「で、なんでやっちまったんだ?」 問いかけた男は、格子が填められた窓から外を見ている。 外は雨だ。 それほど強くはない。 問いかけられた男は素っ気ない事務机に座らされている。 男は俯いていた顔を上げると、おもむろに話し始める。 「刑事さん! ちょっとした出来頃だったんです。」 窓辺にいる男は「刑事さん」と呼ばれていた。 刑事とおぼしき男は諭すように話しかける。 「あれほど2度とやらない、って言ってたのに・・・。 いい年こいて恥ずかしいと思わないのか?、おやっさん。」 机に座らされた男はおやっさんと呼ばれているようだ。 なにかの容疑者なのだろうか。 おやっさんは答える。 「あっしだって、足を洗おうと思ったんです。 縦置き液晶をダンボールにしまい込んで、スピーカーも押し入れの中にほおり込んだんです。」 「だったらなんで・・・」 合点のいかない刑事は問い返した。 おやっさんは答える。 「『ファイアーエムブレム』がわからなかったんです。 あれは一体どういうことなんでしょう? せっかく弱いキャラを庇いながら進めてきて・・・、何回もリセットをかけながら進めてきて・・・、結局もっと強いキャラが仲間になるんです。 なんでリセットしなければならないですか?」 刑事は分かり切ったとは聞くなといわんばかりに答える。 「あれはそういうもんだ。 それがやっちまった理由か?」 おやっさんは泣きそうな顔を上げて、申し訳なさそうに答える。 「いや、それだけじゃないんです。 『ホームランド』のシングルプレイが面白くないんです。 クリアするの、辛かった・・・。」 刑事は呆れかえって言い放つ。 「当たり前だろう! ネットワークゲームをシングルプレイしてどうするんだ?」 問いが終わるか終わらないかのうちに、おやっさんは叫ぶ。 「ネットワークゲームなんかやりたくなかったんです! ただチュンソフトがGCで出してくれたから、買わなきゃいけないと思っただけだったんです。 プレイヤー側をサーバーにすることによって課金制度のないネットワークゲームを創ろうと試みている人たちを救いたいと思うのは、思い上がりだったんでしょうか?」 刑事は鼻で笑う。 「言い訳は聞きたくない。 お前はやっちまったんだよ。 どんな理由があろうとな・・・。 ん? ちょっと待て! お前、確か職業訓練所に入ったんじゃなかったのか? あれはなんて名だったか・・・、そう、『メタルギアソリッド3』だ。 どうして、ちゃんとやらなかったんだ。」 「刑事さん・・・。」 容疑者が悲しそうに続ける。 「人間歳を取ると新しいことを覚えるのが億劫になっちまうんです。 操作方法を覚えるのも面倒だし、見張りをやり過ごすのが面倒で、つい強行突破しちまった・・・。 強引に突破しても、物語は進んでいく。 あんなプレイは「メタルギアソリッド」じゃない。 そう思ったら、プレイなんか続きゃしません。」 「ふぅ。」 小さなため息をはいて、刑事は問いかける。 「そんで全部か?」 「はい。」 申し訳なそうにおやっさんは答えた。 「気がついたら、古い縦置きモニタにDCを接続してました。 もちろん、スピーカーも押し入れから取り出しました。 聞いてください、刑事さん! 久しぶりにやったのに、ステージ練習、5面のボスクリアできたんです。 あれが出来たってことは、今でも全クリ出来るってことなんです!」 嬉しそうにまくし立てるおやっさんに刑事は怒鳴る。 「俺はそういうこと聞いてんじゃねえ!!」 ・・・ しばしの沈黙。 「まあ、いい。 今日はここまでにしておこう。 続きは明日だ。 カツ丼喰ったら戻んな。」 刑事は捨て台詞を残して部屋から出て行く。 ひとり残されるおやっさん。 シトシトと降る雨の音だけが響く中、おやっさんは呟いた。 「ああ、『トライジール』やりてぇ」 |