ちょうど就職浪人をしていたときのことになるのだが、2人組の刑事が私の下宿にやってきたことがある。 それはベテラン刑事と新米といった風情の2人組であった。 近くのマンションで殺人事件があったとかで、いわゆる聞き込みにやってきたようだ。 私がひどく驚いたことには、彼らは凄く穏やかな物腰だったのである。 おそらく相手をリラックスさせるためなのだろう、事件とは関係のない世間話をしはじめるのだ。 私などは危うく警察学校にリクルートされそうになる有様であった。 だが、彼らはカッコ良くはなかった。 私たちには刑事のイメージがある。 彼らはそのイメージに全く合っていなかったのだ。 一体なぜこんな話から入ったのかというと、私はこれから『デカボイス』について書きたいと思っているからである。 『デカボイス』は音声入力を使うPS2用アドベンチャーゲーム。 『オペレーターズサイド』とは逆で主人公(刑事)が現場担当でオペレーターや犯人達と会話をすることで進行させていくゲームである。 例によって細かく説明する元気はない。 正直言って、1周目のプレイでは面白いとは思わなかったな。 2周目をやるつもりは全くなかったのだが、攻略HPで確認したところ、私が辿り着いたのはバッドエンドのようであった。 バッドエンドのままで終わるのもなんなので、エンディング直前からやり直そうと思ったところ、データが無かった。 クリアデータで上書きしてしまったのである。 やむなく始めから2周目をやることに。 ああ、こういう風に楽しまなきゃいけないのか、と気がついたのは、開始して小一時間ほどの死体を発見するシーンのことである。 何を見つけたんだ?とオペレーターに問われて、「ほとけさんだ」と入力して、話が繋がった。 このとき、私は自分の中に喜びがわき上がってくるのを感じた。 そうなんだ。 このゲームは「デカボイス」なんだ。 自分の思うデカっぽいボイスを入力していかないと、喜びがわき上がってこない。 死体を見つけたときは、余計なことは言わないで「したい」とだけ入力するのが一番確実なんだけど、そこを「んん、ほとけさんだ」と入力していきたいのである。 実はこの辺に矛盾があって、デカっぽい入力をすると、認識されなかったり、創り手さんの方で全く予期していなかったりする。 あまりにも自由に入力できすぎるのかもしれない。 ほとんどのケースでは、何が入力されても適当に話が繋がるように、曖昧な返答が設定してあることが多いのだ。 ガッカリさせられることが多かった。 これには音声データの解析アルゴリズムが貧弱だったりとか、メモリが足りないだとかいう理由があるのだろう。 あるいはプレイヤーの発想を予想することに、もっと開発リソースを割り当てる必要があるのかもしれない。 2周目を終えて考えてみるに、デカっぽい入力をきちんと認識して、それなりの返答を返してくれたら、これは相当面白かったんじゃないかという気がしている。 おそらく、少し早すぎたんじゃないか、登場するのが。 もう3年ぐらいして、新しいハードウェアで、新しい解析アルゴリズムでやり直してみたら、随分評価は変わってきそうだ。 この『デカボイス』は全く売れなかったそうだけど、諦めないでまたチャレンジして欲しいものである。 <余談> うまくセリフを限定すれば、現行機種でも面白い作品が出来るかもしれない。 例えば、疑問を呈するときは「それはどうかな?」と台詞を決めておく。 更に決め台詞をキャラクター付けに使ってやると尚更面白くなるんじゃないか。 あと、今後はマイクは標準装備にした方が良いんだろうな、コンシューマーには。 創り手にデバイスを与えてあげないと。 比較的高値を付けられる初期出荷ハードに付けて、後からコストダウン時に削ればいい。 <後日談 2013_10_26> 今になって気付いたけど、あの刑事たちは住友銀行の支店長が銃殺された事件を調べてたんだ、たぶん。 当時、社会情勢に全く関心を持っていなかった自分に驚く。 |