旅立ちの詩

自分には何もない 2000_05_19

 

ガラスに映る自分の顔を見つめていた。
暗闇のガラスはまるで鏡のようだ。

私は「ふっ・・、ふっ・・、ふっ・・」っと規則的に息を吐きながら、
ダンベルを上下させた。
いつぞや体調を崩して以来、実に3週間ぶりの筋トレ。
鈍っているせいもあって、ちょっと辛い。
今日はちょっと軽めにしておくか、と弱気になる自分に、ガラスに映
る自分に私は言葉を吐きかけた。
「自分には何もないじゃないか。
 もっと強くなれ。
 強く、もっと強く!」
その時私は、不意にあるゲームの主人公のセリフを思い出した。

私にはここに書いてこなかったことがある。
ゲームに燃えられない、と書きながら、その理由の一つを意図的に書
かないようにしていた。
実は、職場で納得できないことがあり、ずっと悩んでいた。
その日ある出来事があり、私はついに今の仕事から去らなければなら
ない、と決意するに至った。
もっと速く決断しなければならなかったのだが、安定した今の生活を
捨てるのが怖かった。
プライドを捨てれば楽に生きられる。
しかし、それではダメなのだ。
私は強くならなければならない。
これからも生きていけるように!

私が思いだしていたのは、ときメモドラマシリーズ「旅立ちの詩」の
中に登場する主人公だった。
「自分には何もない・・」、そう述懐する彼は自分に試練を与えよう
とする。
そのストーリー自体は、比較的お約束な印象があった。
しかし、苦しいとき、自分を見失いそうになったとき、自分に試練を
与えなければならない、と感じるのは真実なのだ。
かつての私がそうであったように、そして今の私がそうであるように。
このゲームを終えたのはいつだったろうか?
もはや記憶にない。
だが今になって、より強く共感を覚えるのだ。

仕事を辞めると決意したその日、久々に私は「パワプロ」で快音を飛
ばすことが出来た。
昨日までの自分がまるで嘘のようだ。
そしてそれは、とても清々しい気分だった。


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