この瞬間のために

この瞬間のために '99_04_24

 

14回裏の攻撃、2対2、1死1・3塁、1ナッシング。
バントの方向をやや3塁側に曲げておく。
ふぅ〜、と大きく息を吐いた・・・。

ピッチャー投げた。
バントッ!
3塁ランナーがホームに帰ってくる。

『うおりゃああああ』と、声を出さずに叫んだ。
つい先日、大家さんにうるさいと注意されたばかりだったからだ。
ガッツポーズをしながら思った。
こんな瞬間のために私はゲームをしているのかもしれない、と。

「実況パワフルプロ野球6」サクセスモード。
いわずとしれた選手育成モードだ。
「パワプロ6」のサクセスモードには6つの大学が用意されている。
それぞれに特別な要素が設けられており、別のゲームをしているような感すらあり、大変お得だ。

だが、煮詰まっていた。
最後の『するめ大学』はあまりにも手強かったのだ。
どうやってもクリアできない。
社会人との優勝決定戦ではパーフェクトをくらう始末。
少し距離をとった方がいいような気がしていた。
実際、今更のように「FF8」を買ってきたところでもあった。

あと一回だけ。
この一回だけやったら、少し離れよう。
そう思って始めたプレイで、ついにその瞬間は訪れた。

7回表にとられた2点を、7回裏の攻撃で取り返す。
2点とられた時点でもうダメだと思った。
しかし、終わりはまだ来なかった。

9回表、既にピッチャーはスタミナ切れを起こし始めていた。
次第にボールは遅くなり、曲がらなくなっていく。
ヒットを打たれてはゲッツーでしのぐ展開が続く。

13回表、2対2、1死2塁のピンチで親から電話がかかってきた。
集中力が途切れそうになる。
頬をたたいてもう一度気合いを入れ直した。
絶対に負けない、そう言い聞かせた。

14回表、1死1・2塁からセンター前へ抜けるヒット。
セカンドで追うのをあきらめ、センター前進、バックホームで刺す。
まだ終われない。

14回裏 無死1・2塁からセカンド封殺で、1・3塁にランナーが残る。
興奮する頭にスクイズが浮かぶ。
非常に分が悪い。
というのも、これまでに比べて「6」では、適当な気持ちで小細工することが出来なくなっているのだ。(私はこのバランスを支持したい)
ヒットエンドランは外されると確実にアウトになるし、バントも今までのように好き勝ってやれない。
ここまで何回チャンスをつぶして来たことか・・。
スクイズの場合、3塁ランナーはスタートを切らなくてはならない。
しかも、相手のピッチャーはフォークの目盛りが振り切れている。
低めのフォークだったらあたらないっ!

しかし、ここでヒットが打てる確率を思うと、スクイズに賭けてみたくなった。
こっちのピッチャーは限界。
どうしてもここで決着を付けなくてはならないんだ。

私は、ふぅ〜と大きく息をついた。
なにがなんでもバットにあてる。
ただそれだけを思って。


戻る