ファントムブレイブ_3

ゲームよ、野心を抱け 2004_08_02

 

「少年よ、大志を抱け」というフレーズは誰もが聴いたことがあるんじゃないか。
かの有名なクラーク博士が日本を去るときに学生たちに残した「Boys, be ambitious.」の日本語訳である。

ただこの日本語訳はちょっと好意的すぎるんじゃないか、という意見もあるそうだ。
「大志」というと好意的に訳し過ぎで、もうちょっと利己的に「野心」とか「野望」とかを当てた方がニュアンスとしては正しいんじゃないか、というのだ。
しかし、私は「野心」っていうのは凄くイイ言葉だと思うな。
そもそも「少年よ、野心を抱け」で結構。
私ならば、「ゲームよ、野心を抱け」と言いたいところである。

『ファントムブレイブ』の主人公マローネちゃんは、純真なとてもイイ子である。
にもかかわらず、彼女はゲームの中で迫害を受けている。
霊魂を召還する能力を持っているために、「悪霊憑き」と呼ばれて、何かというと悪者にされるのだ。(この能力を使って彼女は戦う)
マローネちゃんはクローム(請負人)を生業にしているのだが、働いても賃金を払って貰えなかったりするのである。
このゲームの中では、このやりとりが極めてわざとらしく4頭身キャラで演出されていく。
それはプレイヤーに動機付けを与えているだけなので、私は別に腹を立てたりしない。
むしろ、私はマローネちゃんが大好きである。

一つ気になるのは、名もなき一般の人々の声である。
このゲームでは、名もなき一般人がマローネちゃんを中傷する。
直接マローネちゃんには聞こえない中傷を、プレイヤーに聞かせるのである。
私はそれを聞きながら、これは野心だな、と思っていた。

というのは、インターネットが普及したことによって、一つ明らかになったことがあるからである。
私たちの中には悪意がそもそもあるのだ。

匿名だから他人を中傷することが出来る。
これが何を意味しているのかというと、自分が誰であるかがわかる状態では言えないことを私たちが考えている、ということである。
これはまさしく悪意である。
なぜならば、これを言ったら自分が卑しい人間だと思われるだろうという認識があるということは、 即ちそれを悪意であると認識していることにもなるからである。
これはインターネットが人間をそうさせるのではなく、元々人間がそういう生き物であったということに他ならない。

で、『ファントムブレイブ』では、それをわざと目に見える形で表してやっているのだ。
これは純真なマローネちゃんにコントラストをつける効果も伴っているわけだが、これは野心だろうな、と私は思ったのである。
人間のいやらしさを描いてみたかったんじゃないかな。
ゲームも立派な表現媒体だからね。

私はゲームが何かを描こうとすることに大賛成。
大いに描いてやったらいい。
ゲームが野心を抱いていけない理由なんか、これっぽっちもないのである。



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