ゼルダの伝説 〜風のタクト〜_3

大海原に帆を張って 2003_01_18

 

学生の時分、研究室にどういうわけか常勤の外国人助教授がいた。
私は直接指導を受けておらず、どういう先生なのかよく知らなかったのだが、たまたま休日に子供を連れて出てきた先生と話したことがある。
その時彼は、「実はね、私の専門は物理じゃなくて、ヨットなんだよ」とコッソリ言った。
子供を連れてきていたからだろうか、彼は思いの外フランクに話し始めたのである。
「ヨットは逆風でも前に進むことが出来るんだよ。どうしてか判るかい?」などと彼は話しかけてきたが、残念なことに大半が英語だし、特別ヨットに興味もなかったので適当に相づちを打つことしかできなかった。
もうちょっと話をちゃんと聞いておけば良かったと、今になって思う。

こうやってヨットの話を書き始めたのは、これから『ゼルダの伝説〜風のタクト〜』について書こうとしているからである。
このゲームでは、船に乗って島々を移動するのだ。
それも一人乗りの帆船で、である

ヨットはなぜ逆風でも前に進めるのか?
それはおそらく、風を受け流すことにより横向きの力を得て、それを船体と水の抵抗で斜め前向きの推進力に変換することができるからではないか、と思うのだが、確信はない。
特に調べるつもりもない。
私には興味がないのである。
ただ、ボートではなくてヨットが好きだという人が存在するということは、ヨットを操作すること自体がゲームのようなものなんだろう。
帆の角度が重要になりそうのは想像に難くない。

だが、この『ゼルダの伝説〜風のタクト〜』では、帆の操作など全く必要ない。
全自動である。
風向きに対して船首をどの程度傾けるかだけで速度が決まる。
つまり船を操作すること自体は面白いわけではないのだ。(風向きをコントロールできるし)
それなのに、大海原を船で移動しなければならないなんて、これは弱ったことだなあ、と開始早々私は思ったものである。(長すぎる前ふりにも弱ったものだが)
だって、退屈じゃん!

しかし、そこは「ゼルダの伝説」の冠を頂くゲーム。
大海原を進む気持ちよさを味わわせこそすれ、苦しさを味わわせることなど全くなかった。
海の上を進むことが楽しいように、このゲームは創ってあるのである。
だから寄り道が楽しい。
移動が苦にならないんだから。

中でも一番うまいなと思ったのは、マップである。
自分で埋めていく。
マップを埋めていくというのはなぜか楽しい。
目に見えて成果が現れるからかもしれないね。
地図を描いてくれるおっさん魚が遠くで飛び跳ねているのを見つけたときは、本当に嬉しい。(もの凄く遠くから見える)
そして、地図が出来上がると、どこへ移動するのかハッキリして不安が減るし、そのころにはワープも手に入れているという寸法である。

その他にも、宝探しをしたり、大イカや敵船と大砲で戦ったり、プレイヤーを気分を紛らわす様々な工夫がこのゲームにはちりばめられている。
しかもその一つ一つがわかりやすく創ってあって、更にそれをクリアしていくと、ライフなりアイテムなりが増強されて、プレイがどんどん楽になっていくという仕組みなのである。
苦しさなんかどこにもなかった。
あるのは楽しさだけ、それも特上の。

おそらく「大海原を帆船で進んでいく」というイメージがベースにあって、これは絶対に譲れないから、その上でなんとか楽しく感じられるように創ろう、という作品なんだろうね、この『ゼルダの伝説〜風のタクト〜』は。
その心配りたるやパーフェクト。
ケチのつけようもございません。
帆の角度がどうの、なんていうのはそもそも論外だったのである。



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