TRIZEAL トライジール_8

刑事さんにごめんなさい 2005_05_30

 

「で、なんでやっちまったんだ?」

問いかけた男は、格子が填められた窓から外を見ている。
外は雨だ。
それほど強くはない。

問いかけられた男は素っ気ない事務机に座らされている。
男は俯いていた顔を上げると、おもむろに話し始める。
「刑事さん!
 ちょっとした出来頃だったんです。」

窓辺にいる男は「刑事さん」と呼ばれていた。
刑事とおぼしき男は諭すように話しかける。
「あれほど2度とやらない、って言ってたのに・・・。
 いい年こいて恥ずかしいと思わないのか?、おやっさん。」

机に座らされた男はおやっさんと呼ばれているようだ。
なにかの容疑者なのだろうか。
おやっさんは答える。
「あっしだって、足を洗おうと思ったんです。
 縦置き液晶をダンボールにしまい込んで、スピーカーも押し入れの中にほおり込んだんです。」

「だったらなんで・・・」
合点のいかない刑事は問い返した。

おやっさんは答える。 「『ファイアーエムブレム』がわからなかったんです。
 あれは一体どういうことなんでしょう?
 せっかく弱いキャラを庇いながら進めてきて・・・、何回もリセットをかけながら進めてきて・・・、結局もっと強いキャラが仲間になるんです。
 なんでリセットしなければならないですか?」

刑事は分かり切ったとは聞くなといわんばかりに答える。
「あれはそういうもんだ。
 それがやっちまった理由か?」

おやっさんは泣きそうな顔を上げて、申し訳なさそうに答える。
「いや、それだけじゃないんです。
 『ホームランド』のシングルプレイが面白くないんです。
 クリアするの、辛かった・・・。」

刑事は呆れかえって言い放つ。
「当たり前だろう!
 ネットワークゲームをシングルプレイしてどうするんだ?」

問いが終わるか終わらないかのうちに、おやっさんは叫ぶ。
「ネットワークゲームなんかやりたくなかったんです!
 ただチュンソフトがGCで出してくれたから、買わなきゃいけないと思っただけだったんです。
 プレイヤー側をサーバーにすることによって課金制度のないネットワークゲームを創ろうと試みている人たちを救いたいと思うのは、思い上がりだったんでしょうか?」

刑事は鼻で笑う。
「言い訳は聞きたくない。
 お前はやっちまったんだよ。
 どんな理由があろうとな・・・。

 ん?
 ちょっと待て!
 お前、確か職業訓練所に入ったんじゃなかったのか?
 あれはなんて名だったか・・・、そう、『メタルギアソリッド3』だ。  どうして、ちゃんとやらなかったんだ。」

「刑事さん・・・。」
容疑者が悲しそうに続ける。
「人間歳を取ると新しいことを覚えるのが億劫になっちまうんです。
 操作方法を覚えるのも面倒だし、見張りをやり過ごすのが面倒で、つい強行突破しちまった・・・。
 強引に突破しても、物語は進んでいく。
 あんなプレイは「メタルギアソリッド」じゃない。
 そう思ったら、プレイなんか続きゃしません。」

「ふぅ。」
小さなため息をはいて、刑事は問いかける。
「そんで全部か?」

「はい。」
申し訳なそうにおやっさんは答えた。
「気がついたら、古い縦置きモニタにDCを接続してました。
 もちろん、スピーカーも押し入れから取り出しました。
 聞いてください、刑事さん!
 久しぶりにやったのに、ステージ練習、5面のボスクリアできたんです。
 あれが出来たってことは、今でも全クリ出来るってことなんです!」

嬉しそうにまくし立てるおやっさんに刑事は怒鳴る。
「俺はそういうこと聞いてんじゃねえ!!」
・・・
しばしの沈黙。
「まあ、いい。
 今日はここまでにしておこう。
 続きは明日だ。
 カツ丼喰ったら戻んな。」
刑事は捨て台詞を残して部屋から出て行く。
ひとり残されるおやっさん。

シトシトと降る雨の音だけが響く中、おやっさんは呟いた。
「ああ、『トライジール』やりてぇ」



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