

申し訳ないので、罪滅ぼしに『魔女たちの眠り 〜復活編〜』もプレイしてみた。
SFで発売されたものをPS用にリメイクした作品だそうだ。
もっとも、想像していたようなミステリーものではなく、伝奇ものだったので、ちょっとガッカリしたが。

ただプレイしてみると、無理矢理共通コースにつなげるように話がつくってあって、想定している単位負荷あたりの情報量(=喜び量)が小さいということがわかる。
これと今のサウンドノベルを比べてみると、この手の開発もどんどん大変になって来ているんだな、ということを感じざるを得ない。

選択肢の広がりなんかを見ると、むしろこっちの方がゲームらしいんだけどね。




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