Wiiが発売される前に

Wiiが発売される前に 2006_11_28〜30

 

後出しにならないように、今のうちに書いておきたいことがある。
12月2日はいよいよWiiの発売日。
それまでに私はこれを書き上げるつもりである。

Wiiが、少なくとも今年の年末に限って言えば、供給が追いつかないほど売れることはまず間違いない。
私も欲しい。
そして、Wiiが新たな喜びを産み出すであろう事は容易に想像がつく。
私もそれを享受したい。(当分手に入りそうにないが・・・)

しかし、である。
私の胸はそんなに躍っているわけではない。
ネットの情報を拾ってくる限り、PS3の評判は今ひとつ。
360はまるで話題にもならないし、Wii一色になってしまってもマズイという思いもあるのだ。
このことを説明する為には、今一度ゲームの原点に立ち返ってみる必要がある。

例えば、野球のバッティングについて考えてみよう。
バッターは飛んでくるボールをバットで打つ。
ここで着目したいのは、バットが円柱の棒である点である。
それはわざわざ打ちにくいようにしてあるのだ。
別に円柱で打たなきゃならない理由なんてない。
これはミートするのをワザと難しくしたものである。

じゃあ、テニスはどうか?
テニスのラケットは平面ではあるが、その代わりボールは色んな所に飛んでくるし、ネットを越えてある範囲内に打ち返さなければならない。
打つことを簡単にする代わり、他のことを困難にしているのだ。
つまり、ゲームってのは、乗り越えるべき困難をデザインすることだ、と考えてもイイ。
そして、必要もないのに、人はゲームを欲する。
処理能力を持て余した脳みそは、困難を乗り越えずにはいられないのである。

ところが、150Km/hで飛んでくるボールをバットで打つとなると、話が些か変わってしまう。
これは極めて厳しいトレーニングを積むのに加えて天賦の才があって初めてなせる技だ。
これを乗り越えることが出来れば当然極めて大きな喜びが得られるはずだが、誰にでも出来るわけではないだろう。

そこで我々が(ビデオ・テレビ)ゲームと呼んでいるものが登場するのである。
ゲームは小さい負荷を乗り越えることで大きな喜びを得ることが出来るのだ。
ここでは喜びの増幅作用とでも書いておこうか。
今まで何回も書いたので省くけれども、それは置き換えとか価値付けといった様々なロジックによって達成されるのである。

今までゲームの世界がよりリッチな映像表現を目指していたのも、本来は喜びの増幅率を上げるための措置であったはずだ。
多少やりすぎて、そもそもゲームをして無いじゃないか、というところにまで至ってしまったケースも多いのだが・・・。

で、ようやくWiiの話である。
Wiiリモコンは確かに直感的な操作を我々に提供する。
今までゲームをプレイしなかった人をゲームへと誘引するだろう。
ここでは接近可能性が高い、とでも書いておくことにする。

ところが、このことは必ずしも喜びの増幅率を上げることに寄与するわけではないのである。
今までゲームの喜びを知らなかった人を誘引することと、既にゲームの喜びを知っている我々がより楽しく感じることとはまた別問題だからね。
もちろんデバイスが変わればそれに相応しいゲームが生まれることは当然だけど。

また、直感的な操作、が何を意味しているのか、ということも問題になる。
これはプレイヤーが実際に行うこととゲーム中の行為が近くなることを意味するわけだが、それは突き詰めればリアルの世界でやることと同じになってしまう。
仮にWiiリモコンが非常に高い精度のコントローラーであるとすれば、究極的には野球ゲームは野球と同じになってしまうのである。
野球は面白いけど、野球ゲームは乗り越える負荷に対して大きな喜びの増幅率を提供しないかもしれないのだ。

要するに我々はゲームをすることで、最終的に大きな喜びが得られれば良いのである。
新しいデバイスを使っても良いし、プレイヤーとの同一性を高めても良いし、映像を豪華にしても良いし、友達を使っても良い。
観念的な書き方をすれば、「負荷を乗り越える喜び」×「増幅率」が大きくなればイイんだ。

DSのブレイク以後、映像重視のアプローチは否定されつつあるように見える。
しかし、私はそれも喜びを増幅する一つの方法としてあってしかるべきだと思う。
私はそういうゲームもやりたい。
今は費用対効果が問題視されているけど、いずれはそれも解決されるだろうし、解決されねばならないはずだ。
Wiiリモコンだって、いずれ目新しくはなくなるからね。
Wiiリモコンを使って、更に映像重視のゲームが創られる日はそんなに遠くない。
おそらく、HD対応のWiiだって従来の周期よりも相当早く登場するだろう。

私はPS3を当面買うつもりもないし、360が特別面白いとか言うつもりは微塵もないが、どうしてもこれは書いておきたかった。


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