14回裏の攻撃、2対2、1死1・3塁、1ナッシング。 バントの方向をやや3塁側に曲げておく。 ふぅ〜、と大きく息を吐いた・・・。 ピッチャー投げた。 バントッ! 3塁ランナーがホームに帰ってくる。 『うおりゃああああ』と、声を出さずに叫んだ。 つい先日、大家さんにうるさいと注意されたばかりだったからだ。 ガッツポーズをしながら思った。 こんな瞬間のために私はゲームをしているのかもしれない、と。 「実況パワフルプロ野球6」サクセスモード。 いわずとしれた選手育成モードだ。 「パワプロ6」のサクセスモードには6つの大学が用意されている。 それぞれに特別な要素が設けられており、別のゲームをしているような感すらあり、大変お得だ。 だが、煮詰まっていた。 最後の『するめ大学』はあまりにも手強かったのだ。 どうやってもクリアできない。 社会人との優勝決定戦ではパーフェクトをくらう始末。 少し距離をとった方がいいような気がしていた。 実際、今更のように「FF8」を買ってきたところでもあった。 あと一回だけ。 この一回だけやったら、少し離れよう。 そう思って始めたプレイで、ついにその瞬間は訪れた。 7回表にとられた2点を、7回裏の攻撃で取り返す。 2点とられた時点でもうダメだと思った。 しかし、終わりはまだ来なかった。 9回表、既にピッチャーはスタミナ切れを起こし始めていた。 次第にボールは遅くなり、曲がらなくなっていく。 ヒットを打たれてはゲッツーでしのぐ展開が続く。 13回表、2対2、1死2塁のピンチで親から電話がかかってきた。 集中力が途切れそうになる。 頬をたたいてもう一度気合いを入れ直した。 絶対に負けない、そう言い聞かせた。 14回表、1死1・2塁からセンター前へ抜けるヒット。 セカンドで追うのをあきらめ、センター前進、バックホームで刺す。 まだ終われない。 14回裏 無死1・2塁からセカンド封殺で、1・3塁にランナーが残る。 興奮する頭にスクイズが浮かぶ。 非常に分が悪い。 というのも、これまでに比べて「6」では、適当な気持ちで小細工することが出来なくなっているのだ。(私はこのバランスを支持したい) ヒットエンドランは外されると確実にアウトになるし、バントも今までのように好き勝ってやれない。 ここまで何回チャンスをつぶして来たことか・・。 スクイズの場合、3塁ランナーはスタートを切らなくてはならない。 しかも、相手のピッチャーはフォークの目盛りが振り切れている。 低めのフォークだったらあたらないっ! しかし、ここでヒットが打てる確率を思うと、スクイズに賭けてみたくなった。 こっちのピッチャーは限界。 どうしてもここで決着を付けなくてはならないんだ。 私は、ふぅ〜と大きく息をついた。 なにがなんでもバットにあてる。 ただそれだけを思って。 |